第33話
修学旅行終了の翌日の日曜日。 3年の生徒達は殆どの者が修学旅行の疲れが残っており、皆、ゆっくり休んでいた。(3−Aは相変わらずハイテンションだったが) そんな中、修学旅行の疲れも取る間もなく、休日返上で機龍は仕事に奔走していた。 修学旅行の報告書作りと事後処理。 破損したフェニックスの修理補佐にJブレイダーとJランチャー・サクラスペシャルの魔法戦闘用への改修依頼。 ジンとサクラの警備員兼広域指導員(ジン)と保健医(サクラ)への配置転換。 警備員としてのセイバー小隊の発足。 加えて教師としての仕事にネギの訓練。 もし、これで死んだら間違いなく過労死認定が下りるだろう。 やっとのことで全ての仕事を終えた時には、もう日付が変わっていた。 「すっかり遅くなってしまった。急いで帰るか」 職員室の戸締りをして、夜の校舎を歩く機龍。 と、 3−Aのクラスを通り過ぎようとした時、中から微かな光が光っているのが目に入った。 「ん? 誰かいるのか?」 ドアを開けて、教室の中へと入る機龍。 「あ!!………」 一瞬、白銀色のロングストレートヘアに赤い瞳に時代が掛かったセーラー服を着た少女が姿を見せたかと思うと、再び消えた。 「!?」 慌てて教室を見回す機龍。 しかし、少女の姿は何処にもなかった。 「………今のは………一体………?」 翌日。 体育の授業中の機龍。 しかし、機龍は昨日のことが頭から離れなかった。 (あの子は………一体、誰なんだ?) 「………先生!! 機龍先生!!」 まき絵の声にハッとする機龍。 「どうしたの? 機龍先生」 「悪いものでも食べた?」 「いや………何でもない。よし!! 今日はテニスをするぞ!!」 「「「「わーーーーーい!!」」」」 はしゃぎながらテニスコートへと向かう3−A一同。 その光景に含み笑いを漏らすと後を追う機龍。 と、その手からクラス名簿帳が零れ落ちた。 「おおっと、いけない………ん!?」 それを拾おうとした時、開いた名簿帳の名簿の右上………出席番号1番の枠に彼女はいた。 「この子!?」 名簿帳の彼女を凝視する。 「相坂………さよ」 彼女………相坂さよは確かにクラス名簿に載っていた。 「相坂………相坂………あ………あ………」 その日の昼休みの職員室にて機龍は、現在、そして過去の生徒名簿を持ち出し、相坂さよという名前を探していた。 「! あった!!」 そして、戦前の生徒名簿の中に彼女の姿を発見する。 「1940年、在学中に没、享年15歳………か、フウ〜」 天を仰ぐとタメ息を吐く機龍。 ここで渋い男ならタバコの1本も吸うんだろうが、生憎、職員室は禁煙。 さらに言えば、機龍に喫煙の嗜好はないし未成年だ。 「吸血鬼にロボット、魔法使いに忍者にスナイパー、天才にマッドサイエンティストに拳法使い………ただのクラスじゃないと思っていたが………今度は幽霊か」 異様な人間の集まったクラスに再びタメ息を吐く。 「だが………放っておく理由にもいかんか」 再び名簿の彼女の姿を見る機龍。 心なしか、その写真の姿まで透けて見えた。 「「「「幽霊!?」」」」 「どうもそうらしい………」 放課後、手の空いていた魔法関係者(ネギ、カモ、アスナ、このか、刹那、真名、のどか、ジン、サクラ)を召集し、会議室を借り、事情を説明する機龍。 途中、夕映と和美が乱入し、機龍達の正体に気づき迫ってきたので、仕方なく事情を話すというハプニングもあったが、なんとか本題に漕ぎ着ける。 「そういえば、ウチのクラスに幽霊が出るって話が何度かあったね」 過去にも記事を書いたことがある和美が言う。 「ネギくん、幽霊なんてホントにおるんかいな?」 「ええ………大概は、この世への未練や恨みで残った人達なんですけど………」 「ま、今さら驚かないけどね」 詳しそうなネギに聞くこのかと何を今さらな顔のアスナ。 「とにかく、幽霊とはいえ、クラス名簿に載っている以上、彼女は3−Aの生徒だ。何とかしてやらないとな」 「確かにな」 「60年近くも幽霊やってるなんて寂しいですよね」 「わかりました! 僕達で何とかしましょう!!」 やる気を出すネギ達。 「では、今夜、学校に………って、どうした? サクラくん」 号令を出そうと立ち上がった機龍は、サクラが机に突っ伏して頭を抑えながらガタガタと震えているのに気がつく。 「い、いえ………何でもありません………」 そう応えるサクラだが、相変わらず震えたままだ。 「スミマセン………サクラはその手の話が苦手なんですよ」 隣に座っていたジンがサクラの頭に手を置きながら言う。 「えっ!? そうなのか? スマンな、それなのに召集してしまって」 「なんか、不思議ね。京都の時はあんなに勇ましく戦ってた人だったのに」 「うう〜〜〜、だって〜〜〜〜」 涙目のサクラ。 「………午前0時の学校で………誰もいない音楽室からピアノの音が………」 「ほえ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」 ガタンッと椅子から落ちると、慌ててジンにしがみ付くサクラ。 ………傍から見ると、かなりカワイイ。 「朝倉くん、やめなさい」 「アハハ、ゴメン、ゴメン。でも、いいショットが撮れたよ」 態々怪談話をする和美を窘める機龍。 そして、大して悪びれずにサクラの怖がる姿を納めたデジカメを見せる和美。 と、 ズギューンと発砲音がしