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時計が刻む物語 第一二話(×足洗い邸の住人たち オリ有り) 投稿者:紅(あか) 投稿日:05/07-15:09 No.455
『時計が刻む物語』
第一二話 『ようこそ、妖精邸へ』
八百屋、魚屋、肉屋を何店か回り、それらの店舗で手に入らなかった物はスーパーでという方針で挑んだ今回の買出し。
結果は上々だったと言って良いだろう。
既に日暮れ間近であると言う事と予想以上に購入した物が多く丁稚たちは勿論、バロネスですら両手に持った荷物にげっそりとしている事を除けばだが。
「♪~~~~」
シルキーだけが満足げな笑みを湛えている。
彼らの目には同じにしか見えないキャベツや白菜を見比べながら真剣に選ぶシルキーの姿は正に主婦然としており、丁稚三人はその背中に漲る気迫に圧倒されていた。
バロネスが買出しを任せて古本屋に行こう(逃亡)とすれば、背中に目があるかのように反応して、彼を捕まえてしまう。
その手並みも実に手馴れたもので。
彼女らの中に『シルキー最強』というイメージが刻まれるのも当然の事だった。
「あ~~、クソ。買い込み過ぎだろ、シルキー」
「……(フルフル)」
バロネスの口から洩れる愚痴に、首を振って『そんな事はない』と答える。
舌打ちしながらもそれ以上は文句を言わず彼は黙って歩く。
そんなやり取りも実に慣れたものと言った感じで、丁稚三人から見ると二人は『親子』か『兄弟』のように見えた。
どっちが上かは聞かないでほしい。
主に『彼』の名誉の為に。
「ゼェ、ゼェ。それにしてもまだ着かないんすかぁ? バロネス先生の家」
「あと十分もすれば見えてくる。わかったら丁稚は黙って歩け」
「へ~~~い」
鳴滝姉妹は相変わらずシルキーを質問攻めにしている。
そうなると美空が話すのは必然的にバロネスになる。
最初こそ怖くて声をかけられなかった美空だったが、シルキーと彼のやり取りを見て抱いていた印象はそれなりに改善されたらしく、今はごく自然に会話が成り立っていた。
美空の態度には買い物に付き合う前の不必要なまでの怯えは消えている。
「えーっとバロネス先生?」
「ああ?」
砕けた態度の中に今までのモノと違う真剣な響きを感じたバロネスは訝しげに隣を歩く彼女を見やる。
「先生ってさ。なんで『コッチ側』の関係者になったの?」
言ってから彼女は後悔した。
今までの話の流れ(世間話)から余りにかけ離れた話題だった事もあるが、何より不躾だったからだ。
彼の内面や境遇に無作為にメスを入れる質問だったからだ。
少なくとも昨日、今日出会ったばかりの人間に話してくれるような話ではない。
「(なんでほぼ初対面の相手にこんな事、聞いてるかな? アタシ)」
気安く話せる様になって少し調子付いていたのだろうか?
