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時計が刻む物語 第二十話(×足洗い邸の住人たち オリ有り) 投稿者:紅(あか) 投稿日:08/01-00:03 No.1020
時計が刻む物語
第二十話 『書物の巣、そこに在る者達』
放課後の職員室。
授業も全て終わり、帰り支度をする人間はチラホラ出る中、ネギは自分の机で学期末テストまでのカリキュラムを組んでいた。
「うーーん。明日はここからここまでで教えた単語を復習して……次の授業で文章の要約と確認の小テストをして…………」
十歳の少年が唸りながら、紙にペンを走らせる姿は見ていて微笑ましく思える。
実際、職員室にいる何名かの教師はこれ以上ないほど優しい目でネギを見ていた。
心なしか女性の教師が多いのは、母性本能をそそられるからなのだろうか?
「やけにやる気になってるじゃねぇか」
そんな生暖かい視線など一顧だにせず声をかけるのは勿論、バロネスだ。
「あ、バロネス先生!」
最近、HR以外では余り顔を合わせなかった事もあり彼から声をかけられた事を素直に喜ぶネギ。
その交じりっ気なしの好意に内心で戸惑いながらもバロネスはその妙にやる気になっている担任に疑問を抱いた。
「ジジイになんか言われたのか?」
目の前の少年を焚き付けそうな人物に当たりをつけて言ってみる。
「あ、えっと……」
彼の言葉を受け、ネギは数瞬だけ言葉を捜すように視線を宙に彷徨わせた。
次いで周囲をキョロキョロと見回し、彼を手招きする。
バロネスはネギのそんな不振な挙動が指す行為を正確に読み取ると、自分の耳を彼の方に向けた。
「……今回の試験の結果で2-A組を最下位から脱出させれば僕、正式に教師に任命されるんです」
「ああ、なるほど。課題ってわけか……」
周りの目と耳を気にする理由がよくわからないが何故、彼がやる気になったかだけは理解できた。
とりあえずバロネスにはそれで充分。
だがもう一つ、どうしても彼の『目』に止まってやまない疑問があった。
「おい、ネギ。なんでお前から魔力がほとんど感じられねぇんだ?」
魔法は秘匿するというルールに従い、周りの教師に聞こえないように配慮する。
その言葉にネギは晴れやかな顔をして(ただし声は小さくして)答えた。
「明日菜さんに魔法に頼ってばかりいたら何にもならないって言われたんです。僕自身、困ったら魔法を使えばいいって思っていた所があったので……なんていうかその、凄くショックだったんです。
魔法が使える事が当たり前だったからそれに頼る事も当たり前になっていた自分が。……だから安易に魔法にを使ったりしないように封印しました。その上で自分に出来る事をしてこの課題を乗り切ろうってそう思ったから……」
バロネスに見せるように掲げたその右腕には平行に並んでぐるりと彼の腕を回った四本の線。
一つ一つに英数字で『Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳ』と振ってあるソレにバロネスは微弱な魔力を感じていた。
「(なるほど、自分からハンデを背負ったってわけか。んでこれがその証。見るに今日から四日間、つまり授業がある土曜まで封じたわけだ。月曜はテスト一日前で授業は昼までだったはずだからまぁ使えても意味がねぇ。……まぁこいつが魔法を使おうが使うまいが俺には関係ねぇが)」
真剣な表情で右腕の封印をじっと見つめるネギ。
決意の篭もったその瞳を見据えながらバロネスは小さく鼻を鳴らした。
「(っつーか俺に言わせりゃ使える物は全部使って結果を出すのに『安易』も『頼る』もないんだが……まぁ本人が納得してんならいいか)
……お前の課題だ。精々好きなようにやって良い結果を出してみせろ。例によって俺は一切、手を出さん。まぁ俺の管轄の数学だけは受け持つがそれだけだ。後はお前がやれ。いいな?」
「はい!」
いつになく活き活きとしているネギに首を傾けながらも彼は背を向ける。
彼には彼の予定があるのだ。
そしてネギとこれ以上、関わる事は今日の彼の予定には無い。
