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Re: ネギま! 時を司りし者達 (×BLACK CAT) 投稿者:アヌビス 投稿日:04/15-09:58 No.315

 その日は、雪のちらつく夜だった。

 草原を、一人の女性、20才ぐらいだろう年頃の人物が歩いている。その女性は、着飾って町に出ればすれ違う者が男女問わずに振り向くであろう美しい容貌の持ち主で、だがそれを彼女自身が敢えて否定しようとするかのようにネクタイを締め、肩に金色のモールの付いた紫色のコートに身を包んでいる。男装の麗人、という言葉がぴったりである。

 しかしその女性の中で最も特徴的な所と言えば、その額だった。

 彼女の額には、「Ⅰ」の文字の入れ墨が入っている。だがその入れ墨は彼女の美貌を損なうどころか、逆に際立てているようにすら見えた。その女性の手には、鞘に収められた剣が握られ、そしてその剣の鍔元の部分にもまた、「Ⅰ」の刻印があった。

 夜風が女性の艶やかな金色の髪を流す。

「……?」

 その時、女性は不意に顔を顰めた。流れてくる風の中に、僅かに何かが焦げているような匂いを嗅ぎ取ったからである。風の流れてきた方向を見ると、その先の空は威容に赤い。火事か? 分からないことはあるが、だが女性はその火の手の上がっている方向へと、猛スピードで駆け出した。

 彼女のその足取りは風のように速く、残像を残しながら彼女はほんの数分で数キロの距離を走破してしまった。そんな超人的な速さで疾走したにも関わらず、彼女の呼吸は全く乱れてはおらず、汗一つかいていない。

 そうして近くまで来ると、やはりここで火事があったのだという事が分かった。小さな村が、丸ごと炎に包まれている。

「……生存者がいるかも知れませんね、私一人で何人助けられるかは分かりませんが……」

 彼女はそう呟くと、炎の中へと躊躇う様子も見せずに足を踏み出した。だがそうして村の中へ入ってすぐに、その女性は異様な物を目の当たりにする事になる。

「……これは……!!」

 そこにあったのは、無数の石像だった。だがどう見てもただの石像ではない。まず石像が道端に並んでいるのが不自然だし、そこはまあ良いとしても次に気になるのはその数だった。軽く数十体はある。そして何より、それらの石像はどれもが、余りに瑞々しかった。まるで生きている人間が、そのまま石になってしまったかのように。

「……石化……? まさか……?」

 あまりにも突飛な推論が、ついつい口を付いて出てしまう。だが更に良く石像達を観察してみると、それがあながち的外れでも無いように思えてきた。

 石像達は手に手に杖や本を持って手をかざし、まるで童話や伝承に登場する魔法使いの様にも見える。

「魔法使いの村ですか、ここは……滅亡した道(タオ)とは、どうやら違うようですが……」

 と、自分が炎に囲まれている事を思い出し、生存者を捜すために移動しようとする女性。その時だった。

「!!」

 上の方から何者かが迫ってくる気配を感じる。そうして女性が見上げると、そこには巨大な体躯に禍々しい角や翼を持つ異形の者達。伝承や伝説で語られる、”悪魔”とでも呼ぶべき姿の者達が、集まってきていた。流石にそれを前に、女性も言葉が出ない様子。と、集まってきた悪魔の中で最も大きな体を持つ者が、代表するようにその女性に言った。

「貴様……余所者だな? 村の者達は石化させて殺すなと言われているが、余所者なら殺して喰っても何の問題もない。お前のような美しい女は、肉も柔らかくて美味そうだ。俺達のディナーになれる事を、光栄に思って死んでいけ」

 その悪魔がそう一方的に告げたのと同時に、それが合図だったのだろう。背後に控えていた数体が、その手を女性にかざす。

「……?」

 その行動の意味を図りかねるように、怪訝な表情を見せる女性。だが次の瞬間、その意味が分かった。悪魔達の手から、無数の光の矢が彼女に向けて放たれたのだ。それらは一発残らず彼女へと直撃し、大爆発が起こる。それを見て、悪魔達は高笑いを上げた。

