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時計が刻む物語 第十四話(×足洗い邸の住人たち オリ有り) 投稿者:紅(あか) 投稿日:05/17-12:40 No.533  

『時計が刻む物語』
第十四話 『小さな前進。確かな成長』


「ったく。お前は何しに現場に行ったんだ? ああ?」

 後ろ首を掴んだ状態で持ち上げられているネギはバロネスの糾弾に顔を俯かせている。

「黙ってたらわからねぇだろうが。なんとか言え」

 ブラブラ揺らしながら二度目の問い。
 彼の目はギラギラと輝いており、暗に『次は無い』と告げていた。

「ぼ、僕……喧嘩は駄目だって止めようとしたんです」
「フン……それで?」

 なんとも弱々しい声音で話し始めるネギの様子に苛立ちながら先を促す。

「でも……皆さん、聞いてくれなくて。高等部の皆さんなんか僕を見て急に抱きついてくるし。その辺りから話がどんどんズレてきて僕をよこせとかそういう話に………」
「(……ズレ過ぎだろ。一体、どーいう頭の構造してりゃそういう話に飛べるんだ?)
あーー、つまり陣地取りが取っ組み合いに発展した原因は少なからずお前にもあるんだな?」

 確認の意味で聞くバロネスに懺悔でもするような神妙さで頷くネギ。
 その様子が彼にはまるで『怒られるのを待っている』ように思えた。
 いや正確には『怒り、そして助言をしてくれるの待っている』ように思えた。

「(……結局のところ、コイツも他のヤツと同じか。自分で考えようとしねぇ)」

 「少しは認めてたんだがな」と心中で失望する。
 同時に一つ、彼の脳裏に閃くモノがあった。
 ネギから手を離してやるとわざわざ片膝をついて彼の目を正面から見る。

「よく聞け、『ガキ』」
「は、はい」

 半眼で睨みつけられ、どもりながらもなんとかネギは返事をする。

「俺は『この件』に関しては傍観者になる。わかるか? 一切ノータッチだ」
「えっ?」
「助けてやらねぇって言ってるんだよ。その代わり、お前がどんな失敗をしようと口出しもしねぇ。お前が納得いくように、やりたいようにやれ。次になにかあった時、傍に俺がいても頼るな」
「ちょ、え? えええっ!?」

 言いたい事を言い終えるとバロネスはさっさとネギに背を向けて去ってしまう。
 残されたネギはいきなりの展開に脳の処理が追いつかず、ただその場で右往左往し続けていた。


「(さっきの連中の様子とネギの話を総合するならさっきので終わるとは思えねぇ。近いうちにまたどっかで騒動を起こすだろう)」

 廊下を一人歩きながら、思考を巡らす。

「(クックック! さてどうなるか。……まぁ今はそっちより)」

 廊下の先、職員室にほど近い窓際に背を預けている少女を見やる。
 左側でまとめられた髪。肩にかけられた竹刀袋。
 そして自分に向けられる忌避とも敵意とも取れる視線。
 そんな特徴的なモノを持つ者はバロネスの脳内には一人しかいない。
 出席番号十五番『桜咲刹那(さくらざき・せつな)』だ。
 ただしバロネスは名前を覚えていない。

「何か用か?」

 相手が口を開く前に声をかける。

「バロネス先生。お聞きした事があるので少しお時間を頂けますか?」

 真剣で重い言葉。
 そのような声音で話しかければ普通の者ならば素直に従うだろう。
 だがこの男は『何かしらの覚悟』を持って放たれただろうその言葉を。

「嫌だね」

 たった一言で切り捨てた。

「なっ!?」
「な、じゃねぇ。次も授業なんだ。んなダルイ事に付き合ってられるか」

 まさか断られるとは思っていなかった少女を置き去りに彼は職員室の中に消えていった。
 ちなみにバロネスの次の時間は非番である。

「(あの感じだとタカハタと同じで『やる気』だな。あいつよりは数段劣るから煙に巻くのはそう難しくねぇのが救いか。このままいけば放課後くらいまでなら粘れるだろ)」

 『教師としての時間』の間、彼の力は極端に制限されてしまう。
 『就業中の人殺しはご法度』、『持ち込み可能な妖精は殺傷能力が低めのモノのみ』という契約があるからだ。
 さらに昨日の交渉で新たに『理由無き殺害はご法度(殺害する場合は前もって学園長に申請する事)』という項目まで足されている。

