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時計が刻む物語 第二十七話(×足洗い邸の住人たち オリ有り) 投稿者:紅(あか) 投稿日:03/13-00:21 No.2131  

時計が刻む物語
第二十七話 『守護者と戦闘者と殺戮者』


 地下図書館・洋館

「………ッ」

 安楽椅子に座り、何をするでもなく窓から外で勉強をしている子供たちを見つめていた女性は突然、体中を駆け巡った怖気に自身の身体を強く抱きしめていた。

「………こ、この『気配』。まさか……もう目覚めてしまった?」

 額を流れる、冷えた汗を拭いながら呆然と呟く。
 ありえない事態と、起きてしまったソレが引き起こす惨事を思い浮かべ、その顔は青を通り越して白くなっていた。

「これは予想外の事態です。……なんとかあの子たちだけでも守らなければ」

 震える身体に喝を入れ、椅子から立ち上がる。
 女性の脳裏には昨日からここに来ている遭難者にしては陽気な子供たちの姿が在った。

 突然、目の前に現れここに住んでいると名乗った自分に何人かは最初、懐疑の視線を向けてきた。
 だが食事を振る舞いほんの少しこちらから歩み寄り害意が無い事を示した自分に、彼らは暖かな笑みでもって答えてくれたのだ。
 場所が場所なだけに人と関わる事が少ない彼女にとってそれは何よりも喜ばしい事。
 たとえ一時の短い会合であろうと。
 否、だからこそ彼女はその事を大切に思っている。
 護りたいと強く願っている。

「(そう……未来を担い、未来を生き、未来を活かす子たち。その先を見届ける為にも私には恐れている時間など無い)」

 『昔』のように、恐れ、震え、逃げているだけでは駄目なのだ。
 そうした結果、親しかった『人間の少女』を失ってしまったのだから。

「……」

 目を閉じ、『己の領域』である『図書館島全体』へと意識を広げる。

 それは例えるならば髪の一本一本から足の爪の先、果ては血管の中を流れる血液に至るまでを支配するという事。

 この女性はこの広大な図書館に対して『そのような神業』を行う事が出来る『妖(あやかし)』なのだ。

「……戦う者がいるのならば護る者がいる。壊す者がいるならば直す者がいる」

 右手を頭上、天井に向かってかざす。
 呟かれる言葉に想いを乗せる。

「私は護る者。戦う意志はあれど戦う術は持たない。……だから」

 この世に現れた神。
 そしてソレと真っ向から対峙する者たち。
 その姿を閉じた瞼の裏に映し、女性は呟く。

「貴方たちの帰る世界は私が護る。だから必ず勝ちなさい」

 柔和な表情が引き締まり、その瞳には並々ならぬ覚悟が宿る。
 そして彼女は己の本体とも言えるこの図書館に巡らされた機能を使用した。


地下図書館・最下層の間

「クックック! さぁてどいつを遊ばせてやろうか……」

 こういう状況に向いている契約妖精を脳内で指折り数えながら笑うバロネス。
 その顔には焦りの色などなく、また相手に対する恐怖なども見られない。

「前もって言っておきますが……先ほどのように私を囮に相手の力量を測ろうなどとしないようにお願いします」
「なんだ、言及してこねぇから言わなかったが気にしてたのか? クックック、利用される方が悪ぃんだよ。悔しかったらお前も俺を利用してみろ。……まぁ無理だろうがな」

 一枚の板時計をこれ見よがしに掲げながら彼は歯を剥き出しにして笑みを深くする。
 その様子には反省の色など微塵も伺えない。

「さてお待ちかねの出番だ。存分に殺れ」

 そしてその口から呪文が紡がれる。

「“惨劇の場に誘われ、血を求める邪妖精よ。 その真紅の帽子を今日も真っ赤に染め上げろ” 午後七時の『レッドキャップ(赤帽子)』!!」

 その言葉を引き金に、時計に施された術式が発動する。
 目の前で淡く発光する時計と妖精屋敷の魔法陣が繋がり、そしてこの時を待っていたとばかりに呼ばれた『彼』は嬉々としてこちら側に飛び込むのだ。

「ギェッギェッギェッ! オメエラの血は何色ダァアアアーーーー!!」

 一メートル程度という小さな体躯に、どす黒い赤色に染まったトンガリ帽子。
 その帽子に四肢が生えているかのように見えてしまうほどの小柄なその妖精が両手に握るのは刃渡り十数センチ程度のナイフ。

 彼の名は『邪妖精レッドキャップ』。
 中世の頃、城や砦を護り続けてきた誇り高き兵士が血の味に溺れてしまったなれの果て。
 護るモノを無くし、ただただ殺す事に執着した結果に生まれた狂気の妖精。

