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時計が刻む物語 第二十二話(×足洗い邸の住人たち オリ有り) 投稿者:紅(あか) 投稿日:09/13-01:16 No.1246
時計が刻む物語
第二十二話 『図書館島、追跡編』
「邪魔だ、帰れ」
図書館島裏口。
ネギらとハンターたちが昨日の内に通った場所。
そこで顔を合わせたバロネスが刀子、刹那、真名に最初に言い放った言葉がこれである。
「……貴方という人は……どうしてこう」
こめかみを抑えてプルプルと震える刀子。
予め彼の言葉を予期しさらに状況が切迫している為、怒ってはいるが『いつものように』激昂したりはしない。
真名も特に気にした風もなく肩を竦めている。
一度、敗北した身であるから勝者である彼に何を言われても仕方ないと達観しているのだ。
ただ遠慮のまったくない彼の言葉に怒りを感じていないというわけではない。
ただ表情に出していないだけだ。
その証拠にこめかみには薄く青筋が出来ている上、口元は若干引きつっている。
集まった三人の中で最も反応が劇的だったのは最後の一人である彼女だろう。
「貴様、帰れとはどういう意味だ!!」
腰溜めに構えられた夕凪に手をかけながら吼える刹那。
敗北した悔しさもあるが、彼女にとって彼は己の『過去の傷(トラウマ)』を無作為に、無造作に、しかし確実に引きずり出した男だ。
学園長からの指示で、しかも護衛対象であり大切な友人である『木乃香』に危険が迫っていなければ一秒たりとも一緒にいたくない存在である。
目上の人間には誰であれ礼節を持って接する彼女が敬語を使わない事からもどれだけ彼が警戒され、嫌われているかがよくわかるというものだろう。
そしてそんな気が進まないという私情を飲み下してこの場に来たと言うのに元凶からの言葉のこの辛辣さ。
刹那でなくても怒るところだろう。
「あーー、邪魔だっつってんだよ、中学生。てめえらは自習だ。クラス帰れ」
「木乃香お嬢様に危険が迫っているのに勉強などしていられるか!!!」
「はっ! 力を制限されていた俺にあそこまでボコられてよく他人の心配なんぞ出来るな。身の程ってもんを知れ、半端モンが」
「っつ!!」
怒りに顔を真っ赤にしたまま刀を抜く。
だが半分ほど刀身が外気に曝された所で柄尻を刀子に抑えられてしまった。
「やめなさい、刹那。……バロネス先生も無用な挑発は慎んでください。このメンバーでの『ハンター討伐』は学園長の決定なのですからどんな理由があろうと覆りません。その事は先ほど携帯でお話したと思いますが?」
「フン、しかしジジイの阿呆は何考えてんだ? 試験控えたこの時期に学生二人も連れて行けなんてよ。人手不足にも程があんぞ」
彼の言葉に険しい表情をしながらも反論せず、むしろ同意するように刀子は頷く。
バロネスの困った所は口調がどれだけ乱暴であろうとその言葉が正論であるところだ。
無駄に相手への挑発、見下した物言いが含まれるがそれでも彼の意見は時に誰よりも鋭く物事の真ん中を射抜く。
情け容赦のないコメントであるが故に考えさせられる事も多々あるのである。
勿論、彼の意見全てが正しいわけもなく基本思考がヴァイオレンスに偏っている為、酷くズレタ意見が飛び出す事も多いのだが。
冷静に鑑みれば参考になる意見が多いのもまた事実なのだ。
この事に気付いている人物はそう多くない。
せいぜい一週間、監視という名目でそれなりに近しい位置にいた刀子となんだかんだとよく会話する君信、同じく会話する機会の多いしずな、思慮深く人を見る目に長けた学園長、気付いているが相性の悪さから余り認めたがらないタカミチ。
そして彼に少なからず尊敬の念を抱いているネギ。
