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時計が刻む物語 第四話(×足洗い邸の住人たち) 投稿者:紅 投稿日:04/09-03:39 No.134
時計が刻む物語
第四話 『再契約』
目の前にそびえ立つ、古びた洋館。
その玄関に仁王立ちしている男と一匹の妖精。
男は腰に手を当てて、目の前にある館を満足げに見つめて笑っていた。
その肩に座っている妖精も、館を見つめながらしきりにウンウンと頷いている。
どうやら注文からわずか三十分で斡旋された住居は彼らの眼鏡に適ったようだ。
時刻は午前三時。
彼――バロネス・オルツィが平行世界に来てからかれこれ三時間が経過していた。
ギィッ!
軋みを上げながら開く玄関のドア。
コツコツと言うバロネスのブーツ音だけが静まり返った館に響き渡る。
最初に彼の目に留まったのはだだっ広いロビー。
目の前に広がる二階への階段。
頭上に輝くシャンデリア。
置かれている壺や飾られている西洋甲冑。
なにやら年月を感じさせる絵画。
どれをとっても一級品だとわかる。
鑑定に出せば相当な値段を叩き出す事が容易に想像できそうな品々だった。
ソレラ全てに蜘蛛の巣がかかっている事を除けば、だが。
じっくりと視線を巡らす。
奥へと続く通路が全部で五つ。
一階に三箇所、二階に二箇所。
外から見た限り、二階にはだいたい六部屋ほどの個室があるようだ。
一階には厨房へ続くだろう通路を除外しても残り二箇所。
恐らく二階と同じかそれ以上の部屋数があるのだろう。
彼が要求した条件の一つ目『とにかく広い物件』という要項は文句なしで満たしている。
二つ目の『人気の少ない場所』という条件。
ここは学園都市からかなり外れた場所にあるらしく、人通りはおろか街灯もほとんど通っていなかった。
充分に満たしていると言っていいだろう。
三つ目の条件『霊的なレベルが高い』
一番難しいと思われていたこの条件もこの場所は見事に満たしていた。
何故なら先ほどからエアリエルの魔力が充実してきている。
妖精種はその土地の影響を受けやすい事で非常に有名な種族だ。
その土地特有の魔力を受ける事によって新たな能力を生み出す変り種な妖精もいる。
土地土地によってその呼称が違う事も彼らの能力に差異を作る要因だろう。
伝わる伝承、その地域の風土などで同種でありながらまるで違う印象を持つ妖精もいるのだ。
そういう意味では彼らの変化はその土地の魔力を表す上でこの上ない指針になる。
「どうやらココの魔力は無色透明なモノらしいな。特に方向性が定まっているわけじゃないからその妖精の特性に自動(オート)で合わせてくれるらしい。良かったな、エアリィ。ここで暮らしている限り、お前が消える事は無さそうだぜ、クックック!」
「そう……みたいだね。うん、いい感じ。この敷地の中でなら自由に動き回れそう……」
満面の笑みでバロネスの周りを飛び回るエアリエル。
その心底、嬉しそうな姿に彼の口元に普段は浮かばない微笑が生まれる。
本人ですら気づいていないが。
「(ここならなんとかなりそうだな。……契約の糸はもう長くは持たネェだろう。やるならさっさとした方がいい) おい、エアリィ。浮かれるのはその辺にしとけ。まだ今日中にやらなきゃならねぇ事があるんだからよ」
「え? 寝るんじゃないの?」
心底、意外そうに問い返すエアリエル。
その様子にやれやれと肩を竦めながら、バロネスは外へ出て行った。
「あ、ちょっと教授!!」
慌てて追いかけてくる彼女を気にした風もなくバロネスはこの世界に来て初めての緊張感を味わっていた。
そう。
彼は今、緊張している。
平行世界に飛ばされたという事実にも、都市の長に会ったときにも、吸血鬼と名乗る少女と会合していた時にも、『まったく緊張していなかった』男が、だ。
それはこれから彼が行う行為の重要性を暗に示していた。
「(……下手すれば俺は一度に『全ての力』を失う事になる。だが……このまま放置しておくには問題がでかすぎる。覚悟を決めるしかねぇな。さてどうなるか……)」
自分のスーツ、懐、ブーツの側面、ベルト、手袋に付けられた全ての時計を取り外し、地面に並べていく。
「?? なにしてるの、教授?」
「全員、喚ぶんだよ。俺が今まで契約してきた全ての妖精種をな」
「えっ!?」
驚きに目を剥くエアリエルを尻目に、彼の人生で恐らく最大級であろう賭けが始まった。
「“契約を交わした選ばれし者たち。契約者の意を汲むならば応え、その身をこちら側に現せ”」
「教授!? それって緊急用の強制召喚術式じゃない!? そんなヤバイ状況じゃないでしょ、今って!!」
彼が詠唱している呪文は彼女の言葉通り、緊急用のモノだ。
それは例えば彼が未だかつてない程のピンチに陥った時に使うモノ。
その言葉から放たれる『術法』には相手を強制的に喚び寄せ、一度だけ『服従』させる力がある。
だが本来、『約束事』で持って契約を遂行させる妖精たちに『力による強制』はもっともしてはならない行為であり重大な『契約違反』だ。
それを行うという事は『契約の破棄』を意味すると言っても過言ではない。
いわゆる最後の『切り札』なのだ。
わざわざそんなモノを使ってまで全ての召喚妖精を喚ぼうとする彼の考えがエアリエルにはわからなかった。
「決別の時! 最後の時間だよ、『全員集合』ッ!!!」
時計から解き放たれる様々な輝き。
そして次々とこちら側に姿を現す妖精たち。
突然の強制召喚で状況がよくわかっていないだろう彼らを見つめながら。
バロネスはいつも通りの自信に溢れた笑みを浮かべていた。
「これはどういう事だ? 時の召喚師」
彼の膝頭ほどしかない体躯の妖精が彼らを代表して問いかけてくる。
明確な契約違反を行った彼に対する妖精たちの視線は厳しい。
睨みつけているモノもいる。
その視線に怯えてエアリエルはバロネスの背中に隠れてしまう。
だがそんな殺気立っている妖精たちを前にしても彼は笑みを絶やさなかった。
「お前が怒るの最もだ、『正直な人』よ。俺だってこんなヤベェ真似は出来ればしたくなかった。だがな、状況はそれを許しちゃくれねぇ。お前らにとってもこれは非常に重要な話だ。契約にも関わる、な。だから俺は全員を召喚した。一人でも欠けたら意味がねぇから使う予定なんざなかったこの『術法』を使ってな」
「……ならば聞かせてもらおうか? その話とやらを……」
妖精の催促に頷き、バロネスは語り始めた。
己の置かれた状況と、これからの事。
そして彼らにとってもっとも重要である契約についてを。
「まず気づいているヤツは気づいてると思うがココは俺たちが暮らしていた『あの世界』とは違う所だ。平行世界ってヤツだな。大きな差異としては二十年前の『大召喚』がココでは起こっていない事が上げられる」
衝撃の事実にほとんどの妖精がざわめき出す。
一部の博識かつ明晰な頭脳を持つ妖精種は予想していたらしく、特にそのような素振りは見せていない。内心ではどうなのかわからないが。
バロネスはそんな彼らを無視する形で話を続けた。
「何故こんなところに来ちまったのかはこの際、置いておく。重要なのはここからだ……」
数秒の間を置き、全ての妖精たちの注目が集まったのを確認する。
『正直な人』と呼ばれた妖精が視線で先を促し、それに頷き返してから彼は『重要な問題』について語り始めた。
「まず一つ目。どう来ちまったかわからないって事は今のところ向こうに帰る手段が無いって事だ。まぁこれは主に俺に作用する問題だからお前らが気にするこっちゃねぇ。問題は二つ目だ。俺とお前らを繋ぐ契約の『術式』が切れかけてる」
さざ波のように広がる動揺。
さすがにこれには最強クラスの妖精である『正直な人』も驚きを隠せなかったらしい。
