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子供先生と仮面の男 第九話(ネギま!×仮面ライダー (オリ主・オリ有) 投稿者:紅 投稿日:04/08-02:24 No.33

子供先生と仮面の男

第九話 『語られる理由』





結城丈二の研究室。

簡素な造りのテーブルを挟んでベガと丈二は向かい合っていた。



テーブルに置いてあるのはカップが二つ。

入れたばかりなのだろう。

白い湯気がもうもうと立ち上っている。



「さて……話してもらおうか?」

「アア、わかっテるヨ。そんなニ睨むナって。……じゃアまずは俺が生き返ッタ頃の話からダ」



丈二が頷くのを確認し、ベガは語り始めた。



「俺が目を覚ましタノはだいたい二年くラい前になるナ。なんツーカお約束じみてタが培養液で満たされた水槽ン中だった。ソの時の記憶はヤタラ鮮明に残ってるゼ。なにせ俺の周りにゃ『同じ造りの水槽』が大量に在ったからナァ。シカモ何人か顔見知りもイた。あの『ヤロウ』、どーヤら『BADAN』の怪人をベースに大量の兵隊作ってルっぽかっタぜ。なんデか『俺』は一人だけミテェだったが、何人かハ『同じ顔』が並んでたヨ。今、思い出してもゾッとスル」



身震いしながら語るベガ。

少々芝居がかってはいるが、彼の顔色の悪さがその様子の不気味さを言葉以上に雄弁に物語っていた。



「俺が自分の意志を保ッタまま、逃げ出せタのは単純に運が良かっタカラだろうゼ。クローン培養さセてたヤツを色々いじくっテたらしくテナ。その実験中、一匹ガ暴れ出シテ周りの水槽を手当タリ次第、ぶっ壊しちマッタ。俺はソレニ便乗して逃げたッツーワケ」

「追っ手はかからなかったのか?」

「かかッタさ。それはもうシツッコクな。最初の方はマジで地獄だっタゼ。どこにイヨウと襲ってキヤがったからナ。アイツラ……」



「お蔭デ何度死に掛けタカ……」と肩を竦めるベガ。

丈二はそんな彼の話を聞きながら顎に手を当てて思案に暮れていた。



「ケド三ヶ月くらい経ッタ頃だったカ? なんか知らネェガ急に追っ手が来なくナッテよ。最初こそ生き延びるノニ必死だったガそうなっちマッタらナっちまッタで何もやる事がナクてな。……悩ンダ挙句、生きてた頃に出来なカッタ事をしようト思ったワケだ」

「出来なかった事? それは……」

「ナァニ。こんな身体だからッテ会おうとしなかった家族ニ、な。遠目でもイイから会いに行こウト思ったワケダ。ご丁寧ニ昔の記憶も再生してくれテタお蔭で、故郷自体はアッサリ見つかったシナ」



へへ! と笑うベガ。

しかしそこには満足そうな様子はない。

どちらかと言えば自嘲めいた笑みに見える。

少なくとも丈二は彼が心から笑っているわけではないと感じていた。



「まぁ会えなかったんダケドよ」

「……戦争、か?」



そう。

二年前のエジプト地方は飲み水などの諸問題を持ち上げた大規模な戦争が行われていた。

詳しい話は、日本には流れてこなかったが、大勢の民間人に死者が出たという漠然とした事実だけが流れている。



「アア、そうサ。まっタクとんダ道化だぜ。家族ノ為に身を売ったってノニ肝心の家族はトックに死んでると来たモンだ。泣くノモ忘れてタダ呆然としタヨ」

「………そう、か」



目を伏せ、ふぅとため息を吐く丈二。

彼のその仕草に、ベガは大仰に手を振った。



「ああ、ちょい待テ、ユウキ。別ニ同情してホシクてこんな話してるワケじゃネェんダ。コノ辺は愚痴だから聞き流してクレ。 ……ここからガ本題なんだからよ」



間を置き、先ほどまでの軽い調子を消す。

丈二は乾いた喉をコーヒーで潤すと視線で先を促した。



「追っ手が来なくナッテしばらくしてカラの話だ。俺は自分に『怪人としての力』トは違う『力』ヲ感じるヨウにナッタ」

「ほう?」

「俺はタカをベースに造ラレタ怪人だ。特有の能力は、背中ニハ羽根があっテ空ガ飛べる事と視覚ノ超強化。羽根は一本一本が小型爆弾で自動生成でキル。コレが俺の能力ダ。色々と試してミタんだガこっちは基本的に変わってネェ。タダ……こうして『人間の姿』をシテル時限定で、『妙な事』が出来るヨウになっててヨ」

