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十八話 投稿者:駄作製造機 投稿日:12/24-18:34 No.1778
・十八話
「お嬢様、お嬢様! ご無事ですか?!」
刹那は横抱きに抱えた木乃香に呼びかける。口元に張られていた呪符を一言で解除し、更に彼女は木乃香を呼び続けた。
やがて木乃香の瞳かゆっくりと開かれる。その瞳はまだ焦点があっておらず、まだ意識がもうろうとしているのを窺わせた。
その瞳に刹那の顔が映り込むと木乃香はゆっくりと口を開いた。
「ああ……せっちゃん……へへ…やっぱり、また助けに来てくれたー」
その言葉には刹那に対する深い信頼が込められていた。助け出すことが出来たことを実感しつつ、刹那は木乃香の身体に異常がないかと問いかける。
「あ……」
そう言って顔を真っ赤に染める木乃香。彼女の身体は儀式の心地良さに弛緩しているだけで、苦痛などは一切なかった。それが急に恥ずかしくなって木乃香は緩やかに顔を覆った。
その様子を見て刹那は木乃香の身体に異常がないと理解し、深く安堵の吐息をついた。
そこで木乃香が刹那の背にある白い翼を目に止めた。思わず口に出して問いかける木乃香。
「せ、せっちゃん…その背中のは……」
「えっ…あ…こ、これはっ……」
どう説明したものかとしどろもどろになる刹那。その顔を見て木乃香は昔仲良く遊んでいた頃の刹那を思い出し、彼女は彼女のまま変わっていないと思った。きっとまた昔のように、いや、昔以上に仲のよい友達になれるだろう、とも。自然と木乃香の顔に笑みが浮かぶ。
木乃香の笑みを認めた刹那は一瞬呆気にとられ、木乃香は心の内に生じた言葉をゆっくりと口にした。
「きれーなハネ……なんか天使みたいやなー」
その言葉に刹那は泣き笑いのような表情を浮かべて小さくこう答えた。
「ありがとう……このちゃん……」と。
●
「や、やったの……?」
明日菜が掠れた声で呟く。彼女の視線の先にはネギの全力魔力パンチを受け、殴られた状態から動かないフェイトの姿がある。
左半身を失ったスクナの雄叫びが周囲に響く。ニコラスの放った砲撃はその強烈な威力とは裏腹に、周囲に影響はほとんど無いのが不思議ではある。
やがてフェイトは姿勢を変えることなくゆっくりと言いはなった。
「身体に……直接、拳を入れられたのは……初めてだよ。ネギ・スプリングフィールド」
そこで射殺すような視線をネギに向けるフェイト。そして放たれる反撃の一撃。
ネギは先程の一撃で最早まともに動けないほど疲弊していた。
明日菜がネギを呼び、駆け寄ろうとするがフェイトのパンチの方が速い。
だが。
「!?」
放たれた一撃は影より伸びた細腕に掴み取られて停止していた。
驚きに硬直するフェイト。彼は何者かが影を使ったゲートで攻撃に割り込んだのだと理解した。
影より現れた人影は幼い少女。少女は皮肉気な笑みを浮かべて言う。
「ウチのぼーやが世話になったようだな。……若造」
フェイトがその言葉を理解する間もなく、彼は凄まじい衝撃を受け水面と水平に吹き飛んでいた。
少女が知覚外の速度で放なった破滅的な威力を持つ魔力パンチ。それは無意識のうちに彼が張っていた障壁を紙のように貫通し着弾する。
少女はその一撃の手応えが期待以下だったのかフンと鼻で笑い飛ばす。
その少女の名をネギと明日菜は呼んだ。
「エ、エヴァンジェリンさん!」
「くくく……待たせたな、ぼーや。これで貸し借りは無しだぞ?」
少女……エヴァンジェリンは笑みを浮かべてネギ達に振り返った。
圧倒的な魔力を纏い、ここの最強無敵の悪の魔法使いが現れる。
●
ニコラスはパニッシャーを近くに放り出して仰向けに寝ころんだ。先程の一撃で疲労した身体を夜風が撫でてゆく。
彼はそれを心地よく感じつつも先程の一撃を思い返した。
彼が放ったのは光の集束魔弾五万柱。以前空に向かってぶっ放したとき、シャークティに「必要なとき以外撃たないで下さい、絶対」と要請の形を取った脅迫を受けてそれっきり使用はしていなかったのだが……まともにぶち当てたらこれほどの威力がでるとは思わなかった。
スクナの障壁を貫通した魔弾は一秒もおかずにスクナの肩口に着弾。その際に光を拡散させることなく巨躯を貫徹し、宙に吹き飛んだ肩から先は魔弾の光に吸い込まれるように消滅した。
ニコラスは思う。やろうと思えば攻撃用人工衛星すら撃墜できる射程と威力が先程の一撃にはあるのではないか、と。
その様を見てニコラスはかつての親友を思い出す。そして五番目の月を穿ったとき隠棲を選んだ彼の気持ちがわかった気がした。
あまりに強すぎる力は人に恐怖しか抱かせない。
人間という存在は苦境にある同胞に手を差し伸べることが出来るが、同時に僅かでも違いがあれば徹底的に拒絶するのもまた人の一面。