 その力は単純にして凶悪。
 殺す術を本能で磨き続け、本能で高め続けた悪鬼だ。

「加減はいらねぇ、遠慮もいらねぇ。今更命じる必要もねぇ。獲物には事欠かねぇから思う存分刻んじまえ!!!」
「ギィイイイイイーーーーー!!!」

 契約者であるバロネスの言葉に耳障りのする雄叫びで自身の歓喜を表すと彼はゆっくりと迫り来る亡霊の群れへと飛び込んでいった。


「なんて……暴虐」

 少し離れた場所で先頭の落ち武者を斬り捨てながら刀子は呆然と呟く。
 彼の呼び出した妖精の戦いの余りの無策さと余りの凄惨さを目の当たりにして。

 跳びかかる。斬り刻む。跳びかかる。斬り刻む。跳びかかる。斬り刻む。
 跳びかかる。斬り刻む。跳びかかる。斬り刻む。跳びかかる。斬り刻む。
 跳びかかる。斬り刻む。跳びかかる。斬り刻む。跳びかかる。斬り刻む。
 跳びかかる。斬り刻む。跳びかかる。斬り刻む。跳びかかる。斬り刻む。
 跳びかかる。斬り刻む。跳びかかる。斬り刻む。跳びかかる。斬り刻む。
 跳びかかる。斬り刻む。跳びかかる。斬り刻む。跳びかかる。斬り刻む。

 敵の真っ只中に飛び込んだというのに『アレ』はそのたった二つの行動しか行っていなかった。

 相手の攻撃を避ける、いなす、受け止める。
 そう言った防御行動を行っていない。
 というよりももはやそう言った『行動が存在する』という事実を認識していないようにすら見えた。

「(アレは普通じゃありません。相手を殺す事しか考えていない)」

 ただただ狂気のままに刃を振るい、それがもたらす死という結果にただただ狂喜する赤帽子。

 自分の死すらも完全に度外視していた。
 あるいは己が死んだ事にすら気付かず永遠に殺戮に酔うのではないかとすら思わせる。

 その様は刀子に死霊使いが亡霊を呼び出した時以上の寒気を感じさせていた。


 自分とて『剣士』として、『裏の人間』としてそれなりの長さを生きてきた。
 老若男女の区別無く戦い、その内の何人かはこの手で殺めもしている。
 どうしようもない外道を相手にする事もあれば、道が違えばあるいは敵対する事すらなかったような相手を手にかけた事もある。
 正義とは戦う者一人一人に存在しうる物であり、それが他人にとってどういう意味を持つ物であるかという事もまた数多い人間が持つ価値観によっては善に視える事もあり、悪に視える事もあると言う事もよく知っているつもりだ。

 彼、バロネス・オルツィという人間は刀子が今まで出会ってきた相手の中で限りなく最悪に近い人種である。

 利己的で自分勝手。
 己の理屈でもって相手を言葉、あるいは力で捻じ伏せるという姿勢。
 遠慮も容赦もない獣のような男。
 なまじ思考能力が高い分、獣などという言葉では生温いほどの危険人物なのだ。

 これは刀子だけではなく、この学園都市で彼と面識のある魔法関係者ほぼ全員の共通認識である。
 そして彼女は恐らくその事実を学園内の誰よりもよく知っている。
 仮にも一週間もの間、彼の監視任務についていたのだから。

 だが彼女は今、彼の今の戦い方を見てこう思っていた。

「(私たちの認識はあまりにも甘すぎたのではないのでしょうか……?)」

 彼女の視界を埋め尽くすかのように前進する亡霊の群れを横一線に斬り捨てる。
 だがやられた端から次の亡霊が前進し、とてもではないが死霊使いを攻撃範囲に収める事が出来ない。

 一旦、距離を置くべく後方に飛ぶ。
 ちらりとバロネスの方を見ていれば相も変わらず不遜な笑みを浮かべたまま、敵のど真ん中で虐殺を続ける赤帽子を見つめ続けている。

 そのまったく変わらない姿勢が刀子の心を揺さぶる。

「(彼はアレを見ても何も感じていないというのですか? 今回は迷い出た亡霊が相手だから……というのならまだいい。けれどもしも人間相手に、例えば先ほどのハンターを相手にしてすら平然と『同じ事』が行えるというのならば……)」

 それは正に悪鬼の所業ではないか?

 自分の近くにそんな危険な存在がいて、しかも背中を預けなくてはならない。
 そんな状況に置かれているという事実を聡明な彼女は改めて認識してしまった。

「くっ!」

 その動揺が亡者の群れを相手に一瞬とは言え戦意を鈍らせて、隙を作ってしまう事になる。

ボロン!

