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時計が刻む物語 第十七話(×足洗い邸の住人たち オリ有り) 投稿者:紅(あか) 投稿日:06/06-11:07 No.686  

時計が刻む物語
第十七話 『価値観の相違、意見の違い』


 刹那を心身ともにズタボロにし真名を痛めつけ、関西からの潜入者を瀕死にした二日後。
 バロネスは学園長に呼び出されていた。

 いつもの通り、彼はノックもなしに学園長室に入る。
 一斉に彼に注がれる十数対の視線。
 その友好的ではない視線を欠片も気にせず、彼は両手を組みその上に顎を乗せた姿勢でこちらを見る老人に声をかけた。

「よぉ。来たぜ、じじい」
「うむ。相変わらず時間には正確じゃな。よく来てくれた、バロネス君」

 何人かの視線が一層、厳しくなる。
 礼節をまったく感じさせない彼の態度に気分を害したのだ。

「呼び出した訳を聞こうか? 二日前の件なら報告したはずだぜ?」

 さりげなく右手で自分の左手を擦りながら、彼は周囲に居並ぶ仏頂面をした『魔法』学生、『魔法』教師らに目を向ける。

「聞きたい事と言うのはのぉ。……刹那君の事じゃ」

 軽い言い回しの中にどこか威圧的な気配を感じさせながら問う老翁。
 周囲の人間の視線を一身に受けながら、バロネスは首をかしげて問い返した。

「あーー? 誰だ、そいつ?」

 断っておくが彼は百パーセント本気(マジ)である。
 基本的に彼は覚えようと思った人間の名前以外は覚えない。
 真名と刹那は彼にとって『通り魔1、2』と認識されており、その特徴も『チビ』、『二流』で捉えている。
 しかも二人揃って『コンビ・通り魔』などと言う不名誉極まりない覚え方をしているのだ。
 名前など遠い彼方なのである。
 なにせ自分の受け持っているクラスの名前も未だ名簿を見ながらでないと言えないのだから。(何人か例外はいるが)

「……一昨日、君が倒した女生徒二人のうちの一人じゃよ。自分の身の丈ほどの刀を使っておる子じゃ」
「あーー、なんだ。チビか。半殺しで留めてやったんだが不服だったのか? そういや昨日、今日と欠席してた気がする……」

 学園長の細かい説明でようやく自分の記憶の中からその存在を掘り起こす。
 しかしその後の彼の言葉に、居並ぶ教師の一人が声を上げた。

「学園長! この男は危険です!! 仮にも味方である人間を攻撃し、その挙句が『半殺しで留めてやった』などと!! すぐにでも処罰、いえこの学園から追放するべきです!」

 褐色肌のいかにも生真面目そうな風貌の教師『ガンドルフィーニ』の言葉を皮切りに他の者も次々と抗議の声を上げる。
 口を開かなかったのは彼の性根を既に知っている二人、学園長とタカミチだけだ。
 そんな『その他大勢』の放つ『雑音』を五月蠅そうに聞き流しながら、バロネスは学園長にのみ視線を送る。

「で、何がしてぇんだ? まさかその程度の事を糾弾する為だけに俺を呼んだのか?」
「自室で養生しておった彼女に尋ねたんじゃが答えてくれんかったんでの。君に二日前の事態の推移を聞きたかったんじゃよ」
「はぁ? もう一人の……あーー、銃女に聞きゃいいだろうが」
「聞ける事情は既に聞いておる。問題は彼女が気絶した後の話じゃ」
 
『その程度の事』という言葉により、さらに険悪になる空間。
 だがこの場を設けた老人はこの空気をまるで気にする事無く彼の質問に答えて見せた。
 年の功とはよく言ったものだ。

「ああ、そういや途中で寝たんだったな、アイツ。ったく面倒だがまぁ仕方ねぇか」
「なっ! それが学園長に取る態度か、貴様ッ!!!」

 彼のおざなりな態度に、もはや怒髪天を突かんとばかりに顔を真っ赤にして怒りを顕わにするガンドルフィーニ。
 思わず、バロネスに掴みかかろうと腕を伸ばす。
 だがそれは横合いから伸びた別の人間の腕にやんわりと押し留められた。
 バロネスはガンドルフィーニには目もくれず、先ほどから交互に自分の腕を撫で擦っている。