ニコラスは親友に対する周囲の反応を知っている。
周囲から疎まれ、差し伸べた手は払われ、周囲から放たれるのは負の感情と腫れ物を触るような雰囲気。
……お前もこんな気持ちやったのか……
個人が持つには強すぎるであろう力を知らずに手にしていたニコラスは思う。
だが彼は知っている。
その様に突き放す人もいれば、些細なことだと笑って受け入れてくれる人がいることを。
あいつの回りにはいつも笑顔が見えた。
あいつを心配する人間もいた。
そして、……自分の家族は最後まで家族で居てくれた。
それだけで不思議と力を振るうことに戸惑いはなくなるのだ。
きっとあいつもそうだったのだろう。
いつの間にやら瞼を閉じていたらしく視界は闇に染まっていた。気怠い中、ゆっくりと肩口を揺さぶられニコラスは目を開く。
視界には夕映と楓、何故か小太郎が居た。綾瀬と楓は気遣うような表情で小太郎はなんとなく気にでもなったのか。特に感情は読み取れない。
とりあえずどうしたのかと聞いてみた。
「どうしたではありません! いきなり倒れるんですから驚きました!」
「大丈夫でござるか? ウルフウッド殿」
「……まあ。大丈夫ではあるがな」
そう言って彼は身を起こす。疲労はまだ残ってはいるが大したものではない。
こうしてのんびりしている時間はないのだ。スクナには深手を負わせたがその身は未だ健在。加えてあの厄介なガキも恐らく健在だろう。
立ち上がりパニッシャーを肩に担ぐ。そしてスクナの方向を見やり足を踏み出した。
傷を多く負っていながらもその足取りは力強く、何よりも彼の目は未だ戦意を失ってはいなかった。
「よし、征くか」
呟き、そしてもう一歩彼が踏み出したとき、突如として声が周囲に響いた。
『そうか、なら喚ぶぞ』
「は?」
ニコラスは此処にいるはずのない少女の声に一瞬意識を飛ばし、彼以外の人間は周囲を見回す。だが誰もいない。
一拍の間を置いてニコラスの姿が消えた。
●
浮遊感。そして落下の感覚。
ニコラスは急に起きたその出来事に一瞬自失する。そしてそれが致命的だった。
ニコラスは桟橋に腰から落ちた。衝撃に息を詰まらせつつも後腰を押さえてのたうち回る。
その彼に呆れたような声がかけられた。
「……何変な動きをしているんだ、ニコラス」
「……お、おどれの所為やろが……」
恨みがましい視線を声の主に向ける。ニコラスの予想道理、視線の先にいたのはエヴァだった。
彼にもさっきのが召喚というモノだろうと考えていた。だがせめてもう少し説明がほしかった……彼は思う。
そんな風に思っているとエヴァはニコラスに聞いてきた。視線で半身が吹っ飛んだスクナを示し、
「ニコラス、あれはお前がやったのか?」
「まあ、そうやな。使用禁止令がでた五万の集束や。ワイ自身、なんかにぶち当てたのは初めてやさかい、こないな威力があるとは思わへんかったわ」
「……町中では使うなよ。魔弾の射線上の物が根こそぎ消滅しかねんからな」
ニコラスの言葉にエヴァはそう言った。言われずとも彼自身使う気はない。そもそも使ったらパニッシャーが壊れる以上、一発きりの大博打に変わりはないのだ。
ニコラスはエヴァの言葉に頷きつつ言う。
「それはええがどないするんや? そこのネギはガス欠、明日菜の嬢ちゃんは論外、刹那は何故か居らへんし。おどれがやるんか?」
「ああ」
「止めとき。サギタ・マギカを数発撃ってヒイヒイ言っとる魔力じゃあどうしようもないやろ」
「…………」
ニコラスの言葉に青筋を浮かべるエヴァ。ニコラスは今までの経験の上で言っているのだけなのだが、エヴァにはひどい嫌味に聞こえる。
その時上空にいた茶々丸から連絡が入った。
『マスター、結界弾セットアップ』
『やれ』
『了解』
間髪入れず命令を下すエヴァ。茶々丸はその命令を即座に実行に移した。身長を軽く超える長銃をスクナに向け引き金を引く。
放たれた結界弾は暴れ狂うスクナを強烈な重圧で拘束する。なおも暴れるスクナ。茶々丸はその様子を見て、結界がどれだけ持つか試算する。
『この質量、エネルギーでは十・三二秒しか持ちません。お急ぎを』
「ああ」
エヴァは答え、コウモリのマントを身に纏いながら言う。
「ぼーや、まだまだだな。このような大規模戦闘において魔法使いの役割は、究極的に言ってただの砲台。つまりは火力が全てだ。それとニコラス。今の私に結界は作用していない。麻帆良の私と同じと思うな」
「は?」
「今の私はかつて『闇の福音』と呼ばれた頃の強さと同じだ」
その意味を理解したニコラスは自らの失言を顧みて表情を青くする。彼女本来の強さは精神世界で一度闘ったときに思い知っている。
なんだかひどい目に遭いそうな予感がひしひしと。
