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時計が刻む物語 第十六話(×足洗い邸の住人たち オリ有り) 投稿者:紅(あか) 投稿日:05/25-20:10 No.609  

時計が刻む物語
第十六話 『その男、最凶』


 背にしていた木からバロネスが飛び出す。

ガガガガガガガガガガガガ!!!

 同時に彼に放たれる銃弾の雨。

 限界ギリギリまで姿勢を低くしてその雨の中を駆け抜ける。
 だが彼の進路上にはまるで示し合わせたかのように自身の体躯とは不釣合いな刀を構える刹那の姿があった。

「(遠距離攻撃で俺の移動する方向を上手く制限し、トドメは確実に接近戦で……。なるほど。戦い慣れてやがる。連携も悪くねぇ)」

 冷静に相手の思考を読み取り、評価しながらも足を止めるなどという愚行はしない。
 ここで動きを止めれば間違いなく蜂の巣にされるからだ。
 恐らくそれも計算の内なのだろう。

 斬られるのを恐れて立ち止まれば銃弾の餌食。
 止まらなければ斬撃の餌食。
 ある意味で究極の二択。
 この二択以外の選択をしても結果はそう変わるまい。
 どう足掻いてもどちらか、あるいは両者の攻撃を受ける事になる。

 これはそういう戦略であり、罠なのだ。

 そこまで読み、バロネスは『自分ひとりでは確実にやられる』という確信を持った。

 昼間の『瞬動もどき』にはかなりの時間の『溜め』が必要であり昼間に使ってしまってまだ使えるほどに溜まりきっていない。仮に使えたとしてもこの窮地から脱するだけの距離を稼げるだけの移動はできない。
 自分の足では銃弾より早く動く事などできない。
 それなりの使い手だろう目の前の剣士の斬撃を避け切る自信も無い。
 正に八方塞がりだ。

 だが彼にとって『年下のガキ』である彼女らの罠に甘んじてかかる事は屈辱以外の何者でもない。
 よって諦めるという選択肢はありえない。

 ならばどうするか?

「叩き潰すだけだッ!! 
“ヨークシャーに現れる巨人の妖精!! その自慢の巨躯を貸し与え、俺の力としろ”!!!」

 右手の甲に装着された時計が淡い光を発する。
 刹那はソレを警戒しながらも腰を落としその腕、その手、己の一撃に全力を注ぐ。

「神鳴流……斬岩剣ッ!!!」

 横一閃に振るわれる轟剣。
 その一撃には確かに岩をも斬り捨てるだけの威力と閃きがあった。
 だが。

「“午後十一時の『鉄枷ジャック・右腕(ジャック・ザ・アイアーン・ライトアーム)』!!!”」

 身体に鉄の鎖を巻きつけ、いつしかその身体すらも鉄以上の硬度を誇るようになった巨人。
 彼から貸し与えられた右腕には。

ガギイイイ!!!

 僅かな傷をつける事しかできなかった。

「なっ!?」
「ウラァッ!!!」

 走ってきた勢いそのままにその同化した右腕をアッパー気味に振り上げる。
 例え気で強化された身であろうと、豪腕から放たれるその一撃と拮抗するには彼女の身体は華奢すぎた。

「がはっ!?」

 咄嗟に刀を引いて防御こそしたものの鳩尾に巨腕の一撃を喰らい、愛刀諸共に宙を舞う。
 だが彼はそれだけでは終わらせない。

「シェリーコート!! 行って来いッ!!」
「刹那! 避けろッ!!!」

 足に取り付かせていた貝殻の妖精を思い切り、蹴り飛ばす。
 真名の声が届くよりも遥かに速い速度で。
 そして身体を丸め、ボールのようになったシェリーコートは強烈な回転を維持したまま、吹き飛ばされた刹那の無防備な背中に突き刺さった。

「か、はっ……!」

 さらに高く飛ばされた刹那はやがて重力に従って落下。
 森の中へと消えていった。

「防御無視の力技から浮かせて追い討ち。名づけて『クラッシュ・コンボ(粉砕し尽す連続攻撃)』。これでまず一人」
「……恐ろしい攻撃だね。あんな攻撃をよく躊躇わずに出来る」
「バァカ。敵を攻撃するのに躊躇ってどーする。やるからには徹底的に。当たり前の事だ」

