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時計が刻む物語 第一話(×足洗い邸の住人たち) 投稿者:紅(あか) 投稿日:04/09-03:37 No.131  

時計が刻む物語
第一話『出現』


 世界は無数にある。

 例えばそれは『魔法』が実在する世界。

 例えばそれは『機械』が異常な進化を遂げた世界。

 例えばそれは『人ではない何か』が人の代わりに君臨する世界。

 ありとあらゆる可能性の数だけ世界が在る。

 人はそれを『平行世界(パラレルワールド)』と命名し、その自分たちの世界とは『異なる世界』への関心から様々な議論を繰り返してきた。
 曰く『そんなものが実在するのか?』、曰く『実在するという事をどうやって立証する?』、曰く『どうすればその世界へ赴く事が出来る?』などなど。
 そのような論議に意味などないというのに繰り返す。
 人の身で『平行世界への移動』などという奇跡を起こすことなどできぬというのに。

 そう。人の身で確かな理論と確証を持って『それ』を行うことなど出来はしない。
 前例もなければ理論もなく、ましてそんな世界が本当にあるのかすらわからないというのに。
 どうして行う事など出来ようか?

 いや、もしかすれば『平行世界』への行き来すら可能にする術を持った世界も存在するのかもしれない。

 だが少なくとも『彼ら』がいた世界にはそんな術は無い。
 故にそんな事が起これば、それは人の行いではないと誰もが言うだろう。

 ある者はこう言う。
 『神の気まぐれ』と。

 またある者はこう言うかもしれない。
 『運命の導き』と。

 今宵、とある世界でその『神の気まぐれ』が起こされる。
 幾つモノ偶然が重なり合う事で生み出された一つの奇跡。
 二度は起こらない、起こせるはずもない。
 たった一度きりの『奇跡』。



 麻帆良学園都市。

 日本という狭い国に置いて、絶大な規模を誇る大都市。
 そして世の表に出る事のない隠蔽された存在『魔法使い』が生活する場。

 この日の午前0時。
 満月が夜を彩り、多くの人が眠りに付いている時間。
 世界樹と呼ばれる樹高270メートルという常識外れの巨木の根元に一人の男が出現した。
 何の前触れも無く突然に。
 
 『この世界』に存在しなかった男が一人。


「ぐ……ごはっ、がは………」

 夜闇を照らす淡い光。
 直径二メートルほどの円状の形をとったその光の中から腕が、続いて頭部が、身体が、最後に足が這い出してくる。
 真っ白な髪を揺らしながら現れた『人間』は地面にへたり込むとガタガタと震えだした。

「最悪だ! 最ッ悪だ!! 何も! 何もねぇ!!! 前も後ろも右も左も上も下も!! ヤベェ、ヤベェヤベェエエエエエッ!!!」

 真っ青な顔を隠すように両手で覆い、意味のわからない絶叫を繰り返す。
 焦点の合わないその瞳とその言動が、既に彼が正気でない事を物語っていた。

 しかしこの狂乱ぶりは一体なんなのだろう?
 一体どのような体験をすればこのような状態になってしまうのだろうか?

 そんな彼の背後にはまだ淡い円状の光が残っている。
 輪郭がぼやけ始め、いつ消えてもおかしくない状態だが。
 だが次の瞬間、その円から『小さな少女』が飛び出してきた。

 そしてその『少女』は飛び出してきた勢いそのままに未だ狂乱状態にいる男の後頭部を一撃する。

「エンチャントヒップアターック!!!」
「あぷす!?」

 男はその一撃の勢いそのまま顔面を地面に強打。
 現れた少女もその一撃の反動でヒリヒリするお尻を擦っている。

「ぐ……お、お………はっ!?」

 頭に響く痛みに男は悶えのた打ち回る。
 だがその一撃の当たり所が良かったのだろう。
 目の焦点がしっかりとし、先ほどまで狂乱状態を脱していた。

「お、お前は『エアリエル(空気の妖精)』!?」

 頭を襲った痛みから復帰した男の第一声は目の前で浮かんでいる少女の名前だった。
 その言葉を受けてエアリエルと呼ばれた少女はビシッ! とお立ち台にでも昇っているかのようなポーズを取り自分の存在をアピールする。

「こ、ここはどこだ!?」
「さぁ? とりあえず『足洗い邸』じゃないね」

 周囲をキョロキョロ見回す男に、お手上げとでも言うように両手を上げて答えるエアリエル。

「お、俺は確か『ヨシタカ』に井戸に落とされて……ってなんでお前はここにいるんだ?」

 状況を把握すべく暴走していた頭をフル稼働させて記憶を掘り返す。
 そして真っ先に浮かんだ疑問は自分と違い、井戸に落とされていないはずの彼女が何故ここにいるのかという素朴な物だった。