ニコラスが何かを言う前にエヴァは空に舞い上がっていた。
「今から私が最強の魔法使いの最高の力を見せてやる!」
そう言いつつ高みに上がってゆくエヴァだったが突然静止し、振り返ってネギ達を指さして言う。
「いいか!? よーーく見とけよ!? 後ニコラス、後で個別授業をしてやるから覚悟しておけ」
ニコラスは私刑宣言に真っ白に燃え尽き、ネギは反射的に頷き、明日菜はこの前負けたのが相当悔しかったのかなぁと裸の上半身を抱きつつ思った。
●
エヴァはスクナを斜め下に見下ろす位置まで舞い上がると高らかに声を張り上げた。
『リク・ラク・ラ・ラック・ライラック! 契約に従い、我に従え、氷の女王!』
彼女の身体を満たす魔力が詠唱によって世界に働きかける。否、圧倒的な魔力を持って成される詠唱は世界を従属させる。
『来れ、とこしみのやみ、えいえんのひょうが!』
スクナの周囲が急速に熱エネルギーを失い、巨大な氷柱がスクナの足元から生まれる。
ほぼ絶対零度、百五十フィート四方の広範囲、完全凍結殲滅呪文。いくら鬼神といえどもこれを防ぐことは不可能だ。
詠唱を行いつつ彼女は思う。
久々の全力だが相手が手負いというのは残念だった。どうせならば完全な状態の奴を粉砕した方が気分的にもよかったのだが。
まあ、ニコラスの奥の手を見ることが出来たのでよしとする。遠見の魔法による視覚情報のみだったが、あの一撃は貫通力と破壊力においては彼女自身も一目置ける威力があった。射程は何処まで届くのか解らないが五万という精霊を集束させたあの一撃は進路上のあらゆるモノを消し去るだろう。
エヴァもあの一撃を正面から防げるか解らないのだ。
まあ、どれぐらいのモノか後でたっぷり問いつめることにする。
今は十数年ぶりのこの感覚に酔いしれよう。
「私の名はエヴァンジェリン! 闇の福音! 最強無敵の悪の魔法使いだ! 私に倒されることを呪い、恨み、そして光栄に思いつつ朽ちるがいい。鬼神よ」
既に消滅へのカウントダウンが始まっているスクナに対して、手向けるようにエヴァは言い放つ。
『全ての命ある者に等しき死を。其は、安らぎ也。……『おわるせかい』』
そして詠唱が完成した。エヴァは宙でターンするとスクナに対して流し目を送り、
「ふっ……砕けろ」
言葉とともに指を弾いた。ネギはその瞬間に息を呑む。
直後。澄んだ音を響かせてスクナは粉微塵に砕け散った。
●
ネギはエヴァから説教を喰らっていた。エヴァ曰く、『今回は特別だ』、『次はないと思え』とのこと。ニコラスはなんと言うこともなくただエヴァから少し離れたところでタバコを吹かしていた。
単に口を出したらその矛先自分に向きかねないので黙っていただけなのだが。つまりネギはスケープゴート。
ニコラスの思惑は兎も角、エヴァの言うことは確かにその通りなのでネギはふらつきながらも頷いた。
「ん、流石にキツそうだな、ぼーや……大丈夫か?」
「ま、石化治療した後、一晩ぐっすり寝れば大丈夫やろ。単なるガス欠みたいやし」
あっさりとした言葉でニコラスが言う。それもそうだなとエヴァンジェリンが返した。
そこでネギはエヴァの背後に水溜まりから浮かび上がってくるモノを見つけた。ネギは咄嗟にかけ出す。
「エヴァンジェリンさん! うしろ…!」
ネギはエヴァを胸に抱き込み、浮かび上がって来るものに向けて庇う。
いきなりの事でエヴァは驚いてされるままになる。
「な、何?! ちょ、ぼーや……!?」
だが庇われたネギの肩越しに、先程盛大に吹っ飛ばした少年の姿を見つけてエヴァの表情が変わる。
少年――フェイトは既に詠唱を終え、彼が手をかざす桟橋が亀裂を生じる。
「馬鹿、ど…えっ?」
とっさにネギを払いのけようとしたエヴァだったが、いきなり横から押されてネギもろとも桟橋に転がる。慌ててフェイトの方を見たエヴァの視界で、
鮮血が舞った。
●
一瞬心臓が確かに止まったように思う。
ニコラスと別れてスクナに向けて走り、その途中でニコラスの放ったらしい魔弾がスクナの半身を吹っ飛ばすのを見た。
その後魔法使いでなくとも解るほどの圧倒的な魔力、威圧感を感じて僅かな間を置いてスクナが完全に消滅した。
様子を確かめるために桟橋に差し掛かったとき、修学旅行に来ていないはずのエヴァと茶々丸がネギ先生に説教しているのが見えた。少し離れた所にニコラスもいた。
全てが終わったらしいそれを見て、桜花さんも古も安堵の息を吐いて走るのを止め、私も苦笑したとき。
「エヴァンジェリンさん! ……!」
ネギ先生の声に弾かれるようにそちらを見ると、ネギ先生がエヴァに飛びついたところだった。
だけど私の魔眼は彼らの奥にいる知らない少年を確かに捉えていた。
「くっ!」
確認も取らずに気を抜いた自分に舌打ちをし、全力で掛け出す。隣にいた桜花さんも駆け出すのを気配で感じつつ拳銃を抜く。
