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子供先生と仮面の男 第十二話(ネギま!×仮面ライダー (オリ主・オリ有) 投稿者:紅 投稿日:04/22-16:42 No.366

子供先生と仮面の男
第一二話 『二つの戦い 幕間』


ベガが少女と大蜘蛛に追いかけられているのと同じ頃。

「異常なし」

嵐は自分が昼間の内に決めておいたルートで見回りをしていた。

地図を片手に昨夜は巡れなかった場所、取り分け『敵と接触した場所』を中心に見回りを始めてかれこれ三時間が経過していた。

「(……不気味なくらい静かだ。特に人の気配も感じられない……ん?)」

ピンと尖らせていた彼の五感に何かが引っかかる。
瞬時に引っかかった気配の方を見るとそこには薄暗い森に消えていく中等部の制服を着た少女の後ろ姿があった。

「こんな時間に、一人で森の中へ? ……」

逡巡は数秒。
彼は止めていた歩みを再開した。
勿論、少女が消えていった森の方へだ。

「……」

無言で少女の後を追う。
既にその姿は見えなくなっていたが、嵐は躊躇う事無く歩を進める。
その先に『何かある』と半ば確信して。

夕方の一件同様、不自然に木々が途切れた広場らしき場所が見えてきた。
彼は自分の身体が丸々隠れられる木に身を寄せるとそっと広場を盗み見る。
そしてそこに広がる光景に彼は目を奪われた。

先ほどの少女と、そして見た事の無い『異形の者たち』が楽しげに戯れる姿があったからだ。

「こ、これは……(怪人、なのか? 人間じゃないのは間違いない……でも)」

頭を撫でられている異形たちの顔は分かり難いが嬉しさに綻んでいる。
少女もそんな彼らの様子に口元を緩めていた。

「こんな風に、人とそうでない者が笑いあえる、のか……」

その光景は嵐にとって衝撃的なモノだった。

彼は自分が『人間ではない事』に負い目にも似た感情を抱いている。

自分は『人間』ではないから。
自分は『バケモノ』だから。

そんな風に思い、心のどこかで他人と関わる事を避けてしまうのだ。

それは彼が家族と呼ぶ人たちに対しても変わらない。
彼自身も意識していない、それこそ深層意識の領域で彼は彼らに対してすら一線引いていた。

怖いのだ。

自分を拒否されるのが。
自分を否定されるのが。

そんな彼にとって目の前に広がる光景は、心のどこかで『望み続けていたモノ』であり『理想の姿』なのだ。

ガサッ!

故に嵐の足が本人の意識の外で引かれるように動いてしまうのも仕方のない事だ。

「ッ!?」
「ッ!(しまった!)」

少女が弾かれたように嵐の方を振り返る。
異形たちも彼女に釣られるように視線を巡らせる。

彼が隠れている木に集中する視線。
嵐は彼女らの戯れを中断してしまった事への罪悪感と逃げられないという諦めから観念して出て行く事にした。

ゆっくりと自分に害が無い事を示しながら広場へと足を踏み出す。

少女は近づいてくる警備員姿の男を警戒し、異形たちを後ろ手に庇う。
異形たちは少女の後ろに引きながらも射殺さんばかりに近づいてくる男を睨みつけていた。

嵐は彼らから五、六メートルの距離を置いて止まる。
そして彼は今の自分の気持ちを素直に言葉にした。

「すまなかった」

そう言って深々と頭を下げる。

「?」

彼の端的な言葉の意味がわからず僅かに瞳を見開き、首を傾げる少女。

「君たちの楽しみを邪魔してしまって本当にすまなかった」

続けられる言葉とその意味に少女は、今度は驚きに目を見開いた。

彼が『自分たちが楽しんでいる』と認識した事に。

自分の友達たちが、害の無い存在なのだと目の前の男は初見で見抜いたのだ。
それは彼女にとって、とても衝撃的な事実だった。

彼らが本来、人間と交じり合える存在ではない事を彼女は良く知っている。
姿を見せれば悲鳴を上げられ、罵られ、物を投げられ、迫害される。
彼女はそれを『彼らの記憶』から知っていた。
それが普通の反応なのだと言う事も。
だから彼女は彼らの為に、こうやって遊ぶ時間を人目につかない夜にしていた。
それでも時折、彼らの姿は人に見られ騒ぎになる事が今までにもあった。

『幽霊』が出た。
『化け物』が出た。

そんな風に彼らの事が言われるのが嫌だった。
『悲しみ』や『怒り』といった感情は生まれなかったが、それでも漠然と嫌だと感じた。
そんな人ばかりなのだと思っていた。
でも今、目の前にいる男の人は違った。
『自分とは違う何か』を目前にしながら平然とそれを受け入れ、邪魔をしてしまった事に謝罪までしてくれた。
少女にとって嵐の言葉は驚嘆すべきものであると共に希望でもあった。
彼らを認めてくれる人が増えるのではないか?と言う。

「あなたは……この子たちを怖がらないの?」

恐る恐る問いかけてみる。

嵐は少女の問いかけに数秒の間を挟むと少女を安心させるように口元に笑みを浮かべた。

「ああ、怖がらないよ。彼らに害意が無い事はさっきまでのやり取りを見て充分にわかったから。……だから怖がる理由もない」
「……」

優しげだが同時にどこか儚げな笑顔。
少女は気負いなく笑って見せた彼の言葉を信じる事にした。

「ありがとう」

ペコリと頭を下げる。
彼女に釣られるように異形たちも頭を下げた。

「お礼を言われるような事じゃないさ。……だが最近の夜は何かと物騒だ。良ければ家まで送ろうか?」

彼の頭を過ぎったのは昨日の戦い。
新田が襲われたあの瞬間。

あの蜘蛛の怪人たちを倒せなかった以上、目の前の少女が襲われる可能性は0ではないのだ。

嵐は自分が知らない所で知っている人間にあんな事になってほしくなかった。
勿論、知らない人間であっても犠牲者など出したくないのは変わらない。

「もう少し、この子たちと一緒に……」

嵐の気遣いを少女は素直に受け取りたかったが、彼女はどうも嫌な予感がしていた。
ここで彼らと離れてしまうと、『もう二度と会えなくなってしまう』ような。
そんな言い知れぬ不安が。

