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二話 投稿者:駄作製造機 投稿日:04/09-05:29 No.210

 ・二話 



「此処は……」



 呟き、ニコラスは周囲を見渡す。視界にはいるのは砂漠。赤茶けた砂が地平線の果てまで大地を埋め尽くしている。

 時々岩が見えるがそれは小さなもの。そして空には二つの太陽が輝いていた。

 一方、ニコラスは黒服にサングラスといったいつもの格好。このような場所でこの格好は暑いだろうと思えるが、ニコラスは全く暑さを感じていなかった。

 その異常を理解して、ニコラスはこれが夢だと理解する。そして、ニコラスにはこの風景に見覚えがあった。



「あの星の砂漠やな……」



 以前彼がいた星。この風景が夢に現れるのは二年ぶりだった。そしてこの風景を夢に見るということ、それは。



「久しぶりやな……ヴァッシュ」

『ああ、久しぶり。ウルフウッド』



 振り向くとそこには懐かしい人物が立っていた。

 赤いコートに金の髪。表情は軟らかな笑み。

 かつて共に旅をし、共に戦った友人。

 誰よりも強く、誰よりも弱い、優しい死神。



「どうしたんや、急に」

『話をしたかったじゃぁだめなのかい?』

「なら土産の一つぐらいはあるんやろな?」



 笑みを深くしながらニコラスは言う。ヴァッシュは苦笑して懐から酒の瓶を取り出した。



「解っとるやないか。ほな、二年ぶりの酒盛りとするか」

『ああ』



 そして二人はどこからか現れたソファーに座り、酒を酌み交わす。

 たわいのない話。それぞれの近況とかを話し合う。

 メリルとの関係。

 ミリィのその後。

 双方の現状。

 何をしているのか。

 等々。

 

 そして酒が尽きかけたとき、ニコラスは話を切り出した。



「もう二年になるんやな。ワイがこっちに来てから」

『何故そっちにいるのかは判らないけど、こうして話すことが出来るとは思わなかったよ』

「夢の中やけどな。ワイは一度は死んだ身、お前と酒を酌み交わせるなんて思っとらんかった……まあ、起きたら忘れてしまう泡沫なんが残念やが」

『……ウルフウッド』

「そないな顔すんなや。話の内容は覚えとらんが、印象は残る。またそのうち話す機会もあるやろ」

『ああ、そうだね』



 そこで酒が尽きた。名残惜しそうにヴァッシュが立ち上がる。



「……行くんか?」

『うん、もう時間みたいだ』

「ほうか。楽しい時間やったで」

『はは、僕もだよ』



 そして互いに少し笑う。



「じゃあな、トンガリ」

『ははは、そう言われるのも久しぶりだよ。じゃあね、ウルフウッド』



 紅い背中が遠ざかっていき、周囲の景色が急速に薄れてゆく。そしてニコラスの意識は覚醒に向かう。





 日曜日。ニコラスは珍しく朝に起きた。伸びをして首の骨をならす。

「……懐かしい奴にあったのう」

 だがやはり夢は夢。すぐに記憶はおぼろげになり、あいつと会った夢としか思い出せなくなっていた。

 洗面所で顔を洗い、いつもの黒服に着替える。懐のハンドガンを確認。

 そして朝食を取ろうと台所に向かうが、ふと昨日買い物に行くことを忘れた事に気がつく。つまり――食料がない。



「しゃあないなぁ……外食するかぁ……」



 僅かばかりの思考の後に、財布を持ち教会を出た。





「珍しいアルね、ニコラス牧師がこんなに朝早く来るなんて」

「嬢ちゃんか。たまには外食もええと思うてな」



 話しかけてきた古菲にそう言って肉まんを頬張る。ここは超包子。学生がやっている屋台だが味がよく、売り上げはなかなかだとか。

 適当なカフェをさがして歩いていると、ふと見つけたので入ったのだ。

 カウンター席に座るニコラスの前には肉まんを始めとする中華まんとシュウマイ、中華スープ。合わせると結構量がある。

 片眼に給士をしている茶々丸を見ながら、それをゆっくりと食べている。



「やっぱうまいなぁ。まだ若いのに大したもんや」

(いえいえ、まだまだです)

「いや十分やと思うで? ちゃんとした店を出してもやってけるちゃうんか?」

(あ、ありがとうございます)



 料理長(?)の四葉五月と会話しながらニコラスは朝食を取っていたが、後ろから急に話しかけられた。



「ニコラス? どうしたんだ、こんなにはやい時間から」

「……別に早く起きただけやが」

「ふむ、熱でもあるのか? もし無かったら今日は槍が……いや銃弾の雨が降るぞ」

「朝っぱらから失礼やな、真名?」

「ふふ、冗談だ」



 そんな短い掛け合いをしてニコラスの隣に真名が座る。そして彼女は点心セットを頼んだのを横目に見ながらニコラスは付け合わせの中華スープを飲んでいる。古菲は微笑む真名を見て少し驚いていた。