かろうじて両手に届く程度の人間しかいないのである。
誰も彼もが彼の言葉の辛辣さに意識を向けられ、その言葉の深いところまでに考えが至らないのだ。
理解されないのは彼の所為なので同情の余地はないのだが。
「……否定はしません。このチームが急造である事も認めます。ですがそれだけ切迫している事態だという事を理解してください。少なくともこんな入り口で仲違いをしている暇がない程には……」
「うっ……」
私情で刀を抜こうとした事を暗に責められ、刹那は身体を縮こませる。
もう一人の当事者は遠回しな文句などどこ吹く風だ。
まぁ直接的に言ったとしても堪えるかどうかは謎だが。
「では行きます。先ほども言いましたが急造チームですのでとりあえず簡単な役割分担だけ行っておきます。私と刹那は接近戦の方が得意なので前衛を、龍宮さんは刹那からの又聞きですが銃を使うと言う事なので後衛で射撃による援護をお願いします」
「はい!」
「わかりました」
同意を示す二人に頷き返してから口元に笑みを張り付けたままその様子を見つめる彼に声をかける。
「バロネス先生、貴方は……」
「俺には前衛も後衛もねぇ。全部できる。……そうさな、前衛じゃどこかの馬鹿に斬られそうだから後ろに回してもらおうか」
「まだ言うか!!」
挑発に乗ってまたも夕凪に手をかける刹那。
だが今は急を要する事態だと自らを戒めたのか、今度は抜く事はなかった。
睨みつける事だけは忘れなかったが。
「……いいでしょう。ここで議論をしていても始まりません。これはあくまで簡易的な切り分けに過ぎませんしね。何かが起きた時は各々、臨機応変に対応してください」
返事を待つ事なく刀子はネギたちが通った門ではなくそのすぐ傍にあるブロック塀の前に移動し、しゃがみこむ。
そこにはつい先日、侵入者であるマイアーが無造作に蹴り上げた窪みがあった。
窪みを手で押す。
カチャリと言う音と共に目の前の壁が消え、その先に地下へと続く石階段が姿を現した。
「では行きます」
刀子の合図を受け一行はハンターたちに遅れる事、約十二時間後に真の地下図書館に足を踏み入れたのだった。
三人にはまさか自分たちが最悪、生き埋めにされる事など考慮している様子はなかった。
バロネスはそんな彼女らの後ろを歩きながら思う。
「(『もしもの時の為』に死んでも良いヤツを選んでるんだろうが……。クックック、滑稽っつーかなんつーか……)」
何も知らず、知らされず。
察する事もなく、察せられる事も無く。
「(出来の悪い人形劇だな。本人たちがてめえの意志で動いているつもりでいる辺りが『特に』な)」
ふとバロネスは前を歩く三人に、自分たちが失敗した後の話をしてみようかと思った。
果たしてどういう反応をするだろうか?
戯言(たわごと)だと切り捨てるだろうか?
動揺して取り乱すだろうか?
それともさらりと聞き流すだろうか?
詮無い話だと笑いながら結局、何も言わずに地下へと続く階段を降りる。
「(俺がいる以上、失敗はありえねぇからな。考えるだけ無駄か)」
そう自分がいる以上、仕事に失敗は無い。
例え『この中の誰かが欠けよう』とも。
「侵入者の排除と本の安全の確認……。クックック、本当に狸だなぁ、ジジイ」
誰にも聞こえない独白は、本人の耳以外にはやはり届かずに消えていった。
広々とした空間を二人の男が歩く。
先頭には巨躯の男。
その背後には長身痩躯の男。
動くたびに巨躯の身体がガシャリガシャリと重厚な音が薄暗い空間に響き渡る。
「ふぃ~~、無駄に広いねぇ~~。やっぱ見取り図と実際に見てみるのとじゃ感じ方ってもんが違う……おお?」
ヒュン!
風切り音と共に彼らの進む先から飛来する無数の矢。
吸盤ではない鉄で出来た先端は正に殺傷を目的として作られた物だ。
キン!