「妙な事?」



聞き返す丈二に、ベガは目の前のカップを指差す。

訝しげにカップを見ているとベガの人差し指が突然、発光した。



驚きに彼が目を剥いた次の瞬間。

パァン! という小気味よい音と共にカップが粉々に砕け散った。



丈二の目は確かに捉えていた。

ベガの指先から『光の弾丸』が放たれる瞬間を。



「……コレだよ。ナンデかわかラねぇが意識を集中するト、ソノ集中した箇所からコンナ光の珠っつーカ弾丸っツーかそんな感じのモンが出るようニなっテタ。たぶんソノ気にナリャ全身の毛穴一つ一つからコーいうのガ出セルと思うぜ。気ヅイたのハ逃げ出しテカラ一年クライ経った頃だったナ……」

「これは……(まさか魔法? しかし本人が意識的に術式を組んでやっている訳ではないようだ。だとすれば再生の際に能力の一つとして刷り込んだ? 魔法能力の強制的な植え付けだと? そんな事が可能だと言うのか?)」



ベガの行動と言葉が指し示す恐るべき事実に驚愕する。

その反応も当然だろう。

ただでさえその能力が常人よりも遥かに高い怪人にさらに『魔法能力』まで加わるというのだ。

それはつまり『今までで最も強大な敵の出現』を意味しているのだから。



「で、コンナもんが出来るようニなってルッテ知ってカら急に自分が怖くなってよ。モシカしたら俺の身体にゃ他にもナンカ仕掛けられてるンじゃねぇかと思ったわけだ。で、こーイウのに詳しそうで尚且つ、俺ガ人間じゃないと知っテもマトモに応対してクレそーなヤツを訪ねてワザワザ日本まで来たんだヨ」

「ではさっき言っていた『自分を殺してほしい』と言うのは……」



彼の明晰な頭脳が割り出す今までの話から推察する結論。

ベガは彼の表情を見てニンマリと笑うと肯定の意味で頷いて見せた。



「ああ、アイニクと俺は生へノ執着ってのはソレホド無くてナ。ソリャ死ぬのは怖ぇとは思うガ、他人に迷惑かけてマデ二度目の人生を謳歌しテェとも思わねぇンだヨ。『アンタが俺の身体を調ベテ、その結果が芳シク無けりゃ殺してホシイ』。アリャそういう意味で言っタンダ。……頼むぜ、ユウキ」



テーブルに手をつき、勢いよく頭を下げるベガ。

土下座とは言わないまでもその行動から彼の真剣さは充分に伝わってくる。



しばし黙考に耽っていた丈二は、その思考をまとめると椅子から立ち上がった。



「準備をしよう。すまないがさっきの爆発で研究室は散らかっていてね。手伝ってくれるかい?」

「オオ! やっテくれんノカッ!?」



下げていた頭を勢いよく持ち上げ、喜びを全身で表すベガ。



「最善を尽くそう。だが君の身体に危険因子を見出したら私はその場で君を……」

「アア、言われなくテモわかってる。言っタだろ? 別に生きる事には執着してネェってな。 ダイタイそりゃ俺の頼みの一部ダゼ? マァ出来れば苦しまナイようニ殺してほしいがヨ」

「……そうだったな。それじゃさっそく準備に入ろう」

「オウよ!」



『仮面ライダー専用』に用意していた地下研究室に向かって歩き出す丈二と意気揚々と彼に続くベガ。



この後、行われた検査によって明らかになるベガの身体の状態。

それを知った時、彼は何を思い、何を決意するのか?

