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時計が刻む物語 第十一話(×足洗い邸の住人たち) 投稿者:紅(あか) 投稿日:05/04-12:05 No.439  

『時計が刻む物語』
前書き

「ちあーっす! 皆さん、この作品では初めまして~~」

 真っ白な空間にポツンと居座る少女。
 やたらとテンションの高い少女はどこへともなく手を振りながら、深々と頭を下げる。

「知っている人は知っている! 知らない人はまったく知らない! 文車妖妃(ふぐるまようひ)の栞(しおり)ちゃんってんだ! 今回はいつも憑いてる作品から出張してきましたーーッ!!! イエー!!!」

 どこから出したのかラッパを吹き、太鼓を叩きながら自分の存在をどこまでもアピールする栞。

「っとそうだ! 今回はこの『時計が刻む物語』のあらすじを簡単に、コンパクトに説明する為に作者さんに喚ばれたんだよね~~。いやぁ長年、付喪神やってて出張なんて初めてだからついついテンション上げちゃったけど、仕事をおろそかにしちゃマズイよねぇ~~。なんつーかこう『ヤベェくらいヤベェ』みたいな?」

 どこかで時計男がクシャミをするがこの空間にはまったく関係ないので気にしない。

「そんじゃ手っ取り早くイクヨーーッ!」

 ピョンピョン跳ねながら、何もない空間で明後日の方角を指差す。

「まず、主人公である『バロネス・オルツィ』は『プロの仕事屋』として『とある邸』に住む妖怪『ヨシタカ』と『千束(せんぞく)』を抹殺しに行ったんだ。詳しい経緯は省くけど結果的に彼は負けたんだよねぇ。うわ、ダサッ!」

 テケテン! と三味線を弾くような仕草で間を取る栞。

 どこかで時計男の機嫌が悪くなったりしたが例によってこの空間にはまったく関係ないので気にしない。

「で、ここからが重要! 彼はヨシタカに『地獄に繋がっている井戸』に落とされました。そこで何が起こったのか具体的な事は栞ちゃんにもさっぱりわかんないけど彼が気がつくとそこは地獄なんかじゃなくて『平行世界』だったんだ」

 「ん~~、不思議~~」などと大仰に身振り手振りを加えながら栞は軽い調子で、それも嬉々として解説を続ける。

「そこからこの『時計が刻む物語』が始まるってわけ。まぁそこからはこの作品を読んでくれている人たちに説明する必要はないよね~~? 
えっ? 適当じゃねぇか? だってそこまで説明するのダルイしなぁ~~。読み返してもらえば一発でわかるし? 
それに本に取り付く付喪神としてはやっぱ『手にとって』――っとこの場合は『アクセスして』――って事になるのかな? まぁともかく直接、読んでもらいたいからねぇ。ま、今回は多めに見てよ」

 ニッコリ笑顔で手を振り「気にするな」とジェスチャーする栞。

「さてあんまり前置きに時間かけると本編の容量が減っちゃうから今回はこの辺でお終いにするよ? え? 寂しい? その内、『違う栞ちゃん』が本編に出てくるからその時まで待ちなさいな。っとこれまだ秘密だったっけ? ……まぁいいや。
それになんか解説する事が出来たらまた出てくるしね。どっちが早いかは微妙なところだけど。まぁ期待しといて♪ それじゃまたね~~」

 何の前触れもなく消えていく栞とまるで幻影のように歪み、その輪郭を失っていく空間。
 全てが無に還っていく中で、少女の明るい笑い声だけがいつまでも響き渡っていた。


第十一話 『最初の一歩。そして迎える放課後』

「それじゃあ今日の授業はここまでです。号令をお願いします」
「きりーつ、礼!」

 午前中、最後の授業が終わり、学生たちにとって待ちに待った昼休みに突入する。
 ネギは軽く会釈をすると『2-C』の教室を出て行った。

「ふ~~(今日は上手く出来たかな? ちゃんと目安にした項目まで進めたし……)」

 すれ違う生徒、教師らに挨拶をしながらも思考を巡らす。
 生徒らからの挨拶に対してもほぼ無意識に返事を返す辺りは、『英国紳士』の血の為せる技なのだろう。

「そういえばバロネス先生。……どうしたんだろ?」

 いつしか彼の思考は二時間目から姿を見せない白髪の男の事に向けられていた。

「サボリって事はないと思うんだけどなぁ。あ、そういえば数学を受け持ってるんだっけ? それじゃいつも一緒なわけないか……」

 思案顔から一転、本当に残念そうなションボリ顔になるネギ。
 彼はバロネスの事を尊敬していた。
 言動には容赦がなくその思考には多分に好戦的な色が見えるが、その論理には大いに共感する部分があるからだ。