「(加減するにしても徹底的に叩き潰すにしてもある程度、本気でかかる必要がある。でないとまたタカハタの時みてぇに危ねぇ橋を渡るハメになるからな)」

 職員室の前から離れない少女の気配に邪悪な笑みを浮かべる。

「(退屈だけはしないで済むか)」

 キーンコーンカーンコーン!

 予鈴を聞いて慌てて去っていく外の気配。

「さっきのヤツの資料でも見ておくか」

 席に着き、紙束をパラパラと捲る。
 だが該当する女子の資料を見つけるのとほぼ同時に。

「バロネス先生。2-A組の子達の事なんですが……」

 厄介事が舞い込んできた。


 職員室に消えていくその背中を半ば呆然と見送る。

「(ま、まさかああもあっさり断られるなんて……)」

 声をかけ直す暇もなく消えていった担任の人を食ったような笑みを思い浮かべる。

 学園長の話では彼には今のところ、害意はないらしい。
 だが日頃の彼の態度を見る限り、害意はなくともいつ彼女の『護衛対象』であり、『大切な友達』である少女に被害が及ぶかわからない。

 学園長は自分の孫については今日、初めて資料と言う形で彼に提供したと言っていた。
 さすがに『彼女の素質』については彼にも話していないようだが同時にこうも言っている。

「彼は相当に頭が切れる。必要じゃと思った情報は自力で入手するじゃろう」

 つまりいつ『彼女の秘密』に気付くかわからないという事だ。
 そして刹那自身、ここ数日のバロネスの行動を監視し彼の事を『危険』だと認識している。
 
 もしも彼が秘密に気付き、それを利用しようと考えるとしたら。

「(そんな事は絶対にさせない……)」

 最悪の事態を想像し、自然とその両拳に力が入る。

キーンコーンカーンコーン!

「あっ! しまった。次の授業がッ!!」

 慌てて職員室を離れ、教室に急ぐ。
 次の授業は体育だ。
 ジャージに着替えて屋上に移動しなければならない。
 彼女は先ほどまでの思考をとりあえず隅に追いやると駆け出していった。


「(まさかもう騒ぎを起こしやがるとは……)」

 その呆れるほどの行動力にバロネスはある意味で感心していた。

 現場は屋上。
 しずなの話によれば高等部2-D組の体育と2-Aの体育の場所がブッキングしてしまい、昼の騒動も手伝ってかお互いにヒートアップ。
 紆余曲折あり、ネギの提案で『ドッチボールで決着をつける』という形になったらしい。

「で、今まさに試合が始まる現場に俺はいるわけだ」
「誰に言っているんだ、貴様……」

 ボソリとした彼の呟きに訝しげに突っ込むエヴァンジェリン。
 その手には『茶』と書かれた湯呑みが握られている。

「しかしまた妙な事してやがるなぁ。飽きないっつーかなんつーか」
「フン。能天気どもが集っていればこうもなる。この程度は日常茶飯事だ」

 ズズッとお茶を啜る。
 その様子が妙に板についていて、バロネスには目の前の少女が年老いた老婆のように見えた。

「ババアだな」
「……何か言ったか?」

 思い切り口に出す辺りが他の主人公(?)とこの男の違うところだろう。

「茶を飲む姿が様に成り過ぎだ。老けるぞ? まぁ手遅れっぽいが」
「貴様……喧嘩を売ってるのか?」
「クックック! 思ったまま言っただけだ。図星突かれたくらいで殺気立つんじゃねぇよ」

