HOME  | 書架  | 

当サイトは「魔法先生ネギま!」関連の二次創作投稿サイトです。ネギま!以外の作品の二次創作も随時受け付け中!

書架

[]

時計が刻む物語 第七話(×足洗い邸の住人たち) 投稿者: 投稿日:04/09-03:44 No.137  

時計が刻む物語

第七話『対面の裏側』


 麻帆良学園中等部、2-A組。
 このクラスを一言で表すならば皆、口を揃えてこう言うだろう。

 『異様』の集まりだと。

 では何故、異様なのか?

 まずはクラスに在籍する者たちの容姿。
 一般的な趣味、趣向を持つ異性ならば惹かれないわけがないと言っても過言ではないほどにこのクラスには多種多様な美人が在籍している。

 ここが共学だったなら言い寄ってくる男には事欠かなかっただろう。

 次に彼女らの成績。
 学年を通してのトップ1、2に加え、上位をキープしている生徒が6、7人。
 他の生徒たちも平均的な成績を残している。
 これだけ見れば優秀と言っていいクラスだ。
 
 だが学年を通しての下位をキープしている生徒が五人いるとしたらどうだろう?
 優秀な者の成績と成績が悪い、言ってしまえばドベに限りなく近い五人。
 二つは相殺されるが、この五人の成績の悪さが優秀な者たちを遥かに凌駕しているせいで彼女らのテストにおけるクラス順位は『最下位』である。
 
 
 そして最も異様なのはそれぞれの立場、境遇、思想である。
 
 スポーツとは違う実戦的な剣術を修め、抜き身の刀のような気を発する女生徒。
 金さえもらえば誰でも敵に回すという中学生とは思えない感性を持ち、実銃もかくやというモデルガンを扱う女生徒。
 休日、近くの山で修行と称して野生児のような生活を送る正体バレバレな女生徒。
 この現代世界ではまだ夢想に近いはずの自立稼動、自己学習AI搭載女性型ロボットな女生徒。
 何もしゃべらないが意思疎通だけはしっかり行うという身も心も道化師な女生徒。
 前述したロボットを作成し、裏でなにやら企んでるらしい天才女生徒。

 
 挙げればキリがないほどの異様ぶりなのである。

 そんな中で最も極めつけなのはやはり裏社会にその名を轟かせ、六百万ドルの懸賞金をかけられていた『ハイ・ディライトウォーカー(吸血鬼の真祖)』の少女『エヴァンジェリン』だろう。

 かつてとある魔法使いに『登校地獄』なる珍妙な魔法をかけられ、以降十五年間を中学生として過ごしてきたというこれまた異様で笑える過去持ちではあるがその力は侮りがたい。

 と言うか侮ったら即死である。

 従者である茶々丸の性能も然ることながら、彼女自身もその気になればクラスメートのほとんどの者たちを『魔法、魔力無し』で殺せるだけの実力があるのだから。

 いやクラスメートたちに留まらず、戦闘に長けた『魔法使い』ですら相応の実力者でなければ彼女には歯が立たない。

 油断する、しないの問題では無くである。

 故に彼女への手出しは学園長命令で止められている。
 わざわざ怪我人を出す事もないという配慮からだ。

 だが実直、誠実(バロネス流に言えば石頭)な魔法使いたちはこの決定を不服に思い、一度、腕に覚えのある者を三名ほど彼女の元に送り込んだ事がある。

 結果は惨敗。
 その三人は見るも無残な姿で発見された。
 かろうじて生きてはいたが、魔法使いとしては再起不能だった。
 彼らは現在も『本国』で心の治療中である。

 まぁ藪を突付いて蛇を出したのは魔法使い側であり、彼女に罪は無いのでこの件に関してはここまでにしておこう。
 ただこれ以降、魔法使いたちの間では『彼女には関わらない』という暗黙の掟が出来たという事実がこの事件の衝撃を如実に物語っている。