――――知識として知っているだけじゃ意味なんざねぇ。
――――ソレを知り尽くし、そして使いこなす。これが出来て初めてそいつは魔法使いを名乗れる。

 この言葉を聞いたとき、ネギは雷で打たれたような感覚を味わっていた。
 正にその通りだったからだ。

 自分は何を調子に乗っていたのか?
 魔法学校を卒業し、『見習い』と名乗れるようになった。
 だが自分が扱える魔法は僅かに数種類だけ。
 それらの魔法ですら『知り尽くしている』自信は無く、使う機会などほとんど無かったが為に『使いこなしている』などとはたとえ嘘でも言えない。

 バロネス風に言えばこんな自分が見習いとはいえ『魔法使い』を名乗るなど本職に失礼なのだろう。

「(そうだ。僕はまだまだ未熟なんだ)」

 ネギは改めて自分が『井の中の蛙』であった事を自覚した。
 だが同時にこうも思う。

「(未熟だから……もっと努力しよう。新しい呪文を覚えるよりまずは自分が今、使える魔法を復習しよう。まだ応用出来る部分があるかもしれない)」

 バロネスの飾らない言葉は計らずも、ネギの成長を促していた。
 そしてそれは同時にネギの中で、『バロネス・オルツィ』という存在が徐々に、だが確実に大きなモノになっている事を意味していた。

「よし! とりあえずご飯食べよ!」

 これからの方針が定まり、気持ちが昂ぶっているらしい。
 ネギは独り言としてはかなり大きめの声を出すと、走り出した。
 その顔に満面の笑みを浮かべながら。


学園長室
 そこでは今、二人の男が睨みあっていた。
 バロネスと学園長である。
 机を挟んで、睨みあうその姿はさながら『龍虎相対す』といった所か。
 二人の間にある空間が歪んでみえるのは気のせいではないだろう。
 それは高密度の魔力が彼らの眼前で絡み合う事で生まれた現象なのだから。

 そしてこの二人がここまで殺気立つ理由は。

「契約条件の上乗せだ? 一つの条件上乗せに対して百万の追加料金を支払うってんならいいぜ?」
「馬鹿も休み休み言わんか、バロネス君。法外過ぎる。十万じゃ」

 金の問題である。

 もう何度目かわからないこのやり取り。
 学園長室から洩れ出た殺気の余波が、近づく者の体調を悪くしている事に二人は気づいていない。
 彼らの頭にあるのはいかに目の前の相手を口論で叩き潰すかという事だけだ。

「なに抜かしてやがる。一度、交わされた契約は期限が消えるまでそのままの状態を保つのが筋ってもんだ。それを追加だ? 認めてやるだけありがたく思えよ、ジジイ」
「寝言は寝て言わんか。アレは必要最低限のモノじゃ。元々、追加を前提に作られた契約書なんじゃよ。それに縛られておっては今後の職務に支障をきたすわい。……それに臨機応変に雇い主の要望に答えてみせるのがプロではないかの?」

 言葉のキャッチボールと言えば聞こえはいいが、彼らが投げ合っているのはボールではなく言葉と言う名の刃だ。
 受け止めるだけでも痛い。

「追加を前提に、なんてどこにそんな事が書いてある? そういう要項はきっちり契約書に記載しな。でなけりゃ無効だ。手口が詐欺紛いだぜ、ジジイ」
「おや? きっちり記載されておるぞ。ただ少々、文が小さかった気がするがの……」

