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十一話 投稿者:駄作製造機 投稿日:04/09-05:35 No.219

「刹那さん! ウルフウッドさん!」

「ネギ先生!? どうやってここに?」

「大方ぬしのラインを辿ったんやろ。どうしたんやネギ、親書は渡せたんか?」

「いえ、急にちびせつなさんが消えたのでどうしたのかと……」

  

 刹那がネギ方面に式神を放っていたのは知っていたので、ニコラスが聞くとネギ……ちびねぎはそう答えた。つまり心配だから様子を見に来たらしい。

 ニコラスは周囲に気が付かれない程度の声で言った。



「つまり親書はまだ、ちゅう事か……まあええ。こっちはこれから木乃香嬢ちゃん賭けての決闘や」

「決闘?! 大丈夫なんですか? そもそも木乃香さんを賭けてって……」

「しょうがないやろ、そう言う流れになってもうたんやから……何とかするしかない。ネギは木乃香嬢ちゃんに引っ付いとり」



 そう言ってニコラスは視線も鋭く前方を睨みつけた。ちびねぎは刹那を見るが刹那も同じく前方に注意を向けている。ちびねぎもようやく前を見た。



「皆様、お待ちしとりましたえ~」



 そこで橋の上に立つ少女は笑みを浮かべつつそう言った。





11話





 月詠に向かい合うニコラス達は中心に木乃香を据え、その左右前方にニコラスと刹那が立っている。その後ろには夕映と早乙女を含んだ三班の生徒が並んでいる。刹那は決闘の申し込みを受けた際の剣士の格好。ニコラスも同様に宣教師服のままだったが、その背には布にくるまれた状態のパニッシャーを背負っている。来る途中でトイレと称し、離れた際に呼び出したのだ。

 ニコラスも刹那も日を背負った月詠を睨みつけている。



「木乃香様も刹那センパイも、ウチのモノにして見せますえ~♪ ……ふふふ♪」



 その言葉にニコラスは眉をしかめる。歪で気色悪い気配。それは木乃香にも感じられたのか前に立つ刹那に木乃香は不安げに声を掛ける。



「せ、せっちゃん……あの人なんだかこわい……き、気をつけて……」

「安心してください、木乃香お嬢様。何があっても私がお嬢様をお守りいたします」



 刹那は安心させる様に微笑み、優しい声音で答えた。演出だと思ったのか周囲から拍手が漏れ出す。

 生徒達が加勢をしようとすると、月詠は百鬼夜行を召喚。周囲は混乱のるつぼに叩き込まれた。

 

「で、嬢ちゃん、ワイの相手は何処なんや?」

「牧師様のお相手はこの子がつとめます~。おいでませ~『影人』~」



 周囲の盛り上がりをよそにニコラスが問うと、月詠はそう言って懐から符を取り出した。月詠の隣に大仰な煙が立ち、そこから真っ黒いフードで顔を隠した少女が現れる。その格好は月詠と全く同じだったが色が違う。月詠が白を基調にしたドレスを纏っているのに対し、新たに現れた少女は夜の闇を凝縮させたかのように黒いドレスを纏っている。



「分身……!?」

「センパイ、少し違いますな~。この子は『影人』、術者の姿と能力を真似る力を持つ式神ちゃんです~」



 影の少女は音も立てずに橋を蹴り、下の川に浮かぶ筏に飛び降りた。











 フェイトが持ってきた式神『影人』。術者の姿と力を真似る式神である。性格などのあらゆる属性が反転してしまうが、術者に匹敵する戦力を手軽に増強できる点において優れた式神である。フェイトが月詠に伝えたのは次のような言葉だった。



「チグサが言ってた。キミより対人戦闘が得意な人は知らないからそれで我慢しろって」



 我慢しろ。その言葉が示すとおり、彼女はこの式神が嫌いだった。自分と対象の存在と相対したとき、人は二つの行動に出る。

 惹かれ合うか、反発し合うか。

 彼女は後者だった。初めて見たときに凄まじい嫌悪感を覚え、影人を斬った。以来、この式神は使おうとしなかったのだが……彼女は今回はお仕事と割り切ってこれの使用に踏み切った。



