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時計が刻む物語 第十五話(×足洗い邸の住人たち オリ有り) 投稿者:紅(あか) 投稿日:05/21-14:21 No.572  

『時計が刻む物語』
 第十五話 『その男、凶悪』


 職員室。
 六時間目までの授業を終えたバロネスは実に満足げな表情で自分の席に座っていた。
 目の前にあるのは六時間目、2-A組で出したプリント。
 この学園の中等部のレベルを計る為にと出した無理難題(バロネスはやろうと思えば出来ると思っている)だ。

 意外な事に2-A組の生徒はその半数以上が文句を言いながらも手を付けていた。
 正解しているか否かはこの際、置いておくが。

「(他の連中に比べて、チャレンジ精神ってのはあるらしい)」

 やってこなかったのは十人ばかりだけ。
 他のクラスでやってきた人数は『平均三人』だっただけにこの結果は彼にとって良い意味で驚きだった。
 ただこの十人の内、『五人』が曲者なのだがこの時点のバロネスが気付けるはずもない。
 2-Aが誇る『バカレンジャー』の抜きん出た実力を彼が知るのはほんの少し先の話だ。

「しかもやってきた連中の内、四人は合ってやがる。他のヤツも問題の解き方は悪くねぇ」

 一枚一枚を丹念に捲りながら、今日の成果を確認する。

「まったく……ホンットに面白いクラスだな。
これで学年最下位だっつーんだから訳が分からん。
低いやつがクソ低いって事なんだろうが……」

 試す意味合いで出した高等部のプリントを鞄に突っ込み、中等部用のプリントを手に取り、目を通していく。

「要注意はカグラザカ、クーフェイ、ササキ、ナガセ、アヤセってところか。……しかしこの正解率の悪さは嫌がらせか?」

 思わず手で顔を覆う。
 彼の視界に映っていたのは真っ赤なバツ印の山。

「(自分で丸付けしておいてなんだが、これはねぇだろ)」

 見るに耐えないとはこの事か。

「こりゃぁ個人授業が必要か。まぁ向こうが望めば、だが」

 恐らく望むまい。
 なんとなく直感的にそう思う。
 どいつもこいつも勉強よりは運動と公言しそうな人間ばかりだ。
 出席番号四番『綾瀬夕映(あやせ・ゆえ)』だけ毛色が違うのだが、別の意味で彼女も厄介な人種だとバロネスは見抜いていた。

「(どうせ勉強嫌いとかそんな所だろ。授業に対する態度を見リャ大体わかる)」

 たった一度の授業でその生徒の本質的な部分を見切れる辺り、彼の教師としての実力の高さが窺える。
 ただ言動と行動が度を越しているので中々そうは見えないのだが。

「フン。まぁこんな所だな。今日は帰るか……」
「あ、お疲れ様です」

 荷物である鞄を小脇に席を立つ。
 君信の労いの言葉に手を軽く振って答えると彼は職員室を出て行った。

 
 そして意気揚々と歩いていた帰路で。
 彼はいきなり銃撃された。

チュン!!

 足元に突き刺さる真っ白で小さな弾丸。
 それは本物の銃弾ではなく。

「……BB弾、か?」

 強度こそ本物の銃弾と見紛う程のモノだがその形は球形で米粒程度のサイズだ。
 発射した品がどれほどのモノかはわからないが、狙撃者はよほど銃の扱いに長けているのだろうと彼は推測した。
 何故ならコンクリの床に突き刺さる弾丸を放つエアガンを作成できるほどの腕なのだから。

「フン……(何がしたいか知らねぇが面倒だしシカトするか)」

 機嫌が良かった事も手伝い、彼にしては穏便に事態を収めようとする。
 これは非常に珍しい事だ。

 BB弾を指で弾き、再び帰路につく。
 だがそんな彼の頬を掠めるようにまたも銃弾が打ち込まれた。

チュン!!

 頬に走る鋭い痛み。
 それが撃たれて付いたのだと理解した瞬間。

ブチッ!!