その間僅かに一秒弱。だが私には一分にも二分にも感じた。当然視界は彼らを捉え続けていて。
その瞬間を見てしまった。
手にした十字架を放り出し、音もなくエヴァに近づいてネギ先生ごとエヴァを突き飛ばしたニコラス。その表情はいつになく必死なものだった。
エヴァとネギ先生は桟橋に投げ出されてその場を離れるが、突き飛ばしたニコラスはその場に留まることになる。
その彼の背と右の足に鋭い石の槍が突き刺さり、血が舞うところを、私の魔眼は捉え続けていた。
「ニコラスッ!!」
知らず、私は彼の名を呼んでいた。
●
殺気に振り返ってみるとあのクソガキがエヴァに向かって魔法を使おうとしていた。それを殺気よりも速く視認したネギがエヴァを庇う。
そして唐突に、
――彼らが孤児院にいた家族とダブって見えた。
無論ただの幻影だ。だが身体は勝手に動いていた。限界を超えた動きに筋繊維が切れる音を聞きつつ疾走。二人纏めて突き飛ばす。
エヴァが呆然としているのを視界に納めた瞬間に、腹と右足に衝撃が来た。
そして左腕とは桁違いの痛みが脳に到達した。同時に舌に鉄の味が広がる。呼吸を吐き出したとき、喉から血の塊を吐いた。
「がッ……!」
「「ニコラスッ!!」」 『ウルフウッドさん!!』
呼ばれた声が酷く遠い。血が失われてゆき喪失感が広がってゆく。
だが、今必要なのはそんな感覚ではない。
「また、か。全く、君という存在は……」
目の前のガキが何かを言っているがどうでもいい。
することは決まっている。
ガキがなおも何か言おうとしたとき、左手を伸ばしてその髪を鷲掴みにする。右手は懐から実弾の入ったハンドガンを引き抜き、そのガキの胸部に銃口をあてがった。
いきなりの事でキョトンとしているガキに向かって一言を言う。
「死ね」
●
フェイトの髪を乱暴に掴み、ハンドガンを相手の胸元にあてがい引き金を連続で引く。
連続する炸裂音とともにフェイトの身体が小刻みに痙攣する。三秒とたたずに弾倉が空になった。
だか。
「ち……」
ニコラスは舌打ちをする。彼の掴んでいた髪、それどころか身体全体が水となって溶けた。幻影。
気配を感じてニコラスは腹を貫かれつつも上を見る。そこにフェイトがいた。
「まさかいきなりあんな事をするなんて思わなかったよ。君はやはり危険だ。此処で……「ああああああああ!!」 !?」
「龍宮(さん)?!」
フェイトの言葉を遮り、怒りや悲しみがおり混ざった声が響く。
声のした方をを見たフェイトに向かって銃弾が襲いかかる。狙いは正確、弾数は三十二。真名が両のハンドガンからはなった銃弾である。それが一直線にフェイトに向かう。
フェイトはそれを障壁展開して防御、弾丸が着弾した瞬間に彼の上から声が響いた。
「キサマァァァ!!」
上を見るどころか反応すら出来ず、フェイトはエヴァの魔力の爪でその身体をズタズタに引き裂かれて空中に散った。
だがその様を見てもエヴァの表情は苛つきに染まっている。
「ちっ……! 逃げられたかっ……!」
言葉が放たれた瞬間、空中にぶちまけられたフェイトだったモノは水となり湖に降り注いだ。
エヴァはニコラスに駆け寄ろうとするが、既に真名がニコラスに駆け寄っていた。
彼女はニコラスに涙を浮かべつつ何かを言っていた。エヴァが近づくにつれてその内容がはっきり解るようになってくる。
「死ぬなニコラス……たのむ、逝かないでくれ……もう契約した人を失うのは嫌なんだよ……だから……!」
その言葉は支離滅裂。普段冷静な真名が錯乱しかかっている。何かのトラウマに引っかかったらしい。エヴァは舌打ちし、まず真名に声をかける。
「落ち着け、龍宮。まだ死んでないし手当てすれば助かる」
「あ……」
「いいな、だから落ち着け。慌てたら助かるものも助からなくなる」
「……す、まない。取り乱したようだ、ね……」
エヴァの言葉で真名の瞳に理性の光が戻ってくる。それを見てから彼女はニコラスに声をかけた。
「ニコラス……」
「す…まんが、これ、抜いとくれんか……アーティ、ファクトが、このままや、と使えへん」
「……解った」
ニコラスは掠れた声で言う。エヴァは治癒系の魔法が苦手だ。基本的に彼女自身再生すれば死ぬことはないし、人形遣いである為に使い魔の治癒も必要なかった。
そのため、今彼女に出来ることはない。ニコラスのアーティファクトに賭けるしかないのだ。
エヴァは慎重にニコラスを『石の槍』から抜いて桟橋に上体を起こした状態で横たえる。真名がニコラスの上体を支えた。
彼の傷痕は肉体を完全に貫通し、向こうが見えるほどで今なお血が流れている。赤い液体は桟橋を徐々に浸食してゆく。
明らかな致命傷。一撃で絶命しなかったのは奇跡で、意識を飛ばさなかったのは今までの彼の経験故だ。