この時はまだ誰も知らない。知りえない。





ちょっとした騒ぎを交えながら行われた昼食を終えた嵐は、新田と別れた後、警備員としての職務に従事していた。



時刻は午後四時。

授業が終わり、早々に帰宅する者、帰宅途中に寄り道する者、部活動に勤しむ者など生徒らがバラバラに動き出す時間。

彼は横を通り過ぎていく学生たちを見送りながら、昨日同様に現れた監視者への警戒を強めていた。



「(妙だな。昨日に比べて気配の消し方が甘くなっている……。わざとか? 俺を誘っている……?)」



監視者のあからさまな態度の変化に眉根を寄せる。

誰かは知らないがこの人物は明らかに自分を誘っている。

昨日の戦いを見て、何か思うところでもあったのか。

とにかく嵐と接触しようとしている。



それは彼にもわかっている。

だがこうまであからさまなやり方をされると疑念が深くなる事も事実。

今、嵐の脳内では『ただ昨日の事を言及されるだけの接触』から『戦闘にまで発展する接触』までのありとあらゆる可能性が渦を巻いていた。



「………(もうじき夜になる。人型の方はともかく大蜘蛛の方はそれほど重傷ではなかったはず。動き出す可能性は充分ある。……早めに話をつけておいた方がいいな)」



彼は思考をまとめると踵を返す。

監視者の要望に応えるつもりなのだ。



近場にあった森に入る。

監視者の気配に近づいている事が彼にはわかった。



そして森の中に人工的に開けられたと思われる小さめの広場に出た。

半径十メートルほどの円形の空間。

ここなら何をするにも都合がいいのだろう。

動きを制限するモノも無ければ遮蔽物も無いのだから。



「御仁。誘いに乗ってくれて感謝するでゴザル」



広場の中心で腕を組んでいたのは意外にも女性だった。

それも恐らく少女だろう。



背が高く女性としてかなり成熟している体つきをしているが、その雰囲気はどことなく幼さを残している。

その生来のモノだろう細い目が楽しそうに嵐を見つめている。



「君が……昨日の視線の主か?」



嵐の問いかけに首肯で持って答える少女。



「昨日は済まなかったでゴザルな。拙者が追いつく頃にはもうほとんど終わっていて……」

「いや……別にかまわない。元々、一人で戦うつもりだったからな」



少女の言い訳じみた弁明を特に気にした風もなく返す嵐。

だがその言葉は友好的だった少女の態度を少し硬化させる事になった。



「フム。よほど腕に自信がお有りになるようでゴザルな?」



自分など宛てにしていない。



自身の実力に多少なりと自信を持っていた彼女にとって嵐の言葉はそういう意味でしか捉えられなかった。



「……自信、か。そんなものは無いな。俺には自分の心を御する事もできないんだから……」

「?」



語るというよりは自分に言い聞かせるようなその言葉は少女には届かなかった。



「それはともかく。一体、何の用で俺を呼び出したんだ?」

「おお、そうでゴザったな。実は拙者、昨日の貴殿の戦いを見て、その実力に興味を持ったのでゴザル。……ぶしつけな頼みではあるが今、この場で仕合っていただけぬだろうか?」