そんな風に考えながらも口から出てしまった言葉は二度と戻ってこない。
ある意味で覚悟を決め、バロネスを見つめる。
対してバロネスは彼女の問いかけに顎に手を当てて質問の意味を噛み砕いていた。
「(『コッチ側』ってのはつまり『魔法使い側』って事だろうな。……なるほど、言われてみりゃコイツ、僅かに魔力が視えやがる。上手く隠してるな。ネギよりは魔力の使い方を心得てるらしい。まぁあいつの魔力量が異常なだけかもしれねぇが)」
彼女らの少し前方では姉妹がシルキーと戯れている。
シルキーも彼女らを気に入ったらしく、口元に笑みを湛えていた。
そんな様子を尻目に二人は沈黙する。
少し長いその沈黙に美空は気まずくなり、この話題を早々に打ち切る事にした。
「あはははっ! いやすいません。ちょっといきなり過ぎました。忘れてください!!」
自分でも引き攣っているとわかる無理矢理な笑みを浮かべながらそそくさとシルキーたちの方に逃げようと歩みを早める。
だがその逃亡は未遂で終わった。
「理由なんてねぇな。……強いて言うならそうしなけりゃ生きられなかったからだ」
「えっ……?」
静かで呟くような声音が、彼女の鼓膜を震わせる。
その言葉の意味を問い返す前に、バロネスはさっさと彼女を追い越してしまった。
「ちょ、ちょっと先生。今のどういう……」
「お前がなんでコッチにいるかは知らねぇが……いる以上は覚悟を決めておけ。殺し、殺される『覚悟』をな」
その目は張り詰めるほどに冷たく、その言葉は重苦しいほどに真摯なモノだった。
美空は思わず唾を飲み込む。
バロネスの言葉と態度を介して自分がどういう世界にいるかを垣間見た気がしたのだ。
「あ、あはは……。やだなぁ、先生。脅かさないでくださいよ」
震えそうになる身体を誤魔化すように軽い調子で返すが内心の動揺は隠し切れていない。
「やめたきゃやめろ。そんな事が出来るのも『今だけ』だ。時間が経てばいずれ嫌でも抜け出せなくなる」
あくまで真剣な調子を崩さず、言葉を紡ぐバロネス。
「……先生はやめようって思った事あるんですか?」
美空の問いかけに彼は鼻を鳴らしてこう答えた。
「俺には選択権なんて無かった。コッチと関わる事をやめれば待っていたのは『死』だ。ならやるしかねぇ。ソレだけの話だった……」
クックック! と笑いながら背中の荷物を背負い直す。
その言葉の意味する所を察して、絶句していた美空を楽しそうに見やりながら続ける。
「だが後悔はねぇ。そこでやめなかったお蔭で俺はこうして『アイツラ』と一緒にいれるわけだからな」
「そう、ですか」
二人の視線が前で笑いあっている三人に向かう。
「それに、だ」
「はい?」
首を傾げて問い返す美空に彼は底抜けに邪悪な笑みを浮かべながら言い放つ。
「今は遊び甲斐がありそうな玩具が近場に転がってるからなぁ。せいぜい楽しませてもらうさ」
彼の言う『玩具』に心当たりがあった美空は盛大に顔を引き攣らせた。
「あの~、それってもしかして……」
「おめぇら(2-A)だよ、おめぇら。クックック!」
「やっぱしーーーーーーーッ!!!」
2-A生徒を代表して絶叫する美空。
彼女は余り信じていない神様に心の底から願った。
『どうかこの人が起こす騒動に巻き込まれませんように』と。
それが無駄な事だとわかっていても願わずにはいられなかった。
そして十分後
一行はバロネス邸に到着した。
「「「………」」」
目の前にはところどころに蔦が絡まった洋館。
そのお約束ともいえる『おどろおどろしさ』とその大きな外観に三人はただ呆然とする。
そんな三人をまったく気にせずに門を開け、玄関へと進むシルキーとバロネス。
「おい! 何、ぼけっと突っ立ってやがる! とっとと来い! 荷物を家の中まで届けるところまでがてめえらの仕事なんだぞッ!!!!」
恫喝され、慌てて追いかける三人。
バロネスは鼻を鳴らしながら、玄関の戸を開ける。
シルキーが戸を開けたまま、目配せで三人を招き入れる。
美空と史伽、風香はそんな彼女に少し恐縮しながら家に足を踏みいれた。