ニコラスは震える腕を懐に入れてある小瓶を取り出した。彼のアーティファクトである薬。
彼自身こんな傷に効くのか不安だったが他に手もない。銃弾の回復程度は確実だが、流石に腹を拳大にぶち抜かれたのは初めてである。
それのキャップを何とか外したは良いが、そこで限界なのか腕の動きが鈍くなる。
ニコラスは薄れつつある意識でこれは本気で拙いなと思いつつ、なおも腕を口元に動かそうとするが腕は震えるだけで動かなかった。
身体の感覚が急速に消えてゆく。血が足りないのか死が近いのか。感覚は既に無く、ただ寒さだけを感じる。
それは二度目の感覚。
内心死を覚悟したとき手にしていた薬が奪われた。彼の薄暗い視界の中にこちらを覗き込んでいる真名がボンヤリと見える。
真名はニコラスの口に容器をあてがうが、既に意識が薄れかかっているニコラスに飲みこむことは出来なかった。
それを見た真名の行動は素早かった。
「「あぁ~~!!」」「「わ…」」「あら…」「む…」
周囲の驚きの声が遠くに聞こえる。
彼女はニコラスの手から取った薬を口に軽く含み、ニコラスに口移しで薬を与えたのだ。
既に感覚が無かったが、なぜかニコラスには真名の唇はとても温かく、柔らかかった。
ニコラスの口内に入った薬だが飲み込まなくては意味がなく、ニコラスは既に飲み込むことが出来ないほど衰弱していた。
真名はためらいなく舌を割り入れ、ニコラスの舌に己の舌を絡ませる。舌が動いたことで薬品はニコラスの喉の奥に流れた。
嚥下された薬品は高い浸透圧を持って身体に取り込まれる。血に乗った成分は止まりそうな心臓に力を与え、体中の代謝を活性化。造血を開始。
更に含まれた治癒魔法が貫かれた腹部を修復してゆく。
一分と立たずに致命傷だった傷は表面上癒えた。体内も時間の問題だろう。そこまで認識してニコラスの意識は完全に落ちた。
●
エヴァはその様子をしっかりと見ていた。
真名がニコラスにディープなキスをして薬を飲ませると効果は劇的だった。
見る見るうちにキズが塞がってゆく。その様はまるで時間が逆に流れているかのようだった。
後気がかりなのは失血だが、こればかりはこの場ではどうしようもない。先程の薬に造血効果があることを祈るばかりである。
大丈夫だろう、と彼女は自分に言い聞かせる。以前ニコラスは強力な回復役だと言ったのだから。
表面上の傷は癒え、ニコラスの身体から力が抜けた。それを見て思わず駆け寄りそうになったエヴァだったが真名の落ち着いた様子を見て大丈夫らしいと判断した。
月明かりと祭壇の明かりで見るニコラスの顔は青白いものの、その呼吸はしっかりとしている。
やれやれ、とエヴァは息を吐いた。
「あ、あの、ウルフウッドさんは大丈夫なんですか?」
ネギが未だニコラスを支えている真名に聞いた。その表情は少々赤い。
無理もない。いきなり目の前で濃厚なキスシーンを見たのだから。かくいうエヴァも少し頬が熱いし、明日菜など真っ赤な顔に口を半開きにしている。
真名がニコラスの鼻先に手を当てつつ答えた。
「大丈夫だろう……たぶん、ね。呼吸は少し荒いけどしっかりしてる。ただ、血がたくさん流れてしまったからそれだけが心配だが……」
「そうですか……よかっ…た……っ」
言葉が不自然に途切れ、続けてネギが倒れた。
「ど、ど、どうした!ぼーや!?」
「ネギ先生!?」
「ネギ、ちょ、ちょ、ちょっとっ!」
「これは……」
「……右半身が完全に石化してやがる……!」
エヴァ達はネギに駆け寄り、桜花とカモはネギの状態を看ていた。彼らの言葉通りネギの右半身は石となっており、徐々にその範囲を広げつつあった。
ネギの呼吸は荒い。
そこにバスタオルを羽織った木乃香と刹那が駆けつけてきた。続くように楓と夕映、小太郎も。
茶々丸がネギを浅く抱きつつ現状を語った。
「……危険な状態です。ネギ先生の魔法抵抗力が高すぎるために石化の進行速度が非常に遅いのです。このままでは首に石化が到達した次点で窒息してしまいます」
窒息。つまり死。
小太郎はその言葉を聞いてネギに声をかけるが、荒い息を吐くネギは目を開けない。楓もこのような状態異常は解らないし、真名も同様だ。気絶しているニコラスは言わずもがな。
「ど、どうにかならないのエヴァちゃん!?」
明日菜がこの場で一番の可能性を持つエヴァに聞く。それは最も適切な判断であったが返ってきた答えは残酷だった。
「わ、私は治癒系の魔法は殆ど駄目なんだ。不死身だし、従者は治癒と言うよりは修理だから」
「そ、そんな!? どうにかならないの?!」
「昼につく応援部隊なら何とかなるだろうが……本山の方はどうなんだ? 姉さんは何人かの術者を解呪出来たんだろう?」
桜花に問いかけるカモ。だが桜花はゆるゆると首を振った。
