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九話 投稿者:駄作製造機 投稿日:04/09-05:34 No.217

 ぱく、もぐもぐもぐ、ごっくん。ずずーっ。

 箸は止まらずに目の前の料理を口に運ぶ。昨夜は重傷だったが体力だけはある。

 砂漠を水無しで三百アイル(三百キロ)を駆け抜け、瀕死の状態から一日で回復したのは伊達ではない。あの程度なら一日休めば何とかなるのだ。

 無造作に三杯目のご飯を盛り、再びそれを口に運ぶ。

 

「…………」



 周囲を見渡すと三十畳ほどの部屋三つを使い、五つのクラスの生徒達が食事を摂っている。その中でも3-Aの半数近くは頭を押さえているが、彼女らは昨日の後遺症だろう。彼女達のような一部を覗いて、みんな今日の予定などを話しながら賑やかに食事を摂っている。

 彼は教職員のテーブルで食事を摂っていた。向かいには新田、左には瀬流彦、右にはしずながそれぞれ座り、食事を摂っていた。

 ニコラスふと思い、目の前にいる新田に尋ねた。



「新田先生」

「何ですか、ウルフウッド先生」

「先生言わんといてください。ともかく……生徒百五十人近くに対して引率が僅かに五名というのはちょいと問題があるとちゃいますか」

「あ~、僕もそう思いました。流石に少なすぎる気がしますね」



 瀬流彦が同意した。彼とニコラスは以前魔法の練習で知り合った。瀬流彦は苦笑いしながら続ける。



「ネギ先生もいますが、まだ十歳ですから。どちらかと言えば生徒みたいなものですしね。トラブルが頻発したら対応しきれないかもしれませんね」

「大丈夫ですよ。皆トラブルを起こさないようないい子ばかりですから」



 ネギは生徒と一緒に食事をしていた。しずなの言葉にニコラスは内心で思う。

……常識からぶっ飛んでおる麻帆良を基準にしたらあかんと思うねんけどなぁ。

 彼の懸念を知ってか知らずか新田が口を開いた。



「大丈夫でしょう。問題児揃いの3-Aの連中も大人しかったですしな。そうそう私たちが出張ることはないでしょう」

「だとええんですが……」



 そう言ってニコラスは3-Aの方を向いた。

 トレイを持った刹那を同じくトレイを持った木乃香が追いかけている。不思議なことにトレイの上の料理は全くこぼれていない。……謎だ。

 それを見た新田が苦い顔をして言う。



「昨夜は大人しかったのですがな……」

「まあ、そう簡単に変わりはしないっちゅうことでしょうな」



 ニコラスはそう言ってみそ汁を飲み干した。





・九話





 食事が終わり、彼はロビーから順番にバスに乗ってゆく生徒達を見ていた。

 今日の彼の仕事は奈良においてのトラブル調停役である。全員が乗り込んだ後、彼も3-Aのバスに乗り込み奈良に向かう事になる。

 基本的には集合場所である奈良公園周辺を散策していて、必要になれば彼の携帯に連絡が行くことになっている。



 ……しつこく言うが、彼の見た目はヤクザそのものである。百歩譲って教師としても、元暴力団員などとそういうイメージがある。

    彼自身顔に傷があるわけではないのだがその視線や雰囲気はとても堅気の人間とは思えないほど鋭い。

    そして旅行先において生徒達は、ロクでもない連中に因縁を付けられることもある。……つまり、彼はそれに対するカードなのだ。



 3-Aの生徒達がネギ争奪戦を繰り広げているが、彼に関係はなくニヤニヤしながらその様子を見ていた。

 今日の彼の服装は黒の上着を脱いだ状態。もちろんズボンには拳銃が隠してある。シャークティが魔法的に隠蔽しているので金属探知はもちろん、外見から察することも出来ない。胸ポケットにはサングラスが掛けられ、中にはカードが納められている。来る前にエヴァから肌身離さず持っているように命令されたからである。