 で、そんな彼女だったが今日はいつになく機嫌が良さそうである。
 しかもいつもはほとんど出ないはずのHR、それもその十分前である八時二十分に彼女が着席しているというのは非常に珍しいケースだ。

「マスター、今日はどうされたのですか? アドレナリンの分泌量が少々多いようですが……」

 早い話が興奮していると言いたい茶々丸。
 エヴァは気遣わしげな彼女の視線を浴びながらも口元の笑みを崩さない。

「フフフッ、これが興奮せずにいられるか。『アイツ』がこのクラスに来るかもしれんのだぞ?」

 心底、面白そうに笑うエヴァ。
 そんな彼女に従者の少女は「はぁ」と生返事を返す事しか出来ない。

「この馬鹿だらけの能天気クラスに核爆弾のようなアイツが来れば……クククッ、考えただけで笑いが止まらん」

 実はエヴァはバロネスが副担任としてこのクラスに赴任する事を昨日の内にエアリエルから聞いていた。(ファーストコンタクト以降、意気投合した二人はちょくちょく会っていたりするのだ)

 と言ってもエアリエルが言ったのはバロネスが今日から赴任するという事と、主な役割が教師の補佐役であると言う事だけでこのクラスに来るかどうかは言っていない、というかエアリエル自身にもこの時はまだそこまで細かい情報が回っていなかった。

 エヴァは『教師の補佐役』という情報からまだ正式な教師になっていないこのクラスの担任を思い浮かべ、ここしかないだろうと推測を立てたのだ。

 ただでさえ御する事が難しいこのクラスだ。
 魔法使い(見習い)とは言え、子供一人では荷が重いと考えた学園長が補佐役としてバロネスをよこす可能性は決して低くは無いと踏んだのだ。

 そこに思い至ってからはずっとこの調子である。
 
 楽しみな事があると寝起きが早くなると言うが彼女も例外ではなく、昨夜は十時には就寝し、今朝は六時に起床している。
 それほどに彼女は今日と言う日を楽しみにしていたのだ。

「クックック! 早く来い、バロネス」

 そして彼女がここまで楽しそうにしているという事実に、クラスメートたちは当然、気付いていた。

 なにせ授業のボイコット、サボタージュが当たり前な女生徒として名が知れている彼女だ。
 そんな彼女がHR前に教室にいるという時点で注目の的だと言うのに、その様子が傍目から見てもとても楽しそうとくれば話題にならないはずがない。

「……刹那、彼女があんな様子の理由、知ってるか?」
「い、いや私は知らないが。……しかしなんというかあの人の嬉しそうな様子を見ていると嫌な予感しかしない私は失礼なのだろうか?」
「いや私もまったく同感だ。正直、怖いよ」

 などという会話が繰り広げられていたりするが、これから巻き起こるだろう騒動に胸を膨らませているエヴァは気付いていない。


「それにしてもネギ先生、遅いなーー」
「会議が長引いてたりするんですかねー? ってお姉ちゃん、なにしてるんですか!?」
「なにってもうHR始まるじゃん。遅刻する先生には少しお灸を据えないと♪」
「だ、だだだめですよーー! ただでさえ先生が来た時に、酷い事になったのに二度も仕掛けるなんて!!」
「いいじゃん、史伽。風香、アタシも手伝うよ!」
「お、さすが美空。話がわかる~~。ほら史香も観念して手伝う手伝う!」
「ふぇ~~、イヤだって言ってるのに~~」

 悪戯好き三人によるトラップの設置を視界の端に捉えて、ますます笑みを深くしながら、エヴァは求める人物がやってくるのを今か今かと待ち受けていた。

 そしてその時はやってきた。

 廊下から聞こえてくる微かな話し声と二人分の足音。
 他の生徒たちも気付いたらしく、バタバタと慌しく席についていく。

 エヴァは無言で茶々丸に視線を向けた。
 茶々丸は主の視線の意味を理解し、肯定の意味で頷く。

「(フフフッ、やっと来たか)」

 教室前方の引き戸に視線を映す。

ガラッ!

