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十話 投稿者:駄作製造機 投稿日:04/09-05:35 No.218

 修学旅行三日目の朝。食事を終えて出立の準備をするべく部屋に戻ろうとしたニコラスだったが、朝倉に呼び止められた。



「あ、ウルフウッドさん。渡すモノがあるから玄関前の休憩所に来てくれない?」

「?……解ったわ。でも……なんや?」

「来てからのお楽しみということで! それじゃ!」



 そう言って手を振り、駆け去ってゆく朝倉。残されたニコラスは疑問符を浮かべつつ手を振り替えした。





・10話





 ニコラスがいつもの黒服に着替えて玄関に向かうと真名にばったりと出くわした。彼女の顔を見ると昨夜の光景がフラッシュバックして、ニコラスは微かに顔を赤らめた。だが即座に鉄の自制心でなんでもない風を装い、真名に話しかける。



「どうしたんや。準備は出来たんか?」

「いや、朝倉に呼び出されてね。何でも渡すモノがあるらしい」



 真名の言葉にニコラスは嫌な予感を覚える。だが気のせいとそれを頭の片隅に追いやり言う。



「奇遇やな、ワイも朝倉に呼ばれてん。一緒に行くか?」

「そうだね、行こう」



 二人は並んで目的地に向かった。



 目的地にて二人を待っていたのは……



「「ひゅー、お熱いねぇ」」

「う、ウルフウッドさんに龍宮さん……いけません! 教師と教え子の関係なんて!」

「ほ、ホントだったの……?」

「龍宮……」



 と言う言葉だった。

 二人は全員をきっかり五秒見た後。



「「どういう事だ?」」

 

 疑問の表情濃くそう言った。二人に対してすぐさま答えたのはネギだった。



「ウルフウッドさん! 教え子に手を出すなんて、聖職者としてあるまじき行為です!」

「は?」

「幾ら真名さんがそう見えなくともまだ十五歳なんです!犯罪ですよ犯・罪!」

「いやちょ…」

「確かに外から見たら普通のカップルみたいですけど……!」

「こっち無視して飛躍するんやない馬鹿ネギ坊主ーーー!!」



 即座に空中にパニッシャーを呼び出して、それから伸びるベルトを右手で持つ。それを強く引き、パニッシャーをネギの頭の上に叩き落とす。

 ネギはうつ伏せ大の字に叩き付けられ、口からヒキガエルが轢かれたような声を漏らし沈黙した。

 荒い息をつきつつパニッシャーをしまうニコラス。ちなみに彼のカードは基本的なことに加えてパニッシャーの召喚と返送が出来る。

 鋼の塊が叩き連れられたネギ、普通なら死にかねない一撃だが普段からネギは肉体に魔法を掛けているので死にはしないだろう。あれだったら持ってきてあるマジックポーションを与えればいいとニコラスは内心で思う。

 そして周囲を見渡すが従業員はニコラスと視線が合うと高速で視線を逸らし、



「な、なにも見てませんし何も聞いてませんよ?!」



 そう叫びそそくさとその場を去ってゆく。その反応には引っかかる点があるがこの場合は好都合である。

 ようやくネギに駆けよる明日菜。次に声を上げたのは真名だった。彼女は、



「で、ネギ先生がこんな考えに至ったのはどういう訳だ? 刹那」

「それは龍宮が知ってるんじゃあないか?」



 聞いたが帰ってきたのは生ぬるい視線だった。



「は?」

「ようやく解ったよ。龍宮が彼を良く言わなかった訳が。少し前にTVで聞いたんだが、え~っとあれ、あれだ」

「おい、刹那」

「ああ、思い出した、ツンデレ、っていう奴だな。全く、龍宮も素直になればかわいいのに……」

「………………」



 話し続ける刹那をよそに、真名は無言のまま懐からサイレンサー付きの拳銃を抜いて刹那に向けた。銃口はピンポイントで刹那の額を狙い、銃身にはハリセンマークと共にツッコミ用の文字が光っている。