 ネギを見ていたニコラスに、背後から声がかけられた。



「どうしたんだい? さっきからニヤニヤ笑っているが」

「なに、ネギが大人気やのうと思っとったんや。そういえば真名の班はどこに行くんや?」



 ニコラスは後ろを振り返ることなく言う。真名は嘆息した後に彼の隣に立って言った。



「法隆寺だよ。他にも古菲率いる二班や他のクラスの班が幾つか一緒だ」

「ほうか……主等がおるのやったら大丈夫やろが、気いつけてな」

「……なんとなく納得しづらいが、気をつけておくよ」



 基本的には奈良公園周辺が見学ポイントだが、数班合同ならば別の所に足を伸ばすことが出来る。

 奈良公園以外を見学に行く生徒はおよそ三分の一程度だった。

 離れると仕事が果たせなくなるが、真名が居るならば問題はない。



 ニコラスの視線の先ではのどかが栄光を手にしたようだ。

 皆が乗ったのを確認して、バスは出発場所で集合場所の奈良公園に向かう。











 「わ~っ 本当に道に鹿がいる~!」



 ニコラスはそのまま奈良公園を見学しているネギ達と一緒に歩いていた。護衛の件も含めている。

 ネギは鹿に煎餅をやり、手首までくわえ込まれたりしてすっかりはしゃいでいる。対するニコラスは、隣にいる刹那に話しかけた。



「……何で鹿はワイから距離を置いとるんやろな?」

「…………懐かれたかったらその食料を見る目は止めた方がよろしいかと」



 ネギ達から少し離れたところで、ニコラスと刹那は彼らを見ていた。二人の周囲三メートル圏内に鹿の姿はない。どうやら警戒されているらしい。

 彼は頭を掻きながら言い訳をするように言った。



「食べたことがあるんは合成やったけど、鹿肉は旨いんやで? それが天然物なら滅茶苦茶に旨いに決まっているやろ? だからつい……」

「今の言葉で鹿は更に退いたようですが。あと合成とは何ですか」



 刹那の言葉にニコラスは周囲を見渡す。鹿が居ない空白は広がり半径五メートルになっている。思わず片手で顔を覆う。刹那は苦笑。

 そして再び昨日の件について謝罪した。



「昨日はすみませんでした……ですが良く一日で回復しましたね」

「回復力はあるんでな。こっちこそ済まんかったのう、昨日は助けに行けんくて」

「幸いお嬢様は無事でしたから。ですが奴らの目的はハッキリしました。ウルフウッドさんの言ったとおり、敵はお嬢様を狙ってきています」

「そやな。明日の自由行動はワシもついて行くわ。……っと、電話や。先に行っとき」



 会話が一区切り付いたところでニコラスの携帯が鳴った。刹那を先に行かせて彼は電話を受けた。

 携帯のスピーカーからは少女の高い声が聞こえてきた。



「もしもし?」

『ウルフウッドさん、一班の椎名ですけど……助けてください~。ナンパ男達が離れてくれないんです~』

「……なんか緊迫感無いの。で、今何処や」

『春日大社の石段あたりです。お願いします~』



 彼は 「ああ」と返し、目的の場所に向かった。





 お仕事は簡単に終わった。一班の連中をナンパしていたのは、明らかに頭悪そうな高校生達が六人程。今日は平日なので学校をサボっているのだろう。

 中は中学生に見えない鳴滝姉妹に声を掛けている者も居た。明らかにヤバげな趣味を持っている。

 ニコラスは溜息をつき、サングラスを掛けて近くに行く。ナンパの連中に向けてサングラス越しに睨み、軽い殺気を不良共に叩き付けつつ……



『待たせたの…………あ? なんやおどれ等。ワシの客人になんか用かい?』

 