「……高畑先生」
「ガンドルフィーニさん、抑えてください」

 静かな口調で窘められ、彼の頭は急激に冷えていく。
 そして短絡的な行動に移ろうとした自分を恥じ、無言で引き下がった。

「話の腰を折って済まなかったね、バロネス先生」
「フン。てめぇが謝る事じゃねぇんだがなぁ。まぁいいだろ。で……二日前の詳細だったか?」

 そして彼は包み隠さず、何の脚色もせずに事実のみを報告した。


 狙撃された事。
 二人と対決した事。
 先に真名をぶちのめし、その後で刹那を相手にしたこと。
 二人を叩きのめした後、出てきた妖怪どもとその術者をギリギリ死なない程度にぶちのめした事。


「……刹那君と一対一になった時、何か言ったかの?」

 話を終えた彼に向けられたのは端的な疑問の言葉だった。
 どうにも腑に落ちない。
 そんな言葉が似合う表情をしながらその言葉は放たれていた。

 学園長が見た彼女の様子は明らかに勝負に負けた『だけ』のモノではなかった。
 刹那は唇を噛み締めながら自分の身体を掻き抱くようにして俯いていた。
 その姿からわかったのは『深く心を傷つけられた』という事実だけ。
 勤勉で真面目で、それでいて真っ直ぐな気性を持つ彼女はただ負けた悔しさだけではああはならない。
 
「あーー? 『半端者』っつったな、確か」

 居並んで話を聞いていた魔法関係者たちが息を呑む。
 どうやらここにいる面々は『彼女の事情』を知っている様子だ。
 人と妖(あやかし)の狭間に揺らめく彼女の境遇を指すその言葉の意味も。

「……ソレを言われた彼女はどうなったんじゃ?」
「わかりやすく激昂してくれたな。お蔭でやりやすかったぜ。あの程度の揺さぶりで前が見えなくなるようじゃその内、死ぬだろうよ。もう一人は……まぁ及第点だったな。少し揺さぶってやったが、取り乱しはしなかった。まぁ心中穏やかじゃぁいられなかったみてぇだがな。クックック!」
「フム……そうか」

 立派に生えた顎髭を撫でながら、なにやら考え込む学園長。

「……あんなガキどもに仕事任せてんのか? 人材不足にも程があんぞ」
「彼女たちは優秀です。今回のような『卑劣な手段』を使われなければそう簡単にやられはしません」
「フン」

 白スーツを完璧に着込んだ美丈夫『刀子』の静かで平坦な口調の言葉をバロネスは鼻で笑う。

「卑劣? 弱みなんぞ見せるヤツが悪いんだよ」
「……確かにあなたの言う事は戦場の理からすれば正しいでしょう。ですが仮にも貴方は教師であり、彼女らは生徒です」

 彼のやぶ睨みの視線に屈する事無く彼女は言葉を紡ぐ。
 バロネスは黙って彼女の言葉を聞いていた。

「護るべき者たちに無闇に振るわれる力を是とする事は私たちには出来ません。力の在り方、使い方は確かに人それぞれでしょう。ですがこの学園都市での力は『護るためのモノ』です。ここに来て日が浅かろうと、学園長との個人的な契約でこの場にいるのだろうと。だから『好き勝手に振舞って良い』と言う事にはなりません」
「ほーー。言うじゃねぇか。つまりはあれだな? 郷に入っては郷に従えって事だな?」

 彼の解釈を無言で肯定する刀子。
 
「貴方の言っている事は確かに正しい。だがそれを実践する相手は間違っていると僕は思うんだが……?」
「いきなり攻撃してきた相手を精神的に殺すには、これ以上ない手だと思うんだがな。……というかお前らよぉ、一回体験してみろや。帰り道に意味もわからず狙撃されるって理不尽な仕打ちをよぉ」
「そうされる前にしっかりと彼女らの言葉に耳を傾けるべきだったんじゃないのかい? あなたは教師だろう?」

 静かに睨み合うタカミチとバロネス。
 ピリピリとした緊張感が室内を満たし、先ほどまで口出ししていた他の魔法関係者たちが沈黙する。

「そこまでじゃ、二人とも」
「……ハイ」
「……チッ」

 数瞬の間を置いてタカミチとバロネスは引き下がった。

「バロネス君。君が『今まで生きてきた世界』での常識や価値観はここでは通用しない事が多々ある。それは理解しておるか?」
「ああ。それはよぉくわかる。だがな、二十年近く『あんな世界』にいると頭じゃわかっていても身体と心の根っこの部分が言う事を聞かねぇんだよ」

