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File16「始まり」 投稿者:赤枝 投稿日:08/09-16:52 No.1073
魔導探偵、麻帆良に立つ
File16「始まり」
1.
長さがでたらめな四本の針を持つ棺桶の形をした時計が、地球上のいかなるリズムとも異なる極めて不規則な動作で時を刻む。
「んで、結局ネギは先生続けることになったのか」
うららかな昼下がり、さまざまな魔導書や辞書を机の机の上において、九郎は手製のアエテュル暗号表を参照して暗号解読に精を出しながら、ソファーに座る和美に問いかけた。
「はい。結局2-Aは学年トップを飾ってネギ君は私たちの先生を続けることになりました。
すごかったですよ。最後の馬鹿レンジャーたちの追い上げは。あーゆーのを鬼気迫るような勢いっていうんでだろうなぁ……。
ちょっと気になったんですけど地下でなんかあったんですか?」
「あー。いろいろあったんだ。ほんとにいろいろ。詳しくはネギたちに聞け。話し渋るかもしれないけど俺の名前を出せば話すだろ」
「あと、みんなが帰ってきて以来、ネギ君たちの部屋によく分からない謎っぽいピンク色の生き物が住んでいるみたいなんですけど、みんなあまり気にしていないみたいなんですよね」
「あれは木乃香嬢たっての希望でぜひとも部屋で飼いたいっつーてな。いくらなんでもアレを素で放置するのはやばすぎるから、沙耶に認識阻害の魔術を教え込んだんだ。一発で習得したのには流石にびびったな」
「沙耶?」
「ああ、あのピンク色したゼリーの名前。お前に認識阻害の魔術が聞かないのは、この屋敷に入り浸って、その手のものに耐性が付いちまったせいだろうな」
その台詞に、和美がずっこける。
「この屋敷。そんなにやばいものばっかり集めてるんですか!?」
「まーな。仮にも俺の屋敷だし。そこいらの心霊スポットと比べりゃ三輪車と単車ぐらいの違いはある。ただ生活するだけで経験値がたまっていく素敵仕様だ」
「このところ妙に視線を感じたり、授業中となりに誰もいないのに誰かが座っているような気配がすると思ったら……」
和美が頭を抱えてとほほと呟いた。知らない間にレベルアップしていたらしい、それもあまりレベルが上がってもうれしくは無い方向性で。
「――さってと」
九郎がパンと手に持っていたネクロノミコン新釈を閉じる。机の上においてあった暗号表を机の中に仕舞い込み。脇においてあった古びた羊皮紙を大事そうに本棚に保管した。
「あれ? どっかいくんですか?」
趣味の悪い翼の羽を模したハンガーからコートを取り、袖を通す九郎に向かって和美が問いかけた。
「ああ、ちょっと図書館島の方に用事があってな……」
「……なんで図書館島に出かけるだけなのにその物騒なものを手に取る必要があるんですか?」
ホルスターに二丁拳銃を納める九郎をなじるような視線で見つめる。
「いや、出来ることならもっと強烈な武器がほしい。今のこいつらじゃ威嚇にもならんし」
「どんな化け物ですか。それ」
「俺の敵」
「はぁ…………」
九郎の答えに納得したような、いまひとつ納得していないような微妙な返事を返す。
「まあ、ヤツが直接手出しするってのは絶対にありえないからな。お守りみたいなもんだ。じゃ、いってくる。
しばらく帰ってこないから、この屋敷自由に使っていいぞ。つーか寝ろ。化粧で誤魔化しても俺から見れば衰弱してるの丸分かりだ」
「――えっと、バレれた?」
「とっくにな」
「なんか此処のところまた夢見が悪くて眠れないんで……」
「この屋敷の守りは完璧だ。『連中』がやってくることは絶対無いから安心しな」
「じゃ、お言葉に甘えます」
「一応戸締りだけには気をつけとけよ」
「ういーっす。いってらっしゃーい」
「おう、いってくる」
ひらひらと手を振りながら九郎を見送って、和美は――
「今、もしかすると私ってばとんでもない内容の会話してなかった?」
誰にとも無く尋ね。それに答えるように屋敷の梁がぎしりと軋んだ。
2.