 と言うと彼らは首をガクガクと横に振り、一目散に逃走した。ついでに周囲の人間も逃げ出したが。

 後に一班のメンバーは語る。



「毅然とした態度だったね」

「「ちょっと怖かったけど……」」

「何というかウルフウッドさん、脅しが堂に入っていたなぁ。格好良かった……」

「……椎名、そこうっとりする所?」



 他にも幾つか仕事をこなし彼らは京都の旅館に戻った。ネギが放心状態だったが疲れていたニコラスは気が付かなかった。











 夜。夕食を終えて彼は旅館の屋根の最も高いところに陣取り夜景を眺める。いつもの黒服にコートを着ている。そのためにただでさえ真っ黒い人影は完全に夜の闇に同化するだろう。だが月明かりが彼の姿をボンヤリと浮かび上がらせていた。

 黒の人影、その気配は柔らかい。彼は昨日のようにカップ酒をチビチビと飲みつつなんとなく夜景を見ていた。

 あの星ではシップ周辺しか街の明かりはなかった。そこ以外は不毛の砂礫。初めてサンドスチームに乗ったときに見た、深淵のごとく全てを拒絶する暗闇はこの星にはない。そして見る者を圧倒する星空も見ることは出来ない。今も視界に入るのは人々の営みの明かりと天上にある三日月、そして僅かな星の瞬きだった。



 少し前、だいぶ階下が騒がしかったが今は静かなものだ。大方、新田に怒鳴られたのだろう。

 妙な雰囲気なのが気にかかるが。











 階下では朝倉が『班対抗ネギの唇争奪戦』の説明をしていた。その中でふと美空が疑問の声を上げる。



「あ、そう言えば……ウルフウッドさんはどうなるの?」

「「「あ」」」



 それを聞いた数名が今気が付いたかのように言う。その疑問を予想していたかのように朝倉は言った。



「狙ってもオッケーだけど、ウルフウッドさんの居場所は不特定。協力的でもないし難易度は最高だよ? ……その代わり成功したのなら特別景品に加え副賞として、人気食券一週間分を進呈しよう!」

「「おお~~」」



 周囲はどよめいた。ネギも人気があるがニコラスは大人の魅力があるらしく結構な人気らしい。

 班の中にもネギ派、ニコラス派が混在してイベントは混乱の様相を見せ始めている。

 その中で美空は出場を決意する。そして周囲を見渡すがその中に真名の姿はなかった。ライバル不在に心の中でガッツポーズをする。











 月を見ている。

 口へ僅かに酒を含み飲み込む。その一口は少なく、目に見えて残りが減ることはない。彼は周囲に気を配りつつささやかな酒盛りをしていた。

 だがそれも長続きはしない。背後に人の気配を感じ、彼は振り返らずに後ろの人間が付かず居てくるのを待つ。



「……ニコラス。少し、いいか?」

「どうしたんや、真名。相談事か? ならワイは本職に戻るが」

「いや、そうじゃなくて聞きたいことがあるんだ。……隣、いいか?」



 ニコラスは無言のままコートを脱いで屋根に敷く。そこに真名は腰を下ろした。服装は浴衣の上にジャケットを羽織っている。

 彼は言った。



「構わへんがなるたけ早くな。体を冷やして風邪を引かれては寝覚めが悪い」

「……それは、ニコラスしだいだね」

「どういう事や?」

「私は聞くだけで、答えるのはニコラスだからだよ。。……ニコラス、答えたくないのなら答えなくてもいい。それを忘れないでくれ」

「? ああ……」



 疑問に思いつつもニコラスは頷く。真名はゆっくりと切り出した。



「私が聞きたいのは……ニコラスが、以前、何をしていたのかということだ」

「……………………」



 真名の問いにニコラスは無言。真名は訊こうと思った理由を言う。



「二年前に仕事を受けたときから気になっていたんだ。貴方は……強すぎる」

「……………………」

「私は貴方の戦い方を見て背筋が震えたよ。最初は単身で人型の妖魔の群れに突っ込んでいってそれを壊滅させたとき。……容赦なく急所をえぐり、敵を盾にして身をかわし、一瞬の迷いすらなく、最大効率で妖物を消してゆく」



