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時計が刻む物語 第十八話(×足洗い邸の住人たち オリ有り) 投稿者:紅(あか) 投稿日:06/13-15:58 No.732  

時計が刻む物語
第十八話 『監視、接触、交渉……失敗?』


ピピピピッ!

 なんの個性もない機械的な電子音。
 彼女、『刀子』は敏腕のキャリアウーマン然とした雰囲気そのままの手馴れた手つきでスーツの胸ポケットに入れていた携帯を取り出す。

 着信者の名前に一瞬、眉根を寄せるが躊躇いはせずに電話に出る。
 電話をかけてきたのは学園長だった。

「何か御用ですか? 学園長……」
「おお、刀子君。繋がってよかったよ」

 どこか浮ついた(端的に言えばホッとしたような)口調で電話越しに話しかけてくる老人。
 その声に、何故か彼女は嫌な予感を覚えた。

 なにか厄介事を押し付けられるような、そんな予感だ。

 余談ではあるが学園長が彼女の携帯に連絡を入れる際の九割方が『裏』に関係する仕事である。残り一割は本人が暇な為に話し相手が欲しいというだけの理由でかけられている。
 つまりどう転んでも彼女にとってあまり良い事にはならないのである。

「ご用件はなんでしょうか?」

 心持ち、声を低くしながらの二度目の問いかけ。
 その声音に電話越しの彼も軽かった空気を消し去り、真剣な雰囲気に変わる。

「頼みと言うのは他でもない。バロネス君の事でな」
「……あの時の彼、ですか。正直、私は余り関わりたくないのですが」

 その人物の名で思い出すのは今朝のやり取り。

 不遜にして不敵。
 仮にもこの学園、いや関東全域の魔法使いの頂点に立つ学園長を前にしていると言うのにその立場の差をまったく感じさせない自然体な態度。
 集まっていた十人以上の魔法使いを完全に無視して話を進めるその傲慢とも取れる自己中心的な姿勢。
 そして人の心に容易く踏み入り、傷つける事の出来る一種、悪魔的とも言える残酷さ。

 どれをとっても自分とは相容れない。
 いやこの広い学園の中であっても彼と普通に接する事ができる人間の方が少ないだろう。
 そう彼女は考えていた。
 故に彼に関係する話には関わりたくないというのは彼女にとって掛け値なしの本音なのだ。

「フォフォフォ。やはり相当、嫌われているようじゃのぉ」
「当たり前です。今朝の彼の行動を見て、どう好意を抱けとおっしゃるのですか?」

 やはりどこか楽しげに笑う学園長に気分を害したのか彼女の声はさらに低くなる。

「それで……彼に関してという事でしたが一体どんなお話なんです?」
「ふぅむ。……いや、君がそこまで彼を嫌っておるならこの仕事は別の人間に回そう。ワシからかけておいて何じゃがこの電話の事は忘れてくれ」

ブツッ! ツー、ツー、ツー……。

「……」

 一方的に切られた電話を無言で眺める。

「(一体なんだったのでしょう?)」

 首を傾げるが切られてしまったのではどうしようもない。
 掛け直して聞き出すことは出来るだろうがせっかくあちらから引いてくれたのだ。

 元々、彼と関わる事を好ましく思っていなかった彼女は疑問を頭の隅に追いやると講義を丸々サボった『教授』を捜す為に歩みを再開した。

 この数分後。
 学園長から再度、彼女に電話がかかり一週間の間のバロネスの監視任務が命じられる事になる。

 ちなみに数分のタイムラグがあった理由はその一週間の間、彼を監視するだけの時間の空きがあり(ようは暇人)さらに実力のある人物らに監視の打診をしていたせいである。
 しかもその悉くが断られている。
 刀子自身、最初は渋っていたが「もう君しかいないんじゃ」と哀愁漂わせながら言われてしまい、本当に渋々ながら受け入れたのだ。

 これはバロネスが美空と談笑していた頃と同じ時刻の話である。


放課後。
 彼女はバロネスが不良生徒の家庭訪問に向かうという連絡を受けて、中等部校舎の正門まで来ていた。
 勿論、彼の言う『家庭訪問』に同席し、彼が何か問題を起こさないか監視する為である。

「………」

 正門前で、小型の掌よりも少し大きい程度にコンパクトな端末を操作しながら、じっと彼が出てくるのを待つ。
 怜悧な印象を与える美女である彼女が、人待ち顔で女子中等部に来ているという事実に周囲の関心が集まり始めている。
 遠巻きに眺めている学生の数は時間が経つほどに増えていく。
 だが彼女は自分が注目されているという事にはまったく気を配らずにただ目的の人物がやってくるのを待っていた。