「私は好きやありまへんが、急やったもんで~これで我慢してくださいな~」











 ニコラスは無詠唱で風の魔弾を百発、パニッシャーに装填する。ちらりとネギを見て言う。



「ネギ、近衛を連れて逃げ。はっきり言ってどう転ぶか解らん……刹那」

「はい。見せかけだけですが先生を等身大にします。私たちが相手を斃すまで、敵に捕まらないでください」

「わ、わかりました!」



 忍者の格好になったネギは木乃香を連れて駆け去ってゆく。それを見送ってからニコラスは刹那に言った。



「可能なら遮音結界を張っといてくれや。出来る限り魔弾で相手するが……撃たずに済むか解らん」

「解りました。お気をつけて」



 魔弾のみならば厄介な炸裂音は気にすることはないのだが、戦闘が白熱してしまえば間違って引き金を引き、実弾が発射される可能性もある。それを懸念したのだ。

 刹那が川縁に四枚の符が付いたクナイを投げつける。同時にニコラスは筏に向かって飛び降りた。直後にタイミングを合わせたかのように月詠と刹那も互いに突撃する。鋼の激突音がしたのは同時だった。











 月詠は空中より落下速度も加えた二刀連撃斬鉄閃。対する刹那は夕凪と小物の脇差しを気で強化し同じく斬鉄閃で迎撃した。瞬きの内に十近い剣閃が交差し、鍔迫り合いになる。刹那が月詠を睨みつけつつ言う。



「百鬼夜行といい、最近の神鳴流は妖怪を飼っているのか?」

「あの子達は無害どす、ご安心を~。むしろ牧師様の相手の影人が危険どすえ?」

「ふん、彼を甘く見るな。貴様の劣化コピー程度に負けはしない」



 そこで刹那は夕凪を振り、月詠を弾き飛ばした。既に脇差しは砕けている。彼女は全身に気を巡らせて身体能力を強化すると月詠に斬りかかった。











 落下しつつニコラスはパニッシャーの布を解く。中央のグリップを握り、鋼の十字架を影人の頭上に向かって振り下ろす。それを影人は二刀を交差させて受け止めた。影人は無言のままに二刀を交差状態から振り、パニッシャーごとニコラスを吹き飛ばす。ニコラスは空中で一回転した後に川の側壁に着地、影人は追撃をするべく跳躍した。

 放たれる剣閃をニコラスは壁を蹴ることで回避する。影人の剣は石でで作られている側壁を削り取った。そこに向けてニコラスは魔弾をフルオート射撃する。影人は魔弾を剣で弾くがその勢いに壁沿いから動けない。引き金を引きつつニコラスは小声で詠唱を開始する。



「灰は灰に塵は塵に。風の精霊一千柱、我が銃に宿れ」



 パニッシャーがうっすらと碧く光り、パニッシャーの弾倉に風の魔弾が装填される。そこで影人は苛ついたのか横っ飛びに距離を開け、小舟から小舟へ、更に側壁、橋の基部などをボールが跳ねるように飛びニコラスに迫った。人間離れした動きはパニッシャーで追い切れない。舌打ちをしつつニコラスは懐から拳銃を抜こうとし、



「って無いんやった!」



 ハンドガンは収納した上着と共に預けたままだ。ニコラスの叫びに全く動じず影人は二刀を振るう。とっさにニコラスはパニッシャーを盾にして斬撃を受け止めた。単独技能特化型魔法使いであるニコラスが身体能力を上げるには使い捨てのマジックアイテムが必要になる。それも手持ちが無い以上、ニコラスは人間を少し超えた程度の肉体能力を持って人外を駆逐しなくてはいけない。だが。

 ギリギリと押し込んでくる影人の剣をパニッシャーを傾けることで逸らし、ニコラスは体を回して影人の背に蹴りを加えた。体勢を崩す影人に向かってニコラスはパニッシャーを向ける。影人は無理矢理に跳躍して射線から逃れた。しかし跳躍した方向に向けてニコラスが風の魔弾をばらまく。しかしそれすらも影人は避けきった。