 真名は膝を抱えて虚空を見つつ言葉を紡ぐ。



「始めは相手が妖魔だからだと思っていたんだ。気の迷いだと。……だけど二回目からは違ったんだ。貴方が消してゆく妖魔が人間に見えてしまった」



 妖魔とはいえ、人型をしている者は人間と同等か、それ以上の思考能力を持つ。本能に任せた単純な攻撃はこない。戦術を練り、敵を殺すために適切であろう行動をする。

 だが、



「貴方は相手がどのように行動するか、それを完全に見抜いているように敵を打ち倒してゆく。まるで……そういったことには 『慣れてしまっている』 かのように。それに非常識な程の気配探知に加えて、私や刹那を欺く程の気配遮断。ただの牧師ではないけれど貴方は明らかに異常だ。何故貴方はあれほどまでに強いんだ?」

「過去はもう調べているんやろ? ワイの歩んで来た道はその通りや」

「嘘だね」



 ニコラスの言葉を真名は切り捨てる。



「ザジが調べてくれたよ。巧妙に偽造したみたいだね。だけど二年前より以前の経歴はその強さの根拠にはならない。あまりにありきたりすぎる。あんな経歴でその強さはおかしい」



 そういって真名は振り向き、ニコラスを真っ直ぐに見据えた。ニコラスは無表情に夜景を眺めている。



「貴方が言いたくないのなら別に構わない。今すぐにいつもみたくはぐらかしてくれ」

「……答えたら、主に何の得になるんや」

「貴方をもっと信用できる。仕事上だけではなく、個人として」



 真名の言葉にニコラスはしばらく無言だった。そしておもむろに手の酒を飲んだ。そして口を開く。



「…………ワイは今酒を飲んどるな?」

「? あ、ああ」

「こっから言うことは酔っ払いの戯言や。深く考えるんや無いで?」



 真名が頷くのを待たずに、ニコラスは語り出した。



「ワイな、孤児だったん」

「……………………」



 真名はニコラスを顔を窺う。その表情になにも感情は浮かんでいない。彼は続ける。





「顔も覚えとらん両親が死んで、親戚をたらい回しにされたあげく孤児院に入った。まあ、お約束やな」



「飢えることも、乾くことも、殴られることもなく。どこの家庭よりも家族らしく、そこはワイを受け入れてくれた。年上だったワイはガキ共の面倒を見たり、騒ぎながら料理したりしての……そんな生活は幸福やった」



「じゃが何時までもそこに居れるわけやない。十二の頃かのぅ。孤児院の出資者の手伝いをすることになったんや。教会建てたり、布教したり……そういったことをするためにワイは孤児院を出た」





「じゃが行った先はそういった場所や無かった」

「……どんなところだったんだ?」



 語りが始まってからずっと沈黙していた真名は、そこで初めて口を挟んだ。ニコラスは逡巡する様子もなく言う。



「射撃場。硝煙の匂いがする地下やった」

「!?」



 驚く真名をよそに語りは続く。





「聞かされていた仕事など無く、そこでひたすらに銃を持たされ、撃ち続けた。同時に体を鍛えられ、格闘技術を習い、人の斃し方を教わった。休むときには何かを延々と聞かされた。そして一年もしたか。そこでワイは初めて人を殺した」



「初めて撃たれたんもその時やった。死を身近に感じたんもな。あまり人を殺したというショックはなかったの。目覚めたときに生きていることを神に感謝したもんや」



「訓練が終わり、殺しにも慣れた頃。肉体をいじくられた。筋力の増強・骨格の強化・治癒機能・感覚神経の鋭敏化……ワシを飼っとる狂信者連中はこう言っとったわ」



「『その機能こそ存在の全てと知れ』、と」





「そうして人殺しの化物となり、パニッシャーを受け取り、数え切れない程の人を殺したあと……その組織が壊滅しての。その後いろいろあって、ここに来たんや。牧師やってんのも、昔取った杵柄や」

