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時計が刻む物語 第二十五話(×足洗い邸の住人たち オリ有り) 投稿者:紅(あか) 投稿日:12/04-23:29 No.1697
時計が刻む物語
第二十五話 『図書館島 戦闘編』
「刹那は私と共に巨人の方を相手します。龍宮さんとバロネス先生はその間、後ろの男の牽制をッ!!」
「はい!」
「了解したよ」
刀子の指示に従い、速やかに散会する。
しかし彼女はここで一人の男が返事をしていない事に気がついた。
「? バロネス先生ッ!!!」
意識は敵から離さずに背後を見やる。
だがそこには遅れながらも彼女らと付かず離れずの位置を付いて来ていた時計屋の姿は無かった。
「なっ!?」
その事実に一瞬だけ彼女の意識が逸れる。
その瞬間を逃す鳳山では無い。
「なにを余所見しとるんじゃーーーい!!!」
「ッ!?」
風を巻き起こしながら振るわれる豪腕。
慌てて振り返るものの、もはや回避不可能の位置にまで攻撃は迫ってきていた。
「刀子さん!!」
ガギィン!!
真っ直ぐに迫る拳の軌道が金属同士のぶつかり合う音と共に逸らされる。
その一撃は刀子の身体を掠めるようにして地面に突き刺さった。
「フンッ!」
巨腕が引き戻される一瞬の隙に乗じて後方に飛び退き、なんとか距離を取る刀子。
同性も羨む鮮やかな長髪が彼女の動きに合わせて揺れる。
「すみません、刹那」
「いいえ」
短い謝罪の言葉を言いながら、刀子はチラリと背後を窺う。
そこには真名がライフルを構えた姿勢で相手の男を威嚇している姿こそあるがやはりバロネスの姿は見当たらない。
それを確認した瞬間、刀子の額に青筋が浮かび上がった。
「あ、の、人、はぁ……!!! まさかこの土壇場で単独行動するなんてぇ……!!」
予想の斜め上を行くバロネスの行動にいつもの冷静な面持ちが崩れ出す。
刹那はそんな彼女の様子に若干引くが状況が状況の為、それには触れずに目の前の巨躯を睨みつけた。
「刀子さん。『あんな男』は戦力には数えない方がいいと思います。ヤツを信用していては命が幾つ在っても足りません。ここは……」
「ふぅ……。仕方ありません。彼には後で問いただすとして……。いいでしょう、刹那。あの二人は私たち三人で片付けます!」
改めて愛刀を構える刀子。
その横では刹那も敵を見据えている。
「フン! ちゃちゃっと来んかい!」
両足を踏ん張り、両腕を肩幅よりも大きく広げ迎撃態勢をとる鳳山。
その巨躯はただ仁王立ちしているだけだというのに相手に視覚的な威圧感を与える。
一般人ならば鳳山の非常識な姿を見ただけで腰を抜かすだろう。
さらにそれが殺気を乗せた視線を向けてくるというのだからその精神的な圧力は底知れない。
だが彼女たちは怯まなかった。
意思の疎通すら不可能な異形を何度となく相手取ってきた彼女らに背丈による威圧など今更の話なのである
「行きます!!」
号令と共に二人の剣士は駆け出した。
刀子の指示に返事を返した後、真名はライフルを構え遮蔽物のまったくない台座付近で仁王立ちしている長身痩躯の男に照準を合わせていた。
だがそれは向こうも同じ事。
冗談のように長大なライフルのスコープから正確に真名に照準を合わせている。
「…………」
「…………」
どちらもピクリとも動かずただただスコープ越しに睨みあう。
相手の得物が吐き出す弾の初速、総弾数がわからない以上迂闊に撃ち合うわけにはいかない。
考えなしに撃つ事は己の情報を相手に無条件で差し出す事とそう変わらないからだ。
どちらも卓越した技術と経験を持つスナイパーである。
誰よりもその事の危険性を承知している。
故にこのような膠着状態に陥ってしまうのである。
「……(このお嬢ちゃん、まだ若い身空でやるねぇ~~)」
