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時計が刻む物語 第十八・五話(×足洗い邸の住人たち オリ有り) 投稿者:紅(あか) 投稿日:07/04-00:29 No.863  

時計が刻む物語
第十八・五話『バロネスの平穏な(?)監視生活』


 バロネスが処罰を言い渡され、刀子の監視下に置かれてから既に三日が経過していた。

 今日は日曜日。
 大人も子供も大部分が休息を楽しむ事ができる数少ない日である。

 何事にも例外が存在するのだが。

 バロネスの幽霊邸への道を一人で歩いている彼女、刀子もその例外の一人である。
 白木ごしらえの長物を携えて歩くその背中にはなんとも言えない哀愁が漂っていた。

「(……まさか休日まで拘束されるなんて。だから皆さん、必死になって断っていたんですね)」

 その心中は後悔で埋め尽くされている。
 まさか日曜日まで監視の対象になるとは思わなかったのだ。

 しかしよくよく考えれば当たり前の話である。

 監視対象である彼は危険人物一歩手前の扱いを受けており、その行動には細心の注意を払わねばならないのだから。
 式紙や使い魔による常時の監視があるとはいえ、頭の切れる彼ならばそれらの目を誤魔化す手段を有していてもおかしくはない。
 最も信頼できるのは自分の目であるというのは一般人であろうと魔法関係者であろうとそう変わる事ではないのだ。

 彼女は真面目である。
 故にどんな経緯であれ任された仕事をこなすのは当たり前の事だと認識している。

 だが。

「(せっかくの彼とのデートを不意にしてしまった……。ううう、なんで私がこんな目に)」

 誰にでも優先したい事柄というものはあるものだ。
 『バツ1』でもうすぐ『三十路』を迎えてしまうというある意味、人生の瀬戸際に立たされている刀子の機嫌は今、最高に悪かった。
 哀愁の上にさらに哀愁を重ねながら彼女は『監視対象』の自宅へと歩を進めていくのだった。


「さて……せっかくの休日だからな。ちっと色々と回ってくるぜ」

 スーツを着崩したいつも通りの格好で玄関のドアノブに手をかけるバロネス。

 彼が背中越しに話しかけたシルキーは主の言葉に従順に頷き、彼が後ろ手に差し出していた手に財布を手渡した。

「夕方には戻るぜ」
「……(コクリ)」

 ドアの向こうへと消えていく彼を見送るとシルキーは自分に課せられた仕事(家事)を全うするべく動き出す。

 まずは部屋で寝ているメンバーを起こして外に放り出す事から始めなければならない。

 シルキーは手頃な部屋のドアに手を伸ばし、中で趣味に走っているか眠りこけているだろう妖精たちを起こすべく、自身の魔力を臨界まで引き上げる。

 彼女の魔力に呼応してカタカタと物音を発てて揺れ出す調度品の数々。
 その一つ一つに宿っている明確な意思に自室を持つ妖精たちは跳ね起きるのだが時、既に遅し。

 この数秒後。

「「「「「「「ギィ○%?#!!!エ%!?!?ァア!!?ーーーーー!!!!!!」」」」」」

 バロネス邸からこの世の物とは思えない悲鳴が周囲一帯に何重にも木霊した。
 そのお蔭でさらに幽霊邸の噂が広まる事になり、学園長が頭を悩ませる事になるのだが些細な事である。


「……先ほどの悲鳴はなんだったのですか?」
「大方、シルキーのヤツがほかの引きこもりどもを起こしたんだろ。割と日常茶飯事だから気にするな」

 幽霊邸へと向かう道程でバロネスと合流した刀子は彼の横について今日も監視任務についていた。

 監視と言っても彼女がやっているのは放課後――バロネスが自由になる時間――になり次第、彼の元を訪れそれからは彼が自宅に帰るまでずっと横に付いているというだけである。
 時折、世間話のように会話を振り、逆に彼から振られては答えているが基本的に黙って彼と共に歩くというスタンスを取っている。
 確実に彼の細かい動きまで監視できるのだから、その任務上は非常に理想的な監視体制と言えるだろう。