「…………それは」

「言うた筈やで? 酔っ払いの与太話やって」



 真名の言葉を遮りニコラスは手のカップ酒を示しつつ言う。真名は複雑な表情し、幾らか考えるそぶりを見せた後、口を開いた。



「済まなかった……言いたくは無かっただろう」

「謝られる理由が思いつかんの。ワイは与太話を語っただけなんに」

「それでも、ありがとう」



 真名はそう言って立ち上がった。ニコラスの前に立ち、夜空を見上げる。

 その姿は幻想的だった。元々真名は美人であり、普段と違い纏う気配は柔らかい。それが振りそそぐ月光と合わさり女神のようにも見えた。そしてニコラスは少し疑問に思った事を尋ねた。



「しっかし急にどうしたんや? こないな話やったら麻帆良でも聞けたやろ」

「なに、旅先では口が軽くなるものだからな。それに、機会がなかったのも事実だ」



 真名はそう答えた。視線は夜空の星を向いている。背を向けて立っている真名の表情は屋根に座り込んでいるニコラスに窺い知ることは出来ない。

 僅かに間が空く。そしてニコラスは目の前に立つ真名に知らず知らず訊いていた。



「もしワイがさっきの与太話の通り、殺人鬼だったらどないする?」



 おどけた口調だったが彼の内心は全くの逆だった。その問いは彼が常に心に秘めていた不安。

 だがその問いかけの答えは彼の不安とは違うものだった。



「どうもしないさ。殺したくて殺していた訳じゃないみたいだしね。それに私にはニコラスが無闇に人を殺すようには見えない」

「どうやろな、明日には旅館にいる人間全員が死体になっとるかも知れんで?」

「しないさ」



 そう言って真名は振り返る。月の光を背後に、その表情は微笑みを形作っていた。



「私はまだ十四だけど人を見る目はあるつもりだよ。……貴方はそんなことをしない。守るために、生き残るために殺すことはあっても、自分の快楽の為に殺す事は決してない。私にはそう見えるよ」

「殺すことには変わらん」

「そうだね……でも、もし貴方が守るために、生き残るために人を殺めて皆が貴方を責めたとしても、私は貴方を認めるよ。だって貴方は……殺した人に対して、罪悪感を感じているのだろう? でなければ、あんなに辛そうに語ることは出来ないだろうし、あんな例え話を聞くこともない」

「……………………」

「それに……貴方は優しいから」

「…………ほうか」



 ニコラスは俯きながらそう答えた。少し間を開けて、



「ニコラス」

「ん? ………………?!」



 真名に呼ばれて、彼は彼女に顔を向ける。すると真名の顔のアップが目の前にあった。そのまま距離は縮まり、やがてゼロになる。

 キスされていた。

 時間にして二、三秒程だったか。真名の顔が離れてゆく。彼女は髪を手櫛で書き上げつつ微笑む。なんとなく顔が紅く見えるのは気のせいか。



「与太話を聞かせてくれたお礼だ」



 そう言って彼女は足早に屋根の上を去った。

 ニコラスはしばらく眼を白黒させて居たが、やがて顔を真っ赤にし、顔を手で覆って呟いた。



「最近の嬢ちゃん等は積極的やの……」



 真名に語ったのは彼の人生の内半分に過ぎず、未来から来たということはおろか、固有名詞も出していない。それにあまり深く関わらせまいと、あいつとの旅などのことは話していない。だがどうやら逆効果だったようだ。

