HOME  | 書架  | 

当サイトは「魔法先生ネギま!」関連の二次創作投稿サイトです。ネギま!以外の作品の二次創作も随時受け付け中!

書架

[]

時計が刻む物語 第九話 (×足洗い邸の住人たち) 投稿者: 投稿日:04/15-08:06 No.313  

時計が刻む物語
第九話 『駆け引き』


「……」

 この時間、校舎の中では今も平穏で普通な授業が行われている。

 だが。
 中等部校舎の屋上だけが、その穏やかな空間から隔絶されていた。

 その場にいるのは二人の男。

 一人は一定の距離を取った状態でもう一人を見下ろしている。
 一人はがっくりと首を落とした状態で屋上の唯一の出入り口に背中を預けていた。

「この程度でおしまいじゃないんだろう? バロネス先生……」

 凍てついた視線、凍てついた声。
 彼を、『高畑・T・タカミチ』を知る者がその声を聞けば誰もが驚きに目を剥いただろう。
 それほどまでに今の彼は真剣であり、そして冷徹であった。

「クックック!」

 そんな普段とは違う彼に真っ向から見据えられながら、さも楽しそうに肩を揺らしながら笑い、ゆっくりと立ち上がる『バロネス・オルツィ』。
 その唇からは若干の血が滴っているが、本人に気にしている様子は皆無だ。

「……もう一度、聞こう。ネギ君の副担任を降りてはくれないか?」
「イヤだね」

 最後の情けだと言外に含んだその言葉を即答で断じた。
 タカミチの表情が歪み、ポケットに入れられている拳にも自然と力が篭もる。

ヒュッッ!!!!

 見えざる拳の雨。
 バロネスはそれらを使い手の目線と身体の向きから予測し、横っ飛びになる事でなんとか回避する。
 転がりながら即座に立ち上がり、動きを止める事無く駆け、相手との距離を縮めようとする。
 だが近寄ろうにも飛ぶ拳打が邪魔をし、両者の距離は一向に縮まらなかった。

「ちぃッ! (なんつーとんでも技を使いやがる、この野郎は……)」

 五メートル以上空いている両者の距離をまったく感じさせず無音で飛ぶ拳撃。
 その予備動作はおろか攻撃の気配すら感じさせない技に彼は心中で愚痴る。

ヒュッッ!!!

 彼の身体を掠めながら、床や手すりに突き刺さる拳圧の乱打。

 大きめの屋上だからこそかろうじて逃げ切れていたがそれもいつまで持つかわからなかった。
 徐々にだが確実に拳の弾幕に遮られ、逃げ場を失い追い詰められていく。
 そしてそんな自分を、彼は冷静に見切っていた。

「(狙いが正確だからこそ『わかる』。コイツはまだ全然本気になってねぇ。初撃を除いた攻撃は全部、足や腕を狙ってやがる。適当に痛めつけて俺から辞退するよう仕向けるつもりか!?)」

 そこまで考えた所で、彼は走り回るのをやめた。
 当初の計画では出来る限り足を止めずに隙を見つけ、なんとか距離を詰めるつもりだったがそんな単純な手を許してくれる相手ではない事がわかった。
 だから『無駄な事』はやめる。

 凍てついた静寂を取り戻す空間。

 両者は動かない。
 互いが互いを粒さに観察し、次の行動を予測しているのだ。

 こういった様子見の膠着は一度、始まったら長く続く。
 それが『セオリー』だ。

 だが彼はそのセオリーを余りにあっけなく簡単に破ってみせた。

パパパパァンッ!!!

「がふっ!?」

 そう無音、無動作で飛ぶ拳撃の前には距離も膠着も意味を成さない。

 真正面から十数発の拳弾を受けたバロネスは衝撃に仰け反る。
 だがただやられるだけでは終わらない。
 彼は仰け反ると同時に懐から『細い板のようなモノ』を取り出し、手裏剣のように手首のスナップを利かせてタカミチに投げつけていた。

「むっ!?」

 自分目掛けて飛んでくる得体の知れない板。
 彼は予想以上の速度で迫るソレをポケットから出した右手で地面に弾いた。

 カランという乾いた音と共に床に転がる板。
 それは板状の『時計』だった。

 その珍妙な物体に思わず意識を逸らせてしまうタカミチ。
 その瞬間、バロネスは動いた。

「“カチャカチャと音を立てる悪戯好きの水棲妖精。その身に纏う貝殻を少しの間、貸しておくれ”!」
「(呪文の詠唱ッ! 何か仕掛けるつもりか!)」

 油断なく身構えるタカミチ。
 その眼光に晒されながら、バロネスは懐から取り出した『別の時計』を右手に触れさせた。

「午後十時のシェリーコートッ!!」

 彼の右手に現れるちっぽけな妖精。
 召喚に応じた彼はバロネスの意思通り、『自身の身体を丸める』とポンと飛び跳ねてみせた。
 重力に引かれ、床に落ちていくシェリ-コート。

 そのよくわからない行動に一瞬だが眉根を寄せるタカミチ。
 本人に隙こそ生まれなかったが、その一瞬だけ確かに彼の意識はバロネスからシェリーコートに移っていた。

「くらえや、クソガキィイイ!!!!」

ガッ!!!