「ヤッベー、なに言っちゃってますかね、この人は。
あんたとの契約が切れてないから巻き込まれたの。思いっきり引きずりこまれたんだから!」

 そんな事もわからないのかと憤慨した様子でエアリエルは男を睨む。

「そう、だったのか? ……まぁ何にせよ、またお前の歌が聞けるんだな。……嬉しいぜ」
「……」

 未だに本調子ではない頭をガリガリと掻き毟りながらそれでも彼女がいることを素直に喜ぶ。
 最初こそ文句たらたらだったエアリエルだが、男の喜ぶ顔にそれ以上文句を言う気が失せてしまった。
 若干、照れくさいらしく頬を赤くしてすらいる。

 しかしこの二人。
 傍からみれば酷く珍妙な組み合わせだ。

 片方は真っ白な髪に何をしていたのかボロボロの服を着ている。
 だが最も珍妙なのはその服の所々に取り付けられている『時計』だろう。
 腰のベルト、肩、腕、ブーツの側面。
 その他、様々な所に大小様々な形をした時計が取り付けられている。
 これを奇抜と言わずになんと言えるだろう?

 そしてそんな彼と相対している少女もまた普通ではなかった。
 髪は薄く透き通った水色。しかもその体格は良くて五十センチ程度しかない。
 そもそもそんな『人間』は存在しない。
 彼女は、その名『エアリエル(空気の妖精)』が示す通り、『妖精』と呼ばれる存在なのだ。

「と、ところで『教授』……」
「んっ?」

 どっかりとその場に座り込み、背後の木に身体を預けている教授と呼ばれた男。
 エアリエルはそんな男の『問題点』を指差しながら疑問の声を上げた。

「なんか若返ってないかね? 髪の色も白くなってるし……っていうか千切られた右腕も生えてるし……」

 男に褒められた事への照れ隠しも含んだ話題の転換。
 教授と呼ばれた男は彼女の言葉を受けて自分の髪に触れ、その肌、身体をペタペタと触り出す。
 特に指摘された『無い筈の右腕』と『顔の肌』、『髪の毛』を入念に。

「……ホントだ。でもまぁいいや。生きて身体が動いてりゃあ」
「良いのか!? そんなアバウトで良いのか!?」

 エアリエルの追求をとりあえず無視し、彼は自分の服についている時計の一つに手をかざす。

「“デントンホールの二人の老女を救った婦人。目も眩むような絹を着るのは誰のため?”」

 かざした手から発せられる微量の光が闇夜を照らす。

「午前五時の『シルキー(白い婦人)』」

 ポム! というなんとも気の抜ける音と共に男の背後に現れたのは真っ白な給仕服に身を包んだ少女。
 彼女の背後にはなにやら四隅が煙に包まれたドアもある。

「久しぶりだな、シルキー・フラウ。新しいシャツと上着をB型装備で持ってきてくれるかね?」
「……(コクコク)」

 ニッコリ笑って頷き、ドアの向こうへと消えていく少女。
 それを見届けた男は無視されている事が不服なのか頬を膨らませているエアリエルに顔を向ける。

「良いんだよ、人間はアバウトで」
「えっ?」

 その言葉が先ほどの追求の答えなのだと気づくのにエアリエルは数秒の時間を要した。

「存在自体が不思議な『妖精さん』と違ってな、人間には不思議が沢山起こるもんだ! 
これは中立的存在である人間だけの特権! だからこそ人間社会は素晴らしい!!」

 口元に笑みを貼り付けたまま豪語する。
 そんな楽しげな男の様子にエアリエルは違和感を覚えた。

「(なんだか、以前の殺伐とした教授と違って『人間っぽく』なったのかな?)」

 ドアの奥から戻ってきたシルキーに服を渡され、それに着替えながらも彼女に礼を言う教授。
 昔の彼ならばそんな事はせずに着替えに集中していた事だろう。
 ドアの奥へと消えていくシルキーに笑顔で手を振る様子も昔の彼からは考えられない。

「さて、とりあえず状況をまとめるか。エアリィ?」

 手早く着替えを終わらせた彼の服装はスーツだった。
 ただ独特の着崩し方をしている上に、スーツの各所にはやはり時計が取り付けられている。
 奇抜な格好には変わりなかった。

「んー、とりあえずここは『足洗い邸』じゃないね」
「ああ、そうだな。俺はあの時『ヨシタカ』に地獄に繋がってるとか言われてる井戸に落とされた。
それを考えればここは『地獄』って事になるわけだが……」

 彼らは周囲を見渡す。
 背後に在る常識外れな大きさの木を除けば至って正常な森だ。
 とてもではないが地獄には見えない。

「井戸に落とされたのは間違いない。アレがどこに繋がっていたかはこの際、気にしないでおくとして。
……問題はここがどこか、だ。エアリィ、なんか気づいた事はないか?」
「……さっきから気になってたんだけどね。ここってなんか大気中の魔力(マナ)が少ないよ。
教授との契約のお蔭でこうして現界していられるけど気を抜くと密度が保てなくなりそうなんだ」
「なにっ?」