 その隙を逃さず石琵琶の良く通る音が彼女の鼓膜に届く。

パァン!!!

 同時に彼女の右肩を衝撃が貫いた。

「うっ!?」

 目の覚めるような快音と共に肩に走る痛みを知覚する。
 だがその時には既に。

パァン!! パァン!! パァン!!

 初撃を合わせ四回もの攻撃を彼女は全身に打ち込まれていた。

「あっ、がっ!?」

 訳もわからぬままに吹き飛ばされる刀子。
 だが刀だけは離さず、即座に受身を取り身構える事でなんとかそれ以上の攻撃を受ける事はなかった。

「ぐ……一体何が………」

 右肩と額に一撃、腹部に二撃。
 まるで棒状の物に殴打されたような痛みだった。

「苦クク、ハ破ハハ破。よもや戦の最中に別事に気を取られるような余裕があるとは。ニンゲンの傲慢さと言うモノはまこと救いがたいものよな」

 完全に刀子を見下した口振りで話すのは琵琶使いの男。
 彼は現れた時とまったく変わらぬ位置で胡坐を掻いて座り込んだままだ。

 その口調と自分相手では立つ必要すらないとでも言わんばかりの態度に怒気が湧き上がってくるが、なんとかそれを表に出す事だけは避ける事が出来た。
 代わりにその想いを込めて琵琶から片時も手を離さないその男を睨みつける。

 そんな事で態度を翻すような相手だと言う事は分かっているがそれでもやらずにはいられなかった。

「フ不負、余所見をしていてよいのか? そろそろ『彼奴ら』も身体に馴染んできた頃合いぞ?」
「何を言って……っつ!?」

 問いただすよりも速く目の前を何本もの白刃が通り過ぎる。
 かろうじて避けるモノの髪を何本か持って行かれていた。
 そしてその白刃の正体は先ほどまでゆっくりと前進し、その遅々とした速度にじれったさすら覚えていた落ち武者たちの放った剣撃だった。

「なっ!? 動きが速くなった!?」

 驚愕する暇もあればこそ。
 見違えるほどに動きの良くなった亡霊たちは恐らく生前に持ち合わせていたのだろう豪腕と洗練された太刀筋で刀子に襲い掛かってきた。

「生者どもぉおお……」
「憎い、ニクイゾォ……」
「滅びロ、死に絶えろォオオ……」

 生あるモノ全てに向けられた呪詛を口々に唱えながら、ゆっくりと噛み締めるようなその言葉とは裏腹にその動きは俊敏だった。

「不ハ破は……。地獄に逝く事もなく現世を彷徨っていたこの者たちは元来、肉体など持たぬ。故に我が構成した肉体は使い慣れず生まれたばかりの赤子とそう変わらぬのだ。己の記憶にある戦いの動きなど到底出来ぬ。それが『先ほどまで』のこやつ等よ」

 なにやら自慢げに講釈を述べているが刀子にはそれを聞いている余裕はない。
 亡者どもの相手で精一杯なのだ。

 
 だが動きが早くなったと言っても一人一人の動きはやはりそう大したものではない。
 少なくとも刀子の敵ではなかった。
 事実、気を取り直した刀子によって十数体の亡霊が消されている。

 だがいかんせん数が違い過ぎた。

「午後十時の鉄枷ジャック・右腕!!」

 視界の端でバロネスの右腕がその姿を変え、亡霊たちを薙ぎ倒す姿が見える。
 その顔には笑みが残っているが余裕はなくなっていた。

 そんな状況でも変わらずにただただ敵を狩る赤帽子が今だけは妙に頼もしく思える。
 それでも多勢に無勢だった。

ボロン! ボロン!

「だらしのない者達よな。この程度の力で追い込まれるとは。まだまだ我は『本調子』ではないというのに」
「なんですってッ!?」

 聞き捨てならない言葉に思わず荒げた声を上げる。

「(本調子ではない? 百を超える死霊を苦もなく操っている今の状態で? 冗談じゃありません!!)」

 迫り来る刃の群れを力任せに薙ぎ払いながら心中で毒づく。

 もしもそれが本当ならば、自分たちは……。

「おいおい。もう飲まれてんのかぁ?」

 ドンと背中に負荷がかかり聞き慣れてしまった男の声が耳に届く。

「なっ! いきなり人に寄りかからないでください! 動きが取れません!!」

 突然背中を預けてきた危険人物に刀子は二重の意味で慌て声を荒げる。
 油断ならない男に背中を取られた事への狼狽と動きを止めてしまった事に対して。
 だがそんな彼女の心中などこの男には、まったくもって伝わっていないようだ。

