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時計が刻む物語 第二十一・五話(×足洗い邸の住人たち オリ有り) 投稿者:紅(あか) 投稿日:08/09-21:13 No.1075  

時計が刻む物語
第二十一・五話 『図書館島、騒動勃発・裏』


 バロネスが学園長の指示を受け、図書館島へ乗り込む事になった前日。

 図書館島裏手。
 時刻は午後九時過ぎ。

「ここです。この裏手に私たち、図書館探検部しか知らない秘密の入り口があるです」
「おーー」

 足首までを水に沈めながら総勢九名の人影が進む。
 その先にはブロックが積み上げられて出来た巨大な壁の中に埋め込まれるようにすっぽりと納まった門があった。

 集まった人影の内、六人の『少女たち』は登山でもするかのようなリュックサックを各人が背負っており、その額には懐中電灯を装備していた。
 まるでどこか秘境にでも探検しに行くような風体である。

 その後ろでは二人の少女が携帯で連絡を取り合っている。
 どうやらちゃんと電波が届くのかを確認しているようだ。

 彼女ら八人からさらに離れた場所では一人の少年が状況も飲み込めず、ただただ大きな欠伸をしている。
 寝ている所を連れてこられたらしくその格好はなんとも平凡なパジャマ姿だ。

 2-Aが誇るバカレンジャー、図書館探検部所属の三名、そして彼女らの担任教師である。

 彼女らの目的は学園の秘境とされている図書館島に眠っている『魔法の本』の入手(窃盗であり強奪であり、紛れも無く犯罪である)だ。

 一週間後に控えた学期末試験の結果次第では『小学生からやり直しになる』などと言う常識的に考えて『ありえない噂』を見事に信じ込んだバカレンジャーが藁にも縋る思い(と言うには些か能天気が過ぎるが)で魔法の本の情報に飛びついた結果がこの素人探検隊の結成の要因である。

「(魔法の本……手に入れてみせるわ。小学生からやり直しなんて絶対にごめんだもの!)」

 一番、乗り気である『バカレッド(神楽坂明日菜)』はすぐ傍にいる魔法使いであるネギの存在を受けて真っ先に話に飛びつき、ネギまでも巻き込んで今に至る。

 仮にバロネスがこの場にいたとしたら彼女の事をこう評していた事だろう。
 『短絡思考バカ』と。

 あながちそういう認識でも間違ってはいないのだがそれと噂を直接で繋げてしまう辺りは彼でなくとも頭を抱えたくなるだろう。

「それじゃ皆さん、行きますよ。ああ、ハルナとのどかは予定通りここで待機していてください。定期的に連絡はしますから」
「オッケー、任せてよ」
「き、気をつけてね。ゆえー」

 先陣を切ってかの門を開けるのは『バカブラック(綾瀬夕映)』である。
 普段は何を考えているかわからない仏頂面をしている事が多い少女だが今の彼女はやけに活き活きとしているように見える。
 近しい者にしかわからない程度の変化ではあるがその瞳には沸々とした闘志のような物が満ち溢れていた。

「でも大丈夫なんかなー? 下の階って中学生部員は立ち入り禁止で危ないトラップなんかがぎょーさん仕掛けてあるゆー話なんやけど」
「な、なんで図書館にそんなものがあるの……」

 いつも通りののほほんとした笑顔を浮かべながら聞き捨てなら無い事を言う木乃香と耳聡くそのセリフを聞きつけ、不安一杯の顔で突っ込む『バカピンク(佐々木まき絵)』。

「大丈夫よ、まき絵ちゃん。トラップなんてどうとでもなるから!」
「なんか今日の明日菜、やけに張り切ってるっていうか元気あるよね? っていうかいつもなら魔法の本とかそういう話なんて信じないのに……」
「そうアルねー。ま、ワタシ的にはそのトラップにも興味あるヨ。どんな物が出てくるのか今からとても楽しみネ」

 疑問を口にするまき絵に同意するのは『バカイエロー(古菲)』だ。
 他の面々が学校の制服の中で彼女だけが中国風の服を着ている。
 道服などに近い印象を受ける服だが何故かその上着は彼女の体躯に合っていない様子でその両手は丸々、裾の中に隠れている。

「ふぅむ。明日菜殿に関しては何か心境の変化でもあったのでござろう。しかしクー、あまりはしゃぎ過ぎて怪我などせんようにするでござるよ」
「わかってるアルよ、カエデ」

 狐を思わせる瞳に引き結ばれていながら愛嬌のある笑顔を浮かべている長身の少女。
 バカレンジャー最後の一人である『バカブルー(長瀬楓)』である。
 どこか達観しているような雰囲気を漂わせる彼女は、これから向かう場所が『普通ではない事』を本能的に察しているらしい。
 いつも通りの笑顔の中にもどこか警戒の色が見えている。
 こちらはほぼ完璧にその心中を隠蔽している為、気付いている者はいないが。

「ネギ、なんかあった時は頼むわよ。魔法で私たちを守ってね」

 周囲の耳を意識し、声を小さくして未だ状況を飲み込めていない子供先生に声をかける明日菜。
 だがネギはそんな彼女の抱いていた安全牌としての期待を真っ向からぶった切る言葉を口にした。

「え、あの……僕、魔法なら封印しちゃいましたよ?」
「え?」

 意味が読み込めず、ポカンと口を開ける明日菜。
 その間に夕映が内開きの大きな門に手をかける。

「ええーーーーーーっ!!」

ギギィ~~~!!