乾いてしまった唇を舌で一舐めしながらマイアーは素直に感嘆していた。
「……(あの男、ピクリとも動かない。あわよくば隙を見つけて……と思っていたが想像以上に手強いな)」
対する真名もまた相対している男の技量を感じ取っていた。
背筋を冷たい物が通り過ぎる。
「(実力は未知数。だが恐らく経験では向こうの方が上、だな)」
冷静に、冷徹に、彼我の戦力を分析する。
「(このまま膠着状態を続けて、刹那たちがあっちのデカイのを倒してくれるのを待つのが妥当か……)」
もう一つの戦場に目だけを向ける。
そちらは丁度、刀子と刹那が鳳山に刀片手に突撃している所だった。
「……(頼むよ、刹那。葛葉先生)」
視線を戻す。
幸いな事に相手になんらかの動きを見せる予兆は見られない。
このまま粘っていればいずれ三対一という自分たちにとって圧倒的に有利な状況を作り出せるはず。
彼女はそう考えていた。
そう、彼女もまた見誤っていた。
鳳山の身体の尋常ならない硬さを。
マイアーの持つ技術とライフルの性能を。
そしてこの二人が持つ『埋めようのない経験の差』を。
「ドッセーーーイッ!」
全身を動かすたびに地響きが地面を揺るがす。
「はっ!!」
「やぁっ!!」
巨大な身体を持つ彼を挟み込むように左右から迫る剣閃。
それらは彼の身体を見事に捉える。
カキン!
だが鬼の硬い身体すら一撃の元に斬り捨てる剣戟も現代科学と魔法技術の結晶である鋼鉄の鎧には通用しない。
「くっ、なんて強度だ……」
「フッハッハッハ! 無駄じゃーーい!!!」
振り下ろされる豪腕を刀子は横に飛んで避ける。
ドグシャァア!!
地面に突き刺さる拳は小規模のクレーターを作り上げた。
弾けた床板が細かい飛礫になって彼女に襲い掛かる。
「くっ!? なんという威力……(それに思った以上に動きが速い。モーションこそ大きく察知は容易いというのに……振りが速い)」
降り注ぐ石の雨を捌きながら相手の動きを逃さぬようよりいっそう目を細め睨み付ける。
「フン!!」
真横から迫る裏拳。
飛び退き、さらに距離を取る為に地面を蹴る。
だが刹那は敵の懐深く入り込んでしまい、その場に一人取り残される形になっていた。
「ッ! 刹那、下がりなさい!!」
刀子の声は届かない。
敵を目の前に普段の理性が失われつつある刹那には制止の言葉など届くはずもない。
「はぁぁああ! 斬岩剣ッ!!」
腕関節にある僅かな鎧の隙間を狙って繰り出される必殺剣。
「甘いんじゃあ!!」
だがその狙いはほんの僅かに鳳山が動く事で外れ、逆にもっとも硬いだろう鎧の分厚い部位を直撃してしまう。
「ぐっ!」
硬い鎧に斬撃は通用せず、全力で放った技を受け止められた反動が刹那の両腕を数瞬痺れさせる。
その隙は致命的だった。
「どっせぇえええい!!!!」
遠心力をつけて放たれた左拳が刹那の身体をまるで葉っぱか何かのように容易く空中へと吹き飛ばした。
「ごほっ!!!」
胴体を襲う痛烈な痛みに刹那の意識は飛んでしまう。
だがすぐさま訪れた側頭部の痛みに無理やり覚醒させられる事になった。
宙に浮いた彼女を真上から振り下ろした鳳山の右拳が直撃したのだ。
「がはッ!!!」
地面に叩きつけられ、彼女は腹に溜まった酸素を全て吐き出してしまう。
間髪いれずに蹴り飛ばされた彼女は無様に地面を転がり、刀子からかなり離れた位置でようやく止まった。
意識はあるようだが立ち上がる様子は見られない。
「刹那っ! くっ……(やはり冷静さを欠いていましたか)」
動きを止め、抜き放った刀に氣を集中させる。
雷氣が刀を覆い、バチバチと爆ぜる音が響く。
「はぁああああ……雷、鳴、剣!!!」
「フンガーー!!」
迫り来る巨腕と彼女の刀が激突。
その瞬間、周囲の景色が一瞬、真っ白に染まった。
カッ!!!