 学園長室は殺気を通り越して瘴気に包まれ始める。

 何の変哲も無い一つの部屋はいまや魔境と化していた。
 もう既にこの部屋に近づこうとする人間はいない。
 一般人も魔法関係者も例外なく、だ。

「(ち、このままじゃ埒が明かねぇ。しゃーねぇ、別路線から攻めるか)
フン……いいぜジジイ。今回限りだがてめぇの条件で上乗せさせてやる」
「ほう? 急にどうしたんじゃ? (間違いなく裏があるのぉ。さてどう来る?)」

 手のひらを返して、妥協したバロネスに懐疑の視線を向ける学園長。
 バロネスはいつも通りに傲慢で不遜な笑みを浮かべるとこう言った。

「タカハタから受けた人的被害に対しての請求で百万払え」
「……ふむ、そう来たか。怪我は跡形も無く治療したはずじゃがの?」
「あー、ちげぇな。これは精神的な問題だ。俺はアイツに喧嘩を売られた。その結果、普通なら一ヶ月は入院しなきゃならんくらいの大怪我を負った。治りはしたがその痛みは未だに俺の脳裏に焼きついているぜ。それの慰謝料だ。コレは『誠意』の問題だな。そっちの誠意が果たして『幾ら』で表れるか。そういう問題だ」
「むぅ。
(なるほどのぉ。誠意と来たか。それでは払わないという選択肢は取れんな。そして下手に値下げも出来ん。
バロネス君の事じゃ。仮にワシが断ろうモノなら事実に盛大な尾ひれをつけて情報を流すに決まっとるし、誠意という言葉でワシの良心に揺さぶりをかけとる。さすがに契約に律儀なだけの事はあるの。交渉事に長けておるわ)」

 相手の狡猾さに内心で舌を撒きながらも思案にくれる学園長。
 バロネスはその沈黙に自分の勝ちを確信し、ニヤリと笑う。
 だが学園長の手札はまだ残っていた。

「ふむ、いいじゃろ。慰謝料はきっちり支払うわい」
「そいつは結構。じゃあ追加したい条件ってのを…「じゃが」……あ?」

 まだなんかあるのか? とでも言いたげな視線で学園長を睨むバロネス。
 学園長はその視線を小さな笑みでもって受け流すとこの交渉での最後の札を切った。

「君とタカミチ君で屋上の修繕費を分割払いしてもらおうかの?」
「なに!? ちぃ、それがあったか……」

 虚を付かれた悔しさに舌打ちするバロネス。
 彼の明晰な頭脳は既にこの交渉の結果を、『痛み分け』という結果を弾き出していた。

「屋上もワシが直してしまったが、元はと言えば君らの喧嘩で生じたモノ。ソレに対する迷惑料とでも言うのかの? と言う事で一人ずつ百万円を支払ってもらえるかの?」
「百万は法外じゃねぇのか?」

 最後の抵抗とばかりに抗議するが学園長は得意げに鼻を鳴らしてこう答える。

「破壊された箇所の本来の修繕費だけなら、確かにそれほどかかるまいよ。じゃがあの場所は頻繁に授業に使われる。業者に頼んで直すまでには時間がかかる。その間の授業の遅滞はいかんともし難いのでの。その辺りを考慮して喧嘩ができんかった君らに対するお仕置きの意味もあるんじゃよ。あとは本来、秘匿されておる魔法を使わせた分も入っておる。一人百万でも安いくらいじゃ」
「ち……しゃーねぇな。妥協してやるよ。さっさと追加したい条件を言え。言っとくが条件によっちゃ値段を上げるからな」
「ホッホッホ! では条件の上乗せと行こうかの」

 こうして第一回『社会の裏側真っ黒交渉会』は『引き分け』で終わりを告げた。
 瘴気や殺気は既に消え失せ、歪んでいた空間も既に無い。
 完全に日常の雰囲気だ。
 恐ろしい対応能力である。

 三十分後、バロネスは学園長室を出て行った。
 その懐には条件の追加によって手に入れた一万円札が三十枚。
 満足げな笑みを浮かべ、鼻歌交じりに廊下を歩いていく。

「(まぁ色々と手間取ったがこれで文献漁りに着手できそうだな。帰りにでも古本屋に寄るか)」

 自分を待っている本棚に思いを馳せて笑みを深くする。
 だが彼の計画は放課後になると同時に速攻で頓挫する事になる。
 シルキーに財布(当然、本日の収入である三十万も)を没収されてしまうが故に。