「はぁ~~~」
「すごいです~~」
「うわあ~~~~」
そこに広がる予想外の光景を見て、同時に上がる三者三様の感嘆の声。
不気味な外観とは想像もつかない内装。
そこには正に別世界が広がっていた。
シャンデリアが輝き、真っ白な壁、床もまるで磨きたてのように光沢は放つ。
土足で上がりこむのが憚られるような、一枚の絵画のような美麗さに三人はまたしても呆然とした。
「お前らなぁ。そんなに珍しいモンかぁ?」
怒鳴るのも忘れ、ただ呆れるバロネス。
既にシルキーは買い込んだ品々を持ってキッチンに消えている。
その場にいるのは丁稚三名とバロネスだけだ。
「さて、これでお前らの仕事は終了だ。帰っていいぞ……と言いたい所だが」
「「「??」」」
なんとも歯切れの悪い言葉に三人は首を傾げる。
「シルキーのヤツが夕飯をご馳走したいんだそうだ。荷物を持ってもらったお礼だとよ」
「えっ? だってあれって今日のイタズラの罰なんじゃ?」
「いや、俺はそのつもりだったんだが……どーもお前らはアイツに気に入られたらしい。俺が言ってもアイツは聞きゃしねぇしな。だから食ってけ。もう決定事項だ」
おざなり且つ投げやりに言い放つバロネスの言葉を反芻する事、数秒。
「ラッキーッ!」
「やったです~~♪」
彼女らはタダ飯にありつける喜びに歓喜の声を上げた。
「労働の対価ってヤツですねぇ。良い所あるじゃないですか、先生」
「このこの」と彼の脇腹を軽く突付いてニンマリと笑う美空。
「フン。言っただろうが? シルキーのヤツの好意だってな。俺は関係ねぇ」
少し不機嫌気味に吐き捨てるバロネスだったが『彼の心』に少しだけ触れた美空にはそんな彼の態度を『怖い』とは感じられなくなっていた。
「(そんなに嫌われちゃいないっていうのくらいは分かるよーになったしね。乱暴な言葉使ってるけど、そんなに言うほど人嫌いってわけでもないみたい)」
それさえわかってしまえば持ち前の能天気さと要領の良さでなんとでもなる。
美空は周囲にはいなかったタイプの人物であるバロネスに自分が興味を持ち始めている事を自覚した。
そんな時だ。
「騒々しいぞ」
涼やかで良く通る声がその場に響き渡る。
全員の視線が二階へと上がる大階段へ注がれた。
いつの間にいたのだろう?
そこには赤みがかった長髪を腰元まで伸ばした妖艶な美女が立っていた。
外人特有の線の細さに、切れ長の瞳。
さらりと伸びた髪に見え隠れする額の『宝石』が彼女の魅力を一段と引き立てている。
「『ヴィーヴル』。まだ寝てるんじゃなかったのか?」
柔らかな気品を放ちながら、ゆっくりと階段を降りてくる女性にバロネスは声をかける。
先ほどまで騒いでいた三人は女性『ヴィーヴル』の持つ人を外れた美しさに魅入られていて声も無く突っ立っている。
「そなたらが騒がしくするから起きてしまったのだ。まったく……」
「ふうっ」とため息を洩らしながらバロネスへ近づいてくるヴィーヴル。
そのため息や僅かな仕草にすら耐性の無い三人は視線を向けさせられてしまう。
そこには正に『魔性』と呼べる美しさが在った。
「そいつは悪かった。詫びと言っちゃなんだが飯でもどうだ?」
「そなたが作るわけではあるまい。それは詫びにはならん。まぁ、頂くがな」
僅かに口元に笑みを作る。
そのしたたかなセリフに舌打ちしつつ目を離すバロネス。
「とりあえず部屋に戻ってろ。こいつらが『お前』と『その宝石』の魅了にやられちまって使い物にならん」
美空の頭を軽く叩きながら「シッシ」と犬でもあしらうかのように手を振る。
頭を叩かれているというのに美空は動かない。
ただ赤い顔をしたまま、ヴィーヴルを見つめるだけだ。
完全に魅入られてしまっている。
「ふむ。……仕方あるまい。食事は部屋に持ってきてくれ。そなたがな」
「ああ? なんで俺が」
「詫び代わりだ。あと話し相手にでもなってもらおうか」
「……ったくわかったよ。わかったからさっさと部屋に戻れ」
もう一度、口元に笑みを浮かべるとヴィーヴルはゆっくりとした足取りでまた二階へと消えていった。