 バロネスはそんな彼の目の前でシェリーコートを思い切り蹴飛ばした。
 まるでサッカーボールでも蹴るように。

ギュルルルッ!!!

 風を切り、盛大に回転しながら迫るシェリーコートボール。

 だがタカミチは虚をついたその攻撃にも冷静に対処してみせた。

 いくら強力な回転を加えられ、相当の速度で迫ろうと。
 『真っ直ぐ』に飛んでくる攻撃ならば避けるのは造作もない。

 最小限の動きで身体を逸らし、バロネスの渾身の一撃を回避する。

 だがその瞬間、バロネスの口元が歪んだ。
 笑みの形に。

「シェリーッ! 投げろッ!!!」

 彼の号令と同時に、シェリーコートは丸まっていた身体を元に戻すと、抱え込んでいた板状の時計をタカミチ目掛けて投げつけた。

「なっ、がはッ!!」

 これにはさすがにタカミチも声を上げて驚き、投げつけられたソレが額にぶつかるのを許容するほかなかった。
 まさかただの『ボール代わり』だと思っていた妖精に『次の手』を仕込んでいるとは思ってもみなかったのだ。

「まだ終わってねぇぞっ!!!」

シャァアアアアアッ!!!

 ただ投げつけられるだけの物体とは違う摩擦を伴った風切り音。

 額から走るズキリとした痛みに顔を顰めながら、音の方角を見る。
 そして彼は目前に迫ったソレを反射的にポケットから出した左拳で叩き落した。

 ここまで乱戦になってしまってはいちいち『ポケットに手を入れなければ使えない』無音の拳打を使う事は出来ない。

 地面に落ちたソレはまるで蛇のようにうねり、不規則な動きをしながらバロネスの元に戻っていった。

 それは子供ならば一度は見た事があるモノ。
 『ヨーヨー』だった。

 ただ黒光りするソレは明らかに殺意を持って加工されたモノであり、見た目の重量感といい紐の代わりに取り付けられている鎖といい『マトモな代物』ではない。

 バロネスは右手に装備したソレを適当に玩びながら笑みを浮かべてタカミチを見つめていた。
 彼の足元にはどうやって戻ってきたのか盛大に飛んでいったはずのシェリーコートも佇んでいる。

 先ほどまでの苛烈な攻めが嘘のような待ちの姿勢。
 タカミチは周囲を警戒しながら態勢を整える。

「おい、てめぇ。あー、確かタカハタだったか?」
「……なんだい、バロネス先生」

 緊張など感じさせないバロネスの声音によりいっそう警戒心を強くする。
 だが彼はそんなタカミチの態度などどうでもいいとでも言いたげに笑みを浮かべていた。

「賭けをしようぜ」
「賭け?」

 突然の申し出についつい鸚鵡返しに問い返してしまう。
 余りにも現在の状況とそぐわない申し出だったのだからそれも仕方の無い事だろう。

「ああ、そうだ。これから俺はお前を攻撃する。それを全部、捌き切ったらお前の勝ち。捌き切れずに大ダメージを受けたら俺の勝ちだ。お前が勝ったら俺は副担任を降りてやる。もし俺が勝ったら……」

 言葉を切り、タカミチを見据える。
 彼の真意を読み取ろうと思考を巡らせながら先を促すタカミチに笑みを深くしながらバロネスは指を鳴らした。

「お前がアイツ、ネギに固執するワケを聞かせてもらおうか?」
「なんだって?」

 予想外の条件にタカミチは思わず声を上げる。
 てっきり『二度と自分の邪魔をするな』やそれに類似する条件を提示されると思っていたからだ。

「なぜ、そんな事を?」
「んー? 興味が沸いたから。それだけだ。で、どーすんだ? 時間もねぇんだ。飲むか飲まねぇか、さっさと決めろ」
「……」

 戦闘態勢は解かず、しばし黙考するタカミチ。
 実際、バロネスの言うとおり時間は余り残っていない。

 二時間目が始まってかれこれ三十分近い時間が経過しているのだ。
 一応『人払い』はしてあるがそれは簡易的で一時的なモノでしかない。

 授業が終われば、一般人はともかく魔法関係者は屋上で行われている事に感づくだろう。
 騒ぎを大きくするのはタカミチの望む所ではない。
 これはあくまで個人的な思惑で行っている『私闘』なのだから。

