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時計が刻む物語 第八話(×足洗い邸の住人たち) 投稿者:紅(あか) 投稿日:04/09-03:44 No.138  

時計が刻む物語

第八話 『質疑応答、そして戦闘』


「さてくだらん事に時間かけちまったな。これじゃもう授業にならねぇや」

 悪戯三人娘を席に着かせ、黒板の上にある時計を見ながらぼやく。

 本来ならばこの時間はネギの英語の授業だったのだがバロネスが来た事を考慮し急遽、時間割は変更されている。

 この時間の英語と二時間目の数学(つまりバロネスが担当する授業)を入れ替えたのだ。

 現在、授業開始から三十分が経過している。
 残り時間は十五分。

 これから授業を始めるにしては微妙な時間帯だ。

「教卓もこの有り様だし……さてどうやって暇を潰すか?」

 問いかけるわけでもなく『自分が壊した教卓』の上に腰掛けて腕を組むバロネス。
 そんな彼に抱く生徒らの思いは一つに集約されていた。

「(壊したのはアンタだろ!)」

 声に出して言えば何をされるかわかったもんじゃないので誰も口には出さない。
 別に声に出して言ったとしてもこの男は笑いながらスルーするだけなのだが、初見の生徒たちに彼の性根の微妙な匙加減がわかるはずもない。

 唯一、面と向かって言葉を交わしているある少女を除いては。

「(ここで私が突っ込んだら面白くなりそうだな。まぁ、ナギの息子の前であまり目立つ真似はしたくないからやらないが。
 ……いや一回くらい派手にやってもかまわないか? うーーむ)」

 肝心の少女は、自分の計画と今そこにある喜劇の狭間で揺れていた。

「あ、あの……」

 生徒ら、そしてバロネスの視線が所在無さげに佇んでいたネギに注がれる。

「授業をする時間が無いんだったら残った時間はバロネス先生への質問コーナーって事にしたらどうでしょうか?」
「質問コーナー、ねぇ。まぁ何もしないよりはマシだな。いいぜ、それで行くか」

 指を鳴らしながらネギから生徒らに視線を移す。
 若干一名、ネギの言葉を聞いてから瞳を光らせている生徒がいたが特に殺気を感じるわけでもないので彼はスルーしている。

「んじゃあ、なんか聞きてぇ事があるヤツは挙手しろ。まぁ質問の内容次第じゃ黙秘権を行使させてもらうがな」

 彼が言葉を言い終えると同時にピン!と伸びる一本の腕。
 バロネスはそれを見越していたようで、特に驚いた様子も無く手を挙げた少女を指差した。

「あー、ついでだから名前も名乗れ。面倒だが今のうちに覚えておいた方が楽だからな」
「はい! 出席番号三番『朝倉和美』です。それじゃまずは先生の出身地はどこですか?」

 頭の後ろで濃い赤茶色の髪を束ねた少女。
 机の上にはメモ手帳を置き、カチカチとシャーペンの芯を出しながら食い入るようにバロネスを見ている。
 その瞳は活き活きとしており、彼女のその目を見た瞬間、彼はある事を確信した。

「(コイツ、パパラッチ予備軍だな。……なんか仕出かしやがったら証拠も残さず殺っちまうか)。
 一応、イギリスの方だな。色々と世界を回ってたからそれなりに語学には精通してる」

 こうして普通に会話をしているまさにこの時に、まさか自分が『生命の崖っぷち』に立たされているとは彼女は露とも思っていないだろう。

「ふむふむ、イギリスの方から世界中っと。では次の質問です。年は幾つですか?」
「ご、……二十六だ(あぶねぇな。うっかり実年齢、言っちまう所だった)」

 ちなみにこの男、若返る前は四捨五入すれば六十に差し掛かるくらいの年齢だった。

 彼は身体が若返った事は深く考えずに喜んでいるのだが精神的な年齢は変わっていない為、時折こうしてボロが出そうになるのである。

 別に本人は実年齢がばれてもどうでもいいと思っているのだが、捏造された戸籍との折り合い上、ばれない事に越した事はないので極力気を使っているのだ。

「(ご? まぁいいか) 二十六っと。ご趣味は?」
「読書だ。特にその国々に伝わる『伝承』、『伝説』、『逸話』なんかの書物は今でも読んでる。
(使えるヤツは意外と身近な書物に載ってるからな)」
「……読書と」