 彼女は言った。「与太話を聞かせてくれたお礼だ」、と。それは今の話を他言しないという意思表示で、語った話を信じるということだろう。そして、彼を認めるということも。

 彼は心が少し軽くなって、また重くなったのを感じる。



 軽くなった理由は己を認めてくれる少女が此処にも居たということ。



 重くなった理由は全てを知った彼女がどう反応するかと言う不安。



 語りは出来るだけ軽く語ったが……エヴァのように全てを見て感じ、理解したわけではない。

 もし彼女にあの本で自身の過去を見せたときのことを想像して身を震わせた。

 堕ちるところまで堕ちた外道を、彼女は認めてくれるだろうか……



 彼はコートを着込み、酒を一気に飲み干した。酒が喉を灼き、舌と鼻腔には血の味と匂いがした。深呼吸すると微かな石けんの匂いが香った気がした。











「よっしゃ! ずらかるよカモっち!」

「よっしゃ! っと! ちょっと待ってくれ姉さん!」

「どうしたんだい?」

「カードが発生した! これは……」

「龍宮?!」



 この会話の所為で彼女らは逃げるタイミングを逸して新田に見つかり、正座する羽目になる。





「……なにやっとるんや主等」



 トイレに降りてきた彼が眼にしたのは正座した3-Aの生徒達。ネギまで居る。彼らは捨てられた子猫のような視線を向けてくるが、背後にいる新田に睨まれて声は出せない。

 ニコラスは手っ取り早く、新田に事情を聞いた。



「どうしたんですか。これ」

「あまりに騒ぐので仕置きしているところです。とりあえず朝まで」

「あ~、一時間ぐらいで勘弁してやりませんか?」

「ほほう」



 新田の掛ける眼鏡が光ったように見えた。新田は言う。



「理由をお聞きしましょうか、ウルフウッド先生」

「せやから先生は止めてくださいって……明日の行動に支障が出ますし、せっかくの旅行を寝不足で楽しめないっちゅうのも勿体ないでしょう。見た所十分に反省しとるようですし、勘弁したってくれませんか?」

「ですが此処で甘やかしてはまた……」



 ニコラスの言葉に喜色満面の生徒達。正座から解放される。そう思っているらしく、ニコラスをヒーローのように見つめている。

 だが次の言葉で全員は硬直した。



「次に暴れたらワイが直々に粛正します。それで手打ちにしてくれません?」

「むぅ。あの教会の惨劇を……?」

「必要とあらば。あれ以上も視野に入れておきましょう」



 二人の言葉に真っ青になる生徒達。以前何者かによって教会にたむろしていた不良達がギタギタにのされたことは学校新聞に掲載されたことがある。全員軽傷だったが事件当時のことは黙して語らず、幾人かは黒い服を着てサングラスを掛けた男性に対してトラウマを持ったらしい。

 更にみんなクリスチャンになり、洗脳されたかのように優等生になったらしい。似たようなことは結構多い。

 新田の言葉はそれら事件の執行者がニコラスだと示していた。確かに思い返せば目撃情報などが限りなく一致している。

 皆がニコラスの顔を窺うが、そこに冗談の気配は一切無く、それが本気だと言うことが伺えた。

 新田は幾分か考えた後に、



「わかりました。あと三十分で解放しましょう。……と、言うわけだ。貴様等、彼はやると言ったらやるぞ。これに懲りて次が怖ろしいのならばもう馬鹿騒ぎをするなよ」

「「「「「イエッサー!!!」」」」」



 最敬礼で答える生徒達だった。事情を知らないネギとカモはよくわからなかったようだが。





 余談だが。

 美空は古菲と一緒に出場したが開始直後、



「美空はニコラス牧師を狙うがよろしネ」



 と、笑顔で送り出されて単独行動に移行。某蛇の工作員よろしく旅館内を進んでいたが。



「何をしている? 春日」



 と新田の餌食第一号となった。…………流石に段ボールが歩いていては不審に思われたらしい。



 …………真に怖ろしきは足音だけで誰か特定した新田だろうか。

魔法先生と鋼の十字架 (×トライガン・オリ有) / 十話

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