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EXFile08.5「妄想戯曲<どりーむまっち>」 投稿者:赤枝 投稿日:04/21-01:50 No.351
注:このお話は、あくまでもおまけであり、本編とは一切関係がなく。かつ本編設定とは大きく異なります。ぶっちゃけ何もかも適当です。純度100%でネタです。
【】で囲まれている部分は赤枝による翻訳です。
EXFile08.5「妄想戯曲<どりーむまっち>」
一人の女――佐々木まき絵――が居た。
一人(?)のショゴスが居た。
「てけり・り!!」
ショゴスが触腕を鞭の如くしならせて、まき絵の体に向かって攻撃を放つ。触腕の先には瞬く間に無数のとげが構成され、キチン質じみた光沢を放ちながら、まき絵に向かって迫る。
「なんのーーー!!」
対するまき絵が手に持つのは、一本のリボン。長年連れ添ってきたこの道具は、まき絵の意思を忠実に伝達する。
リボンはショゴスの触腕の動きよりも数段早い速度で、空を奔り、ショゴスの触腕を根本から切り裂いた。
千切れた触腕が宙を舞い、遠心力の掛かった触腕の先端が、更にその形状を兇悪に変化させながらまき絵に迫る!!
「ふっ!!」
一息、鋭く息を吐いた。同時に極々僅かなスナップで手首をしならせる。
それだけで、まき絵に向かって接近していたショゴスの一部がリボンによって拘束され、そのベクトルをそらされた。
本体から分離した触腕は、その場で自我を構成、同時に鋏を生成し、まき絵のリボンをずたずたに切り裂いた。
舌打ち。そのままリボンを破棄。
制服の手首から予備のリボンをスライド。そのまま手に取り、構える。
「てけり・り【ふむ……】」
ショゴスがわざわざ人口を生成して、にやりと笑う。
非人間的なフォルムのくせに、嫌に人間くさい動作をするショゴスである。
「なにいってんのか、わかんないのよ。この粘物!!」
まき絵には、この不可思議生物が何を言っているのかは見当も付かなかった。
分かっていることと言えば、この生物のぶにょぶにょ感とかぬるぬる感が我慢ならないほど気持ち悪いということだ。見ているだけで吐き気がする。
「てけり・り【人間にしては良くやる。しかし、ここが貴様の終着だ】」
笛の音にも似た化け物の声。
相変わらず何を言っているのかは分からなかったが、その意味を漠然と察することが出来た。
つまり、
「これで決着をつける。そう言いたいのね」
然り。そう言わんばかりにショゴスがうなずく――もとい、うなずいたように見えなくもない動作をした。
まき絵も覚悟を決める。どのみち逃げ場はないのだ。
「いいわよ。相手してやるわ。かかってきなさい!!」
ならば往くぞと、大量の空気を取り込んだショゴスの体がふくれあがる。
今までとはちょっと調子の違う声で、ショゴスが詠うようにして鳴き声を上げた。
「Tekeli-li【体は粘物で出来ている】
Tekeli-li【血潮はどろどろ、心はうねうね】
Tekeli-li【幾たびの戦場で蛸<クトゥルー族>を殺す】
Tekeli-li【ただの一度も死なず】
Tekeli-li【ただの一度も理解されない】
Tekeli-li【かのモノは常に分裂し、南極の地下で犠牲者を待つ】
Tekeli-li【故にその反乱に意味はなく】
Tekeli-li【その体はきっと、無限の粘物で出来ていた】!!」
「やっぱり何言ってるのかぜんっぜんわかんないーーーーー!!」
まき絵のコメントを無視って、魔術の究極が、もっとも魔法に近いとされた大禁術が、ショゴスの呪文――本当に呪文かどうかはどえらく疑問だが――に従って発動する。
辺りの空間を切り裂くように、ショゴスの触腕がうにょーんと伸びて世界を切り取ってゆく。
「きゃーーーーーー!! なになになになに!! いったいなんなのこれーーーー!!」
病的で悪夢めいた空気でもエーテルでもない何かを触媒として辺りに響き渡る、如何なる音階とも異なる尋常ならざる不協和音とともに、