「なに?」



その直球な物言いとその言葉の意味に彼は顔を歪める。

彼は戦う事を好まない。

本人の性格もある。

だがそれ以上に『自分の力を恐れている』彼に、仕合いなどというモノは鬼門でしかないのだ。



「済まないが断る」

「……何故でゴザル? 貴殿は自分の実力の程を試したいとは思わないのでゴザルか? それとも拙者はソレに値する相手ではないと?」



徐々に殺気立っていく少女。

だがそんな短絡的かつ直情的な言葉を言える彼女を羨ましく思いつつも、嵐は首を横に振った。



「俺は自分の力をほとんど知らない。確かに試したくない、と言えば嘘になるだろう。だが俺のコレはいつ暴走してもおかしくない。そんな危険なモノを試すつもりは……無い」



面と向かっての完全な申し出の拒絶。

ここまではっきりと言われてしまえば大抵の相手は引くしかないだろう。



「フム……ならば仕方ないでゴザルな。嫌がる相手をむりやり戦わせた所で意味など無いでゴザルし……今回は諦めるでゴザルよ」

「出来れば金輪際、そう言った申し出はしないでほしいんだが……わかってもらえて良かった」

「いやいやそれは無理というものでゴザルよ。好奇心という物は抑えられるモノではござらんし……」



飄々とした少女の言葉に思わずため息をもらす。

厄介な相手に見初められたモノだと内心で頭を抱えている。



「ふぅ……。何度、言われようと俺が君と仕合う事はない。………いや……一つだけその方法がある、か?」

「ほう? なんでゴザル? 参考までに聞いておきたいのでゴザルが……」



糸のように細かった眼をほんの少し開き、興味深げに先を促す少女。

嵐は数瞬の間を挟むと、こう答えた。



「誰か、『一般人』を傷つけてみればいい。その時は仕合いなどと言わずに……本気で相手をしてやる………!!!」



少女は息を呑む。



彼の言葉に驚いた事もあるが、それ以上に今の彼から感じられる殺気に飲まれてしまった。

殺気や殺意に慣れてしまっている彼女が慄くほどの殺気の奔流。



彼女の目の前に立っているのは先ほどまで自分の力の暴走を恐れていると言っていた男。

その男に彼女は今、確かに怯え、戦慄していた。



「……わかったな?」



確認の意味の言葉に少女はなんとか首肯する。

途端に薄れ、消えていく殺気の荒波。



「そろそろ俺は行くぞ? これから本格的な見回りをしなければならないんでな」

「わ、わかったでゴザル……。お引き留めして申し訳ない」



まだ先ほどの余韻が残っているらしくややどもりながら返答する少女に、嵐は初めて表情を崩した。



「済まない事をした。気をつけて帰ってくれ……」



少女は去っていく彼の背中を呆然と見送る。

その脳裏に過ぎるのは去る直前に見せた彼の苦笑のような微笑のような、そんな奇妙で歪な、自嘲めいた笑み。



「……弱ったでゴザルな。腕前以前の問題でゴザル」



自分とて十四年の人生を歩んできた。

それなりに他人と接し、友人を作り、世界を知ってきたつもりだった。

だが彼は、彼女が今まで接してきたどの人物にも該当しない『規格外』な人間だった。



冷徹な面持ちだったかと思えば他人の為に激情してみせる。

あまり印象が良くなかったはずの相手への真摯な謝罪と配慮。

そのような良い面を持っているかと思えばその実、彼は怖がりだった。

自分の持つ力を恐れているというその言葉に偽りはないのだろう。

だと言うのにそんな弱さを初対面の人間に話してみせるという。



それはつまり本能に近い部分で人を見分けているということなのだろう。

信用できる人間と、そうでない人間を。



だが彼は同時にこうも宣言した。

必要となれば恐れているその力を使うことも躊躇わないと。



彼女にはそう宣言する彼の心は『凄く強い』と感じられた。

自分には出来ないだろう。

いつ爆発するとも知れないモノを抱えながら戦うなど。

恐怖に屈し、一歩たりとも動けなくなってしまう自分が容易く想像できてしまう。



結局、目的であった仕合いはしていない。

だが彼女は思った。

戦う必要などない。

自分はとうに負けていたのだと。



「悔しいでゴザルなぁ。……しかしなんだか清々しい気分でゴザル」



見つめていた背中はとうに視界から消えている。



「ウム。今は近場に目標と呼べる人物が出来た事を素直に喜んでおくでゴザル。拙者も……もちろんあの御仁も。お互いまだまだ先があるようでゴザルからな。それに……」



もう一度、彼の笑みを思い浮かべる。



「歪でゴザッたな。初めてでゴザルよ。あのような複雑な笑い方を見たのは……」



色々なモノを一度に出したのだろうあの笑み。

なぜ彼は、あのような歪な笑い方をしたのか。

彼女はソノ事に興味が沸いた。

そして同時にこうも思う。



「もっと自然な笑みも見てみたいでゴザルな」



その為にも少しずつ彼の事を知っていこう。

普通に話す分には気負いなどいらないのだから。



「さて……とりあえず今日の分の修行でもするでゴザルかな♪」



楽しげに笑いながら彼女は森の奥へと消えていった。





どことも知れぬ異様な広さを誇る空間。

地下なのか、地上なのかすら掴めぬ密閉された空間。

その空間で、二つの影が蠢いていた。

つい先日、嵐が戦った蜘蛛の怪人と大蜘蛛である。



「ウ、ゴ……オオ、オ……」



怪人は陥没した胸部に手を当てながら呻く。

息をする事も辛いのだろう。

その呼吸は荒く、決して整おうとはしなかった。

だがその胸部の傷は、徐々にではあるが修復されていっている。

恐るべき再生能力だ。

かなりの時間をかけるだろうがいずれは完治してしまうのだろう。



「……シィィ……」



苦しむ同胞の姿を心配げな三対の目で見つめる大蜘蛛。

ついで大蜘蛛の目に宿るのは憎悪。

同胞をこのような目に合わせた『仮面の男』への暗い憎悪だ。



しばらくの時を経て、大蜘蛛はその空間から姿を消した。

時刻は午後八時

辺りを闇が支配する夜の刻。

二度目の戦いの時は、目前まで迫っていた。

子供先生と仮面の男 / 子供先生と仮面の男 第十話

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