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子供先生と仮面の男 第六話(ネギま!×仮面ライダー (オリ主・オリ有) 投稿者:紅 投稿日:04/08-02:21 No.30

子供先生と仮面の男。

第六話 『悪夢。そして触れ合い』

    



闇の中を歩く。



当ても無くただひたすらに歩く。

何も見えない。何も聞こえない。

止まることはない、いや出来ない。

立ち止まってしまえば……この無明の世界に飲み込まれてしまいそうだから。



「………」



嵐は歩く。

目の前に在る闇の世界を怖がって。

震えてしまいそうな身体を押さえつけながら歩く。

何もないその空間はまるで自分の行く末を暗示しているかのようだ。



そう思ってしまった瞬間。



ピチャリ……。



彼の足元で水音がした。

彼の視線が自然と下に映る。

そこで彼は声にならない悲鳴を上げた。



「……っ!?」



彼の足元に広がっていたのは水ではなかった。

広がっているソレの色は赤。

全てを染め上げてしまいそうな真紅。



思わず後退する。

その足の踵が今度は『何か』に触れた。

ごくりと唾を飲み込み、意を決して彼は振り返る。



そして足元に転がっている『モノ』を見て、目を見開いた。



「あ………あああ………」



そこにはかつて人だった『モノ』が散乱していた。



指、腕、足、胴体、頭部。

ありとあらゆる部位が血の海に浮かんでいるという残虐な光景。



嵐はショックの余りに膝を折り、その場に両手をついた。

その手に血液独特のぬるりとした感触が広がる。



思わず腕を地面から離すが既に彼の掌は真っ赤に染まった後だった。

震えながら自分の掌を見つめる。



「……イヤだ、イヤだ…………」



震える身体を抱きしめて咽び泣く。

そんな彼の目にふと見覚えのあるモノが映った。



それは『ベルド』だった。

そう、彼が最も敬愛する人が身につけているベルト。

それがまるで墓標のように血の池に浮かんでいた。



「あ、あああ! イヤだ……イヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだッ………!!!!」



目の前の光景から逃げるように駆け出す。

息が切れ、身体中が限界だと悲鳴を上げる。

それでも彼は止まらない。

闇の中をただひた走る。

涙に視界を遮られながら。



「……ひっ!」



その暴走とも取れる行動は突然、目の前に広がった光景を見て止まる。

そこには彼の『家族』が血に塗れて倒れ伏している光景だった。



「父、さん……一文字さん…………」



虚な瞳。

二度と自分の姿を映さなくなってしまった瞳が嵐を見つめている。

残酷で凄惨なその光景が、そして自分の手に残ったあのヌメリとした感触が彼の脳裏に焼きついていく。



「うああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」



絶叫と共に彼の意識はそこで途切れた。





「ああああっ!?」



悪夢から目覚めた彼が最初に見たものは暗い闇ではなく真っ白な天井だった。



「あ………こ、ここ……は?」



呆然と呟くが、その問いかけに答える者はいない。

その部屋にいるのは彼、唯一人だけなのだから。



「……さっきのは……夢、だったのか?」



一瞬で脳を蹂躙する忌まわしき光景。

嵐はその手に残ったリアルな感触を思い出してしまい、吐き気を覚える。



「ぐっ……。イヤだ、あんなモノはイヤだ……」



自分の身体を掻き抱き、溢れる涙をそのままに俯く嵐。

そこにいるのは二十歳前後の青年でも、怪人と戦う戦士でもない。

ただ怖い夢に怯える十歳の少年の姿がそこにあった。



コンコン!