 取り留めの無い質問を次々と捌いていく。

 まぁ別段、隠すような事でもないのだから当然だ。
 元々、隠し事をするような性格というわけでもない。

「家族構成は?」

 だが笑みを貼り付けていた彼の表情がその質問を受けた直後、ほんの一瞬だけ固まった。
 だがそれに気付いたのはたまたま近くにいたネギと彼をじっと見つめていた五対ばかりの視線だけ。

「……ずいぶん前に全員、死んだ」

 ほんの少し、昔を懐かしむように告げられた彼の言葉。
 それにどんな想いが詰まっているのかは彼自身にもわからなかった。

 ただなんとなく。

 ほんの少しだけ彼女の言葉で、昔を思い出したらそんな調子になったというだけ。
 彼にとってはただそれだけの事だったが、生徒たちへの影響は思いの外、大きかった。

 質問をした和美は顔を引きつらせて固まってしまっているし、他の生徒たちの顔にも困惑と動揺が広がっている。
 バロネスはそんな彼女らの反応に苛立ちを感じていた。

「(ち、自分で聞いておいてそーいう反応しやがるか。周りの反応もウゼェな。同情でもしてるつもりか? これだからガキは……)」

 心の端っこで「馬鹿な事を言っちまった」と後悔している自分を認識し、「ほんとに丸くなったな、俺は」などと思いながらため息をつく。

「ちなみに今は扶養家族が二十人以上いる。どいつもこいつも鬱陶しいくらいに元気でな。お蔭で日々が楽しくて仕方ねぇよ。クックック!」

 気まずい雰囲気を払拭するかのように笑う。
 実際、彼の言葉で場の空気は幾分か和らいでいた。

 だが別に彼は狙ってやったわけではない。
 同情や憐れみの表情を浮かべる生徒らに「そんなモノはいらねぇ」と表したかったから笑って見せただけだ。

 だが当人の気にしていない風な言い方とその表情には確かに場の空気を良くする効果があった。
 ただそれだけの話である。

「えーっとそれじゃ次の質問です。この学園に赴任してきたと言う事は学園都市のどこかに住んでると言う事なんでしょうけど、どちらに住んでるんですか?」
「ここから三十分くらいの古びた洋館だ。じじ……学園長から格安で譲ってもらった」
「なるほど。(ん? 古びた洋館ってもしかして今、話題の幽霊館?)」

 首を傾げる和美を余所にいい加減、質問攻めにウンザリしていたバロネスが声を上げた。

「あー、もうそろそろ終わりにしろ。ボチボチ時間だ」
「っとそれじゃあ最後の質問です。恋人はいますか? いないんでしたらどんな女性が好みですか?」

 ある意味、定番中の定番な質問だ。
 
 生徒らもこの質問には興味をそそられたようで教室中がバロネスの回答を待っている。
 バロネスは彼女らの視線を一身に受けながら、数秒だけ考え込むとこう答えた。

「生憎とそーいう事に無関心だったもんでなぁ。好みって言われてもさっぱりわからん」
「ええっ!? でもなんかありません? えーっと、ほら例えばこのクラスでこう可愛いと思う女子とか……」