 弾体は模擬弾。当たれば痛いがそれだけだ。当たったところが赤くなる程度の装薬しかない。それを真名は無警告で刹那の額にぶち込んだ。

 ぷしゅ、と気の抜けたような音と共に弾が放たれて直後、刹那が額を抑えてうずくまった。その様子を見下ろしつつ真名は言う。



「で、お前達がそういった誤った結論に達したのはどういう理屈だ?」

「~~~~っ。 龍宮、いきなり撃つのはどうだ……?」

「刹那?」

「実は朝倉とあのオコジョがそれらしいことを……」

 

 真名の声から本気の殺意を感じ取り、刹那はあっさりと情報源を明かした。



「「ほほう」」



 じろりと朝倉とカモを睨みつける二人。絶対零度の視線に彼らは凍り付く。



「「……弁明はあるか?」」



 その言葉に二人は動きを得る。カモは白い体毛が青く見えるほど血の気が引いているが、朝倉は人の悪い笑みを浮かべて、



「だってキスしたんでしょ? 龍宮は昨日のイベント参加申し込みもしていないのに。イベント外でキスが起きたんならそういう関係だと疑うのも無理はないと思わない?」

「そそそそそうだぜ旦那! 遊びと公言していた昨日のラブラブキッス大作戦はともかく、それ以外でキスしたんならそう思って当たり前だぜ?!」



 朝倉に同調したカモだったがその声は泣きが入っていて情け無い。



「「……イベント?」」



 二人は怪訝な顔をしてそう聞き返した。











 昨日のイベントの詳細を……朝倉から聞かされて即座に反応したのは真名だった。



「言っておくが、私とニコラスはそういう関係じゃない。その、確かに昨日の夜……その……き…すはしたが……」

「ワイは子供は守備範囲外や。ネギが言うとおり十五の娘、しかも生徒にそういった感情は持たんで」

「うぐ……すみませんでした……」



 真名に続いてニコラスがきっぱりと言った。ネギに皮肉を言うのも忘れなかったが。ネギは汗を流しつつ謝る。

 実際ニコラスは外見年齢十歳のエヴァにキスされたとき呆然とし、その感触を思い出して赤面したこともあるのだが……それは永久に伏せておくべき事だろう。外見は三十過ぎだが恋愛ごとに関してはティーンエイジャー同然なのだ。

 そこで気を取り直して朝倉が二人にカードを手渡した。絵柄は真名。両手に銀に光る何かを握ってポーズをとっている。ニコラスと真名はそのカードに見覚えがあった。更にニコラスはカードに書かれている真名が持っているモノにも。

 それは大きな銃が銃把で互い違いに接合された物だった。銃身から上に伸びるのは弾倉だろう。かつて家族で敵だった男が使っていた武器だった。

 ニコラスは朝倉、カモに怒気の籠もった声で言い放つ。



「なんやこれは。いつの間に術式を張ったんや? 旅館内でキスかましたら即契約……何故わざわざこちら側に巻き込もうとしたんや。……答え」

「え~っとそれは……」

「朝倉は構わへん。どうせカモに唆されたのやろ。じゃが……今がどういった現状がを知ったって、こない真似したんや」

「う…………」



 ニコラスの刃のような視線にカモは口詰まる。流石にカモも、『もうけのために……』などと言えば確実に消されかねないのが解ったらしい。脂汗をだらだら流しつつ視線を泳がせる。

 その様子にろくな理由ではないと判断したニコラスは懐に手を入れたが真名がそれを押しとどめた。



「怒るのは解るが落ち着け。確かに誉められた行為ではないが……私にとってこのカードはマイナスにはならず、むしろプラスになる。だからそこまで怒らなくてもいいだろう」

「そ、そうです。落ち着いてください、ウルフウッドさん」

 