「じゃあ先に帰るぜ」
「はい、お疲れ様でした!」
ブラブラと身体を揺らしながら鞄を小脇に抱えて出て行く。
そんな彼の背中を見送ると、ネギは改めて気合を入れ直し今後のプランを練る為に机に向かった。
そのプランがまったく意味のないものになるとは、この時は夢にも思わずに。
「今日はまたいつになく早いですね」
「クックック! ジジイから新しい仕事を貰ってな。その視察をしなきゃならねぇんだよ」
監視任務、最後の放課後。
刀子はいつも通り、中等部校舎入り口付近で彼を待っていた。
「前々から思っていたのですが学園長をジジイなどと呼ぶのはやめてください。彼は貴方の雇い主でしょう? 貴方が教職についているという事実を鑑みても最低限の礼節を持って接するべきです」
彼の監視という名の苦行に従事する間にすっかり柳眉を立てる事がデフォルトになってしまった彼女は、今日も今日とて立派に柳眉を立てて彼に抗議する。
その抗議を彼がまったく取り合わないのもいつもの流れだ。
「あっちがそれで良いって言ったんでな。体裁が云々って言うなら許可したジジイに言え」
「ふぅ……もういいです。そちらは後で学園長を問い詰めます。……それはそうと視察と仰りましたがどちらに?」
こめかみを抑えながらため息混じりに問い返す。
そんな彼女に盛大に口元を歪める笑みと共にバロネスは答える。
「図書館島だ。場所は知ってるがどういう建物なのかは知らないんでな。とりあえず外観だけでも確かめておきてぇんだよ」
会話もそこそこに目的地目指して歩き出すバロネス。
そんな彼の斜め後ろで付かず離れずの位置を歩く刀子。
この一週間で周囲に見慣れられてしまった光景である。
「あー、クズハ。図書館島ってのはどういう所なんだ? 着くまでの間に概要だけでも知りてぇんだが……」
刀子の方を見ようともせずに問いかけるバロネス。
その横着な態度に堪らず彼の背中を睨みつけるがすぐに効果など無い事に思い至るとため息と共に語り始めた。
「明治時代の中頃に学園創立と共に建設された世界でも最大規模の図書館。それが『図書館島』です。二度の世界大戦中、戦火を避けるべく世界各地から様々な貴重書が集められていると『一般』には言われています」
暗記しているとしか思えないその淀みない解説にバロネスは耳を傾ける。
彼の思考は既に仕事人のソレに切り替わっており、貴重な情報を一字一句漏らさぬように意識を研ぎ澄ませていた。
「蔵書の増加に伴い、地下に向かって何度となく増改築が繰り返され、今ではその全貌を把握している者はいないとされています。これも勿論、『一般的』にはですが……」
「つまり裏の連中から見れば違うって事か。しかしまぁ一般的な認識で『全貌を把握している者がいない』とはなぁ。どういう図書館だよ」
「論より証拠。それは実物を見た方が早いでしょう」
そいつは楽しみだとうそぶき、沈黙で持って先を促す。
刀子は軽く息をついてから話を続けた。
「あそこの地下には魔法書、魔法具(マジックアイテム)等が秘密裏に保管されています。つまり『我々』にとってのあそこはとてつもない規模を誇る魔法使い専用の『倉庫』と言う事になります。ただどこに何が保管されているかを知る者は『学園長と一部の者だけ』です」
「お前は知らねぇのか?」
「……私は表面的な部分しか知りません。何かと謎の多い場所とされているあの場所には図書館探検部という中、高、大合同のサークルが存在するのですが……私が知る情報は彼らと同程度です。恐らくこの学園にいる魔法関係者のほとんどは私とそう変わらない認識でしょう。あそこは我々にとっても謎だらけなのですから……」
「フン。身内への情報も制限してやがるのか。よっぽど大事な物が仕舞ってあるらしいな……」
面白く無さそうに鼻を鳴らし、前方を睨みつける。
そんな彼の背中を捉えながら、刀子は視界に映った建物を指差した。
「あそこが図書館島です」
中等部校舎を超える規模を誇るだろうその場所は、湖中に浮かぶ小さな島の上にあった。
小規模な城と言ってもなまじ大げさに聞こえない規模だろう。