 そして彼は彼女が連絡を受けたきっちり五分後、学園の中から姿を現した。
 それほど大きくもない鞄を小脇にかかえ、心持ち猫背になりながら歩くその姿は教師というよりは浮浪者じみている。

 彼はゆったりと歩きながら門の手前でこちらをじっと見ている女性に気付く。

「お前……あー、確か今朝、俺に反論したヤツ」
「……『葛葉刀子(くずは・とうこ)』です。これから一週間、あなたが下された処置を守れるかどうか監査させていただきます」
「ああ、監視役ってヤツか。まぁ邪魔しなけりゃなんでもかまわねぇよ。とっとと行くぞ」

 彼女の名乗りを適当に手を振りながら流し、歩みを再開するバロネス。
 おざなりな彼の態度に内心で腹を立てながら、それでも彼女は彼の後に続いてその場を去っていく。

 ちなみにその場で彼女らを見ていた野次馬たちはこの『ありえない組み合わせ』に驚愕を通り越して固まっていた。


「で、どちらに行くんですか? 家庭訪問と聞いていますが……」
「セルヒコに聞いたんだな? あー、俺の授業をさぼりやがった不届き者がいるんでな。ちっと教育してやろうと思ってよぉ」

 パチンパチンと指を鳴らしながら誰もが引くだろう邪笑を浮かべる。
 だが不届き者などという単語を使った割に彼のその様子は。

「(……楽しそうですね)」

 そう、実に楽しそうだった。
 こんな風に楽しげにされると何か企んでいるのではないかと勘繰ってしまう。

「その生徒の名前は?」
「クックック! エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル」
「っ!?」

 楽しげな様子の秘密は『生徒にあるのでは?』と思ってはいたがこの名前は彼女の予想の外だった。
 声にならない声で驚愕を表し、その目も普段にないほどに見開かれている。

「『闇の福音』の自宅に家庭訪問……そんな事をして一体どうするつもりですか?」

 声を荒げそうになる自分を必死に御しながら、平静を装い疑問を口にする。
 その目には目の前の男に対する疑念に満ち溢れていた。

「(彼女のボイコットは前からかなりの頻度であった事。それを追求する為だけに今更、家庭訪問など何かの口実作りにしか思えない。……いや、彼はココに来て一週間足らずしか経っていない。本当に知らないでただ自分の授業をサボられた事に腹を立てただけの可能性も。いや今朝のやり取りを見ればわかる。彼は相当に頭が切れる。必要な情報は事前に入手していると考えた方が……)」

 バロネスに怜悧な視線を向けながら、高速で思考を展開する。

「クックック! そう警戒すんな。『今日の所は』本当に家庭訪問だよ。
(あの女がこっちの提示する条件で頷くかはまだわからねぇしな)」
「今日の所は? ずいぶんと含みのある言い回しですね?」
「当たり前だ。含み持たせてんだからな」

 人を馬鹿にした笑み。
 刀子はその表情を見て察した。

「(こちらの反応を見て楽しんでいる)」

 熱しかけた思考を冷まし、自分に言い聞かせる。

「(こういう相手はこちらが取り合うから調子に乗ってくる。出来うる限り聞き流せ……そうしていれば向こうが興味を無くす)」
「なぁにを考えてるか、手に取るよーにわかるぜ? お前、無視を決め込もうとしてるだろ?」

 ずばり言い当てられ、一瞬だけ動揺する。
 だが投げかけられた小石は大きな波を立てる事無く、水中へと沈んでいった。

「フン。さて資料に書いてあった住所によればもうすぐそこのはずなんだが……」

 周囲を見回し、それらしい建物が無いか捜す。
 彼に倣い、彼女もまた周囲を見渡しそこでふと気付いた。

「(いつの間に、こんな所まで……)」

 そう彼の言った通り、この付近は学園都市内で最も危険視されている人物の一人『エヴァンジェリン』の住居のすぐ傍だ。
 だが彼女が問題にしたのはそこではなく、中等部からここまで二十分はかかる道程を進んできたはずであるという事実である。

 腕時計を見る。
 時刻は午後五時。
 確かに彼と共に正門を出てから二十分少しの時間が経過していた。

「(……彼との会話に集中する余り、時間の経過を忘れていたようですね。どうやら私もまだまだ未熟なようです)」

 軽いため息をつきながらこめかみを抑える。
 別に頭痛がするわけではないが、なんとなく落ち着く事ができた。

「おお、あったあった。あれだな」

 彼の声に振り返る。
 その指し示す方向を見やると森の中に隠れるように建っているログハウスを見つけた。

「さて、どんな言い訳を聞かせてくれるか……」

 鼻歌を交えながら、備え付けの呼び鈴を鳴らす。

カランコローン!

