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子供先生と仮面の男 第五話(ネギま!×仮面ライダー (オリ主・オリ有) 投稿者:紅 投稿日:04/08-02:20 No.29

子供先生と仮面の男

第五話 『戦い。揺らぐ心』





「行くぞ!!」



ヴォイドは叫ぶ。

目の前の敵を叩き潰す為に。



「ギシャァアアアアアアア!!!!」



蜘蛛は吼える。

目の前に現れた異形を迎え撃つ為に。



八本足のうちの前足二本がヴォイドに迫る。

ヴォイドは大人一人を軽く引き裂けるだろうソレラを己の両手で受け止めた。



ガキィン!



それは生物の部位が擦れ合う事では決して生じないはずの音。



「はぁあああ!!!」



受け止めた前足を外側に弾き、ヴォイドは自身の両足に力を入れる。

彼は地面に足跡が残るほどの強さで地を蹴り、一瞬で蜘蛛の懐に飛び込んだ。



「ギィッ!?」



ヴォイドの行動に焦った蜘蛛は後退しようとするが、時既に遅し。

その体躯をヴォイドは両手で逃がさぬように捕まえていた。



「ああああああ!!!」



両手、腰、両足に力を入れ、自分の倍はある蜘蛛を頭上へと持ち上げる。



「ギュアッ!?」

「だぁあああ!!!」



叫びと共に力任せに地面に叩き落とした。



ゴガァアアアアアン!!



地面の割れる音と共に、地に沈む蜘蛛。

痙攣するかのように八本の足が無作為に蠢くが身体が地面に沈み込んでしまった為、蜘蛛は立ち上がる事ができなくなっていた。



「……とどめだ」



無意味に足を動かし続ける蜘蛛に拳を振り上げた姿勢で、戦いの終了を宣言するヴォイド。



「(いける。……このまま!!)」

――――――このままどうする?



だが彼が握り拳を振り下ろさんとしたその瞬間。

彼の脳に忌まわしい声が聞こえてきた。



「(な、に?)」

――――――このまま、殺すのか? ソレとお前は『同類』だろう?

「(っ!? おまえ! 邪魔をするな!!!)」



聞こえて来た声は自分の内側からのモノ。

ヴォイド、いや嵐が変身する度に彼へと語りかけてくる存在からの言葉だ。



それは存在しないはずのモノ。

その声は嵐にしか聞こえず、その存在は嵐にしか感じ取れない。



それは嵐の欠けた心が無意識に生み出してしまったもう一人の自分。

嵐の影とも呼べる存在。

冷ややかに語りかけ、言葉でもって彼の心を揺さぶる者。

彼が戦うべきもう一人の『敵』。



――――――邪魔? 邪魔だと? 俺は問いかけているだけだぞ。

「ぐっ、黙れ!!」



予期せぬタイミングでの予期せぬアクシデント。

内なる声に耳を傾けてしまったヴォイドは思わず声を荒げてしまった。

そして彼の揺れは、戦いの場では相手に致命的とも言える隙を見せてしまう事になる。



ビシューーー!!!!



「っ!?」



それは真っ白な糸だった。

側面から飛んできたソレはヴォイドの振り上げたままだった右腕に巻きつく。



ジュゥウウウ!!!