「強力な術で本山にあった魔法薬をありったけ使っても数人しか解呪出来なかったんです。それに彼ら総掛かりで何とか一人の石化を解呪出来るかできないかという始末。私には出来ませんし、彼らも今からでは間に合いません」
「……そうだ! ウルフウッドさんの薬は!?」
「それは止めた方が良い」
明日菜の言葉にエヴァが言った。
「あいつに聞いたんだがあの魔法薬はあいつのアーティファクトだ。効力は肉体損傷の回復。
ぼーやの場合は肉体の変質だ。おまけに恐らくあの薬はニコラス専用だろう。ぼーやに使ったらどうなるか解らんぞ」
「そんな……」
絶望に侵された表情を浮かべる明日菜。万策尽きたかに思われたその時、刹那に促されて木乃香が前に進み出た。
「あんな…アスナ……ウチ、ネギ君にちゅーしてもええ?」
「な、なに言ってんのよこのか。こんなと…」
「ちゃうんやアスナ、あの、ほら、ぱ、パクティオーとか言うやつ」
「え……?」
思ってもいなかった単語に思わず呆然とする明日菜。このかはみんなを見渡して言う。
「みんな…ウチ、せっちゃんにいろいろ聞きました……ありがとう」
このかは何も知らなかった自分のために命を賭けて戦ってくれたみんなにそうお礼を言った。
「今日はこんなにたくさんのクラスのみんなに助けてもらって……ウチにはこれくらいしかできひんから……」
「……そうか、仮契約には対象の潜在能力を引き出す効果がある。このか姉さんがシネマ村で見せたあの治癒力なら……」
突然の木乃香の言葉を理解したカモの言葉に刹那は頷く。
致命傷を負った刹那を一瞬にして治癒したあの力。この場において最も可能性が高いのは確かである。
それを理解した皆はネギに木乃香を預け、周囲に立って彼らを見守る。
カモが描いた契約陣の上で木乃香はネギに優しく口付けをした。
光が溢れ、周囲を白く染め上げた。
●
水の底から浮かび上がる感覚とともにニコラスは覚醒した。
視界に映るのは知らない天井で、聴覚には静かな呼吸音が聞こえる。部屋は薄暗く未だに夜が明けていないことが解る。
血が足りないのかボンヤリとする頭でニコラスは此処は何処だと思う。
直後に記憶が鮮明になった。
「っつ!」
がばりと上体を起こす。身に纏っているのは浴衣でやや乱れている。険呑な目つきで周囲を窺う。直後に目の前が暗くなって動きを止めた。
貧血である。
流石にあれだけの血を数時間で造血できなかったらしい。ニコラスはひどい空腹を感じていた。代謝の活性化によるエネルギー不足だろう。
貧血が治まった頃、声がかけられた。
「起きたか、ニコラス。その様子だと大丈夫そうだな」
「エヴァ…か? 此処は何処や。敵はどないした?」
「少し静かにしろ。龍宮が起きる」
その言葉にニコラスは布団の上を見る。
真名がニコラスの横で同じように布団の中で寝息を立てていた。
眠りは深いらしく起きる気配はない。ニコラスはエヴァを向いて言う。ただし、声は抑えめで。
「……で、此処は何処なんや。後、敵はどないしたんや?」
「此処は関西呪術協会本部の一室。敵についてはスクナは力を大幅に削いだ状態で再封印。首謀者である天ヶ崎千草にはチャチャゼロを放っている。後あのクソガキには逃げられた。協会の連中が追跡を試みているが無駄だろうな」
エヴァは一息でそこまで言った。彼女はフスマの側に胡座で座り、外を見ていた。となりでは茶々丸が茶を入れている。
ニコラスはとりあえずの脅威が去ったことに息を吐き、再び尋ねた。
「で、こっちの状態はどうなんや」
「ぼーやの石化は近衛木乃香との仮契約で治療された。その時の余波で本部の連中の石化と全員の傷も完全に癒えている。後はチャチャゼロが天ヶ崎千草を捕らえれば万事解決といったところだ」
「そうか……ならよかったわ。いろいろあったがめでたしめでたしっちゅうことや」
ニコラスはそう言ったがエヴァは答えず、ゆっくりと彼に振り向いた。その目は険しい。
「ああ。大方のことはそれで良いさ。お前が私を庇ったことを除いてな」
「あ?」
「あの時……何故私とぼーやを庇った? 麻帆良から離れた私は不老不死の魔法使いだ。腹を貫かれた程度では死なん。
だがお前は別だ。不死者でもなければ精霊種でもない。死ぬときは死ぬんだ。答えろ、なんであんな真似をした?」
ニコラスに問いつめる形でエヴァは言っていた。
ネギは知らなかったのだからあのような行動に出たのは理解できる。だがニコラスにはあらかた説明をしていたのだ。
だからニコラスの行動が解らない。それが苛つきの原因だった。
ニコラスはやや考えてからゆっくりと言う。
「よく、覚えとらんのや。なんか一瞬幻影を見た気がする。何かは覚えとらん、するとお主等を絶対に守りたいとを思ったんや。
そして気が付いたらお主等を突き飛ばしとった。何故、といわれてもこれ以上説明できん」