目を見開き、召喚者を凝視している。
「と言ってもあと一回、お前らを送り還す事くらいは出来るから心配すンな」
何体か明らかにホッとしたような顔つきになるのを見ながら彼は口元を歪ませる。
「で、だ。本題中の本題。さっきも言ったが切れかけた術式で出来るのは一度の送還だけだ。かと言ってここで還すにはお前らはあまりに優秀過ぎる。そこでだ……」
一度、言葉を止める。
妖精たちの視線が集まるのを感じながらバロネスは言葉を続けた。
「今までの契約を破棄し、改めてお前らと契約したい。……『再契約』だ」
指を鳴らしながら告げられた彼の言葉に対する妖精たちの反応は沈黙だった。
誰もが言葉を発しない。
それはソノ言葉が何を意味するかを理解しているが故の沈黙だった(一部意味が理解できず首を傾げていたが)。
「それがどういう意味か、理解して言っているのだろうな? 時の召喚師よ」
静かな、それでいて圧力を伴う威圧的な声に笑みを殺さず頷く。
「ああ。どうやら理解できてないヤツがいるようだから説明してやる。今の契約ってのはこっちの世界とあっちの世界を繋いでいる。だからお前らは決して踏み込む事ができないはずのこっちの世界にこうして侵入できているワケだ。つまり『世界同士を連結させている』ワケだな。聞いてみれば凄いように思えるだろうが実際はそうじゃねぇ。俺はこっちに来てからレッドキャップ、ブルーキャップ、シルキー、キルムリスを通常の召喚で喚び出した。最初の方はよくわからなかったが最後のキルムリスの時に違和感を感じた。それは俺らの間にある術式が『綻んでいる』せいだ。じゃあなんで綻ぶのか? それはこの術式に想定外の負荷がかかってるからだ。わかるか? 『世界を繋げているせい』なんだよ」
無言で彼の解説に聞き入る妖精たち。
その真面目な生徒のような彼らに自然とバロネスの説明にも熱が入る。
「この想定外の負荷を無くすにはどうしたらいいか? 他にも手があるのかもしれねぇが今の俺に出来るのはこの契約の破棄。その後、条件諸々を改定した上での再契約。それしかねぇってわけだ。だがこれにもリスクが伴う。今の契約を破棄するって事はだ。向こうの世界との微かな繋がりが無くなるって事だ。簡単に言えば二度と故郷に戻れねぇ!!」
ビシリ! っと指を突きつけて宣言する。
騒然とする妖精たち。
やはり理解していても面と向かって言われると多少なりと焦るモノらしい。
半ば確信していたであろう一部の妖精を除いて慌てふためくその様はパニックに等しかった。
「落ち着け。この男はまだそれを主らに強制させたワケではない」
混乱を鎮めたのはやはり『正直な人』と呼ばれた妖精だった。
その両隣にはボロ布のようなローブを頭からすっぽり被った老人のようなモノと雄雄しい黒馬に跨った騎士も立っている。
「その通りだな。時計屋はオレたちに何も強要してはおらん。ここまで詳しく説明するのだ。何か選択を迫りたいのだろう? お主は……」
「魔法使い殿に同意する。貴殿らもよく知っているはずだろう? 我らが盟友は一度として我らに何かを強制させた事など無いと言う事を……」
長き年月を生きてきた古参の妖精種の言葉にパニックは冷や水を浴びせられたかのように静まっていく。
「クックック! さすがだぜ、『偉大な魔法使い』。そして『ブリテンの王』よ。コイツらの言う通りだ。俺はお前らに『俺と共にこっちで新しい生活をするか』、『俺との契約を完全に破棄し、向こうの世界に還るか』の二択をさせようと思ってる。だからここまでわかりやすく説明してやった。各々、じっくり吟味して決めろ。こいつはお前らにとって『とても重要な選択』なんだからな」
何度目かのざわめきが洋館の敷地に響き渡る。
「あー、ちなみにだ。こっちに残るって言ってくれる物好きの住居はココになる。無論、それぞれの趣味、趣向に合わせて模様替えはしてやるつもりだが……あんまり多くは期待するな。それも踏まえてよぉく考えてくれ」