 エアリエルの言葉に教授は顎に手を当てて考え込む。

「……大召喚以前の世界ならいざ知らずあの後の『ムチャクチャな世界』で魔力が足りなくなるなんて有り得るのか?……(……まさか)」

 今、ある情報から推察しそこから導き出した自身の結論に男は不安を抱く。

「教授? 何かわかったの?」
「あー、とりあえず移動するぞ。情報を集めねぇと仮説は立てられても結論にゃ至れねぇからな」
「うん、わかった」

 だるそうに立ち上がり、四肢を動かして体の調子を確認する男。
 その右肩にエアリエルは腰を降ろす。
 まるでそこが自分の指定席だと言わんばかりに。

「さてどこに行くかねぇ?」
「とりあえずこの森から出た方がいいね。あっちの方に階段があるよ」

 エアリエルの指差す先を凝視するが暗闇に遮られて男にはよく見えない。

「やれやれ。んじゃ出てきてもらうかねぇ
(シルキーが来てくれたって事は、とりあえず契約の糸は切れてねぇって事になる。……それなら他のヤツも大丈夫だろ)」

 左腕についている時計に右手をかざす。

「“鉱山に現れる青白い光。働いて得られる賃金は何に使う?”」

 それは契約したモノたちを呼び寄せる為の、ただそれだけの為の呪文だ。

「午前七時の『青帽子(ブルーキャップ)』。行く道を照らしておくれ」

 掲げられた左手に現れる青白い光。
 それは召喚者である彼の言葉を正確に理解したらしく、彼の正面を照らしながら自力で浮かぶ。

「とりあえずはブルーキャップの導くままに進むかねぇ。どうせ宛てなんてねぇんだし……」
「アバウトだなぁ……」
「二度も言わせるなよ。いいんだよ、それで」
「はいはい」

 そんなやり取りをしながら青白い光に従って、二人は木で作られた階段を降りていく。

「(呼び出す時に違和感があるなぁ。こりゃ拙いかもしれねぇ)」
 
 浮上しかけている深刻な問題に眉間に皺を寄せながら彼は歩を進める。
 鬼火のようにオボロゲで頼りない光に導かれながら。


 階段を降りきった所で彼が見た光景。
 
 それは見慣れてしまったゴチャゴチャでメチャクチャで騒々しい物ではなく。
 西洋風の造りをした静かでごく自然な街並みだった。
 
 男は我知らず息を呑む。
 その光景が自分の仮説を立証するこの上なく確かな『証拠』だったから。

「……やっぱりそうか」
「ん? なにか言った、教授?」

 彼の小さな呟きが聞こえなかったエアリエルが聞き返す。
 男は自嘲気味な笑みを浮かべると口を開いた。

「………俺の『目的』が無くなっちまったって話だよ」
「??? よくわかんないよ? 教授の目的ってあれでしょ? 
『大召喚』を起こした召喚士を殺すとか言う……なんで無くなっちゃったの?」
「わからねぇか、エアリィ? この景色を見て……」

 男が指差す先にあるのは平穏な夜の時間を刻み続ける街の景色。
 時間が時間だからだろう。
 そのほとんどの箇所の電灯は消え、闇色に染まっている。

「……あれ? なんでこんなに静かなの? この時間だったら浮遊霊とか夜を好む精霊とか夜行人種(ナイトピープル)とかがいるはずなのに……」
「そうだ。夜だろうと昼だろうと街の喧騒が止むはずがねぇ。そこに在る人種が代わるだけだ。
それが俺たちの常識だ。『二十年前』からのな。
……だがここにはそれが無い。これが何を意味するのか。もうわかるだろ?」
「……もしかしてここって」

 エアリエルが男の言わんとする事にようやく気づく。
 彼は顔を青くする彼女に頷くと言葉を紡ぐ。

「そうだ。まだ確信はねぇがここは『大召喚』が、あの『出来事が起こらなかった世界』なんだと思う。
 どっかの夢想論者どもが歌ってた『平行世界』ってヤツだ。そりゃマナが少ないはずだぜ。大召喚が在ったからお前らが実体化できるだけのマナの濃度に至ったんだからな」
「きょ、教授……それじゃアタシ、そのうち消えるの?」

 不安げに男の顔を見上げるエアリエル。
 彼は「あー」っと夜空を見上げながら間を取ると彼女の頭に手を乗せた。

「俺と契約してる内は、んな事にはならねぇよ。ただ俺から離れたらどうなるかわからねぇ。
だから……とりあえず傍にいろ。アッチに戻る宛てもねぇこの状況じゃそれがベターだ」

 これ以上、彼女を不安にさせまいと言葉を選びながら告げる。
 エアリエルはとりあえず安心したらしく、男の肩に座り直した。

「しっかし、まさかこんな静かな夜を体感できる日が来るとはなぁ」

 眼下に広がる景色をまるで宝物でも見るかのように優しく見つめる男。
 エアリエルも男に倣って街並みを見つめる。
 無くしてしまったモノを噛み締めながら、二人は静かな夜を時間の許す限り感じていた。

 そう。

「おい、お前たち」

 声をかけられるまでは。

「あぁ?」

 せっかくの静かな一時を邪魔されたせいか、恐ろしく低い声音と共に振り返る男。
 エアリエルも不満げな顔をしている。
 そんな不機嫌丸出しの二人の眼前には、外国人らしい金髪の少女と妙な耳当てをした人形めいた少女が並んで立っていた。
 

時計が刻む物語 時計が刻む物語 第二話

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