 彼の人より遥かに短い怒りの導火線に火がついた。

「ぶっ殺す」

 端的に物騒なコメントを呟くと彼は狙撃された方向へと向き直った。
 二度に渡る狙撃で既に彼はどこから銃弾が飛んできたかを割り出している。
 距離こそ不確定だが、それらは彼の右方向に広がる森の中から放たれていた。

「おびき寄せるつもりなんだろうが……まぁいい。乗ってやる」

 教師としての時間は終わりを告げ、一人の凶戦士が現れる。
 彼は素早く呪文を口ずさむとシルキーを呼び出した。

「シルキー。『午後九時』、『午後十一時』と『十三時』の時計を頼む」

 コクリと頷き、開いた扉の中へと消えていくシルキー。
 彼女が戻ってくるまで二、三分のタイムラグがあるだろう。

「その間は適当に遊んでやるか。クックック!」

 哄笑しながら射撃ポイントと思われる方向に向かって歩き出す。
 彼は歩きながら自分に手を出した愚か者をどう料理しようか思案していた。


 狙撃手『龍宮真名(たつみや・まな)』はスコープ越しに近づいて来る副担任の姿を確認しながら隣で瞑目している刹那に声をかける。

「かかったぞ。どうやらこっちの要望に応えてくれるらしい」
「……そうか。良かった。やはり龍宮に頼んだのは正解だったな」

 私ではまた逃げられていただろう、とため息交じりに刹那は話す。

「(刹那が『仕事』で固くなるのはいつもの事だが……なんでこんなに疲れてるんだ?)」

 首を傾げる。
 自分の知らない間にバロネスと接触していたのだろうか?

「(昼休みのように軽く流されてしまっては意味が無い。
『西からの刺客』が潜り込んでいるという情報が入っている以上、バロネス先生の意思を早めに確かめて不安要素を取り除かないと……)」

 彼女の脳裏に浮かぶのは幼馴染で大切な友達の笑顔。
 あの笑顔が消える事など想像したくも無い。
 唇を噛み締め、その手を白くなるほどに握り締める。

「(……気負ってるな。そんなにバロネス先生に思う所があるのか? それともまたお嬢様関係か?)」

 そんなに心配なら『友達』として傍にいればいいものを。
 呆れ半分にそんな事を思うが、彼女がそれを実行するとは思っていない。

 詳しい事情は知らないがどうも彼女には秘密があり、その関係で他人と一歩引いている節がある。
 自分も人の事は言えないがそれでも彼女よりは幾分かマシである。
 彼女のソレは頑な過ぎた。
 お蔭でクラスメートたちから物静かで怖い人というイメージが定着している。

「(思考が横に逸れたな) ……もうすぐ来るぞ」


 彼女が刹那に依頼を受けたのは六時間目が終わってすぐの事だ。

「バロネス先生の真意を確かめたいから手を貸して欲しい」

 なにやら焦りを滲ました声音でそう言われた時、彼女は最初は逡巡したが最終的にはその依頼を受けることにした。

 理由は一つ。
 彼女自身もバロネスに興味を持っていたからだ。

 特にドッチボールの時に見せた動き。
 彼女の魔眼を持ってしても捉えられたのは彼の足元に残った微弱な、本当に微弱な魔力だけだった。
 瞬動を使ったにしては余りにも小さな残り香。
 ボールを爆発させた珍しい詠唱の魔法の事もあり、真名は少なからず興味を抱いていたのだ。
 その矢先に刹那のこの申し出。

「(多少、荒っぽいやり方ではあるが疑問を解消するいい機会だろう)」

 そう思って依頼を受けたのだ。


「お前らか? フザケタ真似しやがったのは……」

 ガサガサと草を払いながら彼女らがいる拓けた野原に到着するバロネス。
 ドスの効いたその声に真名は思考を切り替えた。
 横にいる刹那は殺気立っている彼の様子に戸惑っている。

「ああ、そうだ。手荒な呼び出しで済まなかったね。バロネス先生」
「ハッ! 今更詫びても遅ぇぞ。半殺しくらいは覚悟しとけ」
「……手荒な、真似? 龍宮、お前一体どんな呼び出し方をしたんだ? 威嚇だけという話じゃなかったのか?」

 既に殺る気満々のその姿に刹那は若干引きながら真名に問う。
 当人である真名は彼女の疑問の声を無視しながら自分がやった事を後悔していた。

「(さすがに頬を掠めさせたのはやり過ぎたか)」

 当たり前である。
 というよりも威嚇だけなら良しと考えられる刹那の思考回路にも若干の問題があるように思える。
 長い事、裏社会にいると思考回路が横にずれてしまうのだろうか?