 着地するや否や影人はランダムな動きでニコラスに迫る。それを魔弾で迎撃するニコラス。

 戦闘は続く。











 ネギは木乃香を連れてシネマ村を走っていた。肩に立っているカモが追いかけてきた百鬼夜行の一匹を叩き落とす。周囲の観光客も催し物だと思っているのか、ネギの進路を妨害することはない。



「ちっ、しつこいぜこいつら」



 カモが小声で言う。ネギは周囲を見渡しつつ隠れるところを探し、ある場所に目を付けた。



「木乃香さん! あそこの建物に逃げ込みましょう!」

「あのお城?」



 ネギが示したのは小さな城。下からの侵入経路が少ないと見たらしい。

 もしネギがこういった闘いに慣れていて、日本家屋と城の特徴を知っていたのならばそこには行こうとしなかっただろう。

 日本家屋は構造上、廊下が縦横に走っており、部屋道四月なっがっている。そして部屋から直接外に面した大きな扉などがある。ゆえに攻め込まれやすいが逃げやすくもある。対して城は侵入を防ぐという性質上、内部空間が狭く、すぐさま外に出られない。侵入されないのが前提の建物故に退路を失いかねないのだ。逃走する際に優先するべき事は常に退路が存在することだ。

 故に城に向かうことは死地に自ら飛び込むようなものだったが、あいにく彼はまだ経験不足だった。百鬼夜行が巧妙にネギの進路を誘導していることにも気が付いていない。そしてそれを指摘するものも居ない。

 ネギは罠とは知らず、城のほうに進路を向けた。











 橋の上では刹那と月詠の剣戟音が響いている。橋の下ではニコラスと影人の戦闘が続いていた。



「ちっ!」



 至近距離での戦闘ではあしらわれるかもしれないと学習したのか、影人の戦法は一撃離脱に変わっていた。無理に一撃を狙わず四肢を狙って相手の能力を削る作戦らしい。既にニコラスの衣装には切れ込みが入り、その下の皮膚からは赤い血が滲んでいた。

 一瞬でニコラスに迫りギリギリの一撃を放ってくる影人にニコラスは苦戦していた。彼の得物であるパニッシャーはその巨大さ、重さ故に高速近距離戦を不得手とする。ニコラスは片手で軽々と扱っているがその重さはかなりのもので一般人が振り回すことなど出来はしない。

 橋脚や側壁を利用した三次元的軌道で射線を外し、高速で襲いかかってくる影人はニコラスにとって相性が悪かった。幸いなのは狙いが正確なために攻撃軌道が予測しやすいことだろうか。これまで負った傷はかすり傷のみで戦闘に影響はない。



 影人は闘い始めてから終始無言だった。顔は黒のフードによって窺うことは出来ず、その動きは遊びが全くない極めて合理的なもの。ニコラスは見たことはないが、月詠本来の闘い方とは違っているだろう。

 実際に彼女は闘うことに悦びを見いだしていて、自然とその闘い方は戦闘が続く事を望むようにムラのあるものだ。影人と月詠は正に正逆。

 

「………………」

「……ふっ!」



 鋼の激突音が響く。

 だが、戦闘開始からそれほどたたずに様相が変化しだした。それまで闇雲に反撃していたニコラスの動きが射撃を控えるようになり、パニッシャーを用いた防御から身を逸らしての回避に。そして影人の攻撃の瞬間にパニッシャーを合わせる様になる。

 ニコラスの左斜め上空から突撃してくる影人に対して、ニコラスはその身を回しつつパニッシャーを右下段から振り上げる。鋼の激突する音と共に影人の軌道が左側に流れた。影人は空中で姿勢を立て直し、ニコラス左後方の小舟を蹴り再びニコラスを襲う。その時は既にニコラスも真っ向から向かい合っていた。左脇の下にあったパニッシャーを右に振り右脇腹を狙ってきた影人を吹き飛ばす。そしてまた影人が……

 その繰り返し。影人の戦法が変わってから十手ほどでニコラスは相手の動きを完全に捉えていた。敵を弾き飛ばす際、続く相手の攻撃箇所を誘導すらしている。



 これがニコラス最大の武器。『ミカエルの眼』、最強と呼ばれたM・チャペルすら唸らせる闘争センスと学習能力。相手の動きと呼吸を学習し、思考・感情・戦闘論理といった内面すら感じ取り、戦えば戦うほどに相手を追い詰めるニコラスの力。