 未だ同化させている巨大な右腕を見せびらかすように軽く振りながら彼は真名に視線を向けて笑う。
 嫌な汗が体中から噴出すのを感じながら真名は銃口をバロネスに向けた。

「(刹那の事が気がかりだが……今はそっちを気にしている場合じゃないな)」

 下手をすれば自分も彼女の後を追う(死んでません)事になるのだから。

「さてあのチビの後を追わせる(しつこいようですが死んでません)前にてめぇにはニ、三、聞きてぇ事がある」
「……なんだい?」

 左手の指をパチンパチンと鳴らす。
 その余裕ぶった態度に真名は少なからず憤慨しながらもそれを表に出す事なく彼に先を促した。

「お前が俺を狙撃したんだよなぁ?」

 真名は無言で頷く事で問いを肯定する。

「そして俺はお前の誘いに乗ってここまできた……。なのにだ。直接、用があったのはあのチビの方だった。お前は『俺をおびき寄せる役』をこなしただけだ。それはつまりお前自身にはこれといって俺と関わる理由はなかったって事でいいのか?」

 またも頷き肯定する。
 厳密には彼に関して『知りたい事』があったのだが自分の身を守る事を最優先にした『今の彼女』は既にソレを思考から排除していた。

「ならなんでお前はあのチビに手を貸した? 友情か? それともなんかの打算か?」
「手を貸してくれと刹那に依頼されたからだよ。少なからず報酬ももらったのでね」

 淀みなく、仕事人としての回答をする真名。
 その言葉にバロネスは眉間に皺を寄せた。

「あー? 依頼だ? ……つまりアレか? お前は仕事人を『自称』してるわけか?」
「そうだが? 何か問題でもあるのかい、先生?」

 自称という辺りに棘を感じながらも肯定する。
 すると彼の表情が歪んだ。
 嘲笑の形に。

「クックック! 大有りだ、このド三流が!!」

 その侮蔑しか篭もっていない言葉にさすがの真名も眉を潜めた。

「どういう意味か聞かせてもらえるかな?」

 怒気の篭もった硬い声を軽く流しながら彼はそれでも笑みを浮かべて話し始めた。

「そのまんまだよ。依頼人があんな目にあってんのに何してんだ、お前? 
黙って見てたよなぁ? 仕事人が優先する事柄ってのはよぉ。
一に『自分の命』、ニに『報酬を支払う依頼人の安全』、三に『依頼された仕事』。この三つが鉄則であり絶対だッ!! 
これすら守れねぇヤツは三流、いやそれ以下!! だから言ってるんだよ。てめえは三流だってなぁ」

 バロネスの辛辣な言葉。
 だがその言葉を受けて、彼女の頭は急激に冷えていった。
 仕事人としての彼の言葉は確かに『その通りだ』と納得させるものだったからだ。

 自分の命を守れなければ仕事は完遂できない。
 依頼人が無事でなければ報酬はもらえない。
 依頼を完遂できなければ報酬はもらえず、信用もされない。

 それらの一つでも欠けてしまえば仕事人は成り立たない。
 そういう意味で彼女は彼の言葉に共感し、納得した。

「あなたの言い分なら二番目が守れていないわけだね、私は。だから三流だ、と?」

 怒気は収まり、冷静さが戻った彼女は自分でも驚くほど平坦な言葉を発していた。

「いいや違う。……いや、確かに依頼人の安全を守れなかった事もある。
だが俺がお前を三流だと言ったのはもっと別な部分だ。お前、俺があのチビに追い討ちかけた時、なんで躊躇った?」
「なに?」

 声音に驚愕が混じる。
 どうやら指摘されるまで自分では意識してなかったようだ。

「お前はチビを助けにいくかどうか。あの瞬間、確かに躊躇い、迷った。正確にはほんの一瞬、チビを助ける為に『踏み込まなかった』。なんでだ?」

 真名の胸の鼓動が早くなる。
 それは恋だとかそういう甘いモノで始まる動悸ではなく。
 
 子供が悪事を働いた事を親に隠した時。
 犯罪に手を染めた者が必死に証拠を隠蔽した後。
 そんな明るみに出てはいけない、したくない事が暴かれそうになった時の動揺から来る動悸だ。

「……さてね。敵であるあなたに教える必要はないと思うが?」
「まぁ、そうだな。俺も馬鹿正直に答えるとは思ってねぇよ」

 意外に素直な反応に真名の柳眉が寄る。
 この妙な素直さを逆に不気味なモノと取ったらしい。

「クックック! さっきの三流ってのは取り下げるぜ。感情の揺らぎを『ほとんど隠す』なんて芸当が出来るんだからな」
「……それは光栄だね。どうせならこの場をお開きにしてくれると良いんだが?」
「そいつは無理だ。半殺し……とまではいかないんだろうが、そのすましたツラに一撃くらい入れねぇと気が済まねぇ。誘ったのはそっちだろうが」
「……」