「「「「「「「「「「てけり・り!! てけり・り!!」」」」」」」」」」
世界が浸食する。
「「「「「「「「「「てけり・り!! てけり・り!!」」」」」」」」」」
頭蓋の中で奇異なる反響を繰り返すその呪われたその音。人間の可聴域を逸脱したヘルツ帯を含むその音は、先ほどから何度も聞いているあの地獄めいた、アザトースの従者どもの吹き鳴らす発狂した金属から鋳造された未完成のフルートの音にも似た冒涜的な旋律を持つ、あの忌まわしい鳴き声だ。
「「「「「「「「「「てけり・り!! てけり・り!!」」」」」」」」」」
悍ましい光景。いっそこれが麻薬や阿片によるバッドトリップによって喚起される幻覚であるのならばいくら救われたことだろうか。
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「てけり・り!! てけり・り!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
だがしかし、それらは明確な質量を備えていた。
絶望的なまでにぷるぷるとした、その体躯はまさしく幾百幾千幾万幾億の年月を閲して蓄積された悪意の権化。
うねーんうねーんと空を切る触腕は、この世全ての悪を醸造し爆縮した何かから生まれた汚泥そのもの。
地獄の底、無限地獄の彼方から汲み上げてきたタールよりも禍々しいそれらは、
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「てけり・り!! てけり・り!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
どっからどう見てもショゴスだった。
まき絵はとうてい言葉では語り尽くせぬ異様な感情に駆り立てられて、辺りを見回した。
右を見てもショゴス、左を見てもショゴス。
前を見てもショゴス、後を見てもショゴス。
東西南北中央至る所にショゴス。
天から落落ちてくる、やたらと粘性の高い雨粒は紛れもなくショゴス。
地面から染み出してくるあの粘液も間違いなくショゴス。
よく分からない角度から飛び出てくるアレもショゴス。
見渡す限りショゴス。
そう。これこそが、固有結界<りありてぃまーぶる>『無限の粘物<あんりみてっど・てけりり・わーくす>』!!
数億年の時を経て、失敗に終わった反乱の無念と白ペンギンを糧に、過去永劫未来永劫南極地下にて無為なる増殖を繰り返すショゴス達の群れ。
世界中に散らばるそれらを、南極地下に今も眠るそれらを、『今』『この場所』に召喚する、究極奥義!!
もはや人間が認識しうる数を超えたショゴスの群れは、まさしく無限。
いや、無限とは人間の推量能力の限界が見せる錯覚だ。この有限世界において無限なんてものは存在しない。
だがしかし、この場に居るショゴス達は、分裂を繰り返しながら今もその数を増大させてゆく。見渡す限りのショゴスの群れ、彼らの増殖速度はそれこそ星を覆い尽くさんばかりの勢いで、とどまることを知らないかのようだ。
だから彼らは真実無限なのだ。無限にこの場に召喚され、この場で無限に増殖する。
最初のショゴス――といっても、既にまき絵にはどれがどれやら良く分からなかったが――が一声鳴いた。
「てけり・り【怖れることはない、此処にいるのはただの粘物だ。何て事はない、ただのショゴスだ。だがしかし我が同胞達の数はそれこそ無限――】」
ショゴスが、触腕をうねーんうねーんと蠢かせながら言ってきた。
生意気にも目を生成して瞼を閉じているが、半透明スケルトンボディ故の悲しさか、瞼の上からでも眼球が見えて、めりっさキモい。
ぱっちりと、目を開けてショゴスが言った。
「てけり・り?【往くぞ麻帆良のアホウドリ、SAN値の貯蔵は充分か?】」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
サーヴァントデータが更新されました。
ショゴス
クラス:?
マスター:?
真名:?