 カモの命が危ないと思ったのかネギが言う。ニコラスは仕方がないと言った風に懐から手を出した。当然なにも握っていない。ほっと息をついてカモが口を開いた。



「すまねえ旦那……次は気をつけるからよ……」

「そもそも次を起こすなや。起こしたら内臓をぶちまけて貰うで」

「き、肝に銘じときやす……」



 カモは青い顔で頷いた。それを見つつニコラスは真名に聞く。



「カモはとりあえず置いといて……真名はこれが何か知っとる様やな」

「ああ。仮契約カードだろう? 対象に対する魔力供給、両者間の念話、召喚。さらには契約者には固有アーティファクトが付与される。……見た所は銃だが、どんなアーティファクトなんだ? 出してみていいか?」

「構わへんで」

「じゃあ出してみよう。……『アデアット』」



 ニコラスは真名もこちら側を知っている以上、このカードのことを知っていてもおかしくないと判断する。そして彼自身もどのような効果があるのか見てみたかったので、真名の言葉に頷いたのだ。

 言葉と共に彼女の両手に銀の拳銃が具現化する。それかかつて彼が見たものと色こそ違うが同じものだった。そして数秒後、真名がポツリと呟く。



「なんだこれは……」

「どうしたんや? 気分が悪いんか?」



 ニコラスの言葉に真名は首を横に振った。



「違う。どう表現すればいいのか解らないんだが……自分の周囲360度の様子が『わかる』んだ。大体半径5メートルぐらいで。見ていなくても、見えなくてもどう動いたのか、何処にいるのかが解るんだ……それに少し驚いてね」



 真名の言葉はネギを始めとする者は解らないようだった。解るという感覚を他人に伝えることが不可能である以上、仕方のないことだった。

 

「まあ、ある意味便利なものだね。範囲が決まってはいるが、死角が完全に無くなるわけだから。いい特性だよ。これは」

「前後同時射撃可能みたいだし、なかなか攻撃的な銃だな。過去の例を見ると銃のアーティファクトは魔力を弾にして打ち出す魔銃がオーソドックスらしいぜ」

「まあ詳しい性能は帰ってからやな。そろそろしまっとき」

「解ったよ、ニコラス。……『アベアット』」



 真名が呟くと銃はカードに戻った。それを懐にしまう真名。ニコラスもカードを胸ポケットにそれをしまう。それを見たカモが真名に聞いた。



「龍宮の姉御。そのアーティファクトの名前は何にするんだい?」

「む……それは帰ってから……「ダブルファング」……ニコラス?」

「ダブルファングっちゅうんや、それ。両手に構えることで前後左右同時に撃つことが出来る二つの牙。……昔見たことがある」

「ダブルファングか……いい名前だ。それにしよう」



 ニコラスはそう呟く真名を何処か遠い目つきで見ていた。











 その後、主犯である二人の内、朝倉はカモにそそのかされたのが大きいための今回は執行を猶予。だが主犯であり元凶のカモにはニコラスと真名から制裁が与えられた。確かに良い物は手に入ったがそれはそれ。悪趣味なことをしたのは変わらない。

 こちらに来てからマジックアイテムに改良した懺悔箱の中に、一時間閉じこめた上に外部からナイフを五本ほどランダムに突き入れる。危機一髪ゲームみたいなモノだった。たまにナイフの刺し位置を変えたりしつつ一時間後。出てきたカモは体重が二割ほど減ってはいたが無傷だった。懺悔箱を開けると妙にてらてらと光る液体が溜まっていたのが印象に残る。

 カモは語る。



「生まれてからあれほどまで死を身近に感じたことは無かったぜ……(遠い目)」



 とりあえずこの件の制裁はこれにて終了。











 ニコラスは五班についてゲームセンターに来ていた。眼前ではネギが大型筐体のゲームをやっている。傍らにいる刹那の視線は木乃香に向けられていた。ニコラスはなんの気無しに口を開いた。



