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時計が刻む物語 第六話(×足洗い邸の住人たち) 投稿者: 投稿日:04/09-03:43 No.136  

時計が刻む物語
第六話 『就任初日 対面』

 
 結局、バロネスの副担任就任に関しては学園長がお墨付きを出す事でムリヤリ押し切った。

 タカミチは不満を顕わにし、ネギはバロネスから手痛い言葉を貰ったせいであからさまに彼を怖がっていたのだが、仮にもこの都市の代表者であり関東魔法協会の長も勤めている学園長の推挙した人物を無碍に扱う事はできなかった。

 授業まであまり時間が無かった事も手伝った結果、タカミチが折れる形で決着がついたのだ。
 ただ彼は個人的にバロネスには監視を付けるべきだと進言し、それに関しては学園長も同意している。

 バロネス本人はどうでも良さ気に事態を傍観していた。
 監視云々の話は、自分の邪魔さえしなければ何をしようが構わないと言う事で特に異論を唱える事も無く、『とりあえず』は丸く収まっている。

 そして八時三十五分現在。
授業開始まで後五分と言う時間で、バロネスとネギは担当クラスである『2-A』に向かっていた。

「あ、あの……バロネスさんは魔法使いなんですか?」

 周囲に人がいない事を確認した上でさらに声を顰めて問いかけるネギ。
 ここまで会話無しでチラチラと彼の方を見上げていたのは声をかける切っ掛けを見つけるためだったようだ。

 意を決してとでも言うのか傍目から見ても緊張している様子が窺える。

「ああ? ちげぇよ」

 そもそも彼が使える魔法と呼べるモノは『物質転移』だけだ。

 彼の知識での『魔法』とはランクの高いモノで『天変地異を引き起こし、全てを破壊し尽くす』、ランクの低いモノでも『人の足をまるで最初から存在しなかったかのように消し去る』と言うモノを指している。

 『足を初めから無かった事にする』という事は『対象の四肢を根本から造り変える』という事だ。
 それは0から生み出す事よりも難しい。

 『天変地異を引き起こす』など論外。
その偉業を成し遂げるには操る対象である『大自然そのもの』を知り尽くさねばならない。
 物質転移の魔法を使いこなす事に十年という歳月をかけた彼は、その難しさを誰よりも知っている。

 大自然という圧倒的な力、その事象そのものを知り尽くすという事の難しさと、その為に必要な膨大な魔力量。
 この二つは人の身では決して届かない高みにあるのだ。

 だからバロネスはネギの魔法使いかという問いを否定した。

 自分を『魔法使い』だと言えるほど、彼は魔法と言うモノを知り尽くしてもいなければ使いこなしてもいない。
 何より自分に使えるのは一つだけだ。
たった一つの魔法だけを使う男を何故『魔法使い』などと称せようか?

 彼は自分の分を弁えているのだ。
様々な妖精、精霊、妖怪、魔物、魔族と遭遇してきたが故に。
どれほど望んでも手に入る事のない種族の差を知っているのだ。

 だが同時に彼はこうも思う。

 自分に無い『力』を別の誰かが持っているからなんだと言うのだ?
 
 『力』を持っていない事が弱さに繋がるのか?

 否だ。

 持っていないから持っている相手に勝利出来ないのか?

 それも否だ。

 持っていないならソレに代わる『力』を手に入れればいい。

 無いからそこで諦めるなどと言うのは負け犬の論理だ。
無いなら手に入れればいい。
手に入らないのならば手に入るまで努力するだけ。

 そうして手に入れてきた『仲間』であり『力』なのだから。

 だから彼は自分を『弱い』とは決して思わない。
自分に在る力が限られているなら、その限られた力で強くなればいいのだから。

「えっ? でも魔法の事はご存知なんですよね?」
「……ガキ。てめえはその存在を知ってるだけでソレを使えるようになると……強くなれるでも思ってやがるのか?」
「えっ?」

 バロネスの言葉が心底わからないと首をひねるネギ。
その様子は彼の言葉に込められた深い意味を察した様子は無い。
 彼は短く舌打ちするとネギを睨みつける。

「知識として知っているだけじゃ意味なんざねぇ……そう言ってるんだよ。そうだな……例えば呪文を唱えるだけで相手を殺せる魔法があったとする。お前はそれを知っているとする。いざ使おうと思ってその呪文を唱えたとする。だが結果としてその試みは失敗した。なんでだと思う?」
「え? えっと……」