「…………そうか」
そう言ってエヴァは立ち上がった。茶々丸もそれに続く。彼女はフスマを開けつつニコラスに言った。
「とりあえずは納得しておいてやろう。だが次からは私に相応しい扱いを要求するぞ。私は悪の魔法使い、『闇の福音』。一方的に守られるなど真っ平だ。よく覚えておけ」
エヴァンジェリンは振り返らない。茶々丸はニコラスに一礼するとエヴァに続く。
エヴァは去り際に一言残していった。
「龍宮に感謝するんだな。そいつがお前に薬を飲ませなかったらお前は今頃墓の下だ。礼ぐらいは言っておけ」
その言葉を最後に襖が閉まった。
●
襖が閉まる音がして気配が徐々に遠ざかってゆく。ニコラスはエヴァの残した言葉に昨夜のことを思い出し、
「っっつ~~!?」
林檎のように赤面し、頭を抱えつつ声なき絶叫を上げた。
ニコラスは「そういったこと」にあまり経験がない。ミカエルの眼に入る前は日々生きることに精一杯だったし、入ってからは戦闘訓練ばかり。色恋沙汰とは一番遠い生き方である。
身体を重ねるという行為に経験が無いわけではないが、愛情など皆無な商売上の話である。それ故か親愛の情を含めたキスなどは全くといっていいほど経験はない。
そういったファーストキスは実はエヴァだったりする。二回目、三回目が真名。自惚れるわけではないが彼女達から親愛の情を受けているようにニコラスは思う。
エヴァはネギが来る前から親しかったが距離が縮まったのはおそらく停電の時から。真名も一年ほど前からの付き合いだったが、距離を縮めるきっかけは旅館の上で昔を語ったときだろう。そしてニコラス自身、彼女達を女としては兎も角、意識しているのに気が付いている。
そんなニコラスである、昨晩のアレは凄まじく恥ずかしい。
緊急時の緊急措置であることは明白だが恥ずかしい物は恥ずかしいのだ。
深呼吸してようやく落ち着いたニコラスは身体を少しずつ動かし、体調の確認をする。
表面上の傷は殆ど癒えていた。動かす際に身体が重いのは単に血が足りないだけであろう。腹の辺りに手を当ててみるが綺麗な物だった。どうやら従来の回復能力が魔法によって倍加しているらしい。思わぬ情報を知ったニコラスはようやく全てが終わった溜息をついた。
そこで横で眠る真名に視線を向けた。
「…………真名」
恩人である少女の名を呟く。ニコラスは知らず微笑みながら真名の髪を撫でた。
彼女は起きない。昨日の疲労がひどかったのだろう。ニコラスは小さな声で言った。
「助けられたみたいやな……すまん、助かったで」
「ン……」
真名が寝返りを打つ。その時に彼女が少し声を上げた。だがすぐに静かな呼吸音が聞こえてくる。まだ起きていないらしい。
彼女が発した声はニコラスに応じるかのようなタイミングだったが、その後の様子で偶然だろうとニコラスは判断した。
彼は静かに布団をでて襖に向かう。状況を此処の長に聞くためだ。あんな事の後だ、今も何かしら仕事をしているに違いない。
襖の前でニコラスは一旦立ち止まり、真名を見て言った。
「助けられてこないなことを思うのもあれやが……おぬしは一体ワイのことをどう思ってんのやろうな。聞きたいとも思うが、聞きたくないとも思う。何せワイは全てを明かしとらんのやからな。隠していたことを話した後、お主がワイのこととどう思うのか……」
そう呟いてニコラスは部屋を去った。
気配がだいぶ離れた頃、眠っていたはずの真名から言葉が生まれた。
「好き……なのかな、私は。ニコラスのことをもっと知りたいとも思うし、あいつの側を歩きたいとも思う。この感情は……
けど、ニコラス、お前が過去に何をしていても、この気持ちはきっと変わらないと思う。きっと…………」
そこまで呟いて真名は再び睡魔に襲われた。ゆっくりと意識が閉ざされてゆく。
やがて静かな寝息が部屋に聞こえてきた。
後に真名は語ることになるだろう。あの瞬間、私は恋を自覚したのだと。
●
ニコラスは通りがかった魔法使いに尋ねて服を着替え、長のいる部屋に来ていた。事後処理がどうなっているか聞くためである。
教えられた部屋に行くと詠春が書類の整理をしていた。やはり管理職の最も身近な敵は書類らしい。次点は部下の管理だろう。
ニコラスは一瞬迷ったが、改めて詠春に声をかけた。
「あ~、済まんが現状の再確認をしたいんやが」
「ああ、ウルフウッドさん……む?」
「どないしたんや?」
ニコラスは詠春が自分を見て一瞬怪訝な表情を浮かべたのに気が付き尋ねた。
問いかけに詠春はややばつの悪そうな表情で答えた。
「済みません……なにやら昨夜と印象が違うように見えますが、どうしましたか?」
「ん? ああ、単にアーティファクトの副作用や。代謝の強制促進で傷を塞いだは良いがそのせいで外見が少し老けたんやろ」