 真名は無言で両手に持っていた拳銃を軽くクロスさせる。
 その銃口は勿論、バロネスに向けられている。

 彼女は察していた。
 既に自分が彼の術中にはまっている事を。

 先ほどの『躊躇い』、『迷い』というくだり。
 あれは彼の『揺さぶり』だ。

 助けようとしたはずなのに。
 『口』は動いても、『心』が命じても、『身体』が動いてくれなかった。
 ほんの一瞬、それこそ瞬きでもすれば見逃してしまうようなほんの僅かな『隙』。
 それに目の前の男は気付き、あろう事かその奥にある自分の禁忌にまで踏み込もうとしてきたのだ。

 見抜かれた事よりも、ソレを暴こうとしてきた事に、彼女は動揺していた。

 それは小さな波紋だ。

 だが断続的に訪れるその波紋はやがて規模を増し、水面の揺らぎを強く、大きなモノにしていく。
 制御しようとすればするほどに。

 そう。彼女は一瞬とは言え、彼の言葉で頭によぎらせてしまった。

 自分の大切な人。
 彼の隣で笑う自分。
 そして……死んでしまった彼の事を。

 それが彼が投げかけてきた波紋。

 現実的且つ達観した性格をしているが、それでも彼女は十四歳の少女だ。
 一度、意識してしまった懐かしくも儚い残酷な思い出はそう簡単には消せはしない。

 その波紋は彼女の心という名の水面に広がり、その集中を僅かに、だが確実に乱していた。

「感情は隠せてもソレの制御まではできないらしいな、お前……」
「どういう意味だい?」

 自分の内心を見透かしたようなセリフに自然と彼女の視線がキツイものになる。
 バロネスは何もわかっていない彼女の言葉に肩を竦めるとこう言った。

「注意力散漫ってヤツだ」

ギュルルルッ!!!

 彼の言葉を引き金に真名の背後の林から突然、出現するシェリーコート。
 反射的に背後を振り返り、回転しながら迫る硬球を銃をクロスさせて受け止める。
 だがそこまで行動をしてしまってから彼女は自分がまんまと罠にかかった事に気付いた。

「しまっ……!」
「遅いぜ」

ガシィイイイ!!!

 その巨大な右腕が真名の腰を鷲掴む。
 そして。

「ウラァアアアアアア!!!」

 大きく振りかぶり、全身をバネのようにしならせ彼は真名を投げ飛ばした。

「くッ!!」

 地面を転がりながら、なんとか受身を取る。
 だが彼女が立ち上がり、体勢を整えるよりも彼の一手の方が速い。

「シャァアア!!!」

 獰猛な叫び声と共に迫るのは黒光りするヨーヨー。
 目の前でパカッと音を立てて割れるソレは彼女に悲鳴を上げる間すら与えなかった。

「爆発する! 二十一時の『ウィル・オ・ザ・ウィスプ』!!!」

バゴォオオオオオオオオン!!!

 一瞬、早くその場から飛び退いていた彼女は爆風に煽られながら背後にあった木に激突。
 肺に溜まっていた空気を全て吐き出し、背中に激痛を伴いながらもまだ軽傷だった。

 これに驚いたのはバロネスだ。

「(まさか即興で作ったとは言え、俺のコンビネーションを受けてあの程度で済むとはなぁ。末恐ろしいヤツだ……)」

 バロネスからすれば彼女はまだまだ未熟だ。
 だがだからこそ……未熟だからこそその能力は伸びるのだ。
 
 木に背中を預けたまま荒い呼吸を必死に整えようとしている彼女に歩み寄る。

 お互いの距離が一メートルにも満たない所で彼は立ち止まった。
 別に彼女がこちらに向けている銃口を恐れたわけではない。

 それ以上、近づく意味がなかったからだ。

「終わりだ」
「……そう、ですね。確かにもう勝負は……ついてしまった」

 震える腕から銃を落とし、糸の切れた人形のように腕を地面に降ろす。
 もう彼女には戦闘を続行するだけの力は残されていなかった。
 頭を強く打ったらしく、意識も朦朧としているようだ。
 目の焦点も合っていない。

「これに懲りたら二度と俺にチョッカイ出すな。あいにくと二度も三度も情けをかけてやる程、俺は甘ちゃんじゃあない」
「……言われ、なくても……こちらから、遠慮……させて…もらいますよ…………」
「フン。わかりゃいい。じゃあな。
 (まさか喧嘩を売ってきた相手を見逃してやるなんてなぁ。どんだけ丸くなってんだ、俺は?)」