「ぐぁあああああ!!!!」

――――――隙を見せたか。不甲斐ない事だ……。



内なる声を罵倒する余裕は彼にはない。

巻きついた糸が触れている腕が腐食し始めているからだ。

その激痛は並大抵のものではない。



彼が痛みに怯んだ隙に糸の発生源、『もう一匹の蜘蛛』は彼を仲間から引き離す。



「くっ、だぁ!!」



なんとか糸を引きちぎるヴォイドだったがその腕は焼け爛れ、血と肉が焦げる嫌な匂いを周囲に振りまいていた。



「く、まさか二匹目がいたなんて……。ぐぅっ!」



揺れる視界に彼はつい膝をついてしまう。

膝頭を掴んで立ち上がろうとするが、掴んだはずの腕は上手く機能せずダラリと垂れ下がってしまった。



「(な、んだ? 腕に力が入らない……まさか、こいつらの糸には……)」



焼け爛れた腕からの感覚が消えつつある事に気づき、彼はある仮説に行き着く。



「気ヅイタヨウダナ」

「なにっ!?」



発音が出鱈目なカタコトの言語。

反射的にそちらに視線を移す。



そこには乱入してきた方の蜘蛛がいた。

いやソレは既に蜘蛛と呼べるモノではなかった。

人のように二本の足で直立し、四本の蜘蛛としての足とは別に存在する筋肉質な二本の腕。

そしてその頭部はまるで『人間』のようにコンパクトな造りになっていた。



「クククク! オレノ糸ニハ酸性ノ毒トハ別ニ、筋肉ヲ弛緩サセル毒素ガ含マレテイル。少シデモ触レレバ今ノ貴様ノヨウニ動ケナクナルノダ」

「くそっ! (完全な油断だ! 毒が全身に回る前にヤツを倒さないと……)」

―――――無駄だ。お前では出来ん。助けようとした人間を見捨てて無様に逃げるがいい。

「(ぐっ、俺の思考を妨げるな! 俺は最後まで諦めない! 黙ってみていろ!)」

―――――ククク、いいだろう。見ていてやる。



心中の葛藤、頭痛を伴いながら行われるその苦行に耐えながらも、なんとか立ち上がるヴォイド。

だがその足はふらつき、右腕は垂れ下がったままと慢心創痍を絵にしたような状態だ。



「ククッ! 似タヨウナ存在デアリナガラ人間ニ付ク愚カ者メ! 我々ノ餌ニナレル事ヲ幸福ニ思ウガイイ!!」



大きく息を吸い込む動作の後、思い切り糸を吐き出す蜘蛛怪人。

だが敵の意識が吐き出される糸へと向けられるこの瞬間をヴォイドは待っていた。



「(今だッ!)」



残る力を全て足に込め、地面すれすれにまで身体を低くし疾駆する。



「ナニッ!?」

「はあああッ!!」



右足による一歩目で吹き荒れる糸の群れを潜り抜け、左足による二歩目で地を蹴る。

爆発的な加速。

その勢いを殺す事無く、彼は右足を怪人の胸に叩き込んだ。



ドガァッ!!!