 戸が開き、長めの白髪と新品のようなグレーのスーツが彼女の目に入る。
 同時に頭上から迫る黒板消し。

「(さぁ、どうする?)」

 重力に従い、落下してくるソレ。
 彼はソレに気付いた風もなく、ごく自然な流れで背後を振り返り、ネギを頭上に放り投げてソレを回避してみせた。

 吹っ飛び、教卓を飛び越えて床に背中を打ち付けて目を回すネギ。

 静まり返る教室を余所に、エヴァは声に出して笑ってしまいそうな自分を必死に抑えていた。

「(クッ、ククククッ! そ、そう来たか、バロネス!)」

 肩が小刻みにプルプル震えている辺り、かなりツボにはまっているらしい。
 我慢のし過ぎで目尻に涙さえ浮かべている。

 沈黙する教室を余所に、バロネスに迫る第二、第三のトラップであるバケツとおもちゃの矢。
 これはあっさりと回避して見せた。

 そのやり方があまりにも『普通過ぎた』のでエヴァの興奮は若干冷めてしまう。

「(なんだ、その避け方は……。もっと私を楽しませろ)」

 自分勝手な理屈で、機嫌を悪くしバロネスを睨みつける。
 バロネスも唯我独尊だが彼女も大概である。

「あーー、とりあえずだ」

 そんな彼女の思惑など知るはずもなく、バロネスは事態を進行させていく。

「こんなクソくだらねぇ真似した馬鹿、前に出ろ」

 『殺す笑み』で生徒らに声をかけるバロネス。
 エヴァは彼のその笑みを見て「まだまだ楽しめそうだな」などと思いながら口元を吊り上げていた。

 その後、彼が教卓を破壊し自己紹介を終わらせる間の出来事を彼女は存分に心中で笑って楽しんだ。
 机に突っ伏し、笑い出しそうなのを必死に堪えていたのだ。

 彼女に近しい従者以外はまったく気付いていないが。

シーーーーン!

 教室内は相変わらず静まり返ったままだ。
 よほど教卓を破壊したのが効いているらしい。

 バロネスはそんな彼女らの恐怖、あるいは畏怖に満ちた視線を面白そうに眺めている。

 一部、射るような、探るような視線を向けてくる者もいるがその程度の視線など彼には関係なかった。

「(なるほど、エヴァンジェリンにカラクリもいるのか。……それ以外にも何人か妙なのがいるな。一体どういう基準でクラス編成してやがるんだ、あのジジイは?)」

 第二視力を発動させながら改めて周囲を見回し、その規格外のオンパレードを睥睨しながら心中で学園長を罵る。


 まず最初に目に入ったのは彼の左目を持ってしても薄くしか見えない少女。
 どうも幽霊らしい。
 彼の左目ですらその程度にしか視認できないのでは、このクラスの者は誰一人(エヴァ除く)気付いていないのだろう。

「(無害みてぇだが……今度、話でもしてみるか。面白そうだ)」


 続いて目に入るのは彼から見て左側の手前に座っている生徒。
 左側にまとめられた髪が、彼女が身動ぎする度に揺れている。
 教卓を破壊した直後から、もっとも厳しい視線を送ってきた少女である。
 その背中にバロネスの左目は真っ白な羽が生えているのが見えた。

「(どうやらフェザーピープル(翼人種)らしいな。中途半端な殺気ばらまきやがって。殺る気がねぇのにこっち見んな、鬱陶しい。……あんまりウゼェようなら絞めるか? 邪魔だし)」


 三人目は彼から見て右側の奥。
 長髪に褐色肌、おまけに背が高い少女だった。
 こちらはバロネスが教室に入った当初から探るような視線で彼を見ていた。
 シェリーコートで教卓を破壊し、名乗った後もその視線に変化は見られない。