 もう用件は済んだとばかりに彼は真名に背を向けた。
 背後では苦しそうだった彼女の呼吸が一定のリズムを刻み始めている。
 気絶か、失神か。
 とにかく意識を失ったのだという事だけはバロネスにもわかった。

「半殺しには程遠いが……まぁ面白そうなヤツを見つけたって事でチャラか」

 それなりにすっきりしたらしく、鼻を鳴らしながら満足げに頷く。
 あれだけの戦闘を行ったすぐ後にこんなセリフが口から出る。
 ある意味、悪魔より悪魔らしいと言えるだろう。

「『ヘルラ』を呼ぶ必要はなかったか。 まぁいいだろ」

 気絶した真名と刹那が伸びているだろう方を交互に一瞥し、肩を竦める。

「温存するに越したこっちゃねぇしな。さぁてとっとと帰るか」

 そう言ってここに来た道を戻ろうと歩を進めた瞬間。
 彼の眼前を気の斬撃が通り過ぎていった。

「ほう? もう目が覚めたか」

 心底、意外そうに視線を動かす。
 そこには刀を杖のように地面に突き立てながらバロネスを睨む刹那の姿。

「龍宮に、何をしたんですか……」
「何をした? 戦闘に決まってんだろ。で、俺が勝った。それだけだ」

 チラリと木に横たわるように気絶した真名を見やる。
 見下した視線で、口元には馬鹿にしたような笑みを張り付けて。
 勿論、その行動が刹那の怒りを煽る結果になると知りながらのあからさまな挑発である。

「教師でありながら無闇に人をいたぶるなんてッ!!! あなたはそれでも!!」
「あーー? 人間だぜ? というかだ。ソレはお前には言われたくねぇよ。フェザーピープル(翼人種)」
「なっ!?」

 怒りに任せた糾弾すら止まる。
 彼女の頭が一気に冷め、その顔色は先程までとは真逆に真っ青にすらなっていく。

「知って、いたんですか?」
「背中の羽の事なら、俺が赴任したその日に一見で気付いてたが? やっぱ隠してるのかぁ? 面倒な事してやがるなぁ。クックック!」

 バロネスには目の前で俯く少女が面白くて仕方ないらしい。
 それは正に新しい玩具を手に入れた子供の目だ。 

「生まれってのはどう足掻いても変えられねぇ。人間に生まれたらなどう足掻いても人間。妖怪として生まれたならどう足掻いても妖怪。悪魔として生まれたなら当然、悪魔。それは不変だ」
「……何が、言いたいん、ですか」

 突然、始まった講義に搾り出すように、か細い声で刹那は問う。

「変えられねぇモンに縛られてるてめぇはカスだって話だよ、半端者」

 その言葉に。
 『半端者』という単語に、彼女の中にあったあらゆる感情が吹き出した。

「きッさまぁッ!!!!」

 怒りに我を忘れ、痛む身体を押して駆け出す。
 一足飛びで両者の距離を詰め、杖にしていた愛刀で斬りかかる。

 だが真っ正直に打ち込まれた攻撃ではいくら早くとも対応する事は容易い。
 容易くさせるだけの経験を彼は積んできているのだから。

「クックック! 
(効果抜群だな。どうやら図星らしい。お蔭で動きはさっきより格段に速くなった。だが逆に動きそのものは単調になってやがる。テクニックを無くしたな……)」


ガギィイイン!!!
 
 振るわれる刃を左の巨腕で受け止める。
 金属同士が軋み合う音を発するこの瞬間、刹那は次いで来るだろう右腕を警戒して地を蹴った。

 冷静さを欠いていてもそれだけの行動が取れたのは日頃の鍛錬と仕事上の経験によるモノだろう。
 だが彼女は彼の口からボソボソと呟かれていた『呪文』を聞く事だけは出来なかった。

 その巨腕ですら届かないだろう位置までの高い跳躍。
 そしてそれだけの高さから気の斬撃を放つべく刀を構えた瞬間。

「“午後九時の『ボーンレス(骨無し)”』」

 彼女の身体をバロネスの腰の時計を介して出現した『湿った羊の皮のようなモコモコした何か』が包み込んだ。

「なっ!? なんだ、これは……」

 身体は愚かその刀までも包み込まれ、身動きがとれずにそのまま落下する刹那。
 そして下にはこれ見よがしに巨腕を振り上げているバロネス。

「バァカ。攻撃は後々の事も考えてやれよ。相手に読まれるようじゃ駄目だ」
「くそおおおおおおお!!!!」

 自由落下してくる彼女を嘲りながら助言めいた言葉を残し。
 彼は自分を睨みつけて悔しさに絶叫する彼女の身体にその巨拳を叩きつけた。

ゴガァアアン!!!

