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十二話 投稿者:駄作製造機 投稿日:04/09-05:36 No.220

 両脇を木々に挟まれた道を、十人ほどの人間が横に並んで歩いていた。その集団、特徴としては女性の比率が高く、年齢が低いことだろうか。

 紅一点を逆にしたように黒ずくめの男が十ほどの少年を背負って歩いている。周囲では少女達がそれぞれの会話に華を咲かせていた。黒ずくめの男はやや疲れたかのような表情で無言。そんな様子を見て取ったのか、背の少年が彼に声をかけた。



「すみません、ご迷惑をおかけしてます……」

「あ?」

「いや、重たいでしょう? 僕……」



 その言葉に男は溜息をつき、何を言っているのかと表情を変えた。背の少年を軽く背負い直して口を開く。



「体重だけやったら知り合いにもっと重いやつがおる、気にするなや。……むしろ本番前にここまでボロボロになったんははっきり言って呆れたがな。嬢ちゃん一人巻き込んどるし」

「あう……」



 男はやれやれといった風に言う。

 少年はその言葉に言葉を詰まらせた。その過程で罠にかかってしまったのは事実だし、脱出するのも本来無関係だった少女の助け無しでは無理だった。

 男は更に言葉を続ける。



「もうちょい気いつけることや。特に戦術、作戦のいろはぐらいは勉強しとき。正面からのガチンコで勝てる奴ばっかや無いで」

「はい、気をつけます……」



 そう言って少年は項垂れた。男は再び少年を背負い直して歩き続ける。

 実のところ……彼が経験したことのある闘いは暴力と暴力による潰し合い、殺る前に殺る闘いが殆どである。戦術は使うことは極めてまれで、作戦など立てたこともない。事実を棚に上げてニコラスはそう言っている。

 エヴァが聞いたら……偉そうなことを言うなとドツかれそうだ。





・第十二話





 刹那と木乃香を朝倉達と共に捕捉し、ネギ達と合流してしばらく歩いた頃、ネギを背負ったニコラスがふと周囲に視線を向けた。

 彼の周りには刹那と明日菜、背負ったネギしかいない。他の生徒達は数歩先を歩いていた。

 そのことを確認してから彼は刹那に言う。



「しっかし刹那、追跡術は解るクセに発信器には気が付かんとは抜けとるんやないか?」



 彼の言葉が指すのは朝倉のGPS携帯のことだ。実際の用途とは違うが今回の使用例として彼の表現は正しい。

 その言葉に刹那は微かに俯いて口を開いた。



「言い訳じみますが……仕方がないんです。なまじ『解る』以上、どうしてもそちら側に意識が向いてしまって……」

「僕たちはそういった機械を使わずに同じ事が出来ますが、それ故にそちら側に特化してしまうのが殆どなんです。極端な話ですが、こちら側ではそういった物に頼るのは二流といった風潮もあるぐらいですしね」

「へ~」



 刹那を弁護するようにネギが彼の背から言う。明日菜が相づちを打った。二人が言うのだから恐らくその通りなのだろう。

 すらすらと話すネギを見て、ニコラスは改めてネギが教師だと言うことを実感した。

 会話は小声で聞こえているのは彼の周囲の人間だけ。ニコラスは二人の言葉を聞いてやや皮肉げに顔を歪めて口を開いた。



「なら……パニッシャー無しではろくに魔法が使えんワイも、そういった連中にとったら二流ちゅう事か」

「あ! その、あの……あくまで極一部の人だけですよ!? そういった考え方するのは!」



 ネギは慌ててフォローに入る。刹那もネギに追随するように言った。こちらはニコラスの闘いを幾度か見たことがあるせいかやや声に力が入り、表情には尊敬の色も見て取れる気がする。



「そうですよ! 第一あれだけ戦えるなら充分に一流……いえ、超一流と言っても差し支えないと思います! 私もそれなりに覚えがありますが、あの式神を撃退できたのは驚嘆に値します!」

