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時計が刻む物語 第十九話(×足洗い邸の住人たち オリ有り) 投稿者:紅(あか) 投稿日:07/22-00:50 No.960  

時計が刻む物語
第十九話 『試験期間。新たな依頼』


「今日で煩わしいお目付け役から開放されるわけか。長いようで短い一週間だったぜ」

 通学路。
 ドタバタと自分の横を駆け抜けていく人の群れを余所にいつもの通り余裕を持って歩くバロネス。
 時折、彼とすれ違い様に挨拶をする生徒、教師がいるが相変わらず彼は手を軽く振るだけでまともに挨拶を返そうとはしない。

 昔の彼を鑑みれば挨拶に反応するだけでも充分に『丸くなった』、『社交的になった』と言えるのだが。

 この一週間。
 魔法、魔術と言った魔力を利用する全ての行動を禁じられた彼の周囲は本人からすれば退屈なほど平和だった。

 その原因は彼が対抗手段を持ち入れない為、敵視している魔法関係者らが彼を気にするのをやめ(あくまでこの期間だけだが)、文句や苦言を言う頻度が格段に少なくなってしまったせいだ。

 彼は正論を相手に自分の論理がどこまで通用するか徹底的に口論するのがこちらに来てからの楽しみの一つになっている。
 そういう意味で文句をつけてこない今の状況は退屈なのだ。

 監視役との口論も相手の活きが良いお蔭で中々に有意義なのだが、たまには別な相手とも楽しみたいというのが彼の本音だ。
 彼女を除いて彼に声をかけてくる関係者はタカミチ、君信くらいでありそれも軽い挨拶や世間話程度なのだから。(ネギは除外。裏の事情に関してほとんど知らないからだ)

 タカミチは何かしら言いたい事があるのだろうが正面切って彼に意見すると言う事は赴任初日の騒動以降、めっきり少なくなっていた。

 君信に至っては本当に他意無しの世間話だ。
 最近では彼に対する対応がおざなりになってきている。

「(まぁ退屈ではあるが楽しくないわけじゃない、か。……さて今日は久しぶりにシルキーを呼ばないとな)」

 この期間の間、妖精を呼ぶ事を禁じられていた彼は自身の手で食材や日用品などの買出しを行っていた。
 勿論、事前にシルキーが買って来て欲しい物をメモした物を渡された上で、である。

 ところがバロネスは生来の大雑把さを発揮し洗剤の種類を間違える、買ってくる肉の部位を間違えるなどのミスを連発。

 重たい荷物を背負って帰ってくる彼がポルターガイストに追い立てられながら財布片手に夕暮れの街に逆戻りするというなんとも情けない姿が最近になって頻繁に妖精邸で見られるようになっていた。

 どっちが主人か分かったものじゃない。
 むしろ逆転している感が否めない。

 だが誰一人として文句は言えず、またバロネスに同情できる者もいなかった。
 何故なら相手が『シルキー・フラウ』だからだ。
 邸に置けるヒエラルキーの頂点に立ち、財布の紐をしっかり抑え、実生活においても右に出る者のいない彼女に逆らうほど、愚かな妖精種は邸にはいない。
 何名か反抗し、その愚かさを嫌と言うほど教え込まされているのだからその畏怖たるやもはや暴君に付き従う臣下の如く。
 いつ自分が怒りに触れるかと考えるだけでも恐ろしいのだ。

『君子、危うきに近寄らず』

 かつて王として何百と言う臣下を従え、今はバロネスに忠誠を誓い盟友となった騎士ですらこの言葉に従いまったく干渉していない。
 元王の亡霊ですら関わりを避けるほどに邸におけるシルキーの権力は凄まじいのだ。

 霊的なレベルがそれ以下である他の面々ではとてもではないが口出しなど出来ない。
 彼と同等かそれ以上の妖精種も我関せずを通しており、やはり彼を助けられる者はいなかった。

 シルキーが関係する話に限り、完全に見捨てられたバロネスに合掌。


 そんな彼だが今日はすこぶる機嫌が良かった。

 その要因は生徒たちの授業態度にある。
 彼のスタイルは可能な限り早い時間でノルマをこなし、残りの時間を生徒たちの自由にさせるというものだ。

 勉強するも良し、学友たちと遊ぶのも良しという一種の放任主義。
 遊びたい盛りである中学生たちは彼のスタイルに隠された意図を知ろうともせず、ただただ空いた時間を娯楽に費やしていた。