「えっと、申し訳ありませんがバロネス先生。不躾ではありますが私の質問に答えてください」
「ああ? ……いいぜ、さっさとしろ。だがどう足掻いてもてめえらの半殺しは決定事項だ」

 バロネスの物騒な言葉に刹那は頬が引き攣るのを感じながらもなんとかスルーする。
 気を取り直した彼女は一瞬だけ瞑目すると軽く息を吐き出し、彼への質問の言葉を紡いだ。

「貴方の目的は何なのですか?」
「あーーー? 目的だ?」

 彼女の質問に眉根を寄せながらバロネスは腕を組む。
 一分ほど、そのまま彼は黙考し続けたが一向に答える様子はない。
 刹那はその本気で考え込む様子を見て『自分の質問が悪かったのだ』と解釈した。

「すみません。質問を変えます。貴方はお嬢様について何かご存知ですか?」
「オジョウサマ? 誰だそりゃ?」

 本当に分からない様子で首を傾げるバロネス。

「……本当にご存知ないんですね?」
「しつこいヤツだな。知らねぇもんは知らねぇよ」

 そこでようやく刹那は身体に漲らせていた緊張を解いた。
 そして不躾な質問に彼は律儀にも答えてくれた事を思い、彼女は深々と頭を下げた。

「無礼を働いてしまい、申し訳ありませんでした」

 慇懃な態度での深い一礼。
 そこには確かに年上に対する明確な礼儀と謝罪の意があった。
 だがバロネスは彼女のその行為に特に感じるものなどないとばかりに鼻を鳴らすと。

「さてそっちの質問タイムが終わったところでだ。……そろそろ始めるぞ?」
「はっ?」

 刹那が訝しげな声を出すと同時に。
 彼は声、高々に呪文を唱え出した。

「“ジャック・オ・ランタン、死のロウソク、ジェニィの燃える尻尾!! スパンキーよッ! 集めた鬼火を貸しとくれェッ!!”」

 両腰に装着してあった特別製のヨーヨーを二人に放つ。

 完全に虚を突いた攻撃だったが二人はほとんど本能的な防衛本能で回避した。
 左右バラバラに散った二人を視界の端に捉えながら彼は盛大に口元を歪める。

「迷いの時間! 爆発する二十一時の『ウィル・オ・ザ・ウィスプ(愚かな火)』!!!」

バゴオオオオオオオオオン!!!

「うわぁっ!!」
「くっ!!」

 爆風に煽られ、吹き飛ぶ二人。
 だが二人とて裏の世界に通じる者たちだ。
 素早く受身を取り、体勢を立て直していた。
 そしてそんな彼女らの一挙一動をヨーヨーを玩びながらギラギラとした目で見つめるバロネス。

「な、何をするんですか! バロネス先生!!」
「やれやれ。いきなりとはやってくれるね。バロネス先生……」

 刹那は驚愕、真名は憤慨しながら目の前に出現した『敵』に声を上げる。

「あーー? 寝ぼけてんのか、てめえら。
俺はさっき言ったはずだぜ? 半殺しは決定事項だと」
「なぜ私たちが半殺しにされなきゃいけないんだい?」
「いきなり狙撃されて、しかもそれが頬を掠めた。そのあげくが意味のわからねぇ問答……。
それで終わったら『ハイ、サヨナラ』ってか? 馬鹿か、てめえら」

