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十四話 投稿者:駄作製造機 投稿日:04/09-05:37 No.222

 住人の大半が石像と化した屋敷内で彼らを見つけるのは容易いことだった。ニコラスと桜花は殆ど同時に浴室に飛び込む。中の様子を見るなりニコラスはパニッシャーを白髪の少年に向け、無警告で発砲する。だが魔弾は少年を穿つことなく浴室の壁を吹き飛ばした。



「ち、逃げおったか……」



 ニコラスは少年が消えた水溜まりを睨みつつ呟いた。恐らくエヴァが使っていた影を使用したゲート、その水属性版だろう。つまり少年はまんまと本山から逃げ出すことに成功したわけだ。ここに残されたのは何故かはだかの明日菜と壁際でうずくまる刹那、立ちつくすネギのみ。



「大丈夫でしたか?!」



 桜花はそう叫び、ネギ達に駆け寄った。声に応じて起きあがった刹那は歩みがやや不安定だが大丈夫らしい。明日菜はタオルを羽織って心配そうに刹那を見ていた。

 改めて周囲を見渡してみるがこの場に木乃香の姿は無く、おそらくは攫われてしまったのだろう。状況がどんどん悪くなっているのが解る。

 ニコラスはどうする、と考えて即座にその考えを打ち消した。

 

「……奪い返すしかないやろ」



 そう、奪い返す。木乃香を攫った連中を蹴散らし、木乃香を奪還する。それ以外の道は無いのだ。

 彼自身、いい加減相手の行動にも頭にきていた。身内に手を出されたという怒りに、初めての観光を邪魔された私憤。敵の執拗なそれは知らぬうちにニコラスの行動制限を外していた。

 ニコラスの行動に最早躊躇も容赦も慈悲も無い。敵はまだ知らない。最悪の存在を敵に回してしまったということを。

 



・十四話





 ニコラスとネギ、明日菜、刹那は夜の森を疾走していた。カモはネギの肩口に掴まっている。かなりの速度で走っているにもかかわらず、全員が息を乱した様子はない。ネギと明日菜は魔力で身体能力を上げ、刹那は気で同じように強化している。ニコラスだけが強化無しで走っているが彼の息が乱れることはない。

 あれから明日菜の着替えを待って彼らは刹那の先導のもと、敵の追跡に取りかかった。明日菜はシャツにズボンのみというラフな格好だ。

 暗い森の中を走りつつ、ニコラスは先程の桜花の言葉を思い出した。



『医務室にある魔法薬で治癒術師の治療を行ってから後を追います』



 桜花はそういって本山に残った。おそらくは治癒術師を復活させることによって本山の術者を回復、早急に組織として動けるようにするのが目的なのだろう。

 実際に敵に逃げ切られたとき、捜索するにも追跡術が使えなければ追うことは出来ないだろう。彼女はその『万が一』に備えてあそこに残った。増援の確保という意味合いも強い。

 本心では共に木乃香を助けに行きたかっただろうとニコラスは思いつつ、最後に聞いた彼女の言葉を思い出す。



『ウルフウッドさん……せっちゃんを、お嬢様をお願いします』



 そういって深々と頭を下げた桜花。その言葉にはどれほどの思いが込められていたのだろうか。

 ニコラスには推測することしかできないが信頼されているのは判った。信頼には結果で応じよう。ニコラスはパニッシャーのベルトを強く握りしめ、更に加速した。











「おお! やるやないか新入り! どうやって本山の結界を抜いたんや?」



 木乃香誘拐の首謀者である天瀬千草は少年――フェイト・アーウェルンクスの式神にから自身の式神の猿鬼に渡され、抱えられている木乃香を見て言った。木乃香の四肢は拘束されていて、口は筆塞がれている。それを見て千草はニヤリと頬が歪むのを止められなかった。

 ようやく手に入った切り札である少女。再挙の手駒である飛騨の大鬼神スクナを召喚し、それの制御に必要な『木乃香』を見て自身の悲願が実現できると思うと心が躍る。数日前に煮え湯を飲まされた護衛共に内心で嘲りの言葉を叫び、同時に目の前の少年に瞬間的に視線を向けた。



 一月前に急に現れ、協力を申し出てきた西洋魔術師。幼いなりとは裏腹に高い能力を持つち、感情の起伏に乏しい無表情な少年。



 千草の彼に対する考えはこのようなものだった。そして彼女は悲願達成を前にして、その後のことを考える。



 ……このジャリ、役に立ったわ。だが、なかなかの手練れみたいやがこいつも西洋術師。あんさんも対象や。スクナで追っ手を薙ぎ払ったらこのじゃりを始末して関東に殴り込みや。恨むんやったら己の不幸を恨むんやな。

 

 急に少年のほうを見て沈黙した千草に疑問を感じたのか、少年は無表情のまま問いかけてくる。



「……? どうしたの、チグサ?」

「何でもあらへん。しかしこないに簡単だったのやら最初からお前に任せといたら良かったわ」



 数瞬前の考えを全く出さずに千草は彼に答える。既に総本山の人員は殆ど動けないこともフェイトから聞いていた。朝には増援が来るだろうが、それより彼女達がスクナを召喚する方が早い。悲願の成就を確信し、千草は祭壇に向かおうと身を翻した。

 だが、そうそう上手く事は運ばないものだ。



「待て!!」

「ん?」



 後ろからかけられた声に振り向くとそこには数日前のクソ生意気な護衛達が立っていた。少女が二人、少年が一人。そして十メートルほど後方に黒服の男が一人。

 彼らに対して嘲りの笑みを浮かべつつ、千草はゆっくりと振り向く。



「そこまでだ! お嬢様を放せ!」



 得物である太刀と杖、それと何故かハリセンを構えた少女達は幾らか間合いをとって立ち止まり、怒鳴る。それを見ても千草は余裕だった。背後で猿鬼に抱えられた木乃香が何か言おうとするのを感じ、黒服の男が駆け寄ってくるのを視界に納めつつ千草はゆっくりと口を開いた。



「また、あんたらか。ご苦労なこっ「チグサ!」っ……!?」

「「「?!」」」



 千草はフェイトの言葉に反応し、とっさに防御の符を懐から抜き出し眼前に突きつける。彼女の目の前で光と符が連続して弾けた。



「ウルフウッドさん!?」



 その叫びにも似た声は敵の少年のもの。何故そのような声を上げたかというと。



 黒服の男が躊躇泣く攻撃してきたのだ。











「ち」



 短く舌打ちしニコラスは更に前に出る。彼が一歩前に出るごとにパニッシャーは風の魔弾を一ダース吐き出し、敵の眼前で相手の守りを削りつつ弾ける。



 ニコラスはまさか、ネギ達がわざわざ声をかけて引き渡しの要求をするとは思わなかった。てっきり無言のまま襲いかかり敵を排除、ないし無力化させるものだと思っていたのだ。わざわざ対応するチャンスを与える理由など無い。

 ニコラスはもちろん、刹那も敵方にいる少年の強さは群を抜いているのが判っていた。まともに戦えば不利なのだから、不意討ち・強襲を仕掛けて木乃香を奪還するべきだったのだ。だが、刹那は正面から彼らに相対した。……おそらくは持ち前の潔さが裏目に出たのだろう。

 ニコラスはどうするか一瞬迷い、問答無用で仕掛けるという選択に出た。



 白髪の少年の方にも銃口を振り、相手を防御で釘付けにしようとする。そこで呆気にとられているネギ達に彼は怒鳴り声を放った。



「何しとるんや! 仕掛けろ!」



 彼らからの答えは聞かずにニコラスは敵に向かって突進する。千草は魔弾が止んだと見るや即座に後ろに跳躍。ニコラスはそれに向かって左手で懐から抜いたハンドガンを撃ち込む。この間も少年に向かって魔弾は放たれていた。

  敵の五メートルほど前でニコラスは跳躍する。その時に少年に対する魔弾は止んだ。彼の視界の中、少年は何かを呟くような仕草をする。



『ヴィシュ・タル・リ・シュタル・ヴァンケイト……』



 空気を伝って微かに聞こえた言葉を悠長に待つほどニコラスは寛容ではない。

 木乃香を相手に渡すわけにはいかなかった。桜花から僅かに聞いただけだが木乃香はネギをも上回る魔力を持っているらしい。ネギ達が聞いたのは操り人形にすると言う言葉のみだが、ニコラスにはそれだけとは思えなかった。

 ぱっと思いつくのは木乃香の魔力・生命力を用いて大規模儀式魔法の使用。それ以外にも考えれば悪い予測はいくらでも出てくる。最悪、木乃香は洗脳されてニコラス達に牙を向けるかもしれない。

 間接的にしろ、直接的にしろ、彼女をこれ以上巻き込ませたくはなかった。



 視界の端に千草に突撃する刹那を見つつ彼は左手を振るう。











 飛んできた光弾を障壁で受け止める。だが予想以上の威力にフェイトは守りの術式を強化しなくてはいけなかった。それが終わりしだい彼は詠唱に入る。



『ヴィシュ・タル・リ・シュタル・ヴァンケイト、小さき王、八つ足の……?」



 詠唱をしていたフェイトの視界に映ったのは何か高速で放たれた物体。先程の強力な光弾のこともあり、彼は詠唱を一端止めて障壁を展開する。瞬きの内に飛んできた”何か”は障壁にぶつかって金属音を鳴らし、弾き返された。

 フェイトはあっけなく弾き返された何かに拍子抜けしつつ、それを反射的に見やる。

 ……弾倉?