モダンな印象を受ける長い橋の先、まだ随分と距離があるというのにその大きさは圧巻だ。
バロネスもこれには素直に驚嘆していた。
「でけぇな。……無駄に」
「この程度で驚いていると後が持ちませんよ? なにせこの表面部分のほかに地下があるんですから」
呆然としている様子に刀子は内心で含み笑いを漏らしながら足の止まった彼より前に出る。
他人の前でぼうっとしていた自分の失態を振り払うように頭を振るとバロネスは彼女を追った。
「ところで外観だけを確かめるというお話でしたか? それでしたらここから見るだけで充分のような気もしますが……」
その言葉に含まれているからかいを殊更に無視し、彼はニヤリと笑って見せた。
「最初はそのつもりだったが気が変わった。……とりあえず一階部分だけでも見ていく事にするぜ。クックック」
目をギラギラと輝かせながら告げる彼に、刀子は頬を引き攣らせた。
「(……どうも私は人の数倍は貪欲な彼の探究心に火を付けてしまったみたいですね。迂闊でした)」
後悔とは常に先に立たない物である。
意気揚々と正面玄関(というにはあまりにも大きな扉)に近づいていく彼を尻目に刀子はため息をついた。
「(適当な所で切り上げましょう。最悪、実力行使も辞さない方向で……)」
そんな物騒な決意を固めながら。
外から見る以上に図書館内部は広々としていた。
思わず彼は頭上を仰ぐ。
室内だと言うのに、天井がやたらと高く周囲を見回せば大小様々な本棚が所狭しと並べられていた。
普段ならば学校帰りの学生などの姿が見られても良いのだが、今日は珍しくほとんど人がいない。
やはり時期が時期だけにこんな書物の巣を利用する者は少なかったのだろう。
学園からかなり離れた位置にあるこの場所は、余り勉強に適した場所ではない。
家の方が遥かに近く、さらにこことは別に学校にも十を越える図書館があるからだ。
「こいつは………すげぇ」
震える唇でたったそれだけの言葉を紡ぐ。
バロネスは改めて図書館島の規模を見せられ、圧倒されていた。
だがその瞳は探求者が時折見せる子供じみた欲求に満ち溢れている。
「クッ、ククク! これだけの本があるだけでもヤベェのに……この上さらに魔法書だのなんだのの曰くつきの品まであんのか? たまらねぇなぁ」
ギラギラと輝きを増した瞳で周囲を見回す。
「勝手に蔵書を持ち出した場合、それ相応の罰がある事はわかっていますよね?」
興奮する彼の真後ろから、刺すような視線と殺気を放つ刀子。
「つまり許可があればいいんだろう?」
負けじと殺気を放出し、くるりと首だけを刀子に向け口元に笑みを張り付けるバロネス。
「脅す、強請る等の犯罪行為に走った場合も同罪です」
「クックック! ばれなきゃいいんだよ、ばれなきゃよ」
その明らかに『何かを企んでいる目』に彼女は緊張感をさらに高める。
だだっ広い空間が、戦いの空気に包まれたまさにその瞬間。
「おや? これは珍しいお客ですね」
第三者の声が広い空間に思いのほか大きく響き渡った。
「「!?」」
弾かれたように二人の視線が同時に動き、声の主を捕捉する。
涼しげな声の主は彼らに程近い位置に在った四メートルはあるだろう本棚の上に座っていた。
「……てめぇ、ナニモンだぁ? さっきまでそこにいなかっただろ?」
「…………(気配が薄い。こんなにも近くにいるのにまるで、そうまるで蜃気楼のような……)
刀子に浴びせていた遊び半分の殺気から、本気の殺意に切り替え闖入者に惜しげもなく浴びせかける。
彼女もまたバロネスの事を保留し、目の前の奇妙な存在のみを警戒していた。
「これは……話しかけるタイミングが悪かったみたいですね?」
そんな二人の態度に困った風な口ぶりで肩を竦める。
闖入者、恐らく『彼』は白いフードを目深に被る事で自身の顔と表情のほとんどを隠しながらも口元だけを小さく吊り上げた。
口ぶりとは裏腹にさほど困っているわけでもないらしい。
「聞こえなかったか? ナニモンだって聞いてるんだぜ?」
腰のヨーヨーに手を伸ばし、心持ち両足の間隔を開きながら再度告げる。
いつ行動を起こしてもおかしくない。