今から会いに行く人物――はたしてアレを人物と形容していいものかどうか――の元に向かうことに九郎はあまり乗り気ではなかった。
本来ならば『出会い=殺し合い』という関係であるはずなのだが、現在の自分にはアレを倒しきる力はなく。また、アレもまたこちらに敵意やら悪意やらを向けているわけではいという、極めて不自然かつ理解しがたい状態なので、アレと会うことを考えるとなんとなく陰々鬱々とした気分になるのだ。
だがしかし、今回事件にアイツがかかわっていないはずがない。一度話を聞きかなければならないという思いの元、九郎は図書館島大図書館館長室にまで足を運んでいた。
此処に来るのは麻帆良にやってきて以来二度目だな。といまさらながらに思い出しながら、小さくため息をついた。
ノック。
「どうぞ」
誘うような声。飲み込まれる事が無いように精神防壁を張り巡らせてから、九郎は扉を開いた。
以前ここにやってきたときはいたるところが破壊され汚れていたが、それらはすべて完璧な形で修理されていた。部屋の中央にある重厚な机の上にはさまざまな資料や書類が積み重ねられ、その奥にには濃紫色のパンツスーツを着た紅玉の瞳を持つ女がいた。黒い手袋をした手には羽ペンが握られ、じつにゆったりとした動作でなにやら書き綴っていく。
「いらっしゃい。僕がこの図書館の館長代理を務めているもので、どうぞナイア、とおよびくださいな――ってああ。九郎君じゃないか」
「捻りの無い名前だな」
「はっはっは。名前のことで君にとやかくは言われたくないなぁ。
それで、何の用かな? この図書館を利用したいというのならば受付の司書にでも言ってくれればそれでかまわないけど――ああ、そうかそうか。僕に会いに来てくれたんだね?」
「ちぃとばかり聞きたいことがある」
――女。ナイアのお調子を無視して、九郎は強引に話を進める。
「ぶー。ノリが悪いよ九郎君、女の子には優しくしなきゃモテないよ――まあいいや、それで何の用だい?」
「単刀直入に聞こう。今回の騒ぎを起こしたのはお前か?」
「いーや。違うよ。話を面白おかしくしようといろんなところに手を加えはしたけど、事件をそのものを起こしたのは僕じゃあない」
その答えを聞いて、九郎の表情が怪訝に曇る。
「あ、疑ってるね。心配しなくても僕は人間とは違って嘘をついたりはしないんだよ」
「どーだかな」
「ホントホント。もともとこの街はアーカムシティと同じくそういった事件が起こり易い場所なんだ。
それにここは魔法使いたちの御伽噺の街だ。地上にはきれいで楽しげ、夢があふれるワンダーランド。地下には世にも恐ろしい怪物が棲んでいる。実にそれらしいだろう?」
「ああ、俺の目の前にもとんでもないのが一匹いるな」
「ひどいなぁ。こんな美人を捕まえて」
からからと、ひどく楽しげにナイアが笑う。
「じゃあショゴスは? アレもお前の仕業なんだろう?」
「それも違う。連中は、僕が此処に来る前からあそこに居たんだ。それに僕は彼らの行動には一切干渉してない。その必要もなかったしね。彼らは本能に従って行動したに過ぎない」
「じゃあ、何だって……」
続けようとして、九郎は押し黙る。完全にアテが外れた、この事件を引き起こしたのがナイアならば『アル・アジフ』の断片があんな場所にあったのにも納得がいったのだが。
「あんなところにアル・アジフの断章があったかって?」
心の中を見透かされたような答えを返され、九郎はとっさに返す言葉を思いつけなかった。
「そんなに驚いた顔しなくったっていいじゃないか。僕はここの館長さんだからね。この図書館で起こっていることぐらいは把握してるさ。
君はあそこでネギ君と共にショゴスを倒し、そこで彼女の断章をまた一つ取り戻した。おめでとう、九郎君」
「アンタがかかわってないってのに、何でアルの断章があるんだよ」
「君が来るより前に、僕が来るよりも前にもともと此処にあったのさ。僕が何かやらかしたって考えるより、誰かが此処に持ち込んだって考えた方が自然だと思うけどね」
「誰かが、ね」
「誰かが、さ」
九郎とナイアの視線が交錯する。懐疑にみちた眼差しと、まるっきり何を考えているのか分からない紅玉の光。
鼻息一つ鳴らして、九郎はその場でUターン。
