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子供先生と仮面の男 第十話(ネギま!×仮面ライダー (オリ主・オリ有) 投稿者:紅 投稿日:04/08-02:24 No.34

子供先生と仮面の男

第十話 幕間ノ一 『ある少女の過去』





彼女は寡黙である。

それが2-A組の面々の共通認識だ。

何故なら彼女はしゃべらない。

同じクラスになってもうすぐ三年目に入ろうとしているというのに、クラスメートたちは彼女の声を聞いた事が、その表情の変化を見た事がほとんどないのだ。

声をかけても首を縦横に振る事でしか意思表示をしない。

自分から誰かに話しかけることも無い。

それでもそんな彼女が浮く事無くクラスに溶け込んでいるのは一重に『2-A』というクラスが持っている異常な程の『寛容さ』のお蔭だろう。



では何故、彼女はそこまで寡黙になってしまったのか?

それは彼女の過去に深い関わりがある。





彼女は日本から遠く離れたある国の小さな村の生まれだった。



家族は六人。

八つも年の離れた長兄。

四つ離れた長女。

三つ離れた次男。

そして彼女。



暮らしは決して豊かではなかった。

だが家族は一致団結し、貧困に負ける事無く暮らしてきた。

そこには貧しいが、確かに人並みの幸せが在った。



だが長兄が『仕事』に出かけ、帰ってこなくなってから。

彼女らの幸せは崩れ始めた。



まず『父』が死んだ。

死因は撲殺。

殺したのは『次男』だった。

そして次男も『自殺』した。

父を殺した理由も告げずに。

ただ父を殺した時の彼の目が、憎悪に満ちていた事だけが彼女の脳裏に焼きついている。



この時からだろう。

彼女の心が軋みを上げ始めたのは。



その後、長女が戦争の犠牲になった。

母と彼女を庇い、砲弾に身体をバラバラにされて死んだ。



そして母は心労と過労、様々な要因で身体を壊して衰弱死した。



彼女はあっという間に独りになった。



彼女は宛てもなく徘徊した。

爆煙に煽られながら、何も無い砂塵の地面に足を取られながら。



次々と襲い掛かる理不尽な出来事。



この時、彼女の心は既に壊れ始めていた。





何もする気力も起こらず、かと言って歩みを止める事もない。

彼女はただ機械的に歩み続けていた。



身体中を駆け巡る痛みに表情を変えない。

否、変えないのではなく変わらなくなっていた。



彼女は痛みを感じる心を封じ、痛みを表現する表情を封じ、ただ生存本能のみで動くだけの存在に成り果てていた。

そうでもしなければ生きていけない程に、心も身体を弱っていたのだ。



だがそれすらももう終わりだった。

痩せ細った足で歩き続ける事、丸一日。

彼女の体力はとうとう限界を迎えてしまった。



黄色い砂地の上に倒れ伏す。

周囲には地平の果てまで続くように見える砂、砂、砂。

生きるためだけに感情を捨てた少女は、その命を散らせようとしていた。



「オイッ!!」



消え入りそうな彼女の意識を引き止めたのは、聞こえるはずの無い人の声だった。

少女は太陽に照らされて影になっているその人物を見上げる。



その影が。

彼女には行方不明になった『兄』のように思えた。



「…ガ……い…ちゃ、ん」



封じた感情が一瞬だけ溢れたが、それは言葉にはならなかった。





彼女は一命を取りとめた。

だが彼女に感情が戻る事は無かった。

助けが来るのが余りにも遅すぎたのだ。



封じてしまった感情は容易には戻らない。

彼女を助けた男は己の無力さに拳を握り締めていた。



傷は癒えても、彼女の心は凍りついたまま。

だが男は人形のようになった彼女とずっと共に居る事は出来なかった。



それは彼が『戦う人間』であったが故に。



男は少女に別れを告げた。

少女はただ頷くだけだった。



彼は一人の老人に連絡を取った。

少女を引き取ってほしいと頼み込むために。



老人は彼の頼みを快く引き受けてくれた。

そして少女は今、過ごしている街を訪れ、新しい人生が始まった。



彼女の新しい家族は優しい女性だった。

感情を、表情を凍らせてしまった彼女に、女性はとても良くしてくれた。

ニコリともしない彼女に痺れを切らす事もなく、女性は深い包容力で持って彼女を包み込むように優しく接した。



少女もそんな彼女に少しずつ心を開いていった。

壊れかけた心も、ほんの少しずつだが修復されていった。



彼女は女性から手品を教わった。

女性が見せたのは素人でも出来るような基本的なモノばかりだったが、彼女はそれに心から惹かれていった。



表情こそ変えなかったが、実に楽しそうに芸を覚えていった。

女性はその事を我が事のように思い、心から喜んだ。