そういってニコラスは顎に手をやると無精髭が少々伸びていた。たぶん髪の毛も少し伸びているだろう。自分では解らないが顔も少し老けたに違いない。
なんとなくニコラスは詠春に聞いてみた。
「ワイは今、何歳に見える?」
「むぅ……三十半ばから後半といったところでしょうか。雰囲気はまだ若々しく感じるのですが」
「これでもまだ二十一なんやで?」
「なんですと!?」
「ああ、驚くのもしゃあない。昔、訳あって代謝促進手術を受けての。傷の治りが早くなったが年取るのも速くなったんや。今のワイにあっても昔の知り合いはワイだと気づかんやろ」
「むう……」
ニコラスの言葉に詠春は言葉に詰まった。
――それは、寂しいことではないのか。
ニコラスの戦闘能力は桜花から報告を受けている。関西呪術協会においてかなりの力量を持つ桜花に『圧倒的』と言わしめるほどの力。その様な彼の過去はほぼ不明。
そして桜花からの報告にはある一文が付けられていた。
――恐らく人を殺した経験有り――
目の前にいる彼は悪い人間ではないと詠春にも解っている。だがその様な彼がこれほどの強さを得るまでに一体どれほどの物を犠牲にしたのか。
――「……昔の知り合いはワイだと気づかんやろ」――
先程の彼の言葉がよぎる。
その言葉はおそらく外見が変わったしまったことだけを指すのではないのだろう。
詠春の複雑な表情を見たニコラスは苦笑を浮かべつつ言った。
「気にすることや無いで。なかなか便利な身体やからな。そこそこ気に入っとる。……で、現状を再確認したいんやが。エヴァからある程度聞いてはおるが、詳細は解らんかったからの」
「……わかりました。では簡潔に現状をお話ししましょう」
詠春は現状を説明しだした。その大まかな内容はエヴァから聞いたとおりだったのでほぼ確認を意味合いが強い。
全てを聞いた後、関東魔法協会に属する者としてスクナの封印後の管理体制の強化、反乱分子の適切な処罰などを要請しておく。
詠春はそれらのことにしっかりとした対応を取ることを確約した。
話は終わったのでニコラスは詠春に礼を言って部屋を辞した。
部屋に戻ると既に布団がたたまれていて真名も起きていた。
真名は此処の人間に頼んで用意して貰ったのか銃整備の道具を畳の上に広げて銃の分解整備を行っていたニコラスからは横顔が見える。
ニコラスの姿を認めた真名は手にしていた銃の分解整備の手を休めて、
「おはよう。もう大丈夫なのか?」
「ああ、ちっとばかり貧血気味やがまあ問題あらへん」
「そうか。ならいい」
問いかけの答えを得た真名はそう言って再び銃を整備しだす。ニコラスは昨夜の礼を言うために口を開いた。
「昨晩はすまへんかったな。お主に薬を飲ませてもらわへんかったらワイは死んどった」
「別に、礼を言われる事じゃない。助けるのに必要だったから行動したまでだ」
「それでも、や。……ありがとう」
真名はそっぽを向いて顔が赤くなるのを隠した。ニコラスはそれを察しているのかいないのか、開いた襖に背を預けて明けつつある空を見上げる。
ニコラスはただ黎明の空を見、真名も銃の整備を再開した。鳥の鳴き声と銃の部品が当たる音が場に響く。
しばらくした後、銃の組み立てを終えて真名が口を開いた。
「ニコラス」
「ん?」
真名はやや迷った後、
「私は、お前が嫌いじゃない。今のお前が気に入っている。……だから、遠慮はするなよ。仮とはいえ契約をしたんだ、互いに頼り頼られても、良いだろう?」
途切れがちに紡がれた言葉。ニコラスは真名の方を振り返らずに答えた。
「……そうやな。これからもよろしゅう頼むで、真名」
彼の顔に浮かぶのは苦笑。去り際の言葉は聞かれていたらしい。
様々な感情が浮かぶが、最終的に残った想いは一つだった。
……いい女だ。成人したら口説いてやろう。
と思いつつ彼はそう言った。
庭先が騒がしくなってきた。ネギ達の声が聞こえる。ニコラスは真名と顔を見合わせて腰を上げた。
彼らを合流してこれから修学旅行の続きが始まるのだ。
非日常は終わり日常へと回帰する。
ニコラスは懐からタバコをを取り出しつつ事件の終わりを感じていた。
・後書き
ようやく書き上がった十八話。十六話(再改訂)と併せて此処に投稿いたします。
お久しぶりな駄作製造機です。
修学旅行編もこれで山を越えました。
もう一話をつかって最終日を書いて修学旅行編は終わりにしたいと思います。
次は何時になるか未定です。最近スランプ気味で無茶苦茶遅れると思いますが、気を長~くしてお待ち下さい。
それでは皆さんメリークリスマス・&・ハッピーニューイヤー。
次回は一月に挙げられたら良いなあと思います。それでは。
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