 だが同時に問題も発生していた。
 それは彼ら二人が並ぶと非常に『目立つ』という事だ。

 三十路を回る年頃とはいえ刀子は結構な美人である。
 その美人が得体の知れない新入り教師と最近になって急接近し出したのだ。
 話題にならないはずがない。
 合流場所が女子中等部である事も噂の拡大に一役買っていた。
 異性を意識し始める微妙な年頃の少女たちは大人の男女が一緒に歩いているだけで誤解をしてしまうほどにその手の話に敏感であり、飢えているのだから。

「毎度の事ながらやたらと注目浴びてんなぁ。うっとおしい」
「だったら人目を避けるよう行動してください。この三日間の行動を思い返しても貴方に配慮が欠けている事が注目を集める要因になっているのは明白なんですから」

 背中にまでかかっている長い白髪を掻きながら周囲をねめつけるように睨む彼に冷徹な視線を浴びせつつ指摘する刀子。

 この三日間。
 彼女が知る限り、バロネスが起こした騒動はかなりの数があった。
 しかもそのほとんどは彼が少しだけ大人な対応をすれば回避できるものばかりだと言うのだから頭を抱えたくなるというものだろう。

 その一例を挙げよう。
 あれは監視二日目の事である。
 彼女がバロネスと共に商店街を歩いていると周囲の迷惑を顧みずに歩道に駐車したあげくその場にたむろしている不良たちがいた。
 彼女は広域指導員というわけではないがさすがにぎゃあぎゃあと喚きたてて通行の妨害をする彼らを放置しておくつもりはなく、軽い制裁を加える覚悟で声をかけようとした。
 だが彼女が注意をするよりも早く、バロネスが彼らの一人のバイクを蹴り倒してしまったのだ。

「なにすんだ、てめぇ!!」
「俺の愛車になにしてやがる!!!」

 途端に取り囲まれるバロネス。
 取り残される形になった刀子が慌てて駆け寄ろうとするがそれよりも早く。

「邪魔だ、ボケ」

 腰のヨーヨーで無慈悲に不良たちを瞬殺してしまった。
 中に仕込んだ時計による召喚の使用は禁じられているがそれでも元々戦闘用に作られた代物だけにその威力は絶大。
 多少ナリと腕に自信を持っていたのだろう不良たちは自分たちに何が起こったのかわからないまま地に伏せる事になってしまった。

「やり過ぎです! 何もここまでする必要はないはずでしょう!!」

 自業自得とはいえ余りの凶行に批難の声を上げるが彼は伏せている連中を顎で示すと。

「こいつらが悪い」

とだけ言い、歩みを再開させてしまった。
 己の行いを省みる事などまるで考えていない。
 そんなあっさりと言い切った彼に反論する事さえ出来ずしばらく呆然とした事は記憶に新しい。

 これだけではない。
 喧嘩沙汰になった出来事は数知れず。
というよりも彼が関わった事柄で喧嘩に発展しない方が珍しい程だ。
 しかもそれはほとんどの場合、一方的な暴力で終わってしまう。

「(一体、どんな環境で育てばあそこまで自分勝手になれるのですか!!)」

 刀子はその勝手極まる行動に苛立ち、何度となく彼に忠告と警告をした。
 だがそれでも彼は変わる事は無かった。

 そんな身勝手かつヴァイオレンスな行動が彼の名を人伝にどんどんと広まっていき、三日が経った現在では『デスメガネ』と双璧を為す男とまで言われている。

 何度か取材として麻帆良新聞部がインタビューに来た事もあるほどだ。
 勿論、彼がそんなものに応えるはずがなく新聞部員もまた真剣のような言葉の刃の餌食になり、最近は静かになっている。
 これに関しては某クラスのパパラッチ予備軍少女が並々ならぬ熱意でもって虎視眈々とインタビューの機会を未だに狙っているのだが慎重になっているらしく未だ行動は起こしていない。