「いや、そこまで言わんくても……」

「……ウルフウッドさんは自分の実力を過小評価していると思います」



 ニコラスが気の抜けた答えを返すと、刹那はジト目でそう言った。そして刹那は今気が付いた事をニコラスに訊いた。



「そういえば……ウルフウッドさんは肉体強化はしたのですか?」

「いや、やっとらんが。そもそもマジックアイテムが無ければ使えん」

「?! ……では、肉体強化もなく肉体強化した相手を倒したのですか?」



 エヴァとの仮契約もあるが、あれはエヴァの方から供給をかけないとニコラスは強化されない。

 ニコラスの言葉を聞いた刹那は、信じられないといった風に言う。ネギが背から疑問の声を上げた。



「……そんなに凄いことですか?」

「そうですね……凄いと思います。ネギ先生の相手も気を纏って闘っていました。彼の速度や威力は先生も知っているでしょう?」

「は、はい」



 ネギは疲れた身体と各所に残る痛みを感じて頷く。刹那は満足げに頷いて続けた。



「気や魔力を纏った一撃は容易く人体を破壊しますし、その運動速度は熟練者では音速、又はそれを超過します。また、纏った気が鎧となって防御力も上がる……気や魔力を纏った人間は、既に人間を凌駕した存在とも言えます。それに対して強化無しで闘うというのは大人と子供が喧嘩するようなものです」

「確かに、兄貴はあの小太郎ってガキに一方的にやられたからな」

「カモ君……どこから湧いたの?」

「……ネギ、あんた今さらりと酷いことを言ったわよ?」



 明日菜がツッコんだ。……確かにこのSSでは彼は出番が少ないが。カモが落ち込み、刹那はそれを無視して話を続ける。ニコラス達も話の方が気になるのかカモはほったらかしだ。ネギの肩口でのの字を書き出している。



「対するウルフウッドさんですが、単一技能特化型魔法使い……即ち魔弾以外の呪文は使えないので魔力供給は出来ません。気の方は僅かに肉体を巡っていますが、肉体が強化されるほどの流れではありません。鍛えられてはいますが、あくまで人間に出来る範囲での身体能力しか持ちません……ここまで言えば明日菜さんも解るでしょう?」

「えっと……つまりウルフウッドさんはスッゴいハンデを抱えたままズルした相手を叩きのめしたってコト?」



 突然話を振られた明日菜は口ごもりつつもそう答えた。ニコラスが続ける。



「スポーツ選手に例えるなら生身のスプリンターが、茶々丸・短距離スプリンター仕様に勝つぐらいかの?」

「よくわからないたとえですね……」

「よく解らないたとえですがそんなところです。そういった面から見ればウルフウッドさんは凄まじい技量を持っていると言えます」



 そう言って刹那は締めた。ニコラスの背に背負われていたねぎのみが、呟きに等しいニコラスの言葉を聞き取ることが出来た。



「……好きで手に入れた力や無いけどな」

「……ウルフウッドさん?」



 その言葉は酷く小さく、思わずネギがニコラスに聞き返した。ニコラスの表情は既に薄い笑みに変わっていた。何でもない、と首を横に振るその様子を見て、ネギはさっきの言葉は気のせいだろうと考えた。

 ……酷く虚ろで、悲しげな響きを持っていたような気がしたのだが。











「あ、見て見て! あれ入り口じゃない?」



 先を行く数名がそう声を上げた。ニコラス達が行く先を見やると、年季の入った木製の門が存在感を主張していた。ニコラスは軽く周囲を見やる。観光客などの人気は無く、周囲にはニコラス達しかいない。