 ニコラスはふと思ったことをきいてみる。



「どうしたんや、確か真名、あんさんは自炊派やろ?」

「何、ちょうど探し人を見つけたから立ち寄ったんだよ。それに、此処の点心はおいしいからね」

「探し人?」

「まあ、詳しい話は食事の後だ」



 真名は出てきた点心に手を付けだした。しかたがないのでニコラスはそこで再びスープを飲み、残った点心を片付け始める。しばらくの間無言で食事が進む。

 数分後。互いに食べ終わった二人は超包子を出て道を歩いていた。



「現状を見る限り、探し人はワイのことか?」

「それ以外考えられないだろう」

「ほうか、で、なんや?」



 いつものようにぼけっとした雰囲気でニコラスは聞く。

 真名はあっさりと用件を言った。



「学園長が呼んでいる。一緒に来て貰うよ」











 二人が話を……あそこの退魔弾は値段の割には効果が低いだとか、あの銃は信頼性が低いだのいい加減に詳しくパニッシャーを見せろなどと、物騒な世間話をしていると、いつの間にか学園長室の扉の前に立っていた。そこで真名は、



「ここからは一人で行ってくれ。私も連れてきてくれとしか言われてないしね」

「……仕事に忠実なのはええが、も少し融通きいてもよかないか?」

「性分でね」



 そう言うと真名はさっさと歩き去っていった。取り残されたニコラスは仕方がないので学園長室に入ることにする。

 だが入る前に中の気配を探り、懐に手をやる自分に気がついて苦笑する。

 扉をノックする。扉の向こうには気配が一つ。声をかけるとすぐに声が帰ってきた。



「ウルフウッドや。入るで」

「おお、鍵など掛かっていないから入ってきなさい」



 だがニコラスは帰ってきた言葉の途中で部屋の中に入っていた。そこには大きめな机とそこにいる変な頭の形をした長いひげを蓄えた老人。

 学園長で関東魔法協会代表の近衛近衛門だった。

 ニコラスはすたすたと老人の前に歩いてゆく。比我距離はおよそ一メートル。そこで立ち止まり、口を開いた。



「で、なんや。わざわざ呼び出すぐらいやから、大事な用件なんやろ?」

「おお、その通りじゃよウルフウッド君。実は新学期から、君にあるクラスの副担任をやって貰いたい」

「………………はぁ!?」



 ニコラスには学園長の言葉が信じられなかった。教師。自分には一生無縁と思っていた単語である。

 思わず目の前にいる狸爺に詰め寄った。



「どういうことや? ワイに教師になれやと? 冗談もほどほどにせえ」

「冗談も何もワシは本気じゃよ」

「何が目的や」



 ニコラスは鋭い目つきで問う。一般人なら怯むであろうその視線を受けながら、学園長は平然としている。学園長は髭を撫でながら目を細め、説明しだした。



「それを説明するにはまず聞かねばなるまい。二ヶ月前に実習生で来たネギ君は知っておるかの?」

「ああ、真名や美空が言うとった子供先生やろ。2-Aにタカミチの後任で入ったっていう……」



 美空は楽しそうに、真名は微笑みながら言っていたのを思い出す。特に真名が世間話を言ってきたのは珍しく、結構驚いた。

 そしてその時は顔も知らない少年にひどく同情したものだ。



「坊主も大変やったやろなぁ。神鳴流に銃使い。さらには闇の福音までおる。それ以外の連中も一癖どころか二癖もある奴ばっかやからなぁ」



 顔ぶれを思い出して印象を言う。知り合いの多いあのクラスに対する、これは全くの本心だ。

 以前、酒の席でタカミチが愚痴を言っていたのもあるが、たまたま見かけた授業風景である確信を抱いたものだ。



 ――このクラスは(ある種の)隔離庫だと。



 それはともかく。



 ニコラスの意見には同感なのか学園長は苦笑しつつ再び口を開いた。



「まあそれなりにやっとったが、今回めでたく正式な教員として3-A担任になることになったんじゃ。しかし副担任がのう……」

「それや。ワイがやらへんでも、タカミチやしずなにやらせればええやんけ」

「高畑君は広域指導員に専念して貰う。しずな君も同様じゃ……他の教員は理由は様々じゃが強硬に拒否してのう……受ければ給料二倍、断れば給料三割減でも皆減給を選びおった」