 早口で捲くし立てるバロネスにネギの頭は処理が追いつかずに混乱する。
 そのネギの様子にさらに険しい顔になるバロネス。

「その呪文を使うにはとある悪魔と契約する必要があったからだ」

 険しい表情のまま、厳しい声音で答えを告げる。

 だがネギはその答えに目を丸くした。
 余りにもイジワルな答えだったからだ。

「そ、そんな条件の事なんて一言も言ってなかったじゃないですか、わかりっこないですよ……」

 険しい表情の彼に気圧されながらも、一般的な反論をするネギ。

「それが知る事と使う事の差だ、ガキ。使い方を知ってる、用途を知ってる。それらはその呪文を使う『必要最低限な事』に過ぎねぇ。それを使うという事はまた別だ。
 実際に使おうとしてみて失敗するなんてのは当たり前。さっきのは特殊な条件だったがもっと単純に考えてみろ。その呪文を使う為の魔力がおまえ自身に残ってなかった、なんて事でも魔法は使えなくなる。
 ……使えるだけでも駄目だ。知っているだけじゃもっと駄目だ。ソレを『知り尽くし』そして『使いこなす』。これが出来て初めてそいつはその魔法を使う者、いわゆる『魔法使い』を名乗れる。俺はそう思ってる。
 だから俺は『魔法使い』じゃねぇんだよ。それがどんなものかは今まで散々見て、聞いて、自分で試してきて知識としてならよぉく知ってる。だが俺が使えるのはたった『一つだけ』だ。
 そんな俺が魔法使いだ? 本職に失礼だし、何より俺のプライドが許さねぇよ。知り尽くしてもいなけりゃ使いこなしてもいねぇんだからな」

「………(こ、この人……すごい)」

 突然、始まったバロネスの講義。
 ネギはその説明に感銘に近いモノを受けていた。

「(そうだ。知ってるからってその魔法が使えるわけじゃないし、使えたってどこでどういう風に使えばいいのか、その用途を知り尽くしていないと役に立つ訳ないじゃないか!)」

 ネギの瞳が真剣なモノに変わる様を見て、バロネスは心中で「ほう?」と驚きの声を上げていた。

「(ガキに言ってもわからねぇと思ったんだが……中々どうして、理解してるみてぇじゃねぇか。どうやら頭が回るってのはマジらしい。
 なかなか楽しめそうだな。確か……ネギって名前だったか? クックック!)」

 心底、楽しそうに口元を歪めるバロネス。
 幸い、ネギは彼の講義を反芻し、理解する事に集中しているためその邪悪な笑みを見る事はなかった。

「おい、『ネギ』。ここじゃねぇのか?」
「えっ!? ……あ、ホントだ」

 思考の海にダイブしていたネギが我に返ると確かにそこは彼が、今日からは彼らが担当する『2-A組』の教室の前だった。

「す、すみません。ぼうっとしてて」
「クックック! 悪いと思ってるなら二度と同じミスはすんな。同じ事を繰り返す事ほど馬鹿げた事はねぇんだからよ」
「は、はい!」

 背筋を伸ばして返事をするネギ。
 その様子が面白かったのか声に出して笑うバロネス。
どうやら彼はネギを気に入ったらしい。
その様子は先ほどまでと違い、かなり機嫌が良い。

「それじゃ俺に指導される運の無い生徒連中と顔を合わせるとするか」
「あ、バロネス先生。まずボクが……」

 ネギの言葉など最後まで聞かずに引き戸を開ける。
 
 勢い良く開けられたドア。
その時、ネギはふと頭上を仰ぎ、そして顔を引きつらせた。

 ドアの間に挟められた黒板消しが重力に従って落ちてくるのが見えたからだ。

 全てがスローモーションに思えた。
 バロネスは気づいていない。
 機嫌良さげに口元を歪めながら教室に進入しようと歩を進めている。
 彼が教室内に入りきるより黒板消しが彼の頭頂部に当たる方が明らかに早い。
 しかしネギにはどうする事もできなかった。
魔法を使おうにも呪文を詠唱する時間など無いのだから。