「クックック! ここじゃあ『材料』がなさ過ぎるな。これじゃあ試してぇ手が使えねぇ」

 マイペースに愚痴りながらヨーヨーで亡者を一人、また一人と叩き伏せていく。
 彼の視線の先では相変わらず不気味な笑い声を上げながら敵の只中で殺戮を繰り返す赤帽子の姿が見える。

「何か手があるのですか?」

 なんとか平静を取り戻し、強制された背中合わせのまま刃を振るいながら彼女は問う。

「ある。だがあのデカブツを使っても足りねぇ」

 未だ気を失っている鳳山を顎で示しながら自信たっぷりにそんな事を言う。
 つられてそちらを見ればあちらには亡者たちは一体も向かっていないようだ。
 先に動ける人間を始末してしまおうと考えていると見て間違いあるまい。

「……この際、何か手段があるというのならなんでもいいです。どうにか出来ないのですか?」
「ンーー、ボチボチ『頃合い』か……』

 デカブツを『使う』という言葉に嫌な予感を感じるが今は手段を選んでいられる状況ではない。
 強制された背中合わせをなぜかやめずにそのままの姿勢で刀を振るい続ける彼女にバロネスはボソリとこう呟いた。

「前に飛べ」
「何を、ちょッ!?」

ドン!!

 彼女が聞き返すのと彼が彼女を思い切り後ろ足で蹴り飛ばすのがほぼ同時の出来事だった。

 先ほどまで感じていた人の温もりが消え、その代わりとでも言うかのように目の前に広がるのは丁度近づいてきていた亡者の顔。

 最悪の『接触情景』が彼女の頭に過ぎった。

「ッきゃぁああああああああああ!!!」

 葛葉刀子、二十●歳。
 それなりに人生を歩み、酸いも甘いも知ってきた身ではあるが。
 
 さすがに生きていない者との接吻は嫌だった。

 彼女の感情に呼応して恐ろしい勢いで刀に集まる気。
 乱れきった頭で狙いなど付けれるはずもなく、また付けるだけの余裕などなく。
 溜まったその力を彼女は目の前の存在に思い切り振るった。

「いやぁああああああああああ!!!」

 空間を揺るがす大絶叫と共に。

ズガァアアアアアアアアアアアン!!!!

 
 そしてそれが起こると同時。
 バロネスのもまた新たな妖精種を呼び出すための言葉を叫んでいた。

「鉄枷ジャック・FULL!!!」
「はいはーい!」

 その言葉を受けて彼らの頭上、数十メートルという位置で出番を待っていたエアリエルがニンマリと笑いながら両手で抱えていた板時計を落下させる。

 淡い輝きがその時計から発せられると同時に。

 全長三メートル以上。
 鳳山と同等かそれ以上の巨体を持つ鋼の巨人が。

ズドォオオオオオオオオオオン!!!!

 重々しい地響きと共に、何体もの亡霊を踏み潰しながら出現した。

「むっ……」

 どこからともなく出現したその巨人と男の使う得体の知れない術に、琵琶使いが僅かばかり呼吸を乱す。

「フングァアアアアアア!!!」
「ギイィエエエエエエーーーー!!!」

 狂気と狂気が吠え声を上げる。
 常人なら竦みあがるだろうその叫び声を聞きながらバロネスは頼もしいとばかりに笑う。

「クックック! さっさと本気を出してこいよ。てめぇの本気を俺の策とこいつらの力で上回ってやるからよぉ」

 ギラギラと目を輝かせながら彼は何の気負いもなく言い放った。

 その後ろで涙目になって自分を睨みながら亡霊相手に奮戦している女性がいる事にも気づかずに。



 この場の誰もが気づかなかった。
 彼の右腕が度重なる鉄枷ジャックの使用により断裂寸前にまで追い込まれている事に。
 もはやヨーヨーを振り回すどころか、時計を持つだけの力すら彼の右腕には残っていないという事実に。

 戦いはまだ終わらない。


あとがき
およそ一ヶ月ぶりになります。紅(あか)です。
今回は第二ラウンドの前編になります。
死霊使いたる琵琶男に対してバロネスと刀子のデコボココンビで挑むという構図ですがいかがだったでしょうか?
妖精たちの活躍も含めて楽しんでいただけたならば幸いです。
最初の女性も含め、伏線も張ってありますので後々の展開も含めて期待してくださると嬉しいです。
ご意見、ご感想などございましたら気軽に感想掲示板にお書きください。

それではまた次の機会にお会いしましょう。

時計が刻む物語 時計が刻む物語 第二十八話

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