 予想に反した面白みのない答えについつい追求に走る和美。
 彼は眉間に皺を寄せながら生徒たちを一度、見渡すと「フンッ!」と鼻を鳴らした。

「精神的に未熟なガキに興味はねぇ。出直してこい、バカども」

 完全に上から見下ろしながら、平然と彼女らを罵倒するバロネス。
 一同が硬直する中、タイミング良く鳴ったチャイムの音だけが教室に響いた。


 彼女は目の前で繰り広げられた凶行に目を細めていた。
 目の前には破壊された教卓とその上に座り込む副担任を名乗る男。

 その纏う雰囲気、その言動。
 どれをとっても一般人とは思えない彼の行動に、彼女は警戒心を顕わにしていた。

「(さきほどの教卓への一撃。……あの一瞬、確かに魔力を感じた。恐らくバロネス先生は西洋魔術師だ……)」

 その正体を推察し、次に彼女が考えたのはその目的。

「(木乃香お嬢様を付け狙う刺客か? ……いや正式に赴任してきたのならば学園長が気付かないはずがない。ならば彼の目的は別のところにあるのか? いや赴任させたのが学園長であるなら、彼の方にこそなんらかの意図があるはず。……く、情報が足り無すぎる)」

 焦りと苛立ち、憶測を確信に変える事ができない事へのもどかしさに唇を噛み締める。

「(……とにかく様子を見よう。学園長の差し金で彼がこのクラスに赴任してきたのならば少なくともお嬢様に害を加える可能性は低いはず)」

 自分に言い聞かせながら間を置く為に一つ息をつく。

「(だがもしも、彼がお嬢様を傷つけたら……その時は)」

 授業終了のチャイムが鳴り響く中、彼女は鋭い視線で彼を睨む。

「(貴方を……倒す)」

 その不退転の意志がバロネスには届く事はなかった。


 彼女はさきほどから前の方の席で殺気立っている友人を呆れた眼で見ていた。

「(何を気負っているんだか……)」

 苦笑する自分を抑えられずにそのまま顔に出す。
 その友人から視線を外し、次に目を向けたのは壊れた教卓の上に座り込んでいる副担任。

「(しかし面白い魔法だな。懐で魔力が薄く光るところまでは探知できたんだが……)」

 己の観察眼に絶対の自信を持っていた少女の目。
 それをもってしても副担任が教卓を破壊して見せた『あの力』の正体が掴めていなかった。

「(ボソボソと何か呟いていたが……あれが呪文の詠唱だったんだろうな。肉体を強化したわけでもないのにあの威力か……。少し興味が沸いたな)」

 右肘を机の上に突き、手の甲の上に己の顎を乗せて目を細める。

「(素直に聞いて教えてくれるような人間ではないのは一目でわかるが……まぁ気長に機会を待つとしようか)」

 ほんの僅かに口元に笑みを作ると同時に、終礼を告げるチャイムが教室に響き渡った。


職員室に戻ったバロネスは席に着くなり、ネギに教室での一件を糾弾された。

「バロネス先生ッ! 最後のアレはなんだったんですか!! 幾らなんでもあんな言い方しなくても……!!」
「あー、やかましい。俺は自分の気持ちを素直に言っただけだ。それのなにが悪い。ああいう場合、曖昧な答えの方が問題あるっつーの。まぁお子様にはわからんだろうが」
「でももっとこう……」
「あー、はいはい。それはそうとお前は次も授業だろうが。とっとと準備しろ。教師が遅刻じゃ示しがつかねぇぞ」
「う、むぅ……わかりました。あ、そうだ! もう教卓を壊したりしないでください!!」
「へー、へー」

 最終的に教師としての矜持を揺さぶられる事で見事にネギは彼に丸め込まれてしまう。 
 十歳の子供と殺伐とした世界に身を置いてきた者ではやはり役者が違いすぎた。
 頬を膨らませてバロネスを睨む辺り、未だ納得などしていない様子だがそれだけ自己主張できるならば彼相手に良くやっていると評価できるだろう。
 釘を刺す事を忘れなかっただけ大したものである。

 バロネスが遊んでいるお蔭でもあるのだが、そこはそれだ。

 パタパタと慌しく教科書や出席簿を持って職員室を後にするネギの後ろ姿を心底、面白そうに見送る。

「さて……副担任ならネギに付いて行った方がいいんだろうが。その前に厄介事を片付けないとな」

 口元を歪めながらネギの出て行ったドアの先を見つめる。
 そこには学園長室で彼に因縁をつけてきた(バロネス主観)男が立っていた。

「バロネス先生。少しお時間ありますか?」
「くだらねぇ問答に時間を使わせんな。どうせ時間があろうがなかろうが連れて行く気だろうが」

 射殺すような視線を笑いながら受け止める彼の態度に、眉間に皺を寄せるタカミチ。

「わかっているなら話が早い。付いて来てください」
「クックック!
(こりゃヤル気だな。まぁ俺の出方次第なんだろうが。まぁこの世界の実力者ってのどれ程のもんか。見せてもらおうじゃねぇか)」