「(そこそこ出来る、か? まぁ殺気がねぇ分、さっきのヤツよりはマシだな。鬱陶しくねぇから)」


 次に彼が気になったのは左側奥に座っている少女。
 こちらも褐色だが前述した少女に比べて背が低く、髪も短い。
 この少女はバロネスがトラップを苦も無く回避していく様を見た後、なにやら興奮した面持ちでじっと彼を見ていた。
 教卓を破壊した頃にはその眼差しは『獲物を見つけた狩人のソレ+新しい玩具を得た小さい子供』(バロネス主観)という珍妙なモノに変化している。

「(……ああいうのと関わり合うと碌な事にならねぇ。まぁコイツもウゼェなら適当に絞めるから放置だな)」


 次に目を引いたのは右側の手前にいる少女。
 背が高く、生来のモノらしい糸目で彼を見据えている。
 ただバロネスはこの視線に殺気も怒気も、『感情と呼べるモノ』を何も感じなかった。
 笑っているように見えるその表情も上辺だけ。
 だからこそ気になった。

「(どうやらかなりやれるヤツみてぇだな。さすがに腕まではわからねぇが……一応、注意しとくか。
 ……しかしこのクラスは普通じゃねぇのが多すぎる。ジジイに詳しく聞く必要があるな。まさか担当するクラスのヤツラの情報を秘匿なんてしねぇだろう。まぁ仮に黙秘しても強制的に吐かせるだけだが)」

 悶々と目立った生徒の第一印象を並べながら、悪しき思考を脳内で巡らすバロネス。
 その思考が外に洩れる事はなかったが生徒たちからすれば気が気ではない。

 なにせ自分たちを黙らせる為だけに教卓を破壊するような人間だ。
 自分たちに「害を及ぼす事を考えているのでは?」と勘繰って恐怖するのも当然と言える。


 そして彼が最も目を惹かれたのは、真ん中の列のこれまた真ん中辺りの席についている黒髪の少女だ。

「(どういう魔力量だ、あのガキ。向こうでの『中級』、いやあれが垂れ流されてるだけの魔力だとするならまともに扱えれば『上級魔族並』かッ!? 冗談じゃねぇ、ホントに人間かよッ!?)」

 一見、何の変哲も無い少女から立ち上る圧倒的な魔力。
 さすがの彼もその光景には度肝抜かれた。
 驚きに思わず目を見開いてしまう。

「ん?」

 バロネスの凶行もほんわか笑顔で「すごいなー」などと言っていた少女だが、彼が自分を見て表情を変えた事に気づき、首を傾げる。

 彼は『三十以上年下の相手』に驚愕したという事実を誤魔化すように咳払いを一つすると、気を取り直しギラギラした目で生徒たちに視線を向けた。

「さて、自己紹介で中途半端に切れちまったがさっきの続きと行くぜ? とりあえずこんなくだらんトラップを仕掛けたヤツは速やかに名乗り出ろ」

 ねめつけるように周囲を睥睨しながら噛み締めるように言葉を発する。
 その視線とドスの効いた言葉に罠を仕掛けた当人たちはびくりと身体を震わせてしまう。

 当然、バロネスはソレに気付いている。
 だか彼は気付いた上で彼はこんなセリフを口にした。

「……名乗り出ねぇならそれでもいい。その時は連帯責任でお前ら全員罰するだけだからな」

 ニヤリと笑いながらの死刑宣告。
 これには生徒たちも騒然とした。

「な、なんでそうなるんですか!!」

 立ち上がった勢いで椅子を後ろに倒しながら抗議するのは髪を頭の両脇の鈴で止めている少女だ。
 勝気そうな瞳でバロネスを睨みつけている。

「連帯責任ってどうしてそんな風になるんですか!!」

 再度、声高に叫ぶ少女に釣られて周囲も抗議の声を上げる。
 対するバロネスは心底、面倒そうに抗議の代表者である少女を見つめた。

「あーー、わからねぇのか? そこまで馬鹿なのか? ああ? 聞く前に考えろよ。脊椎反射で反論すんな。わかったか、馬鹿」
「っ~~~! なんで初対面の人間にそこまでバカバカ連呼されなきゃいけないのよ!!」