「うっ!?」
突然の閃光に思わず真名は手で目を庇う。
そのせいで射撃体勢が崩れてしまった。
豪腕と雷撃の激突が起こした白い閃光。
その光は図らずも狙撃者同士の戦いに変化をもたらす事になった。
「ふ~~ん、この程度の事態で慌てるとは、まだまだだねぇ~~」
その様子を微動だにしないまま見つめるマイアー。
そして彼はその隙を逃す事なく、ライフルの引き金を引いた。
ヴビューーーーーム!!!
「くっ!」
白い閃光を貫く新たな閃光。
真名は咄嗟にその場から飛び退き、なんとかその一撃を回避した。
「まさか魔法具(マジックアイテム)の類だったとはね」
耐魔加工されているはずの床に残る弾痕を見ながら冷や汗を流す真名。
あと数瞬、遅ければ自分の身体は魔力を凝縮して作られたレーザーに貫かれていただろう。
「ふーーん、避けたかぁ。反応はいいねぇ」
ヴビューーーーム!!!
避けられた事を気にした様子もなくマイアーは次の一撃を放つ。
光速には届かないまでもそれでも恐ろしい速さで迫り来る魔力の閃光を真名は必死に避け続けた。
「つぅ……照準を合わせている暇がないな。……多少の無茶は止むを得ないか」
言ってすぐに空中に飛び上がる。
彼女の姿を追い、マイアーのライフルもまた銃口を上空へと向ける。
「おおっ?」
スコープ越しにこちらに向けてライフルを構える真名の姿を軽い驚きと共に見つめる。
それでも態勢が崩れることは無いが。
「っ!!」
ガァン! ガァン! ガァン!
二度、三度と引き金を引く真名。
だが安定しない空中で放たれた銃弾はやはり安定せず彼には掠りもせずに床に着弾する。
「やるねぇ。だがまぁ、焦り過ぎだな」
マイアーが引き金は引く。
ヴビューーーーーム!!
「くっ!」
浮遊してしまい、ほとんど自由が利かない身体をむりやり捻る事で彼女はなんとか魔力弾を避ける。
そして頭から自由落下しながらも彼女はライフルを構え、その引き金を引き続けた。
ガァン! ガァン! ガァン! ガァン!
「当たらねぇって」
その場からまったく動く事なくスコープを覗き込み続けるマイアー。
そして彼の言葉通り、四発の銃弾は彼の身体には触れることなく通り過ぎていってしまった。
「残~念でした。コイツでジ・エンドだな。ソコォッ!!!」
ヴビューーーーーム!!!
彼女が地面に落下するスレスレのタイミング。
それは正に絶対不可避、必殺のタイミングだった。
ズガァアアン!!!