「ゲームって、そないおもろいもんかのう?」

「面白い人には面白いのではないのでしょうか。私はさほど魅力を感じませんが」

「そうやの。ワイもおぬしもあんな世界に身を置いとるからの。嬢ちゃん方から見ればワイらがファンタジーの住人や。ま、ずいぶんと生臭いファンタジーやが」



 視線の先ではネギが飛び入り参加の少年に負けたところだった。早乙女と夕映がゲームを始めたのを見てネギと明日菜がこちらにやってくる。



「どないしたんや」

「あの、親書を渡しに行きたいんですが……」

「そうですね。お嬢様は私とウルフウッドさんが見ていますので、ネギ先生は親書を渡しに言った方がよろしいでしょう」

「じゃあ桜咲さん、ウルフウッドさん。木乃香のこと頼むわね」

「気いつけや、二人とも」



 二人はクラスメイトに気づかれないように裏口からゲームセンターを出て行った。



「……大丈夫かのう、ふたりとも」

「そうですね……大丈夫でしょう。ネギ先生は見ため以上に強いですし」



 それから約一時間半ほどゲームセンターにいて、ニコラスが体感型シューティングゲームで。秒殺されて意地になったこともあったがそれなりに楽しい時間が過ぎた。











 ゲームセンターをでて、皆が散策をしているとニコラスが急に動きを止めた。先を行っていた早乙女が振り返り聞く。



「どうしたのウルフウッドさん。トイレ?」

「……刹那。この辺で有名な観光名所、知っとるか?」

「? どういう……」

「このあたりで言えばシネマ村でしょう。時代劇のセットそのものとも言える場所で年間数万人の観光客が来ているとの話です」



 早乙女の問いを無視してニコラスは刹那に問うたが、それに答えたのは夕映だった。ニコラスは一つ頷き、



「そこ行こや。時代劇はよう見んが、そういったとこに興味はある」

「ウルフウッドさんも行きたいところあったんだ。よし! 目指すはシネマ村! ゆえっちも木乃香も桜咲さんもいいよね?」

「ウチはええで~」

「私も構わないです」

「わ、私はお嬢様が行くとおっしゃるのなら……」

「決まりぃ!」

「なら話は早い。さっさといこか。時間は有限やからの」



 そしてニコラス達はシネマ村に向かって歩き始めた。今まで黙っていたニコラスが急に要望を言ったことに疑問を感じた刹那は、ニコラスの側によって尋ねた。



「どうして急に……?」

「つけられとる。人混みに紛れて距離をとるで」

「! ……本当ですか? 私にはなにも感じられませんが……」

「まず間違いないの。簡単に手が出せん所をうろついて夜まで粘る。ネギが成功しとったら護衛も回して貰えるやろ」



 最後のニコラスの言葉は希望が混じったものだったが刹那は頷いた。それから二人は木乃香達を左右から挟むように立ち、警戒しつつシネマ村に向かった。



 







 二人が警戒をしていた所為か数回のちょっかい(手裏剣が飛んできた)があっただけで無事にシネマ村に着いた。春の観光シーズンなのか入場者は多い。

 現代の服と江戸時代の服を着た人々が混然と通りを歩いていた。その光景を見てニコラスは目的を一瞬忘れ、呆然と呟いた。



「ほぁ~~、まるで異世界やな。……いや、その境目、といった感じかの」



 そうかもしれない。ここにいるのは現代に生きる人間だが、その外見は過去のもの。何処か現実から離れたような感触を受ける。は~とニコラスが呆けている間に早乙女が何かを見つけたのか、夕映と木乃香、刹那を連れて近くの建物に消えた。その時の早乙女の表情は何か悪戯を考えついた子供のようだった。



「……はっ!?」



 気が付いて周囲を見渡すニコラス。いつの間にか木乃香達がいない。まさか敵に攫われたのかと焦って周囲を見渡すニコラスだったが、背後から声を掛けられてそちらを向いた。



「……なんでそんな格好しとるんや?」



 ニコラスの視線の先には和服に身を包んだ木乃香達がいた。木乃香と夕映は女物の衣装だったが、刹那と早乙女は男物の着物を着ていた。中でも刹那と早乙女の衣装を見てニコラスは僅かに表情を硬くする。それに気が付いたのか、それとも自分に見とれたと勘違いしたのか早乙女がニコラスに訊く。