だが目の前にある巨躯。
鋼の身体を持つ凰山の前では生半可な罠はまったく意味を成さない。
既にこうして彼がただ歩いているだけで通過、攻略できてしまった罠は二桁に上っていた。
「何か当たったな? また罠か?」
「らしぃなぁ~~。さっきからちゃちい仕掛けしかでねぇが。侵入者舐めてるんじゃねぇか? ココ (まぁこっちに歩く壁がいるから楽ってのもあるんだろうが)」
「なんにしてもこっちにとっちゃ都合がいい。さっさと終わらせてさっさと金をもらって『こんな国』とはおさらばと行きたいからな」
凰山の言葉にどことなく嫌悪感のようなものを感じ、マイアーは首を傾げる。
それは自分も彼が口にしたのと同じような心境になっていたからだ。
「どういう意味だぁ? お前、この国が嫌いなのかぁ?」
「いやそういうわけじゃねぇ。元々、こっちとは縁がなかったからな。来たのは今回が初めてだ」
「ああ~~? さっきの口調から察するとどうもそんな感じじゃねぇがなぁ。なんつーか『前に痛い目を見たからもうコリゴリだ』みたいに感じたぜぇ?」
その言葉の半分は今の自分の気持ちだった。
彼もまた今回、初めてこの『極東の島国』を訪れている。
にも関わらず漠然とした嫌悪感、というよりも『嫌な予感』を感じるのだ。
これ以上、この国に……否、『この場所』に関わると己に害が及びそうな、そんな予感だ。
だがそのはっきりとしない感覚は、『残念な事に』彼らを引き返させるほど強い物ではなかった。
彼らの運命は、この時に既に決定していたのだろう。
「ま、今は仕事に集中だ。お、今度は前から大岩が……」
「おっしゃーー、邪魔じゃーーーーー!!!」
まるでモヤモヤとした感覚を吹き飛ばすかのように大声を上げ、両手を広げ目の前に迫る大岩を受け止め、抱きしめるように力を込めて粉々に砕き割る凰山。
その恐るべき怪力に素直に驚嘆しながらマイアーは口笛を吹き、気分良く先へと進む。
だが心の片隅に、漠然とした予感は残ったままだった。
石階段を降りた先に広がっていたのは文字通りの本の山。
右も左も上も下も、本棚、本棚、本棚、本棚………。
よくもこれだけの蔵書を集めたものだと誰もが感心すると同時に呆れるほどの数の本。
整然と規則正しく並べられた本。
そんな本の群れが所狭しと棚に並び、その棚がさらに並んでいる。
そこは正しく『本の巣』と呼べる場所だった。
言葉もなく立ち尽くす一同。
ただ一人だけその光景にも動じなかったバロネスはここに入る前に取り決めたフォーメーションなど速攻で忘却し、彼女らの前に出ていた。
ガラにもなく興奮しているのか、その歩はいつになく早い。
そして彼は手近にあった本棚から一冊の本を取り出すと軽く流し読みながら、笑みを深くした。
「表層であれだけの数の本があったってのに地下にもこれだけの本があるとはなぁ。しかもこっちにあるのは全部が全部、魔法関係と来たもんだ。保存状態も良好……クックック! 笑いが止まらねぇ」
彼には目の前の本の数々は宝の山のように見えている事だろう。
元々、探究心の旺盛な人物である彼だ。
異なる世界の書物で、少なからず魔力の宿っている『ソレら』に食指が伸びないわけがない。
仕事中でさえなければここに引きこもってここにある書物全ての読破に取り掛かっていた事だろう。
「……どうやら侵入者はこの辺りの蔵書には手を出していないようですね。やはり狙いは『メルキセデクの書』と言う事なのでしょう」
「刀子さん、急ぎましょう。その本の価値など私にはわかりませんが、そのハンターの手に渡してはいけない物なのだと言う事はわかります」
「ええ。急ぎましょう」
真剣な声音で歩みを早める二人と、無言でそれに従う真名。
そんな彼女らと引き換え、彼の思考は横道に逸れまくっていた。
「(……楽しくなりそうだ)」
本の山に囲まれ、それらを読みふけっている自分を想像してさらに笑みを深くする。
ボーーン、ボーーーーン!