 彼がそれに気をとられたのは一瞬だったろう。だがそれはニコラスにとってよい隙だった。



「もろた…!」



 ニコラスの上空からパニッシャーの打ち下ろし。だが、高速高質量のそれに対応できるだけの反応速度と技術を彼は持っていた。

 左手を掲げてパニッシャーの一撃を受け止める。あり得ない光景に驚愕に染まるニコラスの胴に向かって、彼はパンチを叩き込んだ。



「がっ!?」



 ニコラスは派手に吹き飛んだ。だが当のパンチを放ったフェイトは微かに眉をしかめる。

 ……浅い。

 インパクトの瞬間、まだ空中にいたあの男が身のこなしだけで威力を殺したとでも言うのか。

 彼は僅かな疑問を感じたが、どうでもいいことと捨て置くことにする。今はスクナ復活の方が優先だ。懐から一枚を残して全ての符を取り出し、実体化させる。その数は十五。更に瞬動を行い刹那の前に出て彼女を吹き飛ばした。



「あうっ!」

「みんな、彼らの足止めをお願い」



 刹那は弾き飛ばされる。更に彼女と彼の間に彼の言葉に従い、十五の悪魔が間に割り込んだ。フェイトは敵を見つつ背後にいるであろう千草に声をかける。



「いこう。時間はまだあるけど、早いに越したことはない」











 しくじった。

 ニコラスの内心はそれのみだった。確かに少年は強いと感じていたが、あそこまでデタラメとは思わなかった。インパクトの瞬間に身を捻り、攻撃を逃したが身体に走った衝撃は予想以上。

 それでも何とか体制を整え、水を切りながらニコラスは大地に着陸した。身を起こそうとして、



「が、は、がはっ!」



 喰らった衝撃で口から胃液がこぼれる。だがそれ如きでニコラスはうずくまったりはしなかった。すぐに身を起こして敵を見据える。そこで再び驚きの表情を浮かべた。

 地面と水平に刹那がニコラスめがけて吹っ飛んでくる。



「……っちぃ!」



 とっさにパニッシャーを足下に投げ出し受け止める。追撃がないことを確認してニコラスは刹那の顔を覗き込んだ。



「大丈夫か?」

「は、はい」



 問いかけると刹那は頷きを返して再び敵に相対した。ネギ達の前には十五の式神が障害となり、その奥に少年と千草、木乃香がいた。

 ……奇襲が失敗した、どうする……

 ニコラスは考える。再び仕掛けるか否かを悩んでいる間に千草の方から口を開いた。



「助かったで、新入り……あんた等、なりふり構ってこんところを見るとお嬢様の力を理解しとるようやな。ならちょうどええわ。あんた等にお嬢様の力の一端を見せたるわ」



 うっすらと笑みを浮かべた千草は木乃香の隣に立ってそう言った。ニコラスが拙いと感じた瞬間に相手の術は起動していた。

 千草が木乃香の胸にいつの間にか貼った符が淡い燐光を放ち、ニコラス達の周囲の水面に光の円がいくつも浮かび上がる。千草が呪詞を唱えるたびに木乃香が苦しそうに身悶えする。



「お嬢様!」

「このか……っ!」



 刹那と明日菜が木乃香を案じて叫ぶ。だがその声も目の前の光景に途切れた。



『オン』



 千草の唱えたその言葉と共に、ニコラス達の周囲にあった光の円から大量の異形達が現れる。一つ目だったり、カラスのような顔をしていたりする異形……妖怪達はニコラス達を完全に包囲していた。ニコラスはそれらを見て身構える。数はおよそ二百。大層な数だった。



「ちょっとちょっと、こんなんありなの~~!!?」

「百、いや二百ぐらいはいるよ……」



 明日菜が現れた異形達に悲鳴を上げ、ネギはその物量に圧倒される。周囲に対して身構える彼らに千草の声が響く。



「どうや! お嬢様の力で呼び出した妖怪二百十五体! これがお嬢様の力、そのひとかけら……さんざん手間取らせてくれた礼や、私らの勝利が確定するその時までこの鬼共と遊んでるとええわ。ま、死にたなかったら気張るんやな」

