第一話:紅茶、永劫の剣、異世界へ(前編) 投稿者:アゥグ 投稿日:04/08-01:13 No.12
くらい
ここはくらい
それにさむい
ここはどこ?
ぼくはだれ?
どうしてぼくはここにいるの?
・・・・・・わからない
<・・て・・・・>
?
<起き く い、 し じ>
きみはだれ?
<やっ えた に・・・・・・>
え、なに?
<・・・・・・あ たを なせ せん>
なにをいっているの?
<もう生まれ わる を待つ 嫌 ら・・・・>
それはどういうこと?
<だから、あなたに相応しい身体を・・・・>
きみはぼくをしっているの?
!?・・・・・・なに?・・・・からだがあたたかい・・・・・それになんだかからだがくずれていくようなかんじがする
でも、こわくない、むしろあんしんできる
・・・・・・なんだかねむくなってきた
<ゆっくり眠ってください。次に目を覚ますのは私の前です>
・・・うん、わかった
<おやすみなさい。私の主・・・・・・私の未来永劫のパートナー>
おやすみ・・・・ぼくの■■■■■
魔法先生と永劫の転生者 第一話:紅茶、永劫の剣、異世界へ(前編)
ここはとある建造物の中の医療施設にある病室の一つ。
――チュンチュンチュン・・・
「あっ、おはよう」
「はよー・・・」
朝の陽射しが差し込む窓の外から、鳥のさえずりと中庭から聞こえてくる人々の明るい―――
「でやぁあああっ!!」
明るい―――
「甘い! 『パニッシャー』!!」
――バリバリバリバリバリ・・・・・ッ!!
「ぎゃぁああああああっ!!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・人々の明るい声が聞こえてくる中―――
「おいっ!? 俺の叫び声を無視するなあああ!!」
「柊っ!! 何余所見をしているか!!」
――バゴッッ!!
「ぐえっ」
――ドサッ
「・・・・お、俺・・・今日は新人の訓練相手で連れてこられたはずなのに・・・・・(がくっ)」
・・・・・・・・そんな雑音も聞こえてくる中、一人の少年がベッドの上で眠っていた。
顔色もよく、ただ眠っているようにしか見えない。だが、彼は本当なら死んでもおかしくない状態だったのだ。ベッドの脇にあるテーブルの上に置かれている、彼の物だと思われる衣服の一番上に置かれている血の痕がついたジャケットからもそのことが窺える。しかし、眠っている彼の寝顔は穏やかでとてもそうは見えない。事実、今の状態では確認する事は出来ないが、彼の身体にはどこにも傷がないのだ。では、ジャケットについた血の痕は一体どういうことなのだろうか?
「・・・う・・ん・・・・」
少年が目を覚ましたようだ。窓から差し込む光が眩しいのか、少年は顔を少ししかめてからゆっくりと目を開いた。そして、身体を起こして自分が今いる場所を確認するかのように首を巡らせて見る。
(ここは、病室?)
その最中に、ベッド脇にあるテーブルの上にジャケットを見つけ少しだけ訝しんだ。
(血の痕、か?)
――ガラッ
しばらくの間、少年がそうしていると病室のドアが開いて白衣を着た一人の女性が入ってきた。
「あら、目を覚ましたのね」
「あなたは・・・? それとここは一体・・・・?」
「私は春日はるか。ここは『ロンギヌス』の本拠であるアンゼロット宮殿の中にある医療施設よ。そして私はここで医者をやっているの」
少年が問いかけると白衣を着た女性――はるかはそう答えた。その答えを聞いて少年は、ここがどこかの医療施設の病室ではないのかという自分の考えが正しかったのだと思った。
だが、その答えの中に一つ引っかかる物があった。
「えっと、今『宮殿』って言いました?」
「ええ、言ったわよ」
「どっかの『病院』ではなくて?」
「そうよ」
「・・・・・・」
(宮殿って何だよ、宮殿って・・・・・しかも今の日本に普通の病院レベルの医療施設がある家を持っている人間がいるのかよ)
少年は思わず頭を抱えたくなった。そんな彼の様子に気が付いたのか、はるかは苦笑しながら話しかけた。
「あまり一般常識に当てはめて考えない方がいいわよ。彼女が非常識なだけだし・・・・・・。それと勘違いしてると思うけど、ここ、日本じゃないわよ」
「えっ?」
「それどころか、地球上ですらないわね」
「???」
少年は少し混乱した。
(地球上じゃない? そんな馬鹿な。一体どこのSFものだよ。まあ、そのことはいいとして、日本じゃないってどういうことだ? 確か俺は――――?)