そんな彼の思考を打ち破るように鳴り響く時計の音。
何事かと周囲を油断無く見回す刀子らを尻目にバロネスは懐の携帯を取り出した。
どうやらこの柱時計の音は彼の携帯の着信音のようだ。
「あーー?」
おざなりに電話に出るバロネス。
ステキな妄想を邪魔されたその声音には機嫌の悪さが滲み出ていた。
「教授のバカーーーーーーーー!!!!!!」
そんな彼の鼓膜を震わせる大音声。
金きり声に近いソレをまともに受けたバロネスは自分の頭が揺さぶられるような衝撃を受けていた。
思わず携帯から手を離し、直撃を受けた左耳を抑えて蹲る。
女性陣は事態に付いて行けず、唖然とした表情で彼を見ていた。
携帯からはまだハスキーな声の罵詈雑言が垂れ流されている。
このままではさすがにまずいと思ったのだろう。
三人が心底困った顔でお互いに視線を交え、その携帯を拾うか否かを無言で採決し始めていた。
そんな会議も復活した彼が携帯を引っつかみ、怒鳴る事で無意味と化したが。
「てめぇ、エアリィか!? 鼓膜破れたらどーしてくれやがんだッ!!!」
目元を凶悪に吊り上げながら怒鳴る。
だが電話の向こうのエアリィも負けてはいない。
「教授がアタシを置いていくからでしょーー!!! 久しぶりの外なのにズルイじゃないのーーっ!! 連れてきなさいよ、バカ教授っ!!!」
「阿呆かぁ! 家に戻る暇なんぞなかったわ、ボケェ!! つか場所はわかってんだろうッ!? なら勝手についてくりゃいいだろうがッ!! お前は他のに比べて自由が利くんだからよっ!」
「…………」
彼の言葉に電話の向こうの言葉が止まる。
「……あ、なんだ。勝手についてっていいんだ?」
数瞬の沈黙の後、エアリエルの間の抜けた声が静まり返っていた空間に響き渡った。
「ったく。シルキーの時計を開けてやるからさっさと来い」
「わかったよ~~」
電話が切れ、周囲に静寂が戻る。
バロネスは何か言いたげな三人の視線から逃れるように顔を逸らすと懐から時計を取り出し、見せびらかすようにかざす。
「とっとと来い。『エアリエル(空気の妖精)』」
呪文にもなっていない呪文を唱えると同時に薄い陽炎のような微量の光を放つ時計。
そこかしこに灯りがあるとはいえ薄暗い本の巣の中ではその光は目立っていた。
ポン!
いきおいよく時計を媒介に開いた『門』から飛び出すのは薄く透き通った身体を持つ女の子の姿をした妖精。
「んーーー、久しぶりの外だーーー!! 邸の空気もいいけど、たまには別のところも吸いたいもんねーーー」
「遊びじゃねぇんだ。来たからには働けよ、エアリィ」
「ハイハーーイ。わかってるよ、きょーじゅ!」
絶対にわかってないだろう能天気な口調で笑顔を振りまきながら辺りを飛び回るエアリエル。
天井が高く作られたドーム上の造りであるこの地下一階では彼女の飛行を阻むものは照明程度しかない。
よって彼女は比較的、自由に伸び伸びと飛ぶ事ができるのだ。
邸から出してもらえない妖精たちの中で、空を飛べる彼女にとってそれはとても喜ばしい事だった。
多少、羽目を外してはしゃいでしまうのも仕方のない事なのだ。
それがわかるからこそバロネスも五月蠅く言わないのだが。
「バロネス先生、彼女は……一体?」
空中を文字通り舞うエアリエルを眼で追いながら質問する刀子。
他の二人も同じように聞きたそうな表情をしている。
もっとも刹那だけはバロネスと頑なに目を合わせようとしない為、彼からその表情を伺うことは出来なかったが。
「俺の契約した妖精種だ。これ以上は言わねぇ。無闇に自分が不利になる情報を流す趣味はねぇからな。とっとと行くぞ」
そっけなく言い放ち、先ほどまで興味津々だった本の群れを意識の外に放り出し、先へと進むバロネス。
そんな彼の物言いにある者はため息をつき、ある者は肩を竦め、またある者は敵意に満ちた視線を彼に向ける。
誰がどの行動をしたか非常にわかりやすいのであえて語るまい。
とにもかくにもこうして『ハンター討伐』のメンバーに新たに一人、加わる事になったのだった。
協調性など欠片も持ち合わせないバロネスと彼女らは果たして『全員』無事にこの仕事をクリアできるのだろうか?
その答えはまだ誰にもわからない。
あとがき
おひさしぶりです。紅(あか)です。
長い事、間が空きましたがどうにか最新話の更新にこぎつける事ができました。
とはいえ、少々スランプ気味で余り内容の方に自信がありません。
とりあえず刹那がどれだけ教授を毛嫌いしているかが伝われば上々だと考えていますがいかがだったでしょうか?
次の話は、恐らくネギたちメインになると思います。
出来るなら戦闘までこぎつけたいのですが、どうなる事やら。
皆さんからのご意見、ご感想など心からお待ちしておりますのでお気軽にお書きください。
それではまた次の機会にお会いしましょう。
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