「ま、待て!」



 行くで新入り、と千草は傍らの少年に声を掛け、ニコラス達の眼前で彼らは夜の空に消えていった。彼らの前に立ちはだかるは木乃香の力で呼ばれた鬼が二百十五、少年が置いていった悪魔十五。その包囲は三重に及び、あり一匹逃さない布陣だった。

 ニコラスは非現実な光景に軽くパニックになっている明日菜を見て、作戦が必要と考えてネギに短く指示を出した。



「ちっ……ネギ、障壁を張り。方針を決めるで」

「旦那の言うとおりだ。兄貴!」



 ネギは頷き、小声で詠唱を開始する。数時間にも感じる数秒を経て呪が完成し、ネギの言葉が世界に命令する。



『逆巻け、春の嵐。我らに風の加護を。『風花旋風・風障壁』!』











 ニコラスは目の前で荒れ狂う風を見つつ口を開いた。



「二手に分かれるで。ネギと明日菜は空を飛んで先行、木乃香を一撃離脱で奪還せい。ワイと刹那で此奴等の相手する」

「ええっ?!」

「ウルフウッドさん!?」



 ニコラスの言葉にネギと明日菜は驚く。刹那もその案しかないと感づいていたらしくネギ達に言う。



「任せてください。ああいった者を退治・調伏するのが私の本来の仕事ですし、ウルフウッドさんもこういったことは得意としていますから」

「成る程な。確かにそれが最善か……?」



 カモが頷きかけたその時、ネギがおずおずと言葉を放った。



「あ、あの……明日菜さんを乗せていくのは無理なんです」

「なんやと? どういう事や」



 ニコラスは思わず聞き返した。いきなり作戦の柱が折れかかったのだから無理もない。ニコラスの問いにネギは答える。



「以前から試してみているんですが、明日菜さんを乗せると飛行の魔法が上手くいかないんです。理由はわからないんですが……」

「ちっ……」



 ニコラスは舌打ちをする。それは予想外の言葉だった。それならば必然的に……



「……なら、私も刹那さん達と一緒に残る!」



 それしか、無い。

 

「……しか、無いやろな。あのアマが言うたった言葉を考えると、そんなにチンタラやっとれん」

「旦那、気休めかも知れねえが……姉さんのハリセンは召喚された化け物を一発で送り返す効果がある。守りも兄貴の魔力が続けば大丈夫だ」



 間違いなく激戦となるここに、素人を残すのはあまり気が進まなかったが……それしかなければ仕方がない。カモの言葉も多少ではあるが不安材料を払拭していた。

 もう一つ、明日菜の精神的な負担のほうがニコラスは気になったが、現状はそれに気をかける余裕を与えてはくれない。



「ほうか、少しは気が楽になったわ。……ならネギは飛んで木乃香を奪取、ワイらがここで連中の相手をする。代案はあるか?」



 ニコラスはそうネギ達に問いかけた。皆、首を横に振りってカモが言う。



「穴だらけで分の悪い賭だがな……これしかないと思うぜ」

「決まりや」



 ニコラスはそう言ってパニッシャーを握る手に力を込める。だが込めた力はカモの言葉にあっけなく抜けた。



「よっしゃ!ならあれもやっとこうぜ!」

「あれって?」

「キッスだよキス! パクティオー!!」

「「えええっ!?」」



 ニコラスは振り向きざまに空中で不思議な踊りを踊っているカモを左手で捕獲する。右手にはいつの間にか抜いたハンドガンがカモに銃口を向けていた。

 既にニコラスの人物評価の中でカモは『それなりに信用できるオコジョ妖精』から『色情狂ののナマモノ』にランクダウンしていた。

 カモに対して壮絶な殺気を叩き付けつつ、ニコラスは怖ろしい笑みで言った。

 

「何をふざけとるんや? 現状を理解しとるんか? その脳みそは常春なんか? ええ? ナマモノ?」

「ききききききき緊急事態だから手札は多い方が良いだろう?! 肉体強化はともかくアーティファクトで、無茶苦茶強い武器がでるかも知れねえだろ?!」

「…………今回は見逃す。刹那も”こっち側”の人間やからな。ええな、今回は特別だと言うことを忘れるんやないで?」

「Sir,Yes sir!」



 カモの言い分も間違ってはいなかったのでニコラスはカモを解放する。最後に一言付け加えるのを忘れなかったが。地面に落としたパニッシャーを拾い上げて装填されていた魔弾を破棄、新たに光の魔弾を装填する。