 口から火が出そうなほどに絶叫する少女。
 その金切り声にも動じず、バロネスは耳をほじりながら冷めた視線で彼女を見つめる。
 やがてため息をつくと心底、ダルそうに説明を開始した。

「まぁお前が馬鹿かどうかなんてのは議題にもならんから放置するぞ。とりあえず連帯責任の件を説明してやる。

 指を鳴らしながら少女の着席を促す。
 渋々ながら従う少女を尻目に彼はこんな思考を巡らしていた。

「(二度とこんな真似しねーよう今のうちに教育しておくのも悪くねぇ。主に『俺の為』に)」

 やぶ睨みの視線で生徒らを威圧する。

「……言っておくが俺の説明を遮ったら今度はてめえらの身体がこーなるからな」

 親指で教卓の成れの果てを指差しながら告げる。
 先ほどの惨劇が脳裏を過ぎり、一同は文句を言う事もできずに彼に従った。

 先ほどからほとんど絡んでいないネギは、生徒らとバロネスを交互に見ながらオロオロしていた。
 彼ではこの混沌とし出した事態を収拾するのは不可能なようだ。

「あー、まずはだ。お前ら、トラップ仕掛けたヤツの事知ってるな?」

 ギクリと何名かが肩を震わす。
 その実に素直な反応にバロネスの笑みが深まっていく。

「まぁ仕掛けたヤツの思惑は俺かネギがトラップにかかる様を見て面白がろうかって所だろうが。もしも俺がこのくだらんトラップに引っかかったとする。その後、どーなるかぐらいわかんねぇのか?」

 彼は言葉を切り、生徒らを見回しながら問う。
 先ほどまでとは違った沈黙が教室を満たす中、バロネスは話を続けた。

「まず怒鳴る。で、切れる。そりゃそうだろ。頭にゃ粉がこびりついてる上に水で服はびしょ濡れだ。
 まさかそんな仕打ちを受けて笑って許してくれるような『心の広い人間』がいるとでも思ってやがるのか? ええ?
 (ぶっちゃけ学園長との契約に『就業中の人殺しはご法度』って項目がなけりゃ笑ったヤツこみで殺ってるしな)」

 その問いかけは静かな教室にさざ波のように響き渡った。
 もしも心中の独白まで口に出してたらパニック状態になっていただろう。

 教授は契約には頑ななまでに律儀だった。

「それだけなら俺は当事者だけ捜し出して絞めるだけだが……今回はちと違う。場所は教室で、お前ら全員、当事者どもが罠を仕掛ける様を見てたんだろ?」

 ぐっと言葉に詰まる鈴の少女。
 それが図星を突かれた事を表すのは誰の目から見ても明らかだ。

「聞くが……お前は人を殺した人間とそれを黙って見ていた人間。どっちが悪いと思う?」
「えっ?」

 急に話を振られ、しかもやたらと殺伐とした内容の問いに絶句する少女。

「フン、正解は『どっちも悪い』だ。人を殺すのは悪い事、んなもん幼稚園児だって知ってる。
 じゃあ黙って見ていた人間はなんで悪い? 今まさに人が目の前で殺されようとしている様を『黙って見ていた人間』ってのはなぁ、心のどっかで『殺す事』を認めてるんだよ。
 それは『いつ人を殺してもおかしくない』って事だ。直接やってないだけで、それはもう人殺しとそう変わらねぇ。それが『認める』って事だ。
 で、話を元に戻すがお前らは『罠が仕掛けられるのを黙って見ていた』んだよな?」