 金属同士が摺りあう事で生じる不快な金属音と彼女の悲鳴が期せずして重なり、彼らの前途多難な冒険が開始した。

 自分たちを見つめる三対の瞳にはまったく気付かずに。


 彼女らから数十メートル離れたブロック塀の影。
 そこには薄い水の膜に包まれた三人の人影が在った。

 一人目は長身痩躯。
 口元以外を覆い隠す妙にのっぺりとしたヘルメットを被り、その右手には冗談のような大きさのスコープ付きのライフルを携えている。

 二人目はこれまた冗談のような大きな体躯。
 三メートルを越すだろうその人物はただし人として外気に露出している部分は何一つ存在していなかった。
 両腕、両足、胴体、そして頭部。
 人体を構成するありとあらゆる部分をその人物は金属で出来た鎧で覆っていた。

 そして最後の一人。
 前述した二人に比べ、あまりにも小柄なその存在。
 だがしかし彼はその場での主導権を握っていた。
 ネギと同じくらいの背丈しか持たないどう見ても少年に見えるその人影はネギ達が図書館島の内部に消えていく様子を見送ると静かに口を開く。

「……さて君たちにも動いてもらおうか、『マイアー・フェルスター』、『黄・鳳山(ファン・フォンシャン)』……」
「ふ~~、まぁ前金はたんまり頂いてるからなぁ~~。依頼はきっちり果たしてやるよ~~」
「『メルキセデクの書』だったか? 場所は掴んであるって話だったな?」

 マイアー・フェルスターと呼ばれた長身痩躯の男がライフルを肩に乗せながら間延びした口調で告げる。
 やる気の無さそうなその口調とは裏腹にその態度には自信が満ち溢れていた。

 黄鳳山と呼ばれた男(?)はそのメカメカしい外見から想像のつかない人間らしい低い声音で少年に問う。
 その声には機械的な響きなどはまったく無く、その存在が人間である事を暗に示していた。

「ああ。これがあの図書館の見取り図だ」

 シンプルな学生服の胸ポケットから二枚の紙を取り出し、彼らに差し出す。
 彼らはそれを受け取り、素早く目を通すとすぐに少年に突き返した。

「? もういいのか?」
「ああー、場所はもう覚えた。しかし裏手にあるあの入り口がフェイクだったとはなぁ~」
「ありきたりと言えばありきたりな手だが、それだけに単純な相手には有効だ。しかも途中で行き止まりになるわけでもなく、その奥には偽の本まで用意してあるらしい。普通の人間はまず気付けん」
「まあなぁ~~。よぉし、それじゃさっさと依頼をこなすとするかぁ。吉報を期待してなぁ、小僧」
「さっさと終わらせるぞ」

 少年が紙を受け取ると同時に水の膜から出て行く二人。
 ネギたちが入っていた門から数メートル右に離れた位置で止まる。

 その周辺は一面の壁だがマイアーはその内の一箇所を軽く足で小突いた。
 するとどうだろう。

カチリ!

 軽快な機械音が彼らの耳に届くと同時に、彼らの正面にあった壁がまるで幻のように消えていった。
 消えた壁の先には門などなく、ただ地下に続く石造りの階段だけがある。

「ふっ! それじゃ行くかぁ、鳳山」
「おう」

 広く作られているその階段は三メートルを越える鳳山ですら容易く通れてしまうほどの物だった。

 こうして金で雇われた『ハンター』が二人。
 『真の地下書庫』への侵入を果たしたのだ。

「……彼らは名の通ったプロ。相手を倒す、いや殺す事も躊躇わない人間だ。そんな彼らを相手に『高畑・T・タカミチ』抜きでどう対処する? お手並み拝見させてもらうよ。麻帆良学園長、いや関東呪術協会の長『近衛近右衛門』……」

 少年は独白を終えると浸かっていた水の中に溶けるように消えていった。
 認識阻害の効果を持つ水膜も一緒に水と同化して消えている。
 
 少年はこの後に一般の警備員二名を襲い、その記憶を改竄した。
 わざと目立つ場所に彼らを捨て、少量の魔力を残留させる事で自分たちの存在を彼らに知らしめる為に。

 彼の目的は厳密に言えばメルキセデクの書の入手ではない。
 彼の本当の目的はこの学園に存在する魔法関係者の実力を確かめる事にあるのだ。

 雇った二人はいずれも相当の実力者。
 彼らを相手取り、打ち勝つ事ができるだけの力を持つ者が学園長とタカミチ以外に存在するのか?
 彼はその調査を一番の目的としてこの場にいるのだ。

 勿論、書が手に入るならばそれに越した事はない。
 その書に秘められた膨大な魔力の使い道は幾らでもあるのだから。
 だからこそ学園側はそれが外部の者の手に渡るのを恐れている。
 ならばそれを狙う輩には『相応の者』を仕向けるはず。
 その『相応の者』が彼らを倒せるか否かでこの学園の実力者のレベルを計る。
 今回の『メルキセデクの書、強奪計画』にはそういう意図があるのだ。

 様々な人間の思惑が渦巻く中、夜はただひっそりと更けていくのだった。


あとがき
けっこう早めに上げられました。紅です。
今回は原作にあったネギたちの図書館島突入にハンターたちの描写を加えた形になりました。
少し短めでしたが如何だったでしょうか?

ハンターの二人ですがマイアーはともかく鳳山の口調がさっぱりわかりません。
原作を読み返しても叫んでいるか普通にしゃべっているかのどっちかなのでまったくキャラクターが掴めないので相当に違和感が残っています。
原作を知る方々で彼に関して何かアイディアがありましたらどうぞ感想掲示板に感想と一緒にお書きください。

皆さんからのご指摘、ご感想を心からお待ちしております。
それではまた次の機会にお会いしましょう。

時計が刻む物語 時計が刻む物語 第二十二話

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