 不遜な態度のなかに僅かに自嘲が混じる。
 そんな彼がその場にいた数人には疲れ果てた老人のように見えた。
 本当に僅かばかりの人数ではあるが。

「フム。君の事情は知っておるが、それでも生徒二人に怪我をさせたのは事実じゃ。こちらのルールに則り、君を処罰せねばならん」
「やーれやれ……。まぁしゃあねぇな。雇い主には逆らえねぇ」

 肩を竦め軽く息を吐く。
 居並ぶ関係者たちの注目を一身に浴びながら学園長は彼への罰を口にした。

「一週間の魔法、それに類するモノの行使の全面禁止。授業は行ってもらうが買い物などの個人的外出には必ず魔法関係者を付き添わせる事。君には監視役の使い魔を付けさせてもらう。
そしてもしもこの期間内に禁を破った場合、君の魔法に関する記憶を全て消去した上でこの学園都市から永久追放させてもらう」
「フン。ずいぶんと寛大で軽い処置だな。それじゃ他のヤツに示しがつかねぇんじゃないのか?」

決定に不服そうな顔をしている何名かの関係者を揶揄しながら聞く。

「まぁこっちの世界に馴染む為の期間も兼ねておるからの。あまり拘束期間を長くしても意味がないのじゃよ」
「なるほどねぇ。つまり監視役にこっちの常識を教われって事か。なんて情けねぇ立場だ」
「そう思うんじゃったら問題になる行動は慎んでほしいのぉ」
「へいへい。わかったよ、狸ジジィ」

 話は全て終わったのだと察した彼はそのまま踵を返すと学園長室を出て行く。
 無言で見送る十数対の視線に晒されながら、それでも彼は来た時と同様に礼節など微塵も感じさせずに出て行った。

 彼が出て行った後、中でどんなやり取りが行われたのか。
 既に退室した彼は知るはずもなく、また興味がなかったので知る気も無かった。


 昼休み。
 食事を終えた彼は辺りを適当にぶらついていた所を美空に見つかっていた。

「暇人だな、お前」
「いやいやいや。やる事なくてぶらついてるバロネス先生には言われたくないっすよ」

 学園内に点在するベンチに二人が腰を降ろして既に十分。
 他愛もない世間話に花を咲かせていた彼らの今の話題は二週間ほど後に控えていた期末テストについてである。
 この微妙な組み合わせに先ほどから通りがかりの生徒や職員が視線を向けているのだが彼らに気付いている様子はない。

「……確かウチのクラスは二年連続で学年最下位だったか? トップレベルが3、4人いるのになんでまたそんな事になってんだ?」
「あ、あははは……。まぁなんつーかトップを補って余りある馬鹿がいるからなんですけどねぇ。知りません? 2-Aが誇るバカレンジャー。それに他の人たちもあんまり良いとは言えないし……」
「良くも悪くも突出しているわけか。扱いづらいクラスにも程がある……グッ!?」

 突如、右腕に走る激痛に思わずうめき声を上げる。

「ど、どしたんすか!?」
「……気にするな。そして騒ぐな。特に騒いだら殺す」
「ラジャーっす。わかりましたからその目を合わせただけで殺されそうな目つきをするのはやめてください」

 両手を上げて降参の意思表示をする美空。
 そんな彼女に構う余裕もないのか、痙攣し始めた右腕を左手でむりやり押さえつける。

「(チッ、あれから二日経つってのにまだ反動(リバウンド)が残ってやがる……。やっぱこのままじゃ駄目だな)」

 ギラギラとした目で自分の今の限界に舌打ちする。

 彼の右腕の痙攣。
 これは一昨日の対決の際に使った『鉄枷ジャック』との同化に起因している。
 自分の三倍の大きさと重量を誇るだろう彼の者の右腕。
 それを自身の右腕に装着(融合と言ってもいいかもしれない)するという事は恐ろしい負荷が彼の身体にかかる事を意味していた。

 実際、鉄枷ジャックの右腕の重量は軽く百キロを越えている。
 想像してほしい。
 ただの成人男性が突然、百キロ以上の重さの鉛球を渡されればどうなるか。
 突然かかった恐ろしい負荷に耐え切れずに鉛球を手放すか、諸共に地面を転がるだろう。