 だが一昨日に行われた小テストを境に彼らの態度は一変している。
 その小テストはこの約一週間後に控えている学期末テストに向けた軽い予行練習という名目で出されたのだが、その点数は目も当てられないほど散々なものになっていた。

 いつもは軽く平均以上の成績を残すクラスですら中より下というのだから、どれだけ『怠けていたか』が骨身に染みてわかるというものだろう。

 その結果、危機感を覚えた学生たちはバロネスが自習に回している時間をしっかり勉強に振り分けるようになったのである。
 昨日などは自習時間に彼にわからない箇所を訊ねに来る生徒も現れだしている。

 ショック療法とはよく言ったものだ。

 そして彼は聞きに来る生徒たちには普段の放任が嘘のように驚くほど真剣に対応していた。
 安易に答えを教えるのではなくその問題の根幹を成す公式のおさらいから入る彼の教え方は、時間こそかかるものの理解しやすいもので『放任、凶悪教師』として影口を叩かれていた彼の評価は少しずつ変化している。

 ただ彼が機嫌が良い要因は生徒たちの評価の向上などではなく、彼の教育方針が中等部にも通用する事が証明された事にある。
 基本的に彼は自分本位な人間であり、周囲の評判などまったく気にしていないのだ。
 仮に生徒らが学期末テストまでに彼のやり方に気付けないまま成績が悪くなった所で、彼は自分の評価の下落など毛ほども気にしないだろう。
 むしろ生徒らの底抜けの『危機感の無さ』、『能天気さ』に激怒する可能性の方が高い。
 それですら別に生徒の事を慮(おもんばか)っての行動ではないのだ。

 己の欲望、信条、価値観にのみ忠実に従う。
 『バロネス・オルツィ』という男はそういう男なのである。


2-C教室

「さて、今日のノルマはここまでだ。後の時間は自習しろ」

 黒板一杯に数字を書きなぐり、一通りの講釈を終えた彼はチョークで汚れた手を払い、生徒らを見回しながら告げる。
 そのまま椅子に座り込み鞄から、つい先日手に入れた書物を取り出すとそれを読み始めた。

 生徒たちはそんな彼の事は気にせず、自習を始める。
 一週間後に試験を控えた彼らの放つ空気はピリピリしており、その表情にも焦りが浮かんでいた。

「(……他のクラスはこんなに真面目だってのにどーして『あのクラス』はああなんだ?)」

 書物から意識を外し、今頃はネギが授業を行っているだろう『2-A』の面々を思い浮かべる。

 繰り返しになるが一週間後には学期末テストが控えている。
 普通、どんなに勉強が嫌いな人間であっても成績に大きく関わってくるテストを前にしては真面目にならざるをえないはずである。

 今、目の前に広がるこの緊張感漂う空間こそがこの時期の学生の正しい姿であるという彼の認識に間違いはないはずだ。

 なのだが……。

「「「「いえーーーーーい!!!!」」」」
「キャーーーーッ!!」
「やっぱりーーーーッ!!!」

 数人の女生徒たち、それも聞き覚えのある声が廊下を通り越して彼のクラスにまで届いてくる。

「………」

 バロネスはこめかみを指で押さえながら読んでいた書物を教卓の上に置くと立ち上がった。

「自習を続けてろ」

 生徒らが頷くのを確認し、教室を出る。
 彼の足が向かうのは勿論、『2-A』の教室である。


 彼が動くのとほぼ同時刻。
 2-Aの教室ではネギが目の前に広がる光景を前に絶望感を味わっていた。

「(故郷へ強制送還……、ダメ先生………ダメ魔法使い……………)」

 事の起こりはこの十数分前。
 彼が学園長から教師になる為にもらった最終課題に起因している。

 彼に出された課題はこうだ。

『ねぎ君へ
次の期末試験で二―Aが最下位脱出できたら正式な先生にしてあげる。
                   麻帆良学園学園長 近衛近右衛門』

 一見するとそれは教師に出す課題としては実に適切で理に適っているものに思える。
 実際、こういう試験での結果で教師の評価を決める学校も決して少なくはないはずだ。

 だが彼に出された課題は実は兎がライオンに挑むくらいに無謀で難度の高い課題だった。

 彼はそれを今、心の底から実感しそして心の底から絶望していた。

 彼のクラス、2-Aの危機感の無さとその能天気さ。
 これはネギが彼女らに勉強してもらう為の復習の時間として設けた勉強会に野球拳形式なる物を組み込み、それをノリノリでこなす彼女らの性根が物語っている。