「うお~~ なんか雰囲気あるね~~」



 声からして早乙女だろうか。その声には緊張感より興味や何かおもしろいものを期待するものがある。ネギはニコラスの背から降りようと身を捩るがニコラスはそれを許さない。



「ちょ…ウルフウッドさん! あそこは……」 

「「レッツ・ゴー!!」」

「あーー! ちょっとみんな!」



 ネギが抗議しようとした瞬間に早乙女達は門に向かって突撃を敢行した。明日菜がハリセンをどこからとも無く取り出して叫ぶ。



「そ、そこは敵の本拠地なのよ!? 何が出てくるか……ってなに呑気にしているんですか刹那さんにウルフウッドさん! ネギも!」

「あう~ウルフウッドさんが降ろしてくれないんです~」



 ネギは想像以上にがっちりと背負われており、抜け出すことが出来ないようだった。明日菜は舌打ちをして前を向く。その背に向かってニコラスが呑気とも言える口調で言った。



「何で嬢ちゃんがそない焦っとるんや。そもそも此処は……ってオイ!」



 明日菜はニコラスが言い切る前に明日菜はアーティファクトを取り出し、前方集団を追って門に向かって突撃を始めていた。

 何故にハリセン? と一瞬疑問に思ったニコラスだったが軽く頭を振ってその疑問を追い出す。

 そしてやれやれと溜息を一つ溢し、彼は少し早足で門に向かう。刹那もニコラスに続いていた。背中のネギが焦ったように言う。



「何でそんなに呑気なんですか? 明日菜さんの言うとおりあそこは敵の本拠地で……」

「何や刹那、言っとらんかったのか?」

「そう言えば、この件に関してはあまり詳しくは言っていませんでしたね」

「ですから何でそんなにゆったりと……!?」



 ネギから見るとあまりに危機感のない二人の会話に思わずキレかかったネギだったが、それをニコラスが視線を向けて制した。既に彼らは門の前まで来ていて、目の前は何か障壁が張っているのか、先が霞んでよく見ることが出来ない。ニコラスが門に足を踏み入れつつ口を開いた。



「知らんかったんならしゃあないな……ネギ、この門の先は関西呪術教会総本山であると同時に……」



 ニコラスの言葉の途中で彼らは門をくぐり抜けた。ネギは目の前の光景に目をぱちくりさせている。

 刹那がニコラスの言葉を継いだ。



「此処は木乃香お嬢様のご実家でもあるのです」



 間。



「え~~~~~!?!?」

「やかましい」

「はろ!?」



 ニコラスの耳元で叫んだネギは、後頭部から地面に落ちた。





「何で先に言ってくれなかったのよ~」

「そうです」



 後頭部にたんこぶをこさえたネギと明日菜が刹那に詰め寄るのを横目で見つつ。ニコラスは周囲を見渡していた。

 麻帆良では既に散った桜が此処ではまだ満開に咲いている。中央の通りを挟んで左右対称に造られた建物も、手入れが行き届いているようだった。他にも見るべき所は沢山あったが、何よりも清浄なそよ風に舞う桜吹雪が何とも言えず美しい。麻帆良の桜並木も綺麗だがこちらもそれに勝るとも劣らない。

 その美しい光景に、ニコラスは思わず息を呑んだ。



 こちら側にきて二年。少しは慣れたがまだこういった光景にはっとする。緑というものがほとんど無いあの星で、このような光景は見ることはなかった。此処が地球であることを認識すると同時に、故郷の家族に見せたいと思う。そしてあの後上手くいったのか、心配になるのだ。

 時折夢に出るトンガリが言うには上手くいったらしいが、やはり夢。確証はないし、自分の願望かも知れないのは理解していた。

 故に思う。信じてもいない神様に祈る。……どうか、残してしまった家族達に、戦友達に幸あれ。と。



「ウルフウッドさーん! 行きましょうよー!」

「……ああ、今いくさかい、先行っとり」



 呼んできたネギにそう返し、ニコラスは桜吹雪の中を歩き出した。

 









「なんか凄い歓迎ぶりやな」

 

 最後列、座布団にあぐらで座ったニコラスがそう呟いた。目の前にいる早乙女達は周囲を物珍しそうにきょろきょろ見回している。ネギは緊張でかちかちに固まっていたが、刹那達は談笑する余裕があるようだ。

 部屋の中であるというのに桜の花びらが舞い、左右ではニコラスの知らない楽器が列を成し、穏やかな音楽を奏でている。部屋の広さも体育館の半分ほどはあるだろうか。だが、ニコラスは前と後ろにいるやや鋭い気配を持つ存在が気がかりだった。少し集中して気配を探るが明確な敵意は感じることが出来なかったので警備か何かだと考える。だが視線はニコラスに向かっていることから警戒はされているのだろうと推測した。

 