 小気味よい鈴の音が二人の鼓膜に優しく響く。
 音が鳴り止み、しばらくの間を挟むと。

「どちらさまですか?」

ガチャリ!

 抑揚のない声と共に外開きのドアが開き、メイド服を着た茶々丸が現れた。

「バロネス……先生? それに……葛葉先生も」
「よぉ、カラクリ。エヴァンジェリンはいるか?」

 メイド服を着たロボットが目の前にいるというのに突っ込むどころかそれを疑問視すらしないバロネス。
 恐るべき順応能力である。

「確かにおられますが……上がられますか?」

 茶々丸の言葉にニンマリと笑いながら頷く。

「おう、じゃあ入れさせてもらうぜ」
「……お邪魔します」
「どうぞ、こちらへ」

 茶々丸の先導で中に入る。
 そこにはなんともファンシーな世界が広がっていた。

「……人形だらけだな。ずいぶんと良いご趣味だ」
「これが本当にあの悪名高い魔法使いの住処、なのですか?」

 所々に置かれている人形、人形、人形。
 その辺のゲームセンターで取れそうな代物から市販されている物、やたらと凝った衣装の物。
 それらが並んでいる様はさながら見本市でも開いているかのようだ。

 しかし周囲を見渡しても人形たちが彼らを見つめるだけだ。
 肝心のエヴァンジェリンはどこにもいない。

「……カラクリ。お前のマスターはどこにいる?」
「マスターは二階でお休みになってます」
「ほう……」

 刀子は眉を潜めて、バロネスを見た。
 なにやら不穏な気配を漂わせながら、彼は二階へと続く階段を見つめている。

「俺の授業をサボっておいてあろうことかご就寝中とはなぁ? こりゃよっぽどキツイ教育的指導がいるなぁ、おい……」

 ゴキゴキと腕を鳴らしながら、ゆっくりと二階への階段を昇っていく。
 だがその侵攻は彼の腕をしっかりと捕まえた茶々丸によって止められた。

「バロネス先生。マスターは熱と花粉症を患って、お休みになっています。どうか今はそっとしておいてください」
「はっ?」

 思いがけない単語に彼の侵攻が止まる。
 そして茶々丸の顔をマジマジと見つめ、自分の耳の穴を小指でほじりながらこう言った。

「あーー、よく聞こえなかったんだが……花粉症? 熱? 吸血鬼がか? 吸血衝動による飢えとかなら納得できるんだが……。本当かよ、そりゃ?」

 無言で首肯する従者。
 話に入らないでいた刀子も、疑惑の視線で茶々丸を見つめている。

「とある魔法使いの方からかけられた呪いによってマスターの身体能力は十歳の子供と同程度にまで下がっています。それに病弱な方ですから……満月の日を除けば風邪くらいは引きます」

 抑揚のない声で淡々と話す茶々丸。
 そんな彼女の言葉を証明するかのように二階から僅かなうめき声と「チーン!」という鼻をかむ音が聞こえてくる。

「(どうやらマジらしい)」
「(本当のようですね)」

 情けなさを漂わせながら二人はそう確信した。
 ついでに言えば、初めて二人の心中が完全に同調した瞬間である。
 まったく価値観の違う二人の心が完璧なユニゾンを見せるほどに、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルはとてもとても情けなかった。

「はぁ~~、なんつーか常識が一つ覆されたな」
「……以前、学園長が話していた『彼女は滅多な事では害にならない』というのはこういう意味だったのですね。納得はできましたが……なんとも拍子抜けです」

 どうやって交渉を成功させるかと意気揚々としていたバロネス。
 最悪の場合、エヴァンジェリンとバロネスを敵に回す覚悟を持って緊張を保っていた刀子。
 二人の心情はこうして情けない吸血鬼に粉微塵なまでに粉砕されてしまった。