そこで思考が一瞬止まった。何故なら、その先が浮かんでこなかったからだ。もう一度思い出そうとしてみる。・・・・・・・・・・・やはり駄目だった。今度は自分の事について思い出そうとしてみる。それくらい簡単に思い出せるだろうと思っていた。・・・・・・・・・・・しかし、駄目だった。
(まさか)
急に黙り込んでしまった少年の様子がおかしい事に気が付き、はるかが話しかけてくる。
「どうしたの? 急に黙り込んじゃって・・・・・それに、何だか顔色が悪くなってるわよ」
心配そうに声をかけてくれるはるかに対し、血の気が引いた顔を向け少年は自分の状態について行き着いた最悪の答えを口にした。
「俺、記憶喪失みたいです」
「え?」
それから少しの間、少年は一生懸命自分の事を思い出そうとしてみた。ここに来る前何をしていたのか? どこにいたのか? どこに住んでいたのか? 家族はいたのか?
しかし、結果は同じ。一般常識などは思い出せる。だが、自分に関することだけがどうしても思い出せない。ただ、全てを思い出せなかった訳ではない。自分の事を思い出そうとしていた時、唯一頭に浮かんできたモノがあった。
――天城 悠真(アマギ ユウマ)
それ以外に自分の名前だと思える名称が浮かんでこなかった。それにはるかの話だと自分の持ち物に身分証明書になるものがまるっきりなかったようなので、本当の名前が分からないのだ。仕方がないため、暫定的にこの「天城悠真」を名乗ることにした。
「そう。なら、悠真君って呼ばせてもらうわね」
「はい。それで、俺がこうなった原因って分かります?」
少年――悠真に問われ、はるかは少し考えてからそうではないかということを口にした。
「ん~・・・・そうね、もしかしたら血を流しすぎたからじゃないかしら?」
「血を、ですか・・・」
そう言いながら悠真はちょっとだけテーブルの上にある血痕のついたジャケットを見た。
「そう、血を流しすぎて脳に酸素が十分に行き渡らなかったのが原因じゃないかしら。現にあなたが発見された場所にはかなりの量の血の痕があったそうなのよ。ついでに言うと二週間近くも眠っていたのよ、あなた。でも、変なのよね・・・・・」
「えっと、何が変だったんですか?」
「それがね、なかったそうなのよ」
「何がです?」
「傷口よ。それだけ大量の血が流れ出ていたはずなのに、あなたの身体にその傷口がなかったそうなのよ」
「傷口が、ない?」
「もちろん、その場にあった血は悠真君の物よ。ちゃんと調べたから、他の人のではなかったわ」
悠真は急いで病院の患者服の前を上半分だけ開いて自分の身体を確認した。鏡を使って全身を確認した訳ではなかったが、確かに傷痕のような物は見つけられなかった。
「それならどうして?」
「分からないわ、魔法で直した痕跡もなかったって言うし・・・・・・あっ、もしかしたら、第一発見者の彼女なら何か知っているかもしれないわね」
「彼女?」
(て、言うより、今『魔法』って言わなかったか?)
そう疑問に思う悠真を無視して、はるかは携帯らしき物(一瞬見えたボタンの配列が妙なものだったから)を取り出してどこかに掛け始めた。
それを見て悠真は「いいのかよ。ここで携帯なんか使って・・・・仮にも医者だろ?」と思ったが、はるかはそんな悠真の思い(?)を無視して話し続けた。
「・・・・はい・・・・はい・・・・・そうなんです。・・・・・・えっ? 確かに大丈夫だと思いますけど・・・・・・・・・・はい、分かりました。それでは、すぐに連れてきますね」
――ピッ
話が終わったようで携帯らしき物をしまいながら、はるかはこちらに向き直った。
「話がついたわよ。一応、新しい服もそこに用意してあるからそれに着替えてくれるかな。着替え終わったら第一発見者の所に話を聞きに行くから」
そう言いながら、以前、悠真が着ていた物と思われる服の横に置いてある新しい服とベッドの脇に置いてある靴を指で示した。そして、病室の出入り口に向かい、ドアを開け、
「それじゃ、外で待ってるから。着替え終わったら出てきてね」
そう言って廊下に出て、ドアを閉めた。
その後、悠真はベッドから降りて言われたとおり着替えを始めた。着替えながら悠真はこれからの事を少し考えていた。記憶がない状態で自分は一体どうすればいいのかと・・・・・。
「――っくしゅんっ!」
そんな事を考えているとくしゃみをしてしまった。そこで自分の格好に気付く。どうやら患者服を脱いだ状態で止まっていたようだ。
(考えるのは後だ。それに、さっさと着替えないと風邪をひいてしまう)
そう思うと着替えを再開した。だが、Tシャツを着て次のものに手を伸ばしたときに、またしても動きを止めてしまう。
何故なら、そこにはどういう訳か、紺のブレザータイプの学生服一式が置いてあったからだ。
(どうやらこれしかないみたいだな)
「はぁ・・・」
思わず溜め息をつき、仕方なくその制服を着ることにした。
「でも、何故制服なんだ?」
そう呟いてみるが、それに答えるものはここにはいなかった。
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