 もはや誰も言葉を発しない。
 ただ彼の講義に黙って耳を澄ませているだけだ。

「さっきの例え話と同じ事だ。被害者からすればただ見ていた人間も直接的な加害者もそう変わらねぇんだよ。
 てめえら、自分が俺の立場だった時の事を考えてみろ。トラップにかかった様を笑いモノにされる自分を想像してみろ」

 何名かが素直に想像したらしい。
 すごく嫌そうな顔をしている。

「嫌だと思うだろうが。仕掛けたヤツは勿論、ただ笑ってるヤツにも腹が立つだろうがよ? 
 それがわかったなら黙って連帯責任を受け入れろ。俺からすりゃてめえら全員『加害者』なんだからよ。
 (契約が無かったら殺してるくらいには、むかついてるしな)」

 指を鳴らしながら締めくくるバロネス。
 心中の独白は顔には一切出さずに説教をするという離れ業を苦も無く完璧にやっている。
 さすがは殺伐とした世界を生き抜いた男である。

 ポ-カーフェイスはもはやデフォルトだ。

 そしてそんな彼の言葉に、生徒らはぐうの音も出なかった。
 彼の言葉があまりにも的を射た正論だったからだ。

 反論の余地は皆無。

 結局のところ、被害者であるのは彼なのだからそれも当然と言えた。

 仕掛けた当人たちもバロネスの説得力のある言葉に真剣に自分たちの行いを反省していた。

 最初に手を挙げたのは罠を仕掛けた三人のうちの一人。

「あ、あの……わ、わたしがイタズラしました……」

 今にも消え入りそうな声で告白し、前に出てくるのは双子の片割れである。

「わ、史伽! 待ってって。先生、ボクも仕掛けたよ!」

 続けて出てくるのは双子のもう片方。

「あー、二人の手が届かないところをやったのはアタシです」

 頬を掻きながら出てきたのは陸上部のエースだ。

「ほう? えらく素直に出てきたな。
 クックック! 良かったな、お前ら。連帯責任にならずに済んでよ」

 自分の目の前に並んだ三人を睨みつけながら座っている生徒たちにも皮肉を飛ばす。
 一部を除き、生徒たちにはもはや彼に立ち向かうほどの気力は残ってなかったが。

「さぁてとりあえずお前らには掃除をしてもらう。てめえらの後始末くらい出来るな?
 (次やったら就業中以外の時間に闇討ちして殺すか。いい加減、トムにはエサが必要だしな)」
「「「は、はい……」」」

 バロネスの殺す視線を一身に受けながらもなんとか頷く三人。
 その内心では意外と普通な罰の内容にホッとしていた。

 すぐにそれが油断だったと思い知らされるのだが。

「あとはそうだな。……俺の丁稚として今日の放課後、働いてもらうか。荷物が多くなりそうだからな」
「「「ええっ!?」」」

 先ほどの返事と同様、見事にはもる三人。

「言っておくが拒否権なんぞねぇからな」
「「「は、ハイ!!」」」

 こうして三人は放課後、バロネスと愉快な仲間たちの館に招待される事になった。

 まだまだ長い一日は終わらない。

 ちなみに途中からまったく会話に入れなかったネギ少年はバロネスの話にまたも感銘を受けていた。


あとがき
どうも。最新話、というか再修正話をお送りしました紅です。
まずいです、話が進みません。
しかも今までで一番、話の量が多いです。
ワードで50KBを越えたのは久しぶりですよ。
しかもネギが目立ってない。
ここまで教授に飲まれるとは……いけませんね、次辺りで巻き返しを図らないと。
っと愚痴になってしまいましたが、お楽しみいただけたでしょうか?
皆さんのご意見、ご感想を心からお待ちしておりますので気軽に書いてください。
ただ『ここが駄目だった』と書くのならばその根拠も書いてくださると修正、改訂がやりやすくなりますので出来ればご留意してください。
それではまた次の機会にお会いしましょう。

時計が刻む物語 時計が刻む物語 第八話

  HOME  | 書架top  | 

Copyright (C) 2006 投稿図書, All rights reserved.