 それでもなんとかしようと咄嗟にバロネスの背中を押し出そうとする。
それが彼の悲劇の始まりだった。


 バロネスは黒板消しには気付いていなかった。
彼が昔、教師として担当してきたのは大学部の精神的に成熟を極めた者たちであり、子供のイタズラとは縁がなかったからだ。
 だからこんな幼稚な罠を仕掛けられているとは残念ながら夢にも思っていなかった。
 入る直前のネギとの会話により上機嫌になっていた事も彼を無防備にさせた要因の一つだろう。

 だがしかし。

 彼は百戦錬磨の戦士である。
不覚にも黒板消しには気付く事はできなかった。
 だが後ろから『襲い掛かろうとしている』人間には気づく事ができる。
 今まで培ってきた防衛本能が彼の身体を自然と突き動かした。


 右足を軸にして左回転する。
いきなりバロネスが振り返った事でネギは体当たりのタイミングを完全に外してしまった。
 その一瞬の隙に彼はネギの右手を掴み、無造作な手つきで『頭上』に放り投げた。
 結果、まったく気付いていなかった黒板消しトラップはネギの側頭部を直撃、弾かれて教室の端まで飛んでいってしまった。

 放り投げられたネギはその勢いのまま教室の床に背中から叩きつけられて目を回してしまう。

シーーーーーーン

 静まり返る教室。

生徒は勿論、本能的な部分で防衛行動をしたバロネスも自分の行動の結果に一瞬ではあるが呆然し、沈黙した。

「あーー、ネギ。生きてるか?」

 一応、自分が補佐しなければいけない人物を心配して声をかけてみる。
 ネギは未だに目を回しており、返答などとてもではないが出来ない状態だ。
 仕方ないので活を入れてやろうとネギに近づくバロネス。
そこで第二のトラップが発動した。

ビィン!

「あ?」

 彼の足がこれ見よがしにぴんと張られていたロープに触れる。
 
 その瞬間、頭上のバケツが落下した。
 彼もさすがにこのあからさまな罠にはすぐさま反応した。

 水が目一杯入れられていたそれを彼は無造作に右手で弾く。
その結果、床がずぶ濡れになるがそんな事は彼には関係なかった。

ヒュン!! ヒュン!!

 次いでバケツと連動させていたらしい吸盤つきのおもちゃの矢が彼の背中に迫る。
 だが彼はソレをこれまた無造作に左手の甲で全て床に叩き落した。
 ずぶ濡れの床に音を立てて転がる矢。