「……っ!」



控えめなノックの音に嵐は顔を上げる。



「嵐、起きているかい?」



その声が丈二のモノだとわかると彼は咄嗟に腕で自分の顔を拭い、涙の後を隠した。



「は、はい。起きてます……どうぞ」

「それじゃ入るよ」



内開きのドアが開き、スーツ姿の丈二が入ってくる。

嵐の瞳が真っ赤になっている事に一瞬、顔を歪めるもののその表情には安堵の色が濃かった。



「どうやら元気なようだね。どこか具合が悪いところはないかい?」

「……腐食した右腕がまだ痛みます。でもこの様子なら今日一日、気をつけていれば治りますよ」

「ふむ、そうか。……だが顔色が良くないな。しばらく無理はしない方がいい」

「ええ、わかってます。でも見回りくらいはしないと……それが仕事ですし」



ベッドから降りる嵐。

右腕が完治していないというのにその動きには微塵の揺らぎも感じられない。



だが付き合いの長い丈二には彼が無理をしている事が一目でわかった。

彼は自分の体調が悪い、あるいは何か悩みを抱えている時など、いつも以上にキビキビした動きをするのだ。



それは一重に自分たちに心配をかけない為の彼なりの配慮なのだが丈二たちからすればそれは余計な気遣いという物だ。

自ら弱みを曝し、人を頼る事は決して愚かな事ではない。

それが信頼している人間相手ならば尚更だ。



嵐はまだその辺りを理解していない。

いや表面的には理解しているのだが、その内面。

心の奥底の部分で嵐自身が理解しきっていない。

いやもしかすれば彼は家族と呼ぶ人たちを信頼しきれていないのかもしれない。



だがそのような深層意識まで察する事は人間には不可能だ。

そこは他人の侵入を決して許さない不可侵の領域なのだから。

これは彼自身が自分の内面と向き合って解決するしかないのだ。



だからこそ丈二は手早く着替えを済ませる嵐に何も言わない。

ただ心中で彼に己と向き合うだけの勇気が芽生える事を祈るばかりだ。



「それじゃ行こうか? 釘を刺すようで済まないが治るまで無理はしないようにしてくれ」

「はい。わかってます」



そんなやり取りも程ほどに二人は真っ白な部屋を後にした。





その日、彼女はいつも通りの時間に寮を出た。

余裕を持った行動を心がけている彼女が、登校時のラッシュに巻き込まれる事は少ない。

時折、ボランティアの疲れで寝坊してしまう事があるがそれ以外では至ってマイペースかつ余裕に満ち溢れた登校をしている。



そんな彼女だが今日はいつもよりも歩くペースが遅かった。

そしてその様子もどことなくおかしい。

上の空とでも言えばいいのか、周囲への注意が散漫になっている。

ただ時々、周囲を見回し『何か』を、いや『誰か』を探すような素振りをするのだ。

ここまで来ると挙動不審と言ってもいいかもしれない。



彼女、『那波千鶴』がそんな奇行に走る理由は、つい先日に彼女を助けてくれた謎の男に起因している。

千鶴がタチの悪いナンパに困っていた時、何の前触れもなく現れ、そして消えていった男。



彼女はその彼の事が気になっていた。

それは別に彼の容姿が優れていたからではない。

ただ彼女の中の漠然とした『何か』が彼との再会を望んでいた。

それが何かは彼女自身にもわかっていない。

ただもう一度会いたいというその気持ちだけは確かなモノだと思っている。



だからこその挙動。

自分を助けてくれた時のように前触れもなく姿を見せてくれる事を望むが故に。



「……やっぱり、そう都合良くはいかないわよねぇ」



「ふぅっ」と中学生とは思えない、どこか達観したため息をもらす千鶴。

残念だと思う自分がいれば、それも当然かと受け入れている自分もいる。



なにせこの学園は広い。

彼にどのような目的があったのかはわからないが一度目の会合は偶然に過ぎない。

それが二度も連続で起こるなどと期待できるほど彼女は楽観主義者ではない。

とはいえそれでも心のどこかで『もしかしたら』と思ってしまう。



「良く考えてみれば私が異性にここまで興味を持ったの、初めてじゃないかしら?」



口に出してみて、その気恥ずかしさに頬を染める。



そう。

彼女が男性、それも赤の他人に興味を持ったのはこれが初めてだった。



突如として自分たちのクラスに現れた男の子。

十歳という年齢で大学を出たと言い、さらに教師として赴任してきたという彼。



そんな彼に対してすら彼女の感想は「あらあら、可愛らしい先生ね」程度のものだった。



基本的に動じるという事に縁の薄い女性なのだ、彼女は。

恐ろしく器が広いとも言い換えられる。



彼女の在籍するクラスには常識の範疇から一歩も二歩もずれた人間しか集まっていないという事も、彼女の鉄のような平常心に輪をかけている。

ぶっちゃけた話、それくらいの心持ちでなければあのクラスではやっていけないのだ。