だから我儘とわかっていながら彼らの傍にいたいと言った。

「……イッショ」
「モウチョットダケ」
「ダメ?」

彼らも口々に少女と共にいる事を望み、カタコトの言語で嵐にせがむ。
彼はそんな彼らを見つめながら頬を掻くと。

「それなら俺もここにいよう。気が済むまで遊んでくれ。その後で声をかけてくれれば君も危ない事にはならないだろ?」

その言葉に異形たちは小躍りしながら少女の周囲を回る。
少女も固まってしまった表情を僅かに変化させて、喜びを示す。

嵐はそんな彼女らの様子を宝物のように尊び、慈しむように見つめていた。

それから彼らは心行くまで遊んだ。
遊ぶと言っても、少女が自分の学校で起こった事を語り聞かせているだけだったが。
彼女の友達は語られる他愛の無い日常の話にそれは楽しそうに聞き入っていた。

一歩引いて見ていた嵐もいつの間にか彼らに引っ張られ、少女の話を聞いていた。
本当に人懐っこく害など感じさせない彼らの態度に嵐も自然と輪に入ってしまったのだ。

そんな楽しい一時も終わり、少女が彼らに別れを告げると嵐もまた彼らに手を振って別れを告げた。

「マタキテ」
「二人デ」
「楽シイカラ」

彼らのその言葉が嵐には無性に嬉しく感じられた。

森を抜け、街灯だけが照らす街路を歩く。
二人はしばし無言で歩いていたがやがて少女の方が口火を切った。

「あなたの……名前は?」
「え? ああ、そう言えば名乗ってなかったな」

今更な質問ではあったが嵐はその言葉につい間抜けな返答をしてしまう。
本当に短い時間だったが、彼にとって先ほどの会合はとても印象深く残っていた。

だからだろう。
隣の少女の事を『知り合って間もない』のだと意識していなかった。

それだけ嵐の心の中で彼女の存在は近しいモノになっていたのだ。

「俺の名前は本郷嵐。警備員の仕事をしている。君は?」
「……ザジ・レイニーデイです」
「ザジさんか。よろしく」

自然と右手を差し出す嵐。
ザジは彼の顔と差し出された手を交互に見てから握手に応じた。

「送るのは女子寮でいいのかい?」
「ハイ」

短い会話を交わしながら帰路につく二人。

だが一分と経たずに。

―――――ドクン!

「なっ……?」

嵐の身体が、神経が、感覚が。

未だかつて感じた事の無い気配を察知した。

「つぅッ!!!」

その場にうずくまり、ガタガタと震える身体を掻き抱く。

「ど、どうしたの?」

顔には出ないが幾分か心配そうに、慌てた様子で声をかけるザジ。

「あ、ああ。アアア……なん、だ? 誰ダ。あああ、あああああ……」

嵐はそんな彼女の声が聞こえていないらしく、ブツブツと何かを呟いていた。
目の焦点も合っておらず、虚ろな表情で地面を睨みつけている。

彼の瞳に見えているのは地面ではなく、どこかの森を悠然と歩いている■■の男。
その右手に持っているのは赤い、血のように紅い刀身の剣。

「本郷さん!!」

ガタガタと肩を揺すられる。

「う、うう……。ザジ、さん?」

そのお蔭か、嵐はなんとか正気に戻った。

「大丈夫、ですか?」
「っ! そうだ。彼らが危ない!」

ザジの気遣いを無視する形になりながら、嵐は弾かれたように立ち上がると先ほどまでの道を駆け戻っていく。

「ど、どこに……」
「君は来るな!!」

明確な拒絶の言葉。
ザジは全身に電撃が走ったかのように身体を震わせて棒立ちになってしまう。
その間に、大きな背中は見えなくなってしまった。

「……本郷さん?」

ザジの心はざめいていた。
彼の言葉は自分を拒絶したのではなく、自分に付いて来る事を拒否しただけなのはわかっている。
だがそれでも。
彼に「来るな」と言われた瞬間、ザジの心は大きな衝撃を受けてしまっていた。
一瞬ではあるが頭の中が真っ白になっていた。

何故?

自問しようとしてやめる。
今はそれよりも気になる事があるから。

「彼らが危ないって言っていた。……あの子達に、何かあった?」

そこまで思い至ると同時に彼女は走り出していた。

もしかしたら杞憂かもしれない。

だが彼女の中に宿った不安の火は、そんな楽観的な意見で自分を誤魔化し切れないくらいに成長していた。

これ以上、友達を無くしたくなかった。
そして自分の知らない所で嵐が何か危険な事をしようとしている。
そう考えると、いてもたってもいられなかった。

少女は走る。
今日、それも数十分前に知り合ったばかりの男を追いかけて。

男は走る。
人ではないが、それでも心を通わせられた大切な人たちを守る為に。


あとがき
こちらの作品ではお久しぶりです。紅です。
どうもこちらの作品はスランプに陥ってしまったらしく、更新するのに随分と間が空いてしまいました。
この作品を楽しみにしてくださっている方々には申し開きもありません。

時間をかけて書いた作品ではありますが、出来の方はどうでしょうか?
皆様の忌憚のないご感想、ご意見をお待ちしております。

それではまた次の機会にお会いしましょう。

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