性別:不明
属性:秩序・悪
筋(?)力:B 魔力:C 耐久:EX(不死)
幸運:D 俊敏:C 宝具:B
技能
怪力C:見た目に反して力持ち。ショゴスはもともと労働用に開発された種族である。
器官生成:触腕を始め、口、目、エラ、鋏など様々な器官を自在に生成可能。擬態も可能。
正気度下降:ショゴスの姿を見るとSAN値がダウン。敵味方の区別は無し。
法具
固有結界<りありてぃまーぶる>『無限の粘物<あんりみてっど・てけりり・わーくす>』
よく分からない空間をよく分からない方法で展開するよく分からない必殺技。
固有結界とは名ばかりの粘物空間。そりゃもうアイダホ辺りの風習もかくやと言わんばかりの狂気っぷり。
酷く巫山戯た冗談じみた技ではあるが、単体ですら不死であるショゴスが、無限大に襲いかかってくるのはとんでもない脅威である。
戦いは数だよ兄貴。
詳細:
10億年前原始地球に飛来してきた『古のもの』が、現存人類の科学力を超越した技術で創りあげた生物の一つ。そのタフネスは驚異的の一言につき、如何なる手段を以てしても殺し尽くす事が出来ないと言われている。
自己進化能力も備えており、如何なる器官であろうとも擬似的に生成することが出来る。場合によっては人間の姿をとることも可能なようだ。『古のもの』から得た知識も備えているため知能も非常に高い。いろんな常識をコンビニ感覚でDelってるハイパー生物。
創られた当初は知性を持たなかったが、長い間『古のもの』に仕えている内に知性を会得。何度か反乱を起こしたが結局は『古のもの』の手によって南極地下に封印された。
かの狂えるアラブ人ことアブドゥール・アルハザードはショゴスについて「麻薬による夢の中以外でみることはできない」と言及しているが、現在でも南極地下を始めとして様々な場所に潜んでいる模様。『古のもの』による封印以来億単位で年数が過ぎているため、どれほどの数が現存しているかは不明、それこそとんでもない数になっているのでは無かろうかというのが専門家達の見解だ。
ミスカトニック大学が行った南極調査隊の隊長ダイアー教授の手記にはショゴスとおぼしき生物に関する記述があり、『古のもの』が施した封印は既に解かれているとの説もあるが、詳しいことは不明である。
何処ぞの魔導書はショゴスに『ダンセイニ』と名前を付けて使役していた。しかし、本来ショゴスはあのようにおとなしくも可愛らしく粋な存在では無いことを、我々は忘れてはならない。
――――――――――――――――――――――――――――――
無限に増殖するショゴス達がまき絵を取り囲んだ。
あるものは万の目を、あるものは千の口を、あるものは百の牙を、あるものは十の爪を生成して、自分たちの目の前に立ちふさがる、愚かな人間を嘲笑った。
「てけり・り!! てけり・り!!」
あの笛の音によく似た鳴き声を上げながら、ショゴス達は触腕をうねうねと蠢かせながら、獲物を見つけた喜びにその粘性の高い体を震わせる。
その醜悪な姿を見て、まき絵の頬がなにか吹っ切れたように歪む。
なんというか、恐怖の底が抜けたというか、ぬめぬめに対する恐怖感がリミッターを振り切ってどうでも良くなってしまったような。爽快感すら伴った、奇妙な感覚。
ある種の高揚感。そして、こんなものに怯えていた自分に対する嘲笑。
四方を囲むは、無限の粘物。
少女の手には、一つのリボン。
彼女がショゴスに対抗するために武器としたそれは、このような状況にあっても未だ絶望を知らぬ主に従い。その滅殺の意思を伝達して、くるくると回転を始める。
大気を裂き、エーテルを裂き、マナを裂き、字祷子を裂きながら、リボンはその回転速度を上げてゆく!!
「――いい開幕よ。死に物狂いで謳いなさい雑粘――――!」
かくて妄想戯曲の幕は開ける。
EXFile08.5「妄想戯曲<どりーむまっち>」……………………Closed.
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