『灰は灰に、塵は塵に。光の精霊五千柱、我が銃に宿れ』



 彼の視界の端では刹那とネギが向かい合い、カモは足下に陣を描く。



「い、いきますっ」

「は、はいっ」



 二人は声を掛け合い、一拍おいて口づけを交わした。強い光が周囲に満ちてすぐに収まる。ややあってからネギが話しかけた。



「……せ、刹那さん」

「……ネギ先生。明日菜さんは私とウルフウッドさんで守ります。心配なさらないでください」



 そこで一端言葉を切り、刹那はネギの瞳を見つめて言葉を紡いだ。



「先生……このかお嬢様を……頼みます!」

「……はい!」



 その言葉にはどれほどの思いが込められていたのだろうか。まあ、とりあえずは目の前の敵を排除することが大事と、ニコラスは見つめ合ったままの二人に話しかける。



「ほれ、二人とも。仲良うやるんのは構わへんがやることやってからな」

「な、仲良く……わ、私にはお嬢様という方が……」



 と、ニコラスの言葉であちら側にトリップした刹那を無視し、ニコラスはネギに話しかけた。その表情は酷く真剣なもの。



「ネギ、近衛の奪還を最優先しい。途中の障害は即座に切って捨てるか、上手く出し抜け。どない汚い手段使うてでもな」

「え……?」



 あまりに唐突な言葉にネギはぽかんとした表情を浮かべる。ニコラスは真剣に続けた。



「敵前逃亡になろうが卑怯者と罵られようが、嬢ちゃんを奪い返すまでは手段を選ぶな、ちゅう事や。……ワイらが失敗すれば、あのアマに近衛の嬢ちゃんはやりたくもないことをやらされることになるんや。……ええか、意地も誇りも何もかも、嬢ちゃんを奪還するまでは捨ててしまえ。守るいうこと、助けるいうことは……きっとそんなことや」

「……はい!!」



 ネギは力強く頷いた。ニコラスはその頷きを持ってようやく笑みを見せる。くしゃ……とネギの頭を撫でて言った。



「がんばりや……ほれ、刹那! しゃきっとせんかい!」



 ニコラスは声をかけて刹那をこっち側に戻し、パニッシャーを展開した。解けかかった障壁の先にいるであろう敵の姿を睨みつけ、宣言する。



「さあ、反撃開始や。綺麗に終わらせて、明日の観光を楽しもうやないか」



 







 風が止む。



「そろそろか……ふふん、待たせおってからに……」



 首領格の鬼は誰にいうとも無しに呟く。凄まじき風速とそれに伴う轟音で仲の様子を窺うことは出来なかったが、ただの時間稼ぎだと彼は感じていた。

 風の渦が途切れがちになり、彼は己の得物を構える。だが彼は次の瞬間、周囲に向かって怒鳴っていた。



「! 散れ!」



 その言葉に反応できたのは格が違う数名のみ。



「『雷の暴風』!」



 轟、と閃光が彼のすぐ側を一直線に薙ぎ払った。彼自身も横に飛んでいなければただでは済まなかっただろう。同時に視界に少年が杖に跨り飛翔してゆくのが見えた。

 彼は横に流れた身を起こし、口を開く。



「……二十体は食われたか」



 そして追っ手を差し向ける果敢が得始めた瞬間、水音に気が付いてそちらに目をやる。

 少女が二人。男が一人。そのうち少女達の声が聞こえる。



「落ち着いて、無理をせず、身を守ることを優先してください。敵の掃討は私とウルフウッドさんで行いますから」

「うん、わかった……」



 彼は少女達に視線を向けた。さきほど答えた少女の声には不安の色がある。それを払拭するように背を向けている男が言った。



「そない不安になるなや、ちゃんと援護したるさかいな」

「でも、流石に……」

「せいぜい街でチンピラ二百人に絡まれたようなもんや。大したことやない」

「それは安心していーんだか、悪いんだか……」



 荒い言い方だったがその言葉に少女の不安は薄れたようだ。視線に力がこもる。不安を払った男は彼女達に背を向けたまま十字架を持ち、少女達は手に太刀とハリセンを構えている。彼も知らず、その表情に笑みが浮かんだ。



「こいつはこいつは……勇ましい嬢ちゃん、あんちゃん達やな」



 彼はそう言って片手をゆっくりと上げた。それに伴い配下の者たちもじりじりと間合いを計り始める。応じるように少女達も身構えた。

 ……始めは様子見で良いか。

 内心で彼らの評価をそう見る。彼はゆっくりと息を吸い込み。



          「かかれぃ!!」          「それじゃあ、鬼退治と洒落こもか!!」



 彼の号令と男の声は重なった。彼は手を振り下ろし、同時に少女達も突撃を開始する。

 ――ここに戦端が開かれた。

魔法先生と鋼の十字架 (×トライガン・オリ有) / 十五話

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