「ゴ、ハッ……」



胸に鮮明に足跡がつくほどに力を集約されたキック。

それは何の工夫も成されていない、ただの一撃。

だがその一撃には確かに必殺を体現するだけの威力が込められていた。



ゆっくりと仰向けに倒れる怪人。

口からは泡を吹き出し、身体をピクピクと痙攣させているがヤツはまだ生きていた。

力を徐々に奪われていく状態で放った渾身の一撃では、怪人を打倒するには僅かばかり威力が足りなかったのだ。



「ぐっ、まだ……終わっていない。ぐ、が……」



毒素が身体中を駆け巡り、膝から崩れ落ちてしまう。

なんとか意識だけは繋ぎとめているがそれもいつまで持つかわからない。



これ以上の戦闘は不可能な状態だった。

怪人の方にも動きは無い。

だが代わりに先ほどまで地面に身体を埋めていた大蜘蛛の動きが活性化していた。



埋まっていた身体を無理やり引き上げ、目前で倒れている仲間に駆け寄る。

六つの眼球で一度、ヴォイドを睨みつけると大蜘蛛は怪人を背に乗せ、緩慢な動きでその場を去っていった。



その背中を見つめながら、ヴォイドはなんとか立ち上がろうと四肢に力を入れる。



――――――諦めろ。お前の力など所詮その程度だ。

「……だ…まれぇ……」



混濁していく意識の中、それでも内なる声に抗う。



彼は内なる声を自身がなるはずだった戦闘兵器『VOID』のものだと思っている。

故にその言葉を許容するわけにはいかないと思っている。

この声にだけは負けるわけにはいかないと思っている。



何故なら彼は、誰よりもこの声を『恐れている』からだ。

この声に負けたその時、自分は『バケモノ』と化してしまう。

そんな恐怖心が彼の心を蝕み、かの言葉を頑なに拒絶させる。

それが自分自身の生み出した『幻』に過ぎないと気づく事無く。



『彼』は嵐の影。

人が人である限り、決して逃れる事が出来ない悪しき部分だ。

それを消し去る事は出来ない。

だがそれでも嵐は消し去ろうとする。

抗うのではなく、存在を消そうとする。

だからいつまでも幻は消えない。



何故ならそれは元々、存在しないのだから。

嵐に求められているのはこの声に耳を傾け、その言葉を『認める事』。



正しき事を行うならば悪しき事も知らねばならない。

『清濁併せ呑む』事が出来てこそ、人は明確な善悪の区別がつくのだ。



物事を多面的に見る事ができない嵐。

嵐の真逆の見方しかできない否、しない影。

対極に位置する二つの意思。

それらが交わる事で、嵐はようやく『人』として完成するのだ。



それが出来ぬ限り、彼はこれからも無意味な戦いを続ける事になる。

己が生み出してしまった『VOID』という名の自分自身と。



「く、そぉ……」



自分の不甲斐なさを罵倒しながら、彼の意識は闇に飲まれた。

その身体に纏っていた異形の鎧は彼の意識が無くなった時点で消えている。



「ほ、本郷君! しっかりしたまえ!!」



近いはずなのにどこか遠くから聞こえてくる『助けるはずだった』人の声。

その声を聞きながら影は最後の呟きを洩らした。



――――――いつまで俺を否定し続けるつもりだ? 『俺』よ。



誰にも届かないその言葉は、嘲りの中に僅かな哀愁を漂わせる不思議な響きを持っていた。





「本郷君! 本郷君!!!」



変身が解けてしまった嵐の身体を抱き上げ、必死に声をかける新田。



「(まさか彼までも……)」



そんな焦りが新田の脳を駆け巡り、行動を単純化させるがそこは年の功。

すぐに今、自分がしている事の無意味さに気づいた。

どうやら気絶してしまったらしい嵐の身体を慎重に持ち上げる。



「くっ、やれやれ。この年になってこのような重労働をする事になるとは……」



彼の腕を自分の肩に回し、その重さをなんとか支えながら歩き出す新田。

とはいえかなりの長身である嵐を彼一人で運ぶのには無理があった。

五メートルも歩く頃には新田の息は荒くなり、足がガクガクと震えだしてしまう。



「くっ、誰かと連絡を取らねば……そうだ、結城先生なら!」



教鞭を取る傍ら、医師免許も持っているという万能教師にして嵐の保護者である人物が脳裏を過ぎる。



新田はすぐさま嵐の身体を地面に横たえ、胸ポケットの携帯で連絡を取った。

二回のコールの後、電話に出てくれた丈二に彼はかいつまんで事情を説明。



丈二は電話を受けたきっかり五分後に現場に到着。

未だ気を失ったままの嵐と新田を救急車(外見のみ模倣された偽物)に放り込むと大学部近辺にある自身の研究室へと車を走らせた。





研究室。



現在、丈二は学園長に頼み込んで建設してもらった手術室で、嵐の右腕の治療と体内にある毒素の除去を行っている。



手術中のランプが赤く点滅する中、新田は部屋の外にあるベンチに座り込んでいた。(彼の治療は浅く切られていた右腕だけだったので軽い治療で事足りている。)



丈二には「この程度なら大丈夫です。新田先生は部屋で休まれてください」と言われたのだが、彼は命の恩人の安否を自分の目で確認するまでそこを動く気はなかった。



「(結城先生の事は信頼している。……だがそれとこれとは話が別だ。それに彼らには聞きたい事もある)」



自分を襲った化け物、ソレと戦う為に異形へと姿を変えた嵐、医学科と工学科の教師を兼任している丈二の持つこの大病院並の設備。



自分の知らない所で確実に何かが動いている。

彼はそれを実感していた。

とめどなく思考している彼の目の前で手術室のランプが消える。



「っ!」



思わず立ち上がり、ドアを凝視する。

開くドアの先には病人の搬送用ベッドに乗せられている嵐とそれに並んで出てくる丈二の姿。



「新田先生……。まだおられたのですか?」

「すみませんな。彼の安否がどうしても気になってしまって……」



待っていた新田に軽い驚きを見せる丈二。

彼のその表情にバツの悪いものを感じたらしく新田は軽く頭を下げた。



「いえいえ、お気にならさず。……嵐は大丈夫です。筋肉を弛緩させていた毒素は一時的なモノでしたし、腕の怪我も骨には届いていませんでしたから。(彼なら明日にでも完治するだろう……)」

「そう……ですか。大事に至らなくて良かった……」



容態を聞いて目に見えて安堵する新田。

その様子に好意的なモノを覚える丈二。

だがそこで不意に新田は真剣な表情になった。



「結城先生。彼の事でお聞きしたい事があるのですが……」



その表情、声音から全てを読み取った丈二も真剣な面持ちに変わる。



「見られたんですね? 彼の『変身』を……」

「……はい。あれは一体なんなのです? そしてあの蜘蛛の化け物……私には訳がわからない」

「……とりあえず彼をベッドに移します。お話はその後で構いませんか?」

「わかりました」





こうして一人の教師は知る事になる。

この学園に隠された真実。

夜闇に紛れて爪を研ぐ異形の存在。

そして人知れずソレラと戦う者たちの事を。





おまけ

一部始終を見ていた者。



「あの御仁、拙者の視線に気づいていたようでござるな……」

「それにあの肉体の変化……いや鎧の装着でござろうか? なんとも面妖な」

「攻撃の瞬間だけ放出される『気』に良く似た力も興味深いモノでござったし」

「とりあえず敵ではなさそうでござるが……いやはや面白くなってきたでござるな。ニンニン!」



真剣に、だがどこか楽しげに目を細める影。

彼女もまた知る事になる。

彼の力の一端を。

彼の『強さ』と『弱さ』を。

そして彼の『優しさ』を。

子供先生と仮面の男 / 子供先生と仮面の男 第六話

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