それを敏感に察したのだろう彼はもう一度、肩を竦めるとその場から掻き消え、バロネスと刀子の間に一瞬で『出現』した。
「なにっ!?」
「ッ!?」
何の気配も感じさせずに移動したその男に、後ろに跳ぶ事で間合いを取る二人。
「そこまで警戒しなくてもいいじゃありませんか?」
あくまで笑みを崩さず、ただ自分に害が無い事を示すように両手を上げる闖入者。
だがその態度が逆に二人の警戒心を刺激し、その怒りを煽っていた。
「いい加減にしろ。殺すぞ、てめぇ……」
「彼に同意するのは甚だ不本意ですが今回ばかりは同感です。わざわざこちらを煽るような事ばかりを行って……貴方は一体何がしたいのですか? いえ、そもそも貴方は何者ですか?」
破裂寸前の風船のように緊迫している二人を交互に見つめ、彼はようやく質問に答えた。
「私の名は……『クウネル・サンダース』。この図書館島で司書をしている者です。怪しい者ではありませんよ。私の言葉が信用できないのなら学園長に確認してみてください。それではっきりするはずです」
ようやく名乗った彼だったがその言葉を鵜呑みにするような純真無垢な存在はその場には存在しなかった。
「司書だぁ? 嘘くせぇ。ペテン師の方がよっぽど似合いだぜ」
「本当に不本意ですがまったく同感です」
疑惑、疑念。
刀子とバロネスは彼の言葉をまったく、欠片も信用していなかった。
「ペテン師とは酷いですねぇ。というか貴方には言われたくありませんよ、オルツィ先生?」
「はっ! それもそうだな……(名前を知ってる、か。ジジイが知ってるってのだけはデマじゃなさそうだな)」
自分がいかに汚い事をしてきたかを自覚している男は口元に笑みを張り付けたままクウネルと名乗る男に同意した。
クウネルはバロネスの言葉に嬉しそうに(だがやはり表情は見せずに)口元の笑みを深くする。
「怪しいのはお互い様、と言う事でどうです? ここは一つ、親睦を深める為にお茶会など……」
刀子の目が険しさを増す。
余りの話の唐突さに警戒心が増したのだ。
だが緊張感を高める彼女とは対称的にバロネスは殺意の奔流を止め、やる気を無くしたように気だるげに首を振った。
「遠慮しとくぜ。今は邪魔者がいるしな。次の機会にしとく」
邪魔者という件(くだり)で刀子を見つめながら、出入り口に向かって歩き出すバロネス。
「なっ!? ちょっ! バロネス先生!?」
緊迫感も何もかもを置き去りにして去っていく彼を刀子は慌てて追う。
ほどなく追いつき、どういうつもりか問いただす彼女を適当にあしらいながら彼は図書館を出て行った。
一人、その場に残っていた司書には一瞥もくれずに。
「ふふ、なるほど。学園長の言っていた通りの人物でしたね……」
クウネルは軽く地面を蹴り、ふわりと舞い上がると本棚の上に降り立つ。
「……身体に染み付いた血の匂いでは私など比べ物にならないようです。まぁ、そんなもので勝ちたいとも思いませんが」
軽い足取りで跳躍。
すぐ傍にある本棚の上に着地する。
「彼を招き入れた学園長の判断が果たして吉と出るか、凶と出るか。ふふ、楽しみがまた一つ増えましたね」
その落ち着いた物腰やしゃべり方からは想像し難いほど子供っぽい笑みを浮かべると彼は人払いの魔法を解除し、図書館の奥へと消えていった。
英雄の一人と言われた男は、こうして時計屋と出逢った。
その出会いが招く物は喜劇か悲劇か。それもと別の何かか……?
それでも時計は回り続ける。
人生と言う名の限りある時計が……。
チクタクチクタクと。
あとがき
少しぶりの更新です。紅(あか)です。
今回は図書館島編への前振りでしたがいかがだったでしょうか?
原作ではこんな序盤には出番がなかったクウネルとの遭遇。
果たしてこの後、彼がどのように物語に絡んでいくのか?
色々と想像してみると面白いかと思います。
皆様からのご意見、ご感想などお待ちしておりますのでお気軽に感想掲示板にお書きください。
それではまた次の機会にお会いしましょう。
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