「ワイかて出来れば今すぐにでも百八十度ターンして逃げ出したいわ……」

「逃がしはせぬよ。それに……ウルフウッド君も気がついておるじゃろ? 最近侵入者が増えてきたことに」



 それはニコラスも気がついていた。ついでにこの部屋の扉、窓、換気口に至るまで結界で完全封鎖してあることにも。

 侵入者達は偶に散歩してみると明らかに異質な連中がいるのだ。カメラを手にリュックを背負った男や、どう見ても堅気の雰囲気ではない人間。

 双方見つけ次第、知り合いのどこかの特殊部隊員みたいな警備員に通報しているが。ちなみに此処の警備員は妙に強く、何故か皆外人である。

 以前話をすると、銃の話で盛り上がった。



「確かに侵入者は多いと思っとたが……」

「警備員が拷も…質問したら大半が中等部……特に一部は3-Aが狙いだったようでの」



 ニコラスは一瞬不吉な単語を聞いたような気がしたが、とりあえずスルーして言う。



「副担任は護衛も兼ねて……か? だったらなおさら二人を付けとくべきや。あの二人なら一個師団が完全連携しても敵わんやろ」

「その二人が君を推したのじゃよ。 それに何かしら二人は表の仕事で忙しいのじゃ。出張とかでな。その点、君は昼間は暇じゃろう?」

「む………………」



 確かにニコラスは昼の間暇だ。只ぼーっとしているだけ。教会の管理もあるがそんなもの一週間に一度やればいい方だ。

 状況などではニコラスは断る理由を持たない。だが教員の資格を持っていない。

 しかしそれを見越すように学園長は言った。



「何、何かを教えてくれという訳じゃない。要はHRや担任のネギ君が病気になったときの連絡役、行事の引率をやって貰えればいいんじゃ。免許もいらんしの。(必要なら偽造すればいいしの)……それならいいじゃろ?」

「いい悪いはともかく……そないな事、暇な奴でも出来るやろ。……つまり本分は護衛、と言うことやな?」

「……そうじゃ」



 そう言って学園長は書類を手渡す。その書類にはこの二ヶ月、中等部近辺への侵入者とその目的が書かれていた。

 侵入者は総勢百五十九人。

 そのうち百八人が盗撮、覗きなどの下らない理由なのは置いといて。

 ニコラスは残りの五十一人の目的を呟いた。



「エヴァの抹殺が十一、近衛木乃香の誘拐が六、。残りは自決したために目的不明、か」

「見て解るとおり馬鹿共はともかく、こちら側の人間にとってあのクラスは最大の関心事になっておる。加えて最近西の動きも不穏じゃ。ネギ君だけでは心許ないのも事実。じゃが教員や警備員などを付けるわけにもいかん」

「必然的にワイにお鉢が回ってくる、ゆうわけか」



 学園長は頷いた。



「その点君なら強さは申し分なし、加えて日中は特に仕事がないときている。とくに今年は学祭に加えて修学旅行もある。君が副担任になってくれれば、違和感なく彼らの周囲に居ることが出来るという訳じゃ」

「しかしなあ……」



 渋るニコラスに学園長は言葉を放った。先程までの飄々とした雰囲気は微塵もない。



「いつまで過去に拘っているつもりじゃ?」



その言葉にニコラスは一瞬身を強張らせたが、しかしゆっくりと首を横に振った。



「過去はもう受け入れとる。此処では意味がないこともな……じゃがワイがワイであることは変わらないようにワイの本質も変わらん」

「…………」

「ただ踏ん切りがつかんだけや。本当にええんか、てな。」



 ニコラスは自嘲するように言った。近右衛門は個人として彼に話しかける。



「ワシにはよいかどうかは解らん。その答えは君自身が出すしかあるまい。世界に在るのは君の意志なのだから」

「意志、か……」

「あのクラスは良くも悪くも変わっておる。接してみて彼でも答えは遅くないと思うがのぅ。案ずるより産むが易し、じゃよ」



 近右衛門の言葉がニコラスの胸に落ちる。しばしの沈黙の後、ニコラスは首を縦に振った。





「詳細は教会の方に送っておく。質問や変更してほしい点があったら連絡してくれんか」

「解ったわ。一応確認するが護衛の方が優先でええんやな?」

「おお、生徒の安全を最優先にしてくれ」



 学園長の言葉に、ニコラスは意地悪そうに口を開く。



「孫の木乃香の安全、の間違いとちゃうか?」

「こっ木乃香も大事じゃがワシは生徒全体の安全をじゃな……」

「ま、そう言うことにしといたるか」



 焦りまくる学園長を見てしてやったりといった顔をしてニコラスは踵を返した。歩きつつ言う。



「知った顔も多い事やし、引き受けたからにはきっちりと守ったるで」



 ニコラスはそう言って学園長室を後にした。











「護衛兼副担任。まさかワイが仮とはいえ教員になるとはなぁ……」



 廊下を歩きながらニコラスは呟いた。未だ抵抗はある。

 だが、知り合いが傷つくよりはいいかと無理矢理自分を納得させた。



「こんなワイに、体の随まで染みついた業。それを忘れることは出来へん」



 ふと視線を落とした手は赤黒く染まっている。

 鼻に臭う人殺しの臭い。

 どちらももちろん幻だろうが彼にとっては現実だった。

 だが、



「……じゃが、それを守るために使えるって言うのは、痛快やな?」



 そうだ。たとえ自分がどんな存在だろうと、彼処には知り合いが居る。

 あいつ等を守るためなら、たとえこの身が傷つこうとも構わない。

 真紅いコートのあいつじゃあないが、知り合いが不幸に会うのは御免だから。

魔法先生と鋼の十字架 (×トライガン・オリ有) / 三話

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