 そして放課後。
 鳴滝姉妹と美空は、とある広場でバロネスが来るのは戦々恐々としながら待っていた。

「あうあう、お姉ちゃん。怖いですーー」
「あ、アタシだって怖いよぉ。うう、足が竦む」
「逃げたいけど逃げたら後が怖いし逃げないと今が怖いし……あーーー、四面楚歌じゃん、八方塞がりじゃーーーん!!!!」

 昼間の一件の罰として丁稚を申し付けられた三人は、これから降りかかるかもしれない自分たちの不幸(彼女たち主観)を本気で怖がっていた。
 既に彼女らの脳内では事実の五割り増しでバロネスは危険人物になっている。
 これから行われる『丁稚としての仕事』というのもただの荷物もちに留まらず、十八歳以下ご法度な展開までが脳内で渦を巻いていた。

 バロネスからすれば被害妄想もいい所なのだが、彼の容赦のない言動が彼と言う人物像を必要以上に怖くしているので自業自得と言えない事もない。

 まぁとにかくそういう理由で彼女らはバロネスを極度に恐れていた。

「うっせぇぞ、ガキども」
「「「はうあ!?」」」

 三人の視線が弾かれたように声の聞こえた方に集中する。
 そこには呆れという心情を隠そうともしないで視線で告げるバロネスの姿があった。

「おら、丁稚ども。さっさと行くぞ。時間は有限なんだからな。さっさと終わらせたけりゃさっさと働け」

 そう言って踵を返してさっさと歩き出すバロネス。
 慌てて彼を追いかける三人。
 そんな中で一番最初に『彼女』に気付いたのは美空だった。

「えーっとバロネス先生?」
「ああ?」
「その隣の白い女の子、誰ですかね?」

 ギロリと睨まれ、いささか卑屈になり手もみしながらも質問する美空。
 そうバロネスの隣には彼の腰ほどまでの背丈の可愛らしい女の子が立っていた。
 何故か西洋の給仕服を着ているが、それがまた少女の可憐さを引き立てている。

 彼に付き添うようにして彼女らの死角にいた為、今の今まで三人は気付けなかったのだ。

「ああ。一応、紹介しておくか。こいつは『シルキー・フラウ』。うちの家事担当で扶養家族の一人だ」

 バロネスの紹介を受けてペコリと会釈する少女。
 それに釣られるように三人も慌てて頭を下げる。

「(シルキー・フラウって確か妖精じゃなかったっけ? ……うん、魔力も感じるし、たぶん間違いない。……えっと……そんなのと一緒にいるって事は、この人も魔法関係者!? マジでッ!?)」

 儚げな少女を凝視しながら脳内で絶叫する美空。

「ねぇねぇ、シルキーっていつもどんな事してるの?」
「はわ~、シルキーさんの髪って真っ白で綺麗ですねぇ~~」

 鳴滝姉妹はシルキーの温和な雰囲気に先ほどまでの恐怖を忘れ、笑顔で話しかけている。
 バロネスはそんな彼女らを見ながらため息をつくと軽く手を叩いて全員の視線を集めた。

「仲が良いのは結構だが、仕事を忘れんな。日が暮れる前に家に着きてぇんだ。さっさと行くぞ」

 コクンと頷いてバロネスの隣につくシルキー。
 シルキーの横に並び、しきりに話しかける鳴滝姉妹。
 逆隣で一人、悶々とする美空。
 それらを鬱陶しそうに、しかしどこか楽しそうに見つめながら歩くバロネス。

 奇妙な一行はこうして商店街に向かって進み出した。


あとがき
少しぶりです。紅です。
今回は前書きとして栞ちゃんに出てきてもらいましたが如何だったでしょうか?
そして本編はようやく放課後を迎えられました。やっと妖精邸に話が持っていけます。
やや話が冗長してきましたのでさっさと一日を終わらせて次の展開に進もうと思います。

皆さんからのご意見、ご感想を心からお待ちしています。
それではまた次の機会にお会いしましょう。

時計が刻む物語 時計が刻む物語 第一二話

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