 二人の周囲にはどす黒いオーラが溢れ出している。
 しかも言葉を交わす事にその密度が増してきていた。
 ドッチボールの参加者たちは試合に集中していて気付いていないが見学者たちからすれば溜まったものではない。
 既に二人の傍にはエヴァンジェリンの忠実な従者である茶々丸以外はいなくなっていた。

 さてその見学者たちの反応はというと。

「おい、刹那。アレはなんだ?」
「わ、私に聞くな!」
「ふーむ。殺気と殺気のぶつかり合いでござるなぁ」

 武闘派の面々はこのようなコメントをしている。

「ちょ、ちょっといつの間にいたの。バロネス先生……」
「シィーー! 気付かれたらヤバイんだから柿崎は黙ってて!!」
「というかあの二人、仲良いのかな? なんて言うかこう『悪友』みたいな雰囲気が……」

 比較的、普通の部類に入るチアガール三人組は応援そっちのけで『二人の関係』についてヒソヒソと話し合っている。

「…………」

 二人の殺気に当てられて逃げていく動物たちを感情の映らない瞳で見つめる者もいたりする。

「クックック!!」
「フッフッフ!!」

 学園長室に続き、第二の魔境が生まれようとしていた。


 そんな外野で起こっている事態になどまったく気付かず、試合は進行していく。

 最初は体力バカである明日菜が猛攻を見せたが、人数の差によるトラップ(コート内を自由に動き回れない)に見事に引っかかり2-Aの面々は次々とアウトにされていった。

 明日菜の反撃も格上だったらしい相手に取られ、『トライアングルアタック』によってやる気満々だったあやかまで討ち取られる始末。

 気がつけば既にハンデ分の人数がコート上から消えていた。

「……アホな事してやがるな。レベルが低すぎる」
「まったくだ」

 茶々丸の取り成しでどうにか魔境形成から脱した二人だったが今度は試合内容を酷評していた。

「というかバロネス。貴様、仮にも教師ならこの場は諌めるべきじゃないのか?」
「ネギに任せた。後は知らん」

 ようやく出てきた正論に、バロネスはおざなり且つ適当な返答をする。

「フン、あの坊やにどうにかできるのか? 巻き込まれてコートにいる上にあの様だぞ?」

 彼女の視線の先には両手を無作為に振りながら「あうあう」言っている情けない姿のネギ。

「駄目でも知らん。なんとか出来なきゃそれまでだ」
「……それは職務放棄というヤツじゃないのか? 仮にも補佐だろう?」
「やりたくてやってるわけじゃねぇからいいんだよ。まぁ……」

 バロネスが顎で試合場を示す。
 そちらに視線を戻すと退場していく明日菜と、先ほどまでの負けムードを払拭した2-A陣。
 そしてその中心にいるネギの姿。

「少しは自分でなんとかする事を覚えたらしい。この分なら俺が職務放棄で辞めるのは先になりそうだ。残念なこった」

 その言葉とは裏腹に口元には笑みを浮かべていた。

「フン(放任主義かと思ったが意外に見てるな、コイツ。案外、教育者は似合いか?)」

 楽しそうに茶々丸が入れたお茶を飲む彼を見ながらエヴァンジェリンはそんな感想を抱いていた。


 試合はその後、流れを引き入れたネギら2-Aが勝利した。
ただそれだけでは終わらなかった。

 試合に負けた腹いせに『ロスタイム』と称して明日菜に完全な不意打ちをする高等部女子『二人』。
 一球はネギが受け止めたがならばもう一球はどこにいったのか。
完全に明日菜を標的にした一球目と違い、もう一球はたまたま彼女の近くにいた『近衛木乃香』に向かっていた。

 この事態に最も慌てたのは彼女を護衛する立場にある『刹那』である。

「(このちゃん!!)」

 見学者の中から真っ先に飛び出したが到底、間に合わない。
 木乃香もボールが目の前に来た所でようやく気付いたらしい。
 勿論、避ける暇などない。

 だが。

バシッ!!!