「(だが自分からそういう申し出をしてきた以上、彼は賭けに勝つ絶対の自信があるはず……。そう簡単に乗るわけにはいかない)」

 冷静に思考を広げる彼の様子にバロネスは心中で舌打ちをしていた。

「(チッ! 簡単には引っかからねぇか。あの妙な技といい、判断力といい、かなりの修羅場をくぐってやがるな。……マズイ)」

 彼は既にこの戦いの勝敗を見極めていた。

「(このまま普通にやりあってたらいずれヤツは『本気』を出す。そうなったら『今』の俺は間違いなく負ける。まだ『アイツ』の事がばれてねぇこの状況で勝ちを拾うには……多少、危険でも勝負を賭けるしかねぇ。焦れてるのはアッチも同じはず……なら時間はかかっても最終的には乗ってくる。こうして考えている間にも時は止まらねぇんだから……今の内に)」

 そう、彼は『自分の負け』を確信していた。
 普段の彼ならばこんな事は考えもしない。
 彼には明晰な頭脳から組み立てる戦略と自分の意志に応えてくれる妖精たちがいるからだ。

 だが今の彼に応えてくれる妖精は僅か三体だけ。
 明晰な頭脳であるが故に彼我の戦力差が嫌と言うほどにわかってしまった。
 脳内では何十通りという戦略が展開されているが、そのどれもが最終的なバロネスの負けを宣告しているのだ。

 だから彼は真っ当な戦いをする事をやめ、『駆け引き』に出る事にした。

 時間が余り残っていない事を理由に勝負の条件付けをし、それとわからないように自分に有利になるよう事を運ぶ。
 そして相手が黙考している間に『仕込み』を済ませておく。

 この状況で勝率を少しでも上げる為にバロネスの頭が叩き出した最良の策がこれである。
 しかし、この戦法にも不確定要素は多い。

 まずタカミチの本気の実力が未知数であると言う事。
 バロネスが彼を追い詰めればいずれ彼は本気になるだろう。
 彼の目算では今の力の『数倍』を上限として視野に入れているが、彼の予想が裏切られる可能性も充分にある。
 勿論、彼にとっては『悪い意味』で。

 さらに目の前の男は、ほとんど動いていない。
 本気になった時は愚か、今の状態でどれほどの機動力を有するのかまったく分からないのだ。
 これは『罠』を仕掛けている彼にとって非常に拙い。
 万が一にもこの罠を回避されてしまえば、彼の勝機は完全に無くなってしまう。

「(……く、いけない。こうしている間にも時間が経っていく。しかしあの余裕の態度を見る限り、生半可な覚悟で誘いに乗れば確実に僕の負けだ。……仕方ないか)」

 一方、バロネスの狙い通りに黙考を続けていたタカミチはココに来て一つの決断を下していた。
 それはある意味で『彼の狙い通り』でもあり、『出来ればなってほしくなかった展開』でもある。

「(……彼の思惑ごと叩き潰す)」

 タカミチは両手を軽く左右に広げる。

「(何をするつもりだ? まぁ……嫌な予感しかしねぇが)」
「左腕に魔力、右腕に気……」

 誰に言うわけでもなく呟きながらその両手に異なるエネルギーを宿す。
 彼はその両手を胸元で合わせ、こう呟いた。

「合成」

ゴッ!!

 途端にタカミチを中心に広がる風圧。

「なんだとっ!?」

 その様にたなびく白髪を抑えながら、驚愕の声を上げるバロネス。
 彼の第二視力は、タカミチから立ち上っていた魔力が爆発的に膨れ上がるのを捉えていた。

「(ホントに数倍に跳ね上がりやがった。しかも予測上限のギリギリってところか……コッチは契約のせいで戦力が限られてるってのに……)」

 心中で愚痴るがそんな事をしたところで状況が変わるわけもない。

「バロネス先生。その賭け、乗りましたよ」
「クックック! 上等だ(とは言うものの……一か八かになったか。最ッ悪だな)」

 だが既に『仕込み』は終えている。
 相手も申し出を受けた。

 賽は投げられたのだ。
 出る目がどうなるかは運次第。

「(いや……違うな)」

 彼は軽く頭を振って思い浮かんだ考えを否定する。

「(運ってのは引き寄せるもんだ。他ならぬ『てめぇ』の手で……)」

 自然と口元が釣りあがる。

「じゃあ始めるか。時間は三分だ」
「ああ。どんな結果でも恨みっこなしと言う事で……」
「当たり前だ」

 その会話が終わるのが合図だった。

 タカミチの姿が掻き消える。
 一瞬の驚愕で、バロネスは棒立ちになったその瞬間。

ゴガァアアアアアアンッ!!!!

 彼の立っていた場所に頭上から大砲もかくやと言う一撃が突き刺さった。


あとがき
少しぶりです。紅です。
えー、まず最初に謝罪を。
中途半端に切って申し訳ありません(土下座)。
そしてモウ一つ申し訳ありません。
続きの執筆ですが今日中には上がりそうにありません(土下座)。
火曜日に休みが入るのでそっちで上げたいと思います。

えー、中途半端ですが皆さんからのご感想お待ちしております。
それではまた。次の機会にお会いしましょう。

時計が刻む物語 時計が刻む物語 第十話

  HOME  | 書架top  | 

Copyright (C) 2006 投稿図書, All rights reserved.