「はっ!? あ、アタシ……何してたんだろ?」
「知るか」
正気に戻った三人は、ヴィーヴルの事は覚えていなかった。
二階に消える前に一瞬で自分に関する記憶の除去を行ったのだろう。
「(さすがは妖精種にして『竜種』だな。魔法、魔術の類(たぐい)もそれなりに使える。相変わらず反則に近ぇ。中々、こっちの呼び出しに応えてくれねぇのが難点か。つかアイツ、よく残ったな。アイツだけは向こうに帰りたがると思ったんだが……)」
ヴィーヴルにとって自身と『第三の目』とも言われている額の『紅い宝石』が無意識に振りまく『魅了の魔法』に取り付かれなかった人間はバロネスが初めてだった。
彼は、彼女が意識的に誘惑したにも関わらず気にもかけずに契約を持ちかけてきた。
最初は『悔しさ』と『ほんの僅かな希望』からだった。
己に靡かない男などいないという自負が彼女にはあったから。
彼女に靡かなくともその額の宝石を手に入れたがらない者などいないという呪いに近い『悲しい自負』があったから。
だから共に在れば、いずれ彼は自分の虜になる。
そういう酷く個人的な思惑で彼女は契約を結んだ。
だが結果はこの通り。
同性ですら心酔させる魅力を持ってしてもバロネスは落ちなかった。
ヴィーヴルはこの時、長い人生において初めて自分の『敗北』を認めた。
敗者は勝者に従うもの。
彼女は数ある自然界の掟に従って今、こうしてここにいる。
そこが『異世界』であろうと関係なかった。
どこであろうと自分は従うのみ。
だが敗北こそ認めたが、勝負はまだ終わっていない。
いつか必ず彼を『自分の魅力』で落として見せよう。
負けたままでは終わらない。
そんな決意と同時に彼女は彼に感謝していた。
『私』を『私』として見てくれてありがとう。
そんな気持ちを彼女は抱き、今もこうしてココに在るのだ。
勿論、バロネスはその事を知らない。
彼女の好意にも似た感情と執念深さ、女としてのプライドを知らない。
彼にとってこの邸で暮らすモノたちは等しく頼りになる仲間なのだから。
「(読書馬鹿め、今宵こそ覚悟しておけ)」
部屋に戻りながら心中でバロネスを罵る。
結局のところ、彼女もバロネスが好きでここにいるのは他の妖精たちと変わらないのだ。
「客間に案内してやるからついて来い」
正気に戻った三人を先導するように歩き出すバロネス。
周囲をキョロキョロと見回し、置かれている調度品に目を奪われながら彼を追いかける三人。
静まり返った廊下に四人の足音だけが響き渡る。
「あれっ?」
風香が何かに気付き、足を止めた。
先ほどから幾つものドアを素通りしてきた。
そのどれもが固く閉められていたのだが、彼女の目に留まった部屋のドアはほんの少しだけ開いている。
好奇心旺盛な自分の心を抑えられる理性が彼女にあるはずも無く、ごく自然な流れでその部屋に近づいていく。
バロネスや美空、史伽らは彼女が立ち止まった事に気付いていなかった。
今は自分一人だけ。
まるで彼女を誘うようにドアが僅かばかり揺れ動く。
「(ちょっとだけ。ちょっと中を覗いたらすぐに戻ればいいんだから……)」
早鐘のように鳴る、自分の心臓の音を感じ取りながら震える手でドアノブに手をかける。
ゆっくりと開いたドアの先には。
グシャ! グシャ! グシャ!!!!
人型をした何かに馬乗りになり、なにやら黒光りするモノを突き刺している物体の姿。
「へっ?」
余りにも予想外でショッキングな映像に風香の思考が止まる。
だが彼女が反射的に上げてしまった間抜けな声に気付き、ソレはゆっくりと彼女の方を振り返っていた。
「ギェギェギェ! 見ぃ~~~たぁ~~~~~なぁ~~~~~~」
カキン! と己の得物を打ち合わせるのは『レッドキャップ』
風香の思考はそこで再起動し、次いで湧き上がる感情のままに絶叫した。
「きぃやああああああああああああああああああああ!!!!!!!」
美空ですら目を剥くほどの速度で走る。
後ろを振り向く事無く、ただ己を突き動かす恐怖から逃げるために。
ドドドドドドドドド!!!!!