「ん~、みとれちゃった? ウルフウッドさん」

「ん、ああ、似合っとるで、嬢ちゃん」



 内心の動揺を隠してニコラスは無難な言葉を返した。

……どうでもいいことや。

 そう内心で頭を振り、動揺を押し隠してどうして着替えたのか聞く。赤い袴と白い上着……巫女さんスタイルの夕映が答えた。



「ここでは衣装の貸し出しをしているんです。……ウルフウッドさんもどうですか?」

「いや、似合うわけないし」

「何事も試してみないと解りませんよ? 意外と似合うかも知れませんし」

「いや、ワイは別に……」



 そうニコラスは固辞しようとしたが木乃香と早乙女、さらにはどこからともなく現れた三班の生徒達に押し込まれて着替えることになった。

 そして数分後。



「………………」

「意外と似合いますね」

「「「ホントに意外」」」

「…………そこはかとなくムカつくのはなんでやろな?」

「口を開かなければ完璧」



 ニコラスの格好は黒の法衣に白い帽子をかぶっている。どうやら宣教師のの仮装らしい。これと後は浪人の格好があったのだがニコラスがそちらは絶対否定したためにこちらになった。黒が彼のイメージカラーなのか、元々牧師のせいか違和感はそれほどでもない。

 だがニコラスはいつもの黒服が恋しいのか、しきりに着付け場を振り返っている。



「なあ、もとにもどしても」

「「「駄目です。せっかくなんですからここをでるまではそのままの格好でいて下さい」」」

「……了解や」



 彼の要望は全員一致で却下されてニコラスは溜息を吐いた。朝倉がカメラで何枚も写真を撮っていた。



「レアだから売れるかも」



 などとぬかしていたのでニコラスは朝倉と話し合いをする。数分後、販売時の利益を一割上納させることに成功したニコラスだった。











 それからしばらくの間、ニコラス達は観光を楽しんだ。プリクラを撮ったり、土産物屋を物色したり。刹那と木乃香のペアが学生達に人気だった。

 ニコラスも最初の内は動きづらいと文句を言っていたが、そのうちに動き方を覚えたのか周囲を楽しむ余裕がでたようだ。まんじゅうを買い食いしていた。

 だが端から見ると古くさい宣教師服を着た男がまんじゅうを頬張っているのは中々に変な光景である。

 シネマ村を楽しんでいたニコラス達だったが、それは長く続かない。刺客は現れた。

 馬が駆ける音も高らかに馬車が彼らの目の前に横付けされた。その上から降りてくるのは古めかしい洋服を纏った少女。刹那は見覚えがあるのか木乃香を後ろに庇って身構え、ニコラスもその少女がかなりの使い手だと解っていた。同時に、ニコラスは彼女からどこかで感じた気配を感じていた。

 ニコラスが少女――月詠の気配を探って何時感じたものかを思い出している間、月詠は刹那に白い手袋を投げ渡した。それが意味するのは中世ヨーロッパで決闘。

 月詠は言った。



「木乃香お嬢様を賭けて決闘を申し込ませて頂きますー。三十分後、場所はシネマ村正門横『日本橋』にて――ご迷惑かと思いますけどウチ…手合わせさせていただきたいんですー。……逃げたらあきまへんえー、刹那センパイ♪」