爆音が轟き、土煙で着弾地点が見えなくなる。
魔力の出力を絞り込む事で高められた殺傷力だからこそ生まれた結果。
愛銃と己の腕が結びつくことで手繰り寄せた最良の結果。
それは『ターゲットの死』だ。
「ふぃ~~、一丁あがりだな」
ライフルを担ぎ、肩をほぐすように回す。
満足げな表情で鳳山の方を見る。
そちらは案外、苦戦しているようだ。
先ほどこちらにも届いた閃光にやられたのか、一応の相方である男の動きはどこか鈍い。
「や~れやれ……しゃーねぇから援護、おごぉっ!?」
そちらに意識を向けた瞬間、腹部に襲い掛かる衝撃。
そのありえない痛みに彼の思考が一瞬にしてパニックに陥る。
だがそれでもライフルを取り落とさなかった事はさすがだと言えるだろう。
「な、なんだなんだぁ!? 何が……」
自分の腹部を見る。
そこには貝殻を幾つも組み合わせたような妙な生き物が彼を見上げていた。
「なっ……ぐるばぁッ!?」
その場でアルマジロのように丸まり、彼の顔面めがけて回転体当たりする生物。
パニック状態の彼はそれを綺麗に顎に喰らい、強制的に天井を仰がされてしまった。
「ぬぅ、よくわかんねぇ生モノがぁ!!」
仰向けに倒れかけた己の姿勢を腹筋の力だけで無理やり引き戻す。
「どこ行きやがった!?」
周囲を見回すが彼の視界の範囲にそれらしき姿は見えない。
そこから見えるのは今だに戦闘中の鳳山と刀子、その先でようやく立ち上がった刹那の姿『のみ』。
「?」
その光景に違和感を覚えた彼はもう一度、周囲を見渡す。
だが何度見ても確認できる人間は『それだけしか』いなかった。
「あの嬢ちゃんがいね……!!」
彼がその事実に驚愕の声を上げようとした瞬間。
頭上から降り注いだ無数の弾丸が彼の身体に突き刺さった。
戦闘が開始される一分ほど前。
「フン……、やめだ」
刀子らがずんずん先に進む中、彼はそんな言葉と共に足を止めた。
「えっ? 何が?」
刀子らを追い抜き、先に偵察に向かっていたエアリエルは彼のそんな言葉を耳聡く聞きつけスイスイと泳ぐように飛翔しながら戻ってきていた。
「どうも……嫌な予感がしてなぁ。さっさと終わらせるつもりだったんだがやめた」
眼鏡の縁を軽く撫でながら告げる。
エアリエルはそんな彼の言葉に「ふーん」とどうでも良さそうな相槌をすると彼の右肩に座りこむ。
「じゃあどーすんの?」
「しばらくは様子見だ。まぁああいつらで駄目そうなら出張るけどな。生き埋めなんて冗談じゃねぇし、クックック!!」
そして彼は腰に付けていた時計を取り出すと口早に呪文を唱える。
「“カチャカチャと音を立てる悪戯好きの水棲妖精。その身に纏う貝殻を少しの間、貸しておくれ”」
「お、シェリーコートに来てもらうんだ?」
「午後十時のシェリーコート」
エアリィの言葉に軽く笑みを浮かべながら、彼の呪文は完成する。
腰の時計から「ポン!」という軽い音と共に現れた妖精の頭を彼は軽く撫でてやりながらこんなことを頼んだ。
「シェリー、お前はあの褐色肌の女を見張ってくれ。くれぐれもばれないようにな」
カチャカチャと音を立てながら頷き、頼まれた仕事をこなすべく動き出す彼。
そんな彼を尻目にバロネスはエアリエルの頭を小突く。
「エアリィ、お前はクズハと半端者の方をやれ。やられそうになったら報告しろ」
「はいは~い、ったく妖精使いが荒いんだがらさぁ……」
「ちゃんと代価として楽しませてやってんだろう? 嫌なら俺のところなんぞ出て行きゃいい」
「アンタの所より面白い所を見つけたらそーするよッ!」
そんな軽口の応酬を終えると彼女もまた頼まれた仕事をこなすべく彼から離れる。
「…………俺が出るにはまだ早ぇ。さて魔が出るか、邪が出るか。どう転んでも愉しめそうだなぁ。クックック!!!」
己を取り巻く不明瞭な状況すらも楽しみながら。
彼はごく自然に、なんの躊躇いもなく、彼女たちを餌にする事を決定していた。
あとがき
お久しぶりです、紅(あか)です。
またずいぶんと間が空いてしまいました。
私の作品を楽しみにしてくださっている方々。本当に申し訳ありません。
さて今回、ようやく戦闘に漕ぎ着けましたが如何でしたでしょうか?
メインは真名VSマイアーの狙撃屋対決でしたが自分としてはそれなりに出来たと思っております。
実力ではなく経験で負けている、という感じが伝わっていれば幸いです。
ご意見、ご感想などありましたらお気軽に感想掲示板へお書きください。
次の更新も出来る限りはやめに行いたいと思いますのでこれからもこの作品をよろしくお願いします。
それではまた次の機会にお会いしましょう
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