 バロネスの言葉の中に不穏当な単語を聞きつけ、刹那は隣に立っている相方を疑念の目で見つめる。

「龍宮! お前、威嚇だけじゃなかったのか!? なんて乱暴なやり方で呼び出したんだ!?」
「仕方ないだろう。威嚇射撃では反応してくれなかったんだからな。あれくらいしないと彼はここに来てくれなかったよ」
「う、む……それは、まぁそうかもしれないが。だからと言って!」

 ギャーギャーと騒ぎ立てる刹那をのらりくらりと回避する真名。
 だがそんなやり取りを黙ってみていてやるほど今のバロネスは寛大ではない。

「仲間割れなら俺にやられてから仲良く病院でやれや!! つーかそっちのチビッ! 事態が把握できたなら黙ってやられろ!!!」
「うっ……」
 
 バロネスの言葉に良心を揺るがされる刹那。
 基本的に誠実且つ正常な人格を持っている彼女の常識的な思考としては悪いのは明らかにこちらだ。
 まさか銃弾を打ち込んでおいて『真摯な謝罪』など通用しないだろう。
 だがだからと言って。

「半殺しだなんて、横暴です!!」
「ふざけろ、加害者ども。自分に負い目を感じるなら潔くやられやがれッ!!」
「刹那! これはやるしかないぞ。彼は本気だ!!」
「八割方、お前のせいだろうが!!!」

 再び放たれるヨーヨー。
 その重量感を無視した速度に驚愕しながらも二人はその思考を改めて戦闘用に切り替えた。

「こんな風に戦うのは不本意なんだが……ええい、仕方ないッ!! 斬空閃!!」

 良心と自身の身の安全の狭間で悩みながらも決断を下し、自らの流派の技を放つ刹那。

 それは刀の軌跡をなぞるように発生した氣の斬撃。
 その技はその名の通り、空を裂きながらバロネスに迫る。

 だが彼は慌てず騒がず前もって唱えておいた呪文を解き放った。

「午後十時のシェリーコートッ!!」

 右手に顕現するのは幾重にも貝殻が重なり合う事で生まれた妖精。
 その堅さはただの斬撃や銃弾などでは傷一つ付かない。

ガギィイ!!

「なっ!?」

 飛翔する斬撃を受け止め、あまつさえ彼は弾き返してみせる。
 その様に刹那が驚愕した瞬間、バロネスは彼女に向けてヨーヨーを放っていた。

「ッ!? (しまった!?)」

 既に回避不可能なところまでヨーヨーは迫っている。
 思わず目を閉じ、せめてその攻撃力を半減させる為に身を丸める。
 だが

「させないよ!」

ドン! ドン! ドン!

 冷徹な声と同時に火を噴く真名の拳銃。
 それは狙いを過たず、刹那に迫ったヨーヨーを叩き落とした。

「ちぃっ!」

 次いで向けられる二挺の銃口を避ける為、彼は木陰にダイブして身を隠す。
 遮蔽物代わりに背にしている木に何発かの銃弾が打ち込まれるが幸いな事に直撃は無い。

「クックック! 中々にやりやがる。これなら手加減はいらねぇか?」

 心底、楽しげに口元を緩めるバロネス。
 そして彼の隠れている木陰の目の前にシルキーのドアが現れた。

「ご苦労様だな。ありがとよ、シルキー」

 彼の労いの言葉にニッコリと笑いながら所望の品を差し出すシルキー。
 それを受け取り、身体に装着すると彼は誰に言うわけでもない呟きを発する。

「せいぜい……愉しませろ!!!」

 そして彼は木陰から飛び出していった。


あとがき
 紅です。
 時計の最新話をお送りしました。いかがだったでしょうか?
 教授の理不尽さが文章を通じて伝わっていれば幸いです。
 さてこの対決ですが、次回でさらに質が悪いモノになります。
 理由は原作二巻を知っている方は思い当たる節があると思います。
 ヒントとしては「怒りはパワーに作用するがテクニックを失う」という言葉でしょうか。
 これでどういう展開になるか分かる人は中々に通な方ですね。

 それでは皆さんからのご意見、ご感想をお待ちしております。

時計が刻む物語 時計が刻む物語 第十六話

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