 

 影人の攻撃は既に擦ることもなくなった。埒があかないと悟ったのか、影人はニコラスの正面に降り立ち両手の二刀を連続で振る。正面からの力押しの切り替えたようだ。ニコラスは真っ向から向かい合う。











「木乃香さん!この中に……!」

「おっけー♪」

 

 ネギと木乃香は城の中に入り込む。上に上に駆け上がってゆき突き当たった部屋にはいる、だが……



「ふふ……ようこそ木乃香お嬢様。月詠はん、上手く追い込んでくれはったみたいやな――おや? そっちの坊やなんでここに? 小太郎が閉じこめとるはずやのに……」



 その部屋には既に先客が居た。新幹線の時からストーカーのごとく付いてきた猿の女に白い髪の少年。

 猿の女――千草の言葉にネギは自分が嵌められたことに気が付く。周囲を探って退路を探すが後ろを見せるのは論外、飛び出ようにもここの高さは既に五階。……退路がなかった。

 千草は幾ばくかの間ネギを観察し、得心した風に言った。

 

「はは~ん。読めましたえ」



 指を鳴らす。すると彼女の後ろから二日前の猿式神が現れる。少年の後ろからは西洋の魔物の如き式神が現れた。ネギは木乃香を後ろに庇う。



「あんた、実体ちゃうな……ってコトは手も足も出ん役立たずや」

「くっ……」



 今のネギは触れることは出来るがそれだけ。魔法はもちろん、戦闘など不可能な状態だった。ネギは自らの不甲斐なさに歯噛みする。











 ネギと木乃香が天守閣で敵と対面していた頃。ニコラスと影人の闘いは終わりに差し掛かっていた。

 

 既にパニッシャーから魔弾が放たれることは無く、鋼の激突音が連続する。

 二刀でもって仕掛けてくる影人の剣戟をニコラスは右手のパニッシャーのみで捌いていた。巨大なそれを振るって相手の剣閃を受け、弾き、流す。影人は無言で剣速を上げるがニコラスはそれを凌ぐ。相手の剣速は脅威だがニコラスのパニッシャーは斬撃の威力を受け止め、揺るぐ事はない。凄まじきはパニッシャー、それを操るニコラス。

 それにかつて刹那と訓練をしたことがあったのが幸いしていた。放たれる技は神鳴流の技でニコラスも見たことがあり、そして数十の手の交わし合いで相手の力も理解していた。



「…………!?」



 影人が動揺する気配が伝わってくる。ニコラスはただ眼前の敵を見据え、己の速度を引き上げる。相手の先を読み、限界を超える。

 徐々に攻守が逆転してゆく。受ける側だったニコラスが相手の攻撃を弾き飛ばし、影人の姿勢が僅かに崩れる。影人はすぐに立て直して斬撃を放ってくるがそれも弾かれて更に大きく姿勢を崩すことになった。ニコラスの動きは加速してゆく。いつの間にか弾き飛ばすだけだったのが、パニッシャーによる打撃を与えるようになる。それの防戦で一杯になる影人。そこでニコラスは闘いを終わらせるべく動き出した。



 攻撃を唐突に打ち切り、彼は大きく後退して側壁の側まで移動した。影人はそれを好機ととったのか、迷わず弾丸の如くニコラスに突撃する。それを迎え撃つようにニコラスはパニッシャーに風の魔弾百発を無詠唱で装填。砲を前方に向けた。口を開く。 



『破塵の風槍』



 呟きに等しい言葉と共に引き金が引かれ、碧い風の槍が砲口から放たれる。それは影人ではなくその下の水面を穿ち、水を粉微塵に吹き飛ばして周囲を濃密な霧に包み込んだ。

 周囲の観客達が驚きの声を上げ、橋の下の戦場は深い霧に包まれて窺い知ることが出来なくなる。それは影人も同様。だが影人はニコラスが回避しようとしても自らの攻撃の方が先になると判断して刀を振りかぶった。