 最後の瞬間、月詠が見せた表情でニコラスは自分の感じた気配がなんであるか思い至った。

 それは戦闘狂の気配だった。かつて彼が所属した『ミカエルの眼』・『GUNG-HO-GUNZ』の構成員と似た気配。

 思い至ったニコラスは目の前にいる少女に対する警戒を数段階引き上げる。少なくとも軽くあしらえる存在ではない。

 視線を鋭くさせるニコラスに、馬車に乗った月詠は笑みを浮かべながら言った。



「そちらの牧師様もどうやらお姫様の護衛らしいですね~。貴方様にもお相手を用意させますから、そこな剣士様とご一緒に是非おいで下さいませ~」

「ここで主をぶ散らかしてもええんやけどな?」



 ニコラスのやるならやるといった視線に月詠は笑みを深くする。ニコラスの視線は睨みつけるレベルにまで上がるが、彼女はそれを受けて尚笑みを崩さなかった。



「せっかちどすな~せっかく舞台を用意したんですからそちらで踊りましょ? ほな、お待ちしとりますえ~」



 そういって馬車は去っていった。周囲の人間達は完全に催し物だと信じているがニコラスと刹那は月詠が去っていった方向を見つつ小声で会話する。



「まさかこのような手段で来るとは……」

「厄介やな。人目があるからあまり派手に応戦は出来ん。刹那はまだしもワイの得物はあれやからの」



 ニコラスの言葉に刹那ははっとする。ニコラスの得物はパニッシャーか拳銃。どちらも使えば大騒ぎになる。刹那はチャンバラに見せかけることが出来る。しかしニコラスは相手次第だが……かなりキツいだろう。



「まあやるしかあらへん。主も気をつけや。あの嬢ちゃん、かなりブッ飛んどるで」

「……はい」



 ニコラスは睨みつけると同時にかなり強く殺気を叩き付けた……が、月詠は特に反応しなかった。鉄の自制心を持っていたのかもしれないがニコラスの知っている連中のように、何処か『欠けている』可能性の方が高い。ニコラスはその可能性を示唆したのだ。刹那は頷く。

 その会話は小さく誰の耳にも聞こえることはない。その後事実のような誤解が生まれかけたが、とりあえず置いておくことにして彼らは目的地に向かった。











 馬車の上で月詠は携帯でどこかに連絡を入れていた。



「ハイ、出来るだけ対人戦闘に特化していてここで違和感ない符を大至急頼んます~。刹那はんと同等かそれ以上の使い手がもう一人護衛に付いとったんですわ~。……解りました。善処します~」



 携帯を懐にしまい、月詠はほうと溜息をつく。



「センパイとも闘いたいけどあの牧師さんも捨てがたいわ~。ああん、迷ってまうわ~」



 その頬はほんのりと上気している。ニコラスの推察どおり、神鳴流の中でも彼女は戦闘狂に分類される。神鳴流において余りよい傾向ではないが、若いながらも剣の腕は高いために許容されている。その内面は闘いの快楽に取り憑かれた者だ。それも一方的な闘いではなくギリギリの闘いを好む。

 彼女は数分の間、車上で悩んでいたが仕事と言うことであいては刹那に決める。だがどうしてもこのような言葉が漏れた。



「ああ~今回はしゃあないけど……いつか牧師さんと闘いたいわあ~」



 そして馬車は日本橋に着く。既にそこは彼女の上役がイベント開催と(偽)連絡を入れたために貸し切り状態。下を流れる浅い川には五メートル四方のいかだと多くの小舟があった。下はニコラスの戦場。橋の上は刹那と月詠の戦場だ。

 川の筏の上に白髪の少年が立っている。月詠は少年に見覚えがあった。



「あらぁ、フェイトはんどないしはったん?」



 彼女は少年に声を掛ける。すると少年は刹那の間に月詠の眼前に立った。そして一枚の符を差し出す。



「これ、言っていた符。まだ明るいから人は殺さないように。これも重傷で止まる符だから」

「おおきに~。そうどすな、どないな式神ちゃんが入っているんです~?」

「……………………………………っていうらしい。詳しくは知らない。……じゃ」



 そういうと少年は足下の水たまりに消えた。月詠は橋の真ん中に立ち、時間を思い浮かべる。あと十八分。知らず知らずのうちに笑みが深くなってゆくのが彼女自身も解った。



 …………五分後。



 予定よりも早く眼前に立つ一行に月詠は笑みを浮かべ、内心の高ぶりを押さえつつ声を掛けた。



「皆様、お待ちしとりましたえ~」

魔法先生と鋼の十字架 (×トライガン・オリ有) / 十一話

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