「お待たせいたしました」



 よく通る声が広間に響いた。周囲の音楽が音量を減らし、正面の階段から一人の男性がゆっくりと下りてくる。



「ようこそ、明日菜さん。このかのクラスメートの皆さん。そして担任のネギ先生、副担任のニコラスさん」



 そう言って笑みを浮かべる男性。眼鏡をかけていてその顔色は少々悪く見える。木乃香が飛び出して抱きつき、その男性はたしなめているが、微笑みを浮かべていることから満更でもないようだった。

 明日菜が何か言ったようだがニコラスは意図的に無視した。少女の親父趣味はどうかと思う。

 それから幾つかの言葉が交わされ、親書が渡されると少女達が沸いた。それを傍目で見つつニコラスは立ち上がり、背を向ける。





「どちらへ行かれるのですか?」



 広間を出た所で背後から声がかけられる。ニコラスが振り返ると長がそこに立っていた。その隣には鋭い気配を持った女性が一人立っている。ニコラスは何の含みもなく答える。



「何処って、旅館に帰るんや」

「それなんですが……ご遠慮いただけますか?」

「……理由を聞こか」



 ニコラスは笑みすら浮かべて言った長に向き直り、聞き返した。



「単純な理屈です。……貴方を完全には信頼しきれない故」

「………………」



 長の言葉にニコラスは沈黙で返す。彼自身やましいところはないが、今日初めて出会った人間を信頼するとは思っていなかったので少し安心もしていた。

 ……甘ちゃんばかりやない。ちゅう事か。

 そう考え、無言のまま先を促す。



「確かに貴方は木乃香を守っていただきました。ですが……身元が完全に判っているネギ君はともかく、二年より以前の記録がない貴方は一味の一人ではないと証明しきれないのも事実。信頼はしたいのですが、貴方を帰すことはあまりに危険すぎる」



 長は表情を歪めた。それは申し訳ないといった表情。ニコラスはその表情を見てこの人物も基本的に良い人だと感じ取った。それを頭の片隅においてニコラスは言った。



「組織を纏める長として正しい判断やな。此処であっさり返すようやったら正直、評価を下方修正しとるところや。二年より昔の足跡がないのも事実やし……信じられんのもしゃあないの」

「申し訳ない。恩人に対する言葉ではないと重々承知していますが……」

「謝ることや無いやろ……あんさんは正しいんやから。解ったで。すまんが、明日の朝まで世話になる」

「かたじけない」



 そう言って長は頭を下げた。ニコラスは長の良い人、と言う評価に生真面目を加える。長は顔を上げると済まなさそうに言った。



「こう言うのはあまり気持ちの良いことではないのですが……彼女を監視に付けさせて貰います。不愉快かも知れませんが……ご容赦の程を。その代わりと言っては何ですが、建物の中はある程度好きに見ていただいて結構です。見られると拙いところは彼女が制止してくれるでしょう」



 長の言葉と共に一人の女性が一歩前に出て一礼した。一人は俗に言う巫女装束――シンプルな――に身を包み、髪が長い。成熟した雰囲気を纏い、ニコラスと同じぐらいの歳に感じられた。

 髪の長い女性はニコラスに正対し、真っ直ぐに視線を向けて口を開いた。



「桜咲 桜花と申します」

「桜咲? ちゅう事は……」

「はい、刹那の姉にあたり、師ということになります。よろしゅうお願いします」



 長髪の女性……桜花はそう言って再び一礼した。ニコラスは手を差し出しつつ言う。



「ウルフウッドや。短い間かも知れんが、よろしゅう頼む」



 桜花はニコラスの手を取り、握手する。ニコラスは女性の柔らかな手のひらと同時に、武芸者としての手を桜花の手に感じた。

 握手を終えたのを見た長が、ニコラスに向けて手を差し出し言った。



「それでは改めまして……関西呪術教会の長を務めております、近衛詠春と申します。ニコラス・D・ウルフウッド殿」

「……麻帆良学園神学部に一応所属しとって、3-A副担任兼退魔師のニコラス・D・ウルフウッドや」



 ニコラスが取った手は戦士の手だった。詠春も似たような感想を抱いたのか苦笑して口を開いた。



「それでは歓迎の宴を用意しております。くつろげ……というのも無理かも知れませんが、どうぞごゆっくりなさってください」

魔法先生と鋼の十字架 (×トライガン・オリ有) / 十三話

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