 そんな轟音を最後に彼女の意識は闇に飲まれていった。


「戻れ。ボーンレス、シェリーコート、鉄枷ジャック」

 少女の身体を包んでいたモヤのような妖精と今回の戦闘の功労者たる貝殻妖精、そして己の両腕と同化していた妖精を元いた場所(妖精邸)に還していく。

 だが彼はそこで警戒を解いたわけでは無かった。

「クックック! おい、出てこいよ」

 ガサガサと周囲の木々がざわめく。
 それらの間からヤツらは姿を現してきた。

 赤褐色の肌を持ち、上半身をさらけ出した野人の群れ。
 だが人目見てそれが人ではない者たちだとわかる。
 何故ならその肌の色は言わずもがな、その者たちの頭部には人間には無いはずの『角』があったからだ。
 人はそういう存在の事を『鬼』と称していた。
 その鬼にバロネスと気絶している二名は囲まれていた。

 バロネスは知らないが、この鬼たちは学園内に潜入したとある組織『関西呪術協会』の尖兵が放ったものである。
 彼は同士討ち(あくまで尖兵からの視点)をしていた彼らを仕事の行き掛けの駄賃にすべくこうして機会を窺っていたのだ。

「『何者』で『何が目的』か。……なんてのは聞くだけ野暮だな。クックック!!! シルキーに用意してもらったのが無駄にならないで良かったぜ」

 彼はそんな些細な事を気にする人間ではないのでこの説明には余り意味がないのだが。

 懐から取り出す一枚の時計。
 彼はそれを掲げながら呪文を唱えた。

「“古代ブリテンに名を馳せた王よ。月日の果てを駆け続けた亡霊の騎士よ。偉大なる我が盟友よッ!! 約定に従い、轡を並べて戦場を駆け抜けろ!!” 
祝福受けし十三時の『キング・ヘルラ(ヘルラ王)』!!!」

 掲げられた時計が眩い光を発し、夕闇に染まりつつある世界を照らし出す。
 その青白い輝きの中から、黒馬に跨った騎士が威風堂々としたその姿をこちら側に現した。

「我が盟友よ。今こそ約定を果たそうぞ」

 重々しい威圧感を伴ったその声にバロネスは笑みを湛えながら頷く。
 それを合図に彼の騎士は黒馬を駆けさせ、腰に佩いた剣を抜き放つ。
 眼前の敵を滅ぼすために。

「我が剣の冴えをしかとその目に焼きつけるが良い」
「俺も忘れるなよ、雑魚ども。ああ、それとなヘルラ、そことそこで寝てる愚民は死なせるなよ? 俺が違約金、支払わされるから」
「心得た。民を守るのもまた王であり騎士である我が勤め……」
「頼もしい限りだ。さぁ、てめえらの時間を片っ端から止めてやるぜぇ!!!」

 その腰に取り付けられたヨーヨーを手で玩びながら口元を歪めるバロネス。
 そしてこの何の変哲も無い野原は圧倒的な殺戮の宴の現場と化した。

 この後、鬼たちを召喚した術者は森の中で黒焦げになった上に全身傷だらけの状態で発見された。
 学園長の指示で戦いが行われた現場に赴いたタカミチと魔法関係者たちは、小規模のクレーターや粉々にされた木々が散乱した現場に亜然としたという。
 横たわっていた刹那、真名は彼らが発見、保護したがその場に良い意味でも悪い意味でも功労者であった『時計屋』の姿はなかった。

 召喚者をぶちのめした後、彼は最低限の連絡を済ませるとさっさと自宅に帰ってしまったからだ。

 コレ以降、刹那がバロネスをまるで親の仇を見るような目で睨むようになるのだが当の本人はまったく気にしていない。
 

あとがき
修正話を送りました。紅です。
えーっと皆様からのご指摘を受けて、この話を改良しました。
主に真名に関わる部分を改良しましたのでご意見をくださった方々にはぜひとももう一度ご覧いただきたいと思っています。
そして出来れば修正されたこの話に関する感想もいただけると嬉しいです。
次の話の改修は少し遅れそうですがなんとか今日中に済ませようと思っています。
それではまた。次の機会に

時計が刻む物語 時計が刻む物語 第十七話

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