 そして彼女らのクラス最下位の実質上の立役者であるバカレンジャーの実力。
 野球拳形式、つまり問題を間違えたら服を脱いでいくという形式である以上それなりに真面目に取り組まなければならないはずである。
だと言うのに。
 真面目に取り組んでいるというのにバカレンジャーと称される五人は次々と脱がされていき、現在はほぼ全裸状態である。
 おまけに五人の内、三人には己の頭の悪さを省みる心はほぼ皆無。
 あらゆる意味でトップクラス(勿論、悪い意味で)の五人なのである。

「(これは、本気でマズイかも………)」

 そんな彼女らを見て、ネギが思える事はたった一つだけである。
 茫然自失も良い所だ。

 しかも悪い事と言うのは続くもので……。

「てめぇらやかましい!!!!」

 ドアをぶち壊さんばかりの勢いであの男が現れたのだ。

シーーーーーーーーーン!!!

 乱痴気騒ぎをしていた生徒たちもさすがにこれには固まった。
 ネギ(子供)ならともかく成人男性に自分のあられもない姿を見られたのだ。
 自分を女だと自覚している者なら少なからず恥じらいの心というものが出てくる。

「っ!? キャァアアアアアアアーーーーーーー!!!!」

 真っ先に恥ずかしさを爆発させたのは明日菜だった。
 最も身近にあった机を片手で持ち上げ、バロネス目掛けて全力投球。

ブォオオン!!!

「うおぁッ!?」

風を切って迫ってくる殺意漲る机を咄嗟にドアを閉めて回避。

ガッシャァアアアアアンッ!!

 破滅的な音と共に内側からの衝撃にひしゃげるドア。
 さらに投げつけられるのは他の女生徒たちの文房具や教科書の数々。

「バロネス先生のスケベーーー!!!」
「サイテーーー!!!!」

 そんな好き勝手なコメントを抜かしながらもその攻撃の手は緩む事がない。
 ドアは最初の机でほとんど外れている状態であり、さらに降り注ぐ投擲物のせいで少しずつ歪んできている。
 人間に例えるならば、もはや死に体と言っても良いような状態である。

 そのドアを押さえながらバロネスがキャーキャー騒ぎ立てる女子に負けじと叫ぶ。

「阿呆か、てめえら!! 授業中の教室で半裸になってる方がおかしいって事に気づきやがれぇ!!」
「女の子の身体、見ておいて謝りもしないんですかーーー!!!」
「戯(たわ)けんな! たかだか中学のガキの身体見て誰が喜ぶか、ボケッ!!」
「ひっどーーーーい!!!」

 2-A女子VSバロネス。
 壮絶な舌戦が繰り広げられる両者の間に挟まれるような形でネギは独り、黄昏ていた。

「(ああ。僕、本当にダメかも……)」

 飛び交う罵詈雑言、鉛筆や定規と言った文房具を胡乱な目つきで眺めながらネギは漠然とそう思っていた。
 気分はまるで十三階段を昇る囚人だ。
 まさにどん底である。

 この後、この騒ぎは当然のように他の教師らの知る所になり生徒らは勿論、バロネスとネギも教育指導員筆頭『鬼の新田』による長い長い説教を味わう事になった。

 この後、絶望に苛まれ魂の抜けかけたネギを明日菜が人知れず励まして復活させる事に成功していた。

「(なんでアタシがこんな事してるのかなぁ? なんつーかほっとけないのよね、コイツ)」

 なんだかんだと世話を焼く事が板についてきたらしい明日菜はそんな自分を思い、苦笑を禁じえなかった。


学園長室。

「また派手にやったらしいのぉ、バロネス君」
「ありゃ間違いなくガキどもが悪い」

 ドスの効いた最高に機嫌の悪い声に、さらにいつもの五割増で悪化した凶悪な目つきでもって学園長を睨む。
 昼間の騒ぎがまだ尾を引いているらしい。
 だがそれでも彼は生徒たちの質問には神経質なほど真摯かつ丁寧に答えているのだから大したものである。
 さすがに傍目から見ても機嫌の悪い彼に質問を投げてくる人間は少なかったのだが。