 そしてそんな彼らがエヴァンジェリン宅を出て行くのにそう時間はかからなかった。


「お気をつけて……」

 茶々丸の無機質な見送りを受けながら来た道を歩く二人。

 時刻は午後五時半。
 彼が予想していた時間を遥かに上回る時間帯での撤収だった。

「チッ、まさか病弱なんて弱点があったとは。肩透かしにも程があるぜ」

 誰に言うわけでもなく毒を吐く。
 文句を言いたくなるその気持ちは刀子にもよくわかった。
 何か企みがあって門前払いされる方がまだマシと思えるほどに見事に思惑を外されたのだから。
 緊張していた自分が馬鹿らしく思えてくるという意味で刀子はバロネスと同じ気持ちだった。
 だからといって隣を歩く『危険人物予備軍』と素直に話をあわせるつもりはないのだが。

「やはり不良生徒への厳重注意とは別に何か狙いがあったのですね?」
「フン、まあな」

 あっさりと刀子の確信に満ちた言葉を肯定する。
 そのあっけなさに彼女は内心で疑念を強くするとさらに詰問を重ねた。

「あなたは彼女に何をしようとしたのですか?」
「魔法に関する情報を教えてもらう為の交渉」

 端的且つ無駄のない回答。
 彼は簡潔に自分の目的を話したつもりだった。
 だがその言葉の示す意味が彼女には、いや『この世界の魔法使い』にはわからなかった。

「魔法に関する情報? あなたは魔法使いなのではないのですか? 貴方と戦闘を行った少女が無骨な鎧を纏う術や生きた貝殻、爆発するヨーヨーにしてやられたと言っていましたが……それは魔法ではないのですか?」
「……ココの連中ってのはどいつもこいつも魔法使いを『舐めてる』らしいな。いや……そうか。これが俺とこの世界の常識の差異ってヤツか」

 吐き捨てるようなセリフと共に彼は天を仰ぐ。
 既に日は暮れ、彼が見上げた夜空には星がチラホラ見えている。

「こりゃ予想以上に『学ぶ事』は多そうだな」
「……先ほどから何の話をしているのですか?」

 成り立っているようで成り立っていない会話にもどかしさと苛立たしさを感じる。

「ああ、そーいや質問に答えてなかったな。俺は『魔法使い』じゃねぇ。確かにお前が挙げた例は『俺の魔法』ではある。そう『俺だけの魔法』だ。だがそれだけだ。俺は一生、魔法使いを名乗るつもりはねぇんだよ」
「何故です? 魔法を使う者、それらを総じて『魔法使い』と呼ぶのではないのですか?」
「これは俺の矜持で誇りだ。お前らに分かるヤツなんて早々いねぇだろ。言っちまえば自己満足みてぇなものなんだからな」

 刀子の数歩先を歩きながら、何が面白いのか彼は笑う。

「だから聞くな。俺に教える気はねぇ」

 彼女の目を真っ直ぐに見つめながら彼は最後にこう言った。

「少なくとも信用も信頼もしてねぇヤツにはな」

 告げられたその言葉の重さに刀子の足が止まる。
 バロネスは彼女が立ち止まった事など気にも留めずに歩を進めて去っていく。

「何故、あなたはそこまで我々に対して『攻撃的な態度』を取るのですか?」

 囁くように呟いたその言葉は遠く離れてしまった彼の耳には届かない『はず』だった。
 だが彼は数メートル離れた所で彼女の方を振り向くと声には出さず、唇だけを動かした。

「そうしなけりゃ生きていけない世界にいたんだよ」

 それだけを告げると彼は今度こそ踵を返し、その後は二度と立ち止まる事はなかった。


 こうして彼への罰、その一日目は問題なく終了した。

 この七日間が彼にもたらす物とは?
 そして監視役である彼女が知る事になるバロネスの心情とは?
 今は誰にもわからない。

 彼の罰が終了するまであと『六日』。


あとがき
皆さん、少し振りです。紅です。
前回、皆さんから受けましたご指摘を参考に今回は刀子をメインに添えて話を展開しましたがいかがだったでしょうか?
ああ、彼女の苗字である『壬柴』はでっち上げです。彼女は名前だけしか公表されていないようなので名前に合うように考えました。
さてこれからしばらくはバロネスと刀子を主軸に話を作るつもりです。
と言ってもそれほど長く続けるわけでもありません。
恐らく二話ほどだと思います。
また同じようなご指摘を受けないよう、全身全霊で執筆に当たらせていただきますので皆さん、今後ともよろしくお願いします。

皆さんからのご指摘、ご感想を心からお待ちしております。

時計が刻む物語 時計が刻む物語 第十八・五話

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