喜びながら静かに『死んだ』。



突然だった。

たまたま買い物に出ていた彼女はトラックに撥ねられ、瀕死の重傷。

病院に搬送され一度は意識を取り戻すもその後、死亡した。

彼女が死んだ日は、奇しくも少女の十三歳の誕生日だった。

女性の遺品の中には、少女へのプレゼントだったのだろう小さな鳥の形をした笛が入っていたという。





少女の心はまた壊れた。

彼女に残ったのは女性と暮らしていた家とわずかな、本当にわずかな思い出。

そして『手品』だけだった。



だが少女は生きる事をやめなかった。

それは死の間際に少しの間だけ家族だった人から言われた言葉のお蔭だ。



「私の分まで生きて……。あなたも、いつか……幸せになれるから。………だから……諦め、ない……で」



女性の言葉に、少女は黙って頷いた。



それから彼女は芸を磨いた。

人との接触を避け、空いた時間もソレに費やした。

一つの事柄に集中した彼女は、メキメキと芸の腕を上げていった。

その甲斐あって、今ではリクエストされればその場で芸が出来るほどの腕前になっている。



心の破綻は手品や曲芸の練習を続けている内に、いつの間にか止まっていた。

だが壊れる事が無くなった代わりに、それまで壊れてしまった部分が治る事も無くなっていた。

彼女の表情は今まで以上に変わる事をやめ、感情の起伏もほとんど無くなっていた。



そんな彼女にも唯一、明確な形で残った感情がある。



それは『寂しさ』。

幾度にも渡り、家族を亡くした彼女は『温もり』に飢えていた。



だがそんな彼女の寂しさを察する事ができる者はいない。

だから彼女は人ではないモノにその対象を向けた。



最初は『動物たち』に。

次に『異形の者たち』に。



彼女にとって動物であろうと人外であろうと関係なかった。

ただ自分と共にいてくれるなら。



そんな少女の痛切な想いが伝わったのか、動物も『彼ら』も彼女を受け入れてくれた。



少女は今度こそ独りではなくなった。



少女は寡黙である。



だが寂しいとは思わなくなった。

少なくとも表面上は。



友達が出来たから。



それが自分自身も騙せない稚拙な『嘘』だと知りながら。



人間の友達に憧れながら。

人間と関わる事を恐れながら。



それでも彼女は黙したまま。

『友達』以外の前では、感情を封じたまま。





この日、彼女はいつも通り『友達』に会う為に学園都市内でもかなり奥まった位置にある深い森に足を運んでいた。



友達は彼女が来るのを心待ちにしていた様で、彼女が来た事に気づくと全身で喜びを表現しながら寄ってきた。



少女はそんな彼らの頭を撫でながら口元を僅かに綻ばせる。

そして彼女は今日一日の出来事を彼らに語るのだ。



それが彼女らにとっての日常だから。



だが最近、少女には気になっている事があった。



友達が何人か行方不明になっているのだ。

この一ヶ月の間に五人も。



今、集まっているメンバーも必死に捜しているのだが未だに手がかり一つ無い。

少女も時間の許す限り、捜索に協力しているがそれも余り効果は上がっていないのが実状だ。



「……(イヤな予感がする)」



少女は自分の知らない所で何かが動き出している事を敏感に察していた。

それが何かまではわからなかったが。



彼女は学校での話を集まってくれた友達に聞かせるとすぐに彼らと別れる。

そして今日もいなくなってしまった友達を捜すために、たった一人で宛てもなく夜の森を歩いていくのだ。



集まってくれた友達たちも手分けをして捜している。



少女は友達がいなくなって寂しそうに、哀しそうにしている彼らを早く安心させてあげたいと強く想いながら注意深く周囲に視線を走らせながら歩を進めていった。





今宵。

少女は何故、友達が次々と消えていったのか。

その理由を知る事になる。



そして同時に、彼女は『彼ら』と出会う事になる。



『誰よりも家族を失う事を恐れる男』と『誰よりも家族を愛した男』に。





凄惨な過去を持つ彼女に『三度目』の転機が訪れようとしていた。



それが果たして彼女にとって良い事なのかどうか。

今、この時は誰にもわからない。





あとがき

以前よりこのサイトでお世話になっております。

紅と申します。

とりあえず旧サイトで投稿していた分は全て出し尽くしました。

大幅な改変を加えたのはこの十話だけですので以前から読んでくださっている方は十話より前の話は飛ばしてくださって構いません。

ご意見、ご感想を心よりお待ちしています。



それではまた次の機会にお会いしましょう。

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