そう言うと玄関前に座り込むバロネス。
「あんまり悩んでも意味ねぇからな。日が昇るまでに決めてくれ。俺はここで寝てる。全員の意思が決まったら…起こして……くれ」
座ったまま彼は目を閉じる。
すぐに辺りに響き始める寝息。
よほど疲れていたのだろう。
かなり無理な体勢で寝ているにも関わらず、その睡眠がとても深いモノだと言う事がわかる。
「さぁて……時計屋の言う通り、さっさと決めるべきだろうな。ホレ、皆もとっとと決断しろ」
「余裕だな、魔法使い。そういうお主は決まっているのか?」
射抜くように睨みつけてくる最強クラスの妖精。
だがローブの男は肩を震わせて笑いながら気負いなく応えてみせる。
「ククク! 勿論だ。オレはとっくに決めておる。お前はどうなのだ? 正直な人、いや『護衛役』」
「……妖精王より仰せつかったオレの使命は『あの男を可能な限り手助けせよ』と言うモノだ。ならばそれに従うのみ」
「その妖精王とお主を繋いでいる命令も世界が隔たれれば意味を成さなくなるだろう? 二度とお目通りなど適わぬ。それでも尚、従順にその『命令』を遵守するのか?」
どこか試すような偉大な魔法使いの言葉に護衛役は鼻を鳴らした。
「フン、全てお見通しか。ならばはっきりと言ってしまおう。オレ自身があの男に興味があるのだ」
「ほう?」
「……誰も彼もが自分の事を最優先にしていたあの混沌とした世界。妖精王もその例外ではなかった。『統べる者』たる妖精王『オーベロン』は……己が集め、育み、守ってきた者たちよりも自身の身の安全を取った。従うしかなかったオレにそれを否定する権利など無いが……納得など到底出来るものではない」
怒気を感じさせる告白に黙って聞き入る魔法使いと漆黒の王。
彼らは『護衛役』たる者の言葉を「懺悔のようだ」と思いながら聞いていた。
目の前で大召喚と言う名の悪夢に飲まれていく者たち。
何より優先すべきは『王の命』であり『王の命令』。
阿鼻叫喚の中、自分に助けを求める者を見捨ててきた。
普通の護衛はそんな事は気にも留めない。
彼らの心にあるのは命令の遵守と主の命の存命だけなのだから。
彼にとって不幸だったのは自身が護衛役として不必要なまでに『優し過ぎた事』。
だからこうして懺悔しているのだ。
救えなんだ命を、零れてしまった命を背負っているのだ。
なんと不器用な妖精なのだろう。
「己が安全を確保した妖精王は改めて彼に下り、従う者たちを集め、育んだ。平穏だった。確かにそこには平和があった。……だがオレの心は晴れなかった」
「王に対しての不信、か。護衛ともあろう者が……なぁ」
「……わからぬ話ではないな。我ももしかすれば部下たちに恨まれていたのかもしれん…」
「そんな時だ。ヤツが現れたのは」
三者の視線が座ったまま眠りこけている男に向かう。
「恐ろしい男だった。まさか妖精王の眼前で、オレたち護衛が揃っていたあの状況で『こんなに護衛がいるなら一人くらい貸してくれもいいだろう?』だぞ? 周囲の護衛役が憤りを顕わにする中、オレは一人笑うのを抑えられなんだ。なんと豪気な性(さが)をした男だ、とな。だがただ豪気なだけでは妖精はついて来ない。王に力を見せてみろと言われた男は惜しむ事無くその力を見せ付けた。『共存』という名のあの世界で最も難しい『力』をな」
「そしてお主が選ばれたというわけか」
「そうだ。だが選ばれたワケではない。自分から進み出たのだ。ちっぽけな人間が見せた『力』がどこまで通用するのかこの目で見届けたいと願ったが故にな」
拳を握り締め、その時の想いを噛み締めている優しい護衛を見て愉快そうに肩を揺らして笑う魔法使い。
「物好きな。こき使われただけだろう?」
「お主とてその物好きの一人だろう? 契約など気に入らなければいつでも破棄できる身で……」