 閑話休題

「やられたくなきゃやらなきゃいいだろうが。どいつもこいつもなんでそんな基本的な事がわからねぇ? まさかここの連中は自分が正しいから『やられねぇ』とでも思っていやがるのか?」
「それは貴方の事でしょう! 好き勝手に振る舞い、謝罪は愚か罪悪感すら抱いていないではないですか!!!」
「馬鹿が。俺はやりかえされるのが当然だと考えてんだぜ? なんでか? 俺がやってるからだ。やったらやり返されるなんてのはどこの世界でも当たり前の事だろうが。正しいからやられないって考えるヤツは世間知らずの愚かモンだ」
「そんな理屈が通用するのは戦いの場だけです! ここは人々が安穏と暮らす場。そういう殺伐とした考え方が通用する場でこそありません!!!」
「わからねぇヤツだな、てめぇは!」
「その言葉、そっくりそのままお返しします!!!」

 二人が目立つもう一つの理由。
 とにかく口論が絶えないのだ、この二人は。

 約二十年間を地獄にほど近い環境で我を通して生き抜いてきた男と、裏の社会という物を知りながら誠実を信念として己を貫く女性。

 極論と正論。
 交わる事のない平行線。
 譲らない言葉の応酬がヒートアップするのはもはや自然の理とすら言えた。

 だがそれでも刀子の現在の任務は彼の監視である。
 故に痺れを切らして彼から離れると言う事はない。

 それはつまりこの一週間の監視期間が終わるまでこの半径百メートル範囲に渡って響き渡る近所迷惑な口論は続くと言う事を意味している。

 この学園の人間は基本的に馬鹿騒ぎが好きな者が多いのでそれ自体は余り問題にはならないのだが。


「ふぅ……。それで今日はどこへ出かけるつもりですか?」
「あーー? 宛てはねぇな。まだこの都市の地理には疎いからよ。視察がてら適当に回るつもりだ」
「……騒ぎは起こさないでくださいね?」
「関わるのが嫌なら失せな」
「そうはいきません。あなたの監視が今の私の任務なのですから……」
「はっ! 真面目なこった」

 言葉による軽いジャブの打ち合いを済ませ、彼らは都心部目指して連れ立って歩み出す。
 今日もまた行く先々でバロネスが騒ぎを起こし、刀子はそれを諌めるのだろう。

 日常とは一線を画した、だが彼にとっては確かな平穏。

 本人も気付いていないが彼はほんの少しずつではあるが、この都市の安穏とした空気に馴染みつつあった。
 
 相変わらず自分勝手で、唯我独尊ではあるが。
 すぐに手を出し、相手を叩き潰してしまうが。

 それでも彼の頭から『殺す』という意識は薄れつつあった。
 それは学園側の人間からすれば良い兆候と取れる。

 だが彼本人からすればそれは……必ずしも良い方向に作用するとは限らない。

 彼は知っている。
 相手を殺さなければ生きていけない世界を。
 今、目の前に広がっている平穏な風景の裏側にそんな殺伐とした世界が隠れている事を。

 この数日後に起こる出来事で彼は『ソレ』を再認識する事になる。
 『神の一部』と戦う事で。

 彼らは知る事になる。
 彼の本当の力と、その殺伐とした価値観に裏付けられたその実力を。
 そして彼の放つ配慮にかけた言葉の意味を。


あとがき
ずいぶんご無沙汰していました。スランプ気味の紅です。
先週のマガジンを読み、刀子さんの苗字とキャラが大幅に変わったので四苦八苦しながら書き上げましたがいかがだったでしょうか?
今回は刀子と教授(微妙にシルキー)のみの回想や説明がメインのお話でした。
余り長くもありませんがご意見、ご感想などをいただけたら幸いです。

それではまた次の機会にお会いしましょう。

時計が刻む物語 時計が刻む物語 第十九話

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