 シーーーーーーン

 先程よりも深い沈黙が流れた。

 誰もが動かない。
 誰もが反応できない。

 そんな空間からいち早く復帰したのはやはりこの男だった。

「あーー、とりあえずだ」

 指を鳴らしながら未だ呆然としたままの生徒らを見やる。

「こんなクソくだらねぇ真似した馬鹿、前に出ろ」

 笑顔。
 それは笑顔だ。
 満面の笑みというわけではないが心底楽しそうな笑顔だ。

 ただし。
 その笑顔を見て一部を除いた生徒は震え上がった。

 何故なら彼の目が『殺す』と語りかけていたからだ。

「はっ!? ボ、ボクは一体ッ!?」
「よぉ、起きたか。ネギ」

 後ろから聞こえてきた副担任の声に彼ははっとして振り向く。
 そこには腕を組みながら仁王立ちしているバロネスがいた。

「ば、バロネスさん? あ、そういえば黒板消しは!?」
「お前を使って俺が吹っ飛ばした」

 ネギの問いに簡潔に答えるバロネス。
簡潔過ぎてネギにはいまいち伝わっていないが。

「そ、そうなんですか? えっと……皆さん、なんで黙ってるんですか?」

 とりあえずバロネスへの疑問を保留し、今度は生徒たちに声をかける。
 生徒たちはさっきから黙ったままだ。

 一部を除いてひどく怯えている。
ネギに縋るような視線を向けている者もいるくらいだ。

「あー、これからコイツラ、尋問するからお前は黙って見てろ」
「え!? じ、尋問ってバロネスさん! ボクの生徒に酷い事しないでください!!」

 バロネスの言葉に驚嘆し、すぐさまその行動を阻止すべく声を張り上げるネギ。
 だが自分の四分の一も生きていない小僧の言葉ではバロネスは止まらない。

「じゃあお前になら酷い事していいのか? アア?」

 百パーセント本気(マジ)の目で問いかけるバロネス。
その視線に曝されながらも、ネギは決して怯まなかった。

「この人たちはボクの生徒です! だから彼女たちが何か失敗した時の責任を取るのはボクですから、何かするならボクにしてください!!」

 バロネスの殺る気の視線を前にしながら勇気を振り絞って言い切ってみせるネギ。
 その小さな身体を精一杯広げ、生徒たちを守るように立ちはだかる。

 生徒らはこれまた一部を除いて彼の態度に感銘を受けていた。

「ネギ君、カッコイイーー!」
「ステキですわ! ネギ先生ーーー!!」
「オッサン、引っ込めーー」
「そうだそうだーーーー!!!」

などなどネギへの賞賛、バロネスへの批難が教室を満たす。

 バロネスはネギの瞳をじっと見つめ、生徒らをざっと見回すと。
 ニヤリと口元を歪ませた。

「“カチャカチャと音を立てる悪戯好きの水棲妖精。その身に纏う貝殻を少しの間、貸しておくれ”」

 生徒たちの罵声に紛れてしまうくらいの声量で呪文を唱えながら懐に手を入れる。
 懐に仕込んでおいた時計が淡い光を発するが気づいた者はいない。
 微量の魔力を感知した者はいるが。

「午後十時の『シェリーコート(貝殻の服)』」

 淡い光に自分の右手を触れさせながら彼の召喚魔法は完成。
その右手の甲になにやらゴツゴツとした石を幾つも重ね合わせたような生物が現れる。

「一仕事してもらうぜ、シェリーコート」

 無言で頷き、右腕を包み込むようにその形状を変化させるシェリーコートに笑みを深くする。
 彼はゆっくりとした動作で懐に突っ込んでいた腕を引き抜くと教卓に乗せた。

「あー、お前ら」

 彼の不自然なまでに静かな声音は生徒たちのわめき声(バロネスにはそう認識されている)に消されてほとんどの者には聞こえていない。
 彼は教卓に乗せていた右腕を無造作に振り上げ、思い切り教卓に振り下ろした。

ガッシャアアアアアアアアアアアアアン!!!!

 粉々に破砕される教卓。
予備動作などほとんど無かったはずのその一撃が、教卓を打ち砕いたという事実に今度こそ全ての生徒(ネギ含む)が硬直した。

シーーーーーーン

 三度目の沈黙。

 一般的な思考回路をしている生徒たちは顔を真っ青にしている。
 一部の一般的でない生徒は、彼の一撃を見て面白がる者、険しい顔つきになる者などその反応は様々だ。

 バロネスは役目を終えたシェリーコートを送還すると、指を鳴らしながら黒板の前に立った。

「さて、ようやく静かになったわけだが……とりあえず自己紹介でもするか。俺の名は……」

 カツカツというチョークと黒板が摩擦する音だけが教室に響く。

 彼は中々に流麗な英語で自分の名を書き終えると生徒たちの方に振り返った。

「バロネス・オルツィだ。今日からしばらくの間(っつってもいつまでかは俺にもわからねぇが)このクラスの副担任――まぁネギの補佐だな――と数学を担当する事になった。まぁ運が無かったと諦めて精々、楽しく授業を受けろ。わかったな?」

 底抜けに邪悪な笑みを湛(たた)えながら、彼はこうして『2-A』の面々と対面した。


あとがき
皆さん、少しぶりです。今回は時計屋を更新しました。
紅です。
あの異様な集まりである『2-A』の面々ととうとう接触した教授。
教授らしさがこれをご覧になった皆さんに伝わっていれば幸いです。
ご意見、ご感想などありましたらぜひ感想掲示板にお書きください。待っています。

それではまた次の機会にお会いしましょう。

時計が刻む物語 時計が刻む物語 第七話

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