 まるで果し合い(実際、似たようなものだが)にでも臨むかのような二人の雰囲気に飲まれ、職員室内は静寂に包まれている。

 彼らが去った後、あまり目立たないが実は裏関係者だったとある教師はこう語る。

「いや~~、息が詰まるってああいう事態の事を言うんですねぇ。詰まるっていうかむしろ止まるって感じでしたよ」

と。


 二人が来たのは校舎の屋上。
 この屋上は休み時間には開放され、食事や食後の運動をする生徒らの姿などがよく目撃される場である。
 コートとしても機能しており、バレーボールやドッチボールも可能な場所で授業でもよく使われている場所だ。

キーンコーンカーンコーン!

 二時間目の開始を告げるチャイムの音が響く中、静かな屋上でタカミチとバロネスは対峙した。

「さっきも言ったが、余計な問答は嫌いでな。とっとと用件に入ってもらえるか?」
「……では単刀直入に言わせて貰おう。彼の、ネギ君の副担任を降りてもらいたい」

 普段の温厚な彼からは考えられないような硬い声。
 バロネスはそんな彼の言葉を聞くと「フン!」と鼻を鳴らした。

「そう言う事は俺じゃなく、あの妖怪ジジイに言え。俺がこうして教職についてるのもアイツの補佐をしてるのもあのジジイの差し金だ。俺は俺の為にヤツの提示した条件を飲んでるに過ぎねぇ。俺に文句を垂れるのは筋違いだ」
「……あの人に君を降ろす意思はない。僕には本気のあの人を止める事は出来ないしね。だが君から辞退する形でなら学園長も納得する」
「ハッ! なるほどな。そんなにあのガキが心配か。まぁ確かに面白いヤツではあるが……。
(コイツのこの固執はなんだ? ただのガキのお守りってわけでもねぇだろうが)」

 冷静を装いながら、思考を巡らす。

 ジリジリと高まる緊張感。

 タカミチはスボンのポケットに手を突っ込むと真剣な『裏の顔』で彼を見据えた。

「返答は? バロネス先生」
「実力行使しか頭にねぇ分際で人語しゃべるな、カス」

 左手の中指を立てて、実に自分らしい言葉で『否』を表明する。

パパパパパァンッ!!!!

「がっ!?」

 同時にバロネスの身体に『無数の拳撃』が突き刺さった。

 吹き飛び、屋上の出入り口に激突する。
 タカミチは崩れ落ちるその姿を、ただ無感情に見つめていた。


 その頃、二人の決闘の原因(無自覚)はと言うと。

「えーっとそれじゃここの英訳を亜子さんにお願いします」
「はーい」

 なんとも平和に授業を進行していた。


「茶々丸。今、微弱だが……」
「ハイ、マスター。高畑先生のモノと思われる魔力を検出しました。校舎の屋上からです」
「……相手はバロネスか?」
「そのようです。以前、計測した魔力と一致します。ただ人払いの呪が使われたらしく、ここからではこれ以上詳細なデータは得られません」
「そうか……。
(チッ、私のいない所で面白そうな事をしおって。こんな事なら授業などボイコットしておけばよかった……)」

 二名ほど、屋上で行われている事に感づいている者もいるがそれは詮無い事だろう。


あとがき

一週間ぶりの更新になります。紅です。

まずいです。またしても話が進みません。そして短いです。

まさか一日目からこんな濃いイベントのオンパレードになるとは、私も予想外です。

これ以上は増やさないように考慮して書かなければ……。



それではまた次の機会に。

皆さんからのご意見、ご感想を心からお待ちしています。

時計が刻む物語 時計が刻む物語 第九話

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