「ハハハハハハ!! さあ、ミンチになった女の肉を喰らってやろう!!」

 だがその時、爆煙の中から声が聞こえた。

「随分と……気が早いですね」

「何!?」

 有り得ない。何の防具も持っていないただの人間が、あれだけの物量の魔法の矢を受けて生きている事など。だがしかし、その女性は悠然とした歩みで、煙の中から姿を現した。その手の剣は鞘より抜かれ、漆黒の刀身が露わになっている。その刀身の一部が煙を纏っている事から、恐らく彼女はこの剣を使って、弾丸を弾くように魔法の矢を防御したのだろう。悪魔達は驚きを隠せない。

「バカな……!? そんなちっぽけな剣が、あれだけの威力に耐えるなど……」

 その疑問に答えるように、女性は剣を悪魔達へと向け、そして言う。

「残念ですが、時の番人(クロノナンバーズ)の持ち武器は全て、地上最高最強の超金属、”オリハルコン”で造られています。どんな力を以てしても破壊できませんし、如何なる高熱でもそう簡単に形を失う事はありません。クロノスを、甘く見ないで頂きましょう」

 そう言うと同時に女性の姿は掻き消え、次の瞬間には悪魔達の背後に出現していた。恐るべき身のこなし。咄嗟に悪魔達も振り向こうとするが、だがそれは出来ない相談だった。彼等の体は既にその女性の剣により、バラバラに切断されていたからだ。

 眼前の障害を排除した女性が更に歩を進めようとしたとき、いきなり閃光が走り、まるでレーザー砲のようなその威力が、山一つを吹き飛ばしたのが見えた。

「……向こうでも、誰かが戦っているというのですか?」







 村からやや離れた所で、女性は草原に人影が立っているのを発見した。結局あの後時間一杯まで村中を捜し回ったが、見つけられたのは石像のみ。これ以上炎の中に留まる事は自分自身も危険だと判断し、女性はやむなく捜索を打ち切り、先程閃光が走った方向へと、足を向けていた。

 人影は全部で3つ。内一つからは、もう生命の鼓動は感じない。そしてあと二つ、遠目で見る限り大人と子供の二人が何やら話していたようだったが、やがて大人の方の人影が持っていた杖を子供、少年に渡すと、ふわりと宙に浮き、そして消えていってしまった。

 女性は近付いても危険はないと判断すると、一歩一歩彼等へと近付いていく。倒れている人影は少女だった。そっと首筋に手を当てる。鼓動は感じ取れない。

「今少し私の来るのが早ければ、彼女一人でも助けられたかも知れないというのに……」

 自分の無力さに歯噛みするように、女性は首を振る。その時、後ろから少年が近付いてきているのに気付いた。赤毛の少年で、年の頃は4才か5才ぐらいだろうか。眼に涙を浮かべ、ぶるぶると震えている。

「お、お姉ちゃんは……?」

 少年のその問いに、女性は無言でその首を横に振って答える事しかできなかった。少年の瞳に涙が溜まり、ぼろぼろとこぼれ落ちていく。

「そんな……嘘だ……目を開けてよ!! お姉ちゃん、お姉ちゃーーーん!!」

 泣き叫ぶ少年を、女性は静かに抱き締めてやった。彼女の胸に抱かれて、少年はいつまでも、いつまでも泣き続けていた。







 そうして夜が明け、泣き疲れて眠ってしまった少年の側で、その女性は少年の姉だというその少女を埋葬し、そっとその墓に一輪の花を添えてやった。本当なら花束を備えたい所だが、今は冬。この花を探すだけでも精一杯だった。

 目が覚めて、未だに姉の死という現状を理解できないのだろう、少年は何を言っても聞いても、あまり反応を返さない。

 仕方がない。ここは一旦、近くの支部に連れて行って治療を受けさせた方が良さそうだ。女性はそう判断すると、少年に言った。

「失礼ですがお名前は? 私の名はセフィリア。セフィリア・アークスです。あなたは……?」

 少年はそれを受けて焦点の合っていない目をセフィリアへと向けると、抑揚のない声で返した。

「ネギ……ネギ・スプリングフィールド……」

ネギま! 時を司りし者達 / 第1話 (×BLACK CAT)

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