「まぁそれは置いておこう。実はの……このテスト期間中、君に頼みたい事があるんじゃ」
「新しい依頼ってわけか? ……まぁ内容と金次第だな」

 実に彼らしい言葉に学園長は大仰に頷くと不意にその白い眉毛の下に隠されている目を細め、好々爺然とした雰囲気を変えた。

「頼みと言うのは『とある書物』、その周囲の警固じゃ。名を『メルキセデクの書』と言う」

 依頼の内容、問題のブツの名前にバロネスの表情が自然に引き締まる。

「メルキセデク……エルサレムの王であり大司祭であり、天使でもあったと言われてるあの『メルキセデク』か?」
「そうじゃ。その彼が……いや正確には彼を自身の身に降ろしたと言われる偉大な降霊師が著したと言われる最高峰の魔法書。それの原本じゃよ」
「…………そいつはまたとんでもなくヤベェ代物だな。それの警固か……俺で良いのか?」

 淡々と語る翁の真意を読み取ろうと問いかける。
 だが実質的な日本の魔法使いの頂点でもある老人の意思は彼の目を持ってしても視えなかった。

「お主が適任じゃ。『狙っておる相手』もこの麻帆良で厳重に保管されておるアレの存在に気付くほどの者。……情報によれば善悪で動くような相手でも無さそうじゃしの」
「雇われ者には雇われ者ってわけか。クックック! そういう事なら乗るぜ。金は?」
「前払いで百万。周囲の被害にも寄るが成功報酬としてなら最低で五百万、支払おう」
「羽振りがいいな……。そこまで重要ってわけか? 眉唾モンじゃねぇのかよ、その本……」
「アレが原本であるのは間違いない。アレが心無い者に奪われるという事はの。最悪の場合、この日本の消滅を意味すると言っても良いのじゃよ」
「……本を奪われるだけで、か? イマイチ信用できねぇな。何を隠してやがる、ジジイ」

 静まり返る学園長室。
 両者、ピクリとも動かずただただ視線を交わらせる。

 五分、いや十分ほどだろうか?

 折れたのはバロネスの方だった。

「いいだろう。この依頼、受けてやる」
「……期日は明日からじゃ。連中も真昼間から来る事はないじゃろう。仕事は夜間だけ行ってくれればよい」
「昼間はいいのか? そんな事じゃ出し抜かれるぜ?」
「それはまずありえんの。優秀な監視役があそこにはおる。それに……あそこには数々のトラップが設置されておるのでな。どれかしらに引っかかれば自然、監視役であるアヤツも気付くんじゃよ」
「フン、まぁいいだろ。で? そのカビの生えた書物が置いてある場所は?」
「『図書館島』じゃ」

 こうして物語は新たな局面を迎えた。
 彼の行く先に待つのは邪か、それとも魔か? それとも………。

 いずれにしても時計は回る。
 チクタクチクタクと。
 彼の生き様を一秒でも多くこの世に刻み込む為に。


あとがき
皆さん、お久しぶりです。
紅です。
ようやく……ようやく更新できました。
長らくお待たせしてしまい、真に申し訳ありません(土下座)。
さて今回はようやく図書館島編へ差し掛かりました。
そして早速の原作無視です。微妙に時期もずれています。
学園長が危惧する外来の敵とは?
彼が隠しているその書物の力とは?
同軸上で原作通り、動いているネギたちは果たしてどうなる!?
などと謎や伏線ばかり張った今回のお話でしたがいかがだったでしょうか?

ご意見、ご感想などございましたらお気軽に感想掲示板にお書きください。
皆さんからのご感想、心からお待ちしています。
それではまた。次の機会にお会いしましょう。

時計が刻む物語 時計が刻む物語 第二十話

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