「ククク! ヤツといると大好きな賭け事に事欠かんからな。こっちはこっちで楽しんでいるのだから魔法はその駄賃のようなものだ」
「大魔法を賭け事の駄賃とする、か。聡明なエルフや人間どもが聞いたらどう思うだろうな?」
「知ったことか。オレの魔法をオレがどう使おうが勝手だ」
「確かにな。どうやら長い付き合いになりそうだ……」
「貴殿らとまた轡(くつわ)を並べられるとは光栄の至りだ。これからも共に歩もう……」
「そうだな。せいぜいよろしくやるとしよう。……しかし並行世界とはな。まったくもって楽しい男だよ、時計屋」
「彷徨っていた我を救った者だぞ? むしろこれくらいは当然と思ってもらわねばな」
再契約を決断した三体に見つめられているとも知らず。
バロネスはただただ惰眠を貪っていた。
「教授! 起きなよ、教授!!」
「んが? あー、終わったのか?」
ガシガシと頭を掻きながら立ち上がり、妙な形で固まってしまっていた身体をゴキゴキ鳴らしながらほぐす。
完全に身体がほぐれた事を確認し、彼は内面の緊張を隠しながら視線を上げた。
その先にいるのは、今まで自分と共に在った妖精たち。
その瞳の奥に宿る感情は彼にはわからなかったが少なくとも一体一体がなんらかの結論に至った事だけは理解できた。
「じゃあお前らの決断を聞くぜ。俺と一緒に来るって物好きはいるか?」
彼の目と、口から出る言葉には何も強制させる意図はない。
彼はただ促しただけだ。
彼らが考えに考え抜いて導き出しただろう結論を。
最初に挙手したのはシルキーだった。
貴方についていくとでも言うようにその顔には満面の笑みを浮かべている。
それに続くようにブルーキャップが彼の周囲をゆるやかに旋回し、レッドキャップが自身の得物を掲げてみせ、漆黒の王は自らの剣を掲げ、共に在る事を騎士として誓って見せた。
それらに続くように次々と再契約を支持する妖精たち。
バロネスは彼らの決断に驚いていた。
まさか『全員』が残るとは思わなかったからだ。
「お前ら……二度と還れないんだぜ? ほんっとによく考えたのか?」
「時間は充分にあった。ここにある結果が我らの総意だぞ、時計屋」
偉大な魔法使いにそう言われてはバロネスには返す言葉はない。
だからとりあえず彼はいつも通りに笑う事にした。
「クックック! 馬鹿ばかりか。さすがはオレが選び出し、契約したヤツらだぜ!」
「嬉しそうだねぇ、教授」
「ああ、嬉しいね。これでオレはまだまだ強くなれる。最高に信頼できるヤツらと一緒になぁ!!!」
天を仰ぎ、その喜びを声に出して放出するバロネス。
彼のその様子を見て妖精たちも各々のやり方で喜びを表していく。
コノ様を見た普通の人間はこう思うだろう。
「ここは魔境か?」と。
だが一部の普通ではない人間はこう思うだろう。
「一つの理想の形だ」と。
この日、バロネス・オルツィは古き契約を捨て去り、新しい絆を手に入れた。
ソレは彼が彼である限り死ぬまで途切れる事の無い『信頼の絆』。
決して見える事の無いモノでありながらその強度はダイヤモンドにも勝るという至高にして最高のモノ。
バロネスは知らない。
自分が彼らにとって『故郷よりも重く、尊い存在なのだ』と言う事を。
何故なら彼らが話さないから。
そして彼もそんな事は気にしないから。
だがそれでも彼は妖精たちを信頼している。
契約と言う名の約束事の重みを知るが故に。
彼が約束を破らぬ限り、妖精たちがソレを破る事も無いという確信があるが故に。
だから彼は無垢なまでに彼らを信頼できる。
そしてそんな彼を妖精たちも信頼している。
やり方が詐欺紛いであろうと何であろうと彼が『約束を破った事』は無いのだから。
時刻は午前六時。
訪れる新しい朝は、まるで彼らを祝福するかのように昇っていった。
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