「……やっぱり、もう一度だけでいいからあの人に会いたい」



青空を見上げながら小さく呟く。

物思いに耽り過ぎていたせいだろう。

彼女は校舎の目の前まで来ていた。

このままではいけないと彼女は軽く頭を振って気持ちを切り替える。

そしてふと視線を向けた所で、目を見開いて固まってしまった。



彼女の視線の先にはつい今しがた、会いたいと願っていた男性が一人の男性と連れ立って歩いてくる姿があった。





「それじゃ私はここで。今日は授業がないから、研究室に篭もっているよ。何かあったら携帯かそこに連絡してくれ」

「はい。それじゃまた」



別れる二人。

丈二の背中を見送りながら嵐は軽くため息をついた。



「……まだ痛むな」



制服の上から右腕をさする。

同時に走るズキリとした痛み。



「(……昨日の戦いは痛み分け。だがあっちはあれだけの傷を負った。ソレの完治もそうだが俺と言うイレギュラーを警戒してしばらくは息を潜めるはず。警戒するに越した事はないが……俺の腕が完治するくらいの時間はあるはずだ)」



帽子を目深に被り直し、学園の校舎を見つめる。



思い出されるのは今朝の悪夢。

血の海に浮かぶ誰とも知れぬ肉塊の群れ。



「……させない。あんな事には、絶対に……」



拳を握り締め、呟く。



「何をさせないんですか?」

「……っ!?」



突然、横合いからかけられた声に嵐は思わず飛びのく。

と同時に彼は自分を罵っていた。

ほとんど目の前という所まで接近されていて気づく事が出来なかったのかと。



「あ、すみません。まさかそんなに驚かれるとは思わなくて……」



そんな彼の心中など知らずに困惑した表情で詫びる女生徒。

嵐はその少女に見覚えがあった。



「き、君は……もしかして一昨日の?」

「はい。その節は助けていただいて、本当にありがとうございました」



微笑を浮かべながら頭を下げる少女。



「いや……そんなに大層な事はしていないさ。俺がやりたくてやった事だから……」

「それでも、あなたのお蔭で私は助かりましたからお礼を言うのは当然です」

「そ、そういうものなのか?」

「ええ、そういうものです」



気恥ずかしげに頬を掻く嵐。

実は彼がこうして面と向かってお礼を言われた事は『家族を除いて』ほとんどない。

人助けをした後、何も言わずに立ち去ってしまうからだ。



だからこうして赤の他人に、とりわけ異性(というにはいささか若過ぎるが)に言われる事には慣れていないのだ

そんな彼の心情など知らない少女は彼の態度を単なる照れ隠しだと受け取った。



「あ、自己紹介をしていませんでしたわ。私、那波千鶴と申します。この学園で中学生をしています」

「あ、ああ。これはご丁寧に。俺は本郷嵐。昨日付けでこの学園の警備員になった者だ、……です」



千鶴の敬語にあてられてかなんとも珍妙な話し方になる嵐。

彼女は特に気にする事無く会話を続ける。



「あら? そうなんですか。それじゃまた近いうちにお会いできるかもしれませんね?」

「約束は出来ませんが。ばったり出くわす事にはなるかもしれませんね」



そんな二人の会話を鳴り響く予鈴が遮った。



「どうやら時間みたいですね。もう少し話していたかったんですけど……」

「俺を見つけたら気軽に声をかけてくれればいいですよ。……仕事中でなければ話し相手くらいにはなれますから」

「うふふ、ではそうさせてもらいますね。それでは失礼します……」



会釈する彼女に嵐も慌てながら会釈で返す。

「無理して敬語にされる必要はないですよ」などと微笑みつきで言い残して彼女は去っていった。



遠ざかっていく彼女の背中を眺めながら嵐はなんとも言えない空気に包まれる。



「(何故だろう? 年齢的にはルミさんやハルミさんよりも下のはずなのに彼女の方が年上に見えてしまった。アンリさんと同年くらいに……? あの落ち着きのせいか?)」



自分の脳裏を過ぎていく今まで関わってきた女性たち。

彼女らと千鶴の性格の違いに首を傾げながら、彼はとりあえずこの問題を頭の隅に追いやる事にした。



「女性って……よくわからないな」



そんな言葉を残すと彼は自分の職務を全うすべく見回りを再開した。





おまけ

その後の千鶴さん



「うふふ♪」

「あれー? ちづ姉、なんかご機嫌だね~~」

「あら、そう見えます? 夏美さん」

「うん。凄く」

「ふふっ、少し気になる人が出来たからかしら?」

「えっ!? ウソッ! ちづ姉にそんな人が出来たの!?」

「ふふふっ(気になるの意味が少し違うけど……間違ってもいないから問題無いわね♪)」



彼女はその日、ずっとご機嫌だった。

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