「ギィエギィエギィエ!!!」
追いかけてくるソレから逃げる為に走る。
長い廊下の果てに見えてきた大きなドアに思い切り体当たりする。
バタンと言う音と共に開いた先には、白いクロスをひかれた十人は座れるだろうテーブルに腰掛けたバロネス、史伽、美空の姿。
「どうしたんですか? おねぇちゃん?」
近くに座っていた史伽の肩を鷲掴み、ぶんぶん上下に振る。
「でででで、出た出た出た出た。出たよ出た出たんだよ!!!」
「ななななな何にににが、出ででたたたののの。くくくくるしいいい」
涙目で訴えているがよっぽど怖かったのか口から出る言葉は意味をなさず、結果的に妹を苛めているだけの姉がその場に出現する。
「ちょっとどーしたのさ、風香。っていうか落ち着きなって! そのままじゃ史伽、死んじゃうから」
顔を青くし、口から魂が出かけている史伽からなんとか風香を引き剥がす。
風香は堰を切ったように泣きながら「怖かった」と美空に抱きついた。
「クックック! まったく楽しい連中だ」
風香を襲った恐ろしい目に心当たりがあるらしいバロネスは心底楽しげに事態を静観していた。
その数分後、美空と史伽の尽力でなんとか風香が泣き止み、平静を取り戻した頃。
シルキーが食事を持ってきた事で四人だけの食事会が始まった。
黙々と目の前に並べられた料理を食べるバロネス
せわしなく動き、給仕に励むシルキー。
そんなシルキーに恐縮しながら、高級レストランのフルコース並に料理の数々に舌鼓を打つ三人。
風香(料理を食べている内に先刻の恐怖は忘れたらしい)と史伽による料理の争奪戦などを交えながら食事会はつつがなく終了。
楽しい時間はあっという間に過ぎ去り、彼女らが帰宅する時間が訪れた。
「それじゃバロネス先生。今日はありがとうございました」
「楽しかったです~~。ありがとうございました」
「シルキー、料理おいしかったからまた食べさせてね!」
玄関先で礼を言う三人。
そんな三人にペコリと一礼するシルキーと鼻を鳴らして「さっさと帰れ」と態度で示すバロネス。
「あー、待て。ナルタキ姉。ちょっと来い」
そのまま去っていこうとする風香を呼び止める。
小首を傾げながら近寄ってくる彼女の耳元でバロネスは小さく呟いた。
「好奇心は猫をも殺す。次はねぇから気をつけろ」
その言葉にビクン!と震える風香。
思い出すのは部屋を覗いた時に出てきた悪夢。
「あとアレに関しては他言無用だ。言ったら……わかってるな?」
言いたい事は言ったと邸内に消えていくバロネスの背中を見つめながら彼女は思い出した恐怖に震えた。
そして誓う。
『この邸では二度と勝手な真似はすまい』と。
こうして三人に言い渡された罰は苦しさと楽しさと恐怖(とある少女限定)を植えつけて終了した。
おまけ
邸内に戻ったバロネスはニヤリと笑いながら指を鳴らした。
「もう出てきていいぞ、お前ら」
その言葉を合図に閉ざされていたドアが次々と開き、中から妖精たちがぞろぞろと出てくる。
「やれやれ。なんでオレたちが隠れなきゃならんのだ?」
「しゃーねぇだろ。新しい契約条件で『一般人への魔法、魔術の流出』は可能な限り伏せなきゃならねぇようになったんだからな」
魔法使いの愚痴に肩を竦めながら答える。
「グプー。久しぶりに人、食えると思った」
「『トム・ポーカー』、肉が食いテェのはわかったが涎垂らすのはやめろ。シルキーが切れるぞ」
シルクハットにタキシードという紳士然とした格好に仮面という異装の妖精。
その『首元まで裂ける口』から垂れるソレが床に滴りそうなのをバロネスは指摘する。
その悪魔然とした風貌の邪妖精がシルキーの名を聞いて慌てて涎を拭っているその姿はなんとも滑稽だ。
「あの子達、面白そうだったからお話したかったんだけどなぁ」
「まぁそう言うな、エアリィ。どうやらカスガはこっち側らしいからまた機会が在ったら連れて来てやるよ」
「うん!」
妖精邸は今日も彼を中心に賑やかだった。
あとがき
紅です。
ようやく一日が終わりました。ホントに長かった(遠い目)。
さて意外にも犠牲者は一人だけという結果になりました。
むしろ美空に対してはなんか教師らしい事をしちゃってます。教授。
これがこの後、どう作用するのか。正直、私にもわかりません。
次回は『ヤツら』が動きます。
同時に原作のイベントもこなしていきたいと思いますのでどうぞご期待ください。
それでは皆さんからのご意見、ご感想をお待ちしております。
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