「ひゃっ!?」
「っ!?」

 いつの間にそこに移動したのか。
 木乃香の目前まで迫ったボールは男の手が鷲掴みにして止めていた。

 ついさっきまで隣にいたエヴァにすらそこに至るまでの動きを捉える事はできなかった。

「(なっ!? ヤツは今、何をした!?)」

 すぐ隣にいたのに魔力を探知できなかった。
 茶々丸に目配せするも彼女も首を横に振るだけだ。

「(魔力を使わずにあそこまで移動したというのか? そんな馬鹿な……)」

 バロネスの『瞬動もどき』に驚愕する彼女を尻目に事態は進んでいく。

「クックック! まだロスタイムなんだよなぁ?」
「こんなことしちゃ……」

 楽しそうに笑う、いや哂いながらブツブツと早口で『呪文』を呟くバロネスと目尻に涙を湛えながらボールを構えるネギ。

「爆発する二十一時の『ウィル・オ・ザ・ウィスプ(最弱)』ッ!!!」
「駄目でしょーーーーーーー!!!!」

 二人が投げたボールは不意打ちをした生徒らに見事にヒットする。
 だがそれだけでは終わらない。

 無意識に魔力が込められたネギのボールは凄まじい回転で近くにいた女生徒諸共、その衣服を剥ぎ取った。

 バロネスの放った球はヒットした瞬間に小爆発し、これまた周囲の人間を巻き込んで黒焦げにした。(勿論、加減はしてあるので怪我は無い)

「クックック! 汚い真似するのは別にかまわねぇがよ。反撃される覚悟くらいはしとけ」

 ボールに張り付けていた時計を剥がし、懐に収めながらバロネスは告げる。
 その言葉が引き金となり、静まり返っていた2-Aは勝利の歓声を上げた。

「バロネス先生、助けてくれてありがとなぁ~」
「ああ? 俺はただ色々と(手加減や例の瞬動もどきを)試したかっただけだ。結果的に助けちまったってそれだけの話だ」
「それでもウチは助かったんやから……やっぱりありがとうや」
「フン。好きにしろ」

 ネギがもみくちゃにされる間に行われたこのやり取りを聞いていたのは『駆けつける事ができなかった少女』だけだ。


 その後、興奮冷めやらぬままに行われた六時間目の『バロネスの授業』で彼女らは悲鳴を上げる事になるのだが詮無い事である。

「あ、バロネス先生……」
「……まぁ及第点だな。問題はまず自分で解決する事を心がけろ。わかったな、『ネギ』」

 生徒らの手荒い感謝から抜け出したネギの頭に手を置いていたバロネスの表情がほんの少しだけ優しげだった事も詮無い事だろう。

 その瞬間だけ二人が『親子』か『年の離れた兄弟』のように生徒らの目に映っていた事も。
 そのお蔭で、彼女らのバロネスに対する『怖い人』というイメージが少しだけ払拭された事も。

「呪文の詠唱は聞き取れなかったがずいぶんと変わった魔法だったな」
「ネギ先生は無意識だったがバロネス先生は明らかに故意に魔法を……。やはりあの人は危険すぎる」
「ふーむ。アレは瞬動、だったのでござろうか? どういった技にせよ只者では無いでござるなぁ」
「ボールが爆発した理屈はわからないアルけど、木乃香の隣まで移動した動き。あれはタダモノじゃないネ。今度、勝負を申し込むアルよ」

 不用意に召喚魔法を使ったせいで武闘派の面々に目をつけられた事も。

「おい、バロネス。木乃香の所までどうやって移動した?」
「クックック。教えるわけねぇだろ、バァカ」

 エヴァの相手をしているバロネスには知る由も無かった。


あとがき
紅です。最新話をお送りしましたがいかがだったでしょうか?
ドッチボール編の決着。
それに付随して幾つかの波紋が広がっています。
この波紋に彼が今後、どう対処していくのか。
楽しみにしてくださると嬉しいです。
皆様からのご意見、ご感想を楽しみにしています。

それではまた次の機会にお会いしましょう。

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