 バロネスはそれと同じ事を、しかも片手で体験したのだ。
 それも『決して手放せないよう』に自分の腕を触媒にして。
 普通なら負荷がかかった瞬間に筋肉が断裂してもおかしくはない。
 だが彼はその恵まれた身体能力と持ち前の強固な精神力で、第三者にそれを気取られる事無くあの場を切り抜けて見せたのだ。

 もし刹那や真名がこの話を聞いてもとても信じられなかっただろう。
 彼に『そんな素振り』はまったく見られなかったのだから。

『弱みを見せるヤツが悪い』

 この言葉は相手には勿論の事、自分にも向けられた言葉だった。

 痛みに顔を歪める、悲鳴を上げるなど『弱み』以外の何者でもない。
 そこを突かれて負けてもそれは『弱みを見せた自分のせい』。

 だから彼はそれを気取られないよう心中で悲鳴を上げながらも、身体の痛みと必死に向き合いながら彼女らを打倒したのだ。

 ちなみに昨日。
 彼は一日中、筋肉の酷使による極度の筋肉痛と戦いながら、傍目にはそんな事を微塵も感じさせずに授業を行っていた。
 ポーカーフェイスもココまで来ると神の領域である。

「(傷の治療よりまず身体能力の強化が必要だな。だがこっちの魔法の研究に着手するには資料が足り無すぎる。基礎知識を学ぼうにもどこから持ってくればいいやら……あ?)」

 なにやら思いついたのか横でこちらを見ている美空に視線を向ける。
 そのなんとも言えない視線に、彼女は頬を引き攣らせながら問いかけた。

「あ、あの~~、なんですかね?」
「お前、魔法関係者だったよなぁ?」

 明らかに何かを企んでいる声音の教授。
 自分の身にジワリジワリと迫っている危険を敏感に察知した彼女の行動は速かった。

「アデアット(来たれ)ォッ!!!! さ、さいならーーーー!!!!」

 懐からカードを取り出し、たった一言だけの呪文を唱える。
 カードが光に包まれて消えると同時に、彼女の足に装着されるのはなにやら真新しいシューズ。

「逃がすかァッ!!」

 彼女が駆け出し、バロネスは逃がすまいとヨーヨーを放つ。

 だが惜しくもヨーヨーは彼女の身体を掠めるだけに留まり、彼女は盛大な砂煙を巻き上げながら駆け去っていった。

「チッ!! 中々、いい逃げっぷりじゃねぇか。ネギとは違った意味でおもしれぇ」

 その鮮やかな逃亡ぶりに彼は舌打ちしつつも感心していた。

「アイツが駄目だとすると他には……いるじゃねぇか。条件次第で提供してくれそーなのが……」

 脳裏に浮かぶ金髪の少女の姿。

「クックック! そうと決まれば今日にでも行くとするか」

 痙攣の収まった右腕をぶらぶらと揺すりながら、彼は午後の授業に望むべく校舎目指して歩き出した。


 放課後

 授業を終わらせた彼は職員室で荷物をまとめていた。

「あれ? バロネス先生。今日はお早いんですね?」
「フン。これから用事があるんでな」

 君信のセリフに含まていた『探り』に鼻を鳴らしながら答える。

「はぁ……用事ですか? どちらに……?」
「不良生徒の家庭訪問だ。よりにもよって俺の授業をボイコットしやがったからな。それがどーいう事か思い知らせる必要がある」

 嘘と真実とを混ぜ込んだ上手い嘘をでっち上げ、邪笑しながら必要なものを入れた鞄を小脇にかかえて、職員室を出て行く。

「セルヒコよぉ。探りを入れるってのはもっと巧妙にやるもんだ。お前、破滅的に下手だぞ。向いてねぇ」

 そんな忠告とも挑発とも取れる言葉を残して。



あとがき
紅です
時計屋最新話をお送りしました。いかがだったでしょうか?
といってもこれは修正したお話なのであまり代わり映えはしないかもしれません。

まず展開が大幅に変わってしまいました事をこの作品を読んでくださった方々に深く謝罪させていただきます。
そして感想版で頂いたご意見の『他キャラの視点』が反映できなかった事も謝罪させていただきます。
また修正するかもしれませんがどうか長い目で見てください。

皆様からのご意見、ご感想を心からお待ちしております。

それではまた次の機会に。
これからももっと精進していきますのでどうかよろしくお願いいたします。

時計が刻む物語 時計が刻む物語 第十八話

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