 

 ……だが影人はニコラスの評価を誤っていた。 

 ニコラスは影人との闘いの際にあえて動かず、その場に構えて迎撃するというスタイルをとっていた。得物の超重巨大さを考えると妥当な選択とも言えるが、彼はやろうと思えばパニッシャーを持って瞬間的な速さは出せるのだ。



 では何故その様なスタイルを選んだのか。

 それはこちらの動きが遅いという先入観を相手に植え付け、一撃必殺の機会を窺う思考誘導の為。ニコラスの高い闘争センスが無意識のうちに考えついた作戦だった。



 それも充分。相手はこちらが高速移動できないと思いこんでいて、機会を窺っている。三次元的戦闘は封殺され正面からの殴り合いも苦しいならば、相手が動いた瞬間に最高速で最も鋭い一撃を狙ってくるだろう。

 ニコラスはそう予測していた。そして意図的に隙を見せ、相手の突撃を誘う。そして彼は伏せていた切り札を明かした。

 

 彼は引き金を引いた瞬間に動き出していた。足を踏み出しパニッシャーに光の魔弾十発を装填、機関砲を展開して、

 瞬きの内に影人の背後に回り込んだ。

 気配を殺し、相手の呼吸を読み、相手の知覚の死角を突き、完全に無音で背後をとる。

 

 だが彼が行った移動は高速移動の中でポピュラーな『瞬動』ではない。くどいようだが道具無しでは彼は魔力を魔弾以外に使用できず、気は扱えない。

 彼の動きは身のこなしと歩法で踏み出しから無音、かつ最高速度の移動を可能にする。更に相手の死角を縫うように動くことで相手の知覚を外し、気配を絶つことで相手に察知されることなく移動が出来るのだ。

 

 影人が刀を振ろうとしたとき視界に入ったのは石の側壁。標的はすでに存在していなかった。何処に行ったと側壁に降り立ち、敵を探そうと身を捻ったが……

 背後からの衝撃で側壁に叩き付けられた。



「?!」

「終わりや」



 何がどうなっているのか。それを理解する前に影人の背に十の衝撃が加えられ、影人は符に戻った。

 