「ったく。こんなところまで足はこんでおいて、結局のところは収穫なしか、じゃあな」
「まあまあ、もうちょっとゆっくりしていきなよ。この街には知り合いがあまり多くなくてね、イマ以外には禄に話し相手が居なくて寂しいんだ」
「俺の知ったことかよ」
はき捨てるように九郎が言う。
「んじゃ君が興味を引きそうな話を一つ。
『アル・アジフ』の断章は、この街で起こる出来事によって全て揃う」
九郎がナイアのスーツの襟首をがっしと掴む。吐息を肌で感じられるような距離にまで詰め寄り、九郎はナイアの顔が楽しげに歪む様を見た。
「――どういう意味だ」
静かに、だがしかし迫力のある声で、九郎は囁くようにナイアに問うた。
「そのままの意味さ。君は『アル・アジフ』の断章を此処で全て手に入れる。この物語は、そういう筋書きなんだ」
「訳の分からんことを抜かすな。何故だ。何でそんなことが起こりうる。アルの断章はそれこそ世界中に散らばってる。『こっち』にやってきて以来ずっと探してきたってのに手に入れたのはほんのわずかな断章だけだ。
それなのに、この街でアルの断章が全て揃うだと。そんな都合のいい話があるかよ」
「そんな都合のいい話なんだよ。これは。
言っただろう? 此処は御伽噺の街だ。運命によって引き裂かれた男女が再び出会うには、此処ほどふさわしい場所は無い」
「馬鹿げてる。そんな理由なのか? そんな理由だけで全部が全部解決するってのか?」
「単純明快ですっきりしていてしかも見栄えのいい理由じゃないか、何かご不満でも?」
「納得できねぇな」
「そうか、そうだね。ならば一応ヒントをあげよう」
そういってナイアはにんまり笑う。ナイアは手のひらを九郎向かって突き出し、人差し指をピンと立てて九郎の鼻っ柱をちょんと突っついた。
「一つ、僕がここにいる」
指を一本増やしてピースサインを九郎に見せ付ける。
「二つ、君がここにいる」
更に指を増やして告げる。
「三つ、ネギ・スプリングフィールドがここにいる」
最後の名前に、九郎は面食らう。
最初の二つは分かるのだ。『アル・アジフ』には『邪悪討つべし』というテーマが内包されている。そのため、断章たちは、ページモンスターと化した後、邪悪を探して討ち滅ぼすことを本能として持っている、少なくともその傾向がある。ナイアのにおいをかぎつけた断章たちが此処にやってくる可能性は当然考慮に入れることが出来る。
二つ目も同様だ。『アル・アジフ』は基本的に強がってるくせに寂しがり屋だ。正しき主である九郎を求めないわけが無いのだ。
だがしかし、最後の一つはどういうことだ。
『アル・アジフ』とネギの間にどのような関係があるというのか。
小さな子供の魔法使いと世界最強の魔導書の接点とは一体なんだ。
「さて、ヒントは此処までだ。これだけヒントをあげたんだから、正しき答えを導き出してくれよ。『探偵』さん?」
「くっ――」
そう言われてしまえば、九郎は反論できない。
なんとも癪だ。癪な話だ。
目の前の女の姿をした邪神だけではなく、何もかもに乗せられている気がする。
なんとも胸糞悪い話だ。自分の意思とは全く関係の無いところで話がどんどん進んでる。
「――くそったれ」
毒づきながら、九郎は決意する。
謎解きは探偵の専売特許だ。断片化したピースを集め、あるべき姿に戻すのが探偵の役割だ。
ならばやるべきことは決まっている。
「集めてやるさ。解いてやるさ。出会って見せるさ。
誰かの手のひらの上で踊るなら、見事踊りきって見せるさ。だけどな、カミサマ。覚悟しとけよ。踊りきった俺たちが何をするか。踊り終わった俺たちがあんた等をどんな目に合わせるか。
覚えとけ。神様を否定する[のは、いつだって人間なんだぜ」
魔導探偵はしっかと立ってそう言い切った。
「そう。それでこそだ九郎君。それこそが僕の望みであり、君の望みであり、僕らの望みだ。
楽しみに。そう、楽しみにしているよ」
九郎のその答えを聞いて、ナイアは満足そうに唇を歪め、大層愉快そうに笑った。
File16「始まり」……………………Closed.
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