 ニコラスは背後を取った後、パニッシャーの機関砲の先で影人の背を突き、側壁に叩き付けその身を縫い止めた。そのまま魔弾を放ち影人を撃ち抜く。

 影人は軽い音と共に煙を上げ、煙が張れたときには十の穴が穿たれた符がひらひらと宙を舞っていた。ニコラスはそれを手に取り呟く。



「……死ぬことに躊躇はないが、式神如きにやるつもりもないんや。ワイの命は」











「凄いですな~、不利な闘いでしょうに、一発も実包撃たずに止めてしまわれましたわ~」

「言ったはずだ、彼は強いと」



 月詠は刹那の言葉に笑みを浮かべる。



「そうどすな~。私もいっぺん闘ってみたいどすわ~。でも……」



 そこで彼女は笑みを深くした。



「私たちの勝ち、です~」

「なに……!?」

「…………あれを見ろ! 城の上だ!」



 ギャラリーの声に刹那は城の上をちらりと見やる。そして驚愕と共に叫んだ。



「……お嬢様!?」



 彼女の視線の先には城の屋上で鬼に追い詰められているネギと木乃香。だがそちらに気配を向けたのが不服とばかりに月詠が襲いかかる。それを辛うじて受ける刹那。



「余所見したらあきまへんえ~♪」

「くっ! どけ月詠!」

「いややわ~センパイ。今はウチだけを見ておくれやす~」



 そう言って更に剣速を上げる月詠。だがそれは第三者によって遮られた。

 碧い魔弾が月詠に向けて放たれる。とっさに距離をとってそれを弾く月詠。それに向かって突撃する黒い牧師。

 ニコラスはパニッシャーを振りかぶりながら刹那に向けて怒鳴った。



「なにぐずぐずしとるんや! 行け!」

「! ……はい!」



 一瞬呆気にとられた刹那だったが大きく頷いて駆けだした。周囲の観客もその道を空ける。月詠は刹那を追うかと思われたが逆に笑みを深くして呟く。



「仕方ありまへんな~。もう一人に足止めされたんやったら追えへんやないどすか……しゃあないどすな?」

「は、自分から闘うのを選択しといて何を言うとんのや。アホ言うとるんや無いわ!」



 そう言ってニコラスはパニッシャーを叩き付ける。月詠は笑いながら刀を振るってきた。











 結果から言うと月詠とニコラスの闘いは持ち越しとなった。僅か数合いの攻防だったが、敵が控えさせていた式神が誤って木乃香を撃ち、その矢が刹那に当たった。その際に木乃香の魔力が発現。同時に敵は退いていった。月詠は去り際にこう残していった。



「牧師様、今のところは退かせていただきます~。お名前を窺ってよろしいですか~」

「…………ニコラス」

「ニコラスさんですか~また機会があったらお手合わせ願います~」

「絶っ対に御免や」



 ニコラスはそう答えたのだが月詠はひどく嬉しそうな笑顔で去っていった。

 ニコラスはその笑みを見て嫌な予感を押さえることが出来なかった。

 そして木乃香の実家に戻ることが決まったのだが、衣装を返す段階で問題が生じた。



「困りますねぇお客さん。こんなにぼろぼろにしてくれちゃって……」

「いや、これは不可抗力っちゅうか……」

「確かに企画部にも問題があるけどもっとこう……上手くできたんじゃあないのかい?」



 影人の攻撃でぼろぼろになったニコラスの衣装。それを見た係員がニコラスに文句を言っているのだ。あれほど派手に闘っていた刹那の衣装は殆ど傷がない。それがよけい係員をしつこくさせていた。恐る恐るといったふうに刹那が声をかける。



「あの……」

「先に行っとき。長引きそうや……」

「そうだね、兄さんとはしっかりと話し合っときゃなぁ」

「は、はい。さ、先に行っておきます……」



 ニコラスの視線がどんどん険呑なものになってゆき、係員の顔つきもどこぞのヤクザみたいになってきている。刹那は木乃香を連れてそこを逃げ出した。

 ……その後ニコラスと係員の舌戦は十五分に及び、ニコラスが弁償することに落ち着いた。いい加減嫌気がさしたニコラスが折れただけだが。



 ようやく解放されたニコラスはふと気が付く。



「近衛の実家て……何処や?」



 重要なことに今更気が付いて途方に暮れた。気配察知は凄まじい彼だが追跡などは苦手である。どうしようかと考えていると後ろから声がかけられた。



「桜咲さんの行方を知りたいのかい?」

「ああ……刹那の行く先が解らんことにはどうしようもないんや。……で、しっとるんか朝倉?」

「もちろん。桜咲さんの荷物にGPSケータイを放り込んでおいたから位置はバッチリ♪」

「……なんとなく犯罪の香りがするがまあええわ。何処にいるんや?」



 ニコラスは朝倉に向き直りそう言った。朝倉は人の悪い笑みを浮かべて言う。



「教えてもいいけど私もついて行くのが条件だよ?」

「却下や。冗談抜きでヤバいで」

「じゃあ教えてあげない」

「む……」



 ニコラスはそう唸った後考え込んだ。力づくで吐かせることも考えたが朝倉のことだ、そうしようとすれば間違った場所を教えて自分は刹那の所に向かうだろう。

 他にも幾つか考えが浮かんだが最終的に彼は朝倉の要求を呑んだ。だがその後夕映と早乙女がついて行くとごねだしたのだ。流石に止めようとしたニコラスだったが、



「私たちは桜咲さんと木乃香さんと同じ班です。班は可能な限り一緒に行動する必要があります。これはしおりにも書かれていることですし優先される事柄です。そもそも……」



 と夕映が長々と理由を説明しだしてから途中の記憶がない。気が付くと朝倉、夕映、早乙女と一緒に歩いていた。彼が聞くと五班の残りは先に帰したらしい。彼自身覚えがなかったが。

 どうやら夕映の説明はニコラスにとってある種の洗脳言語になるらしい。

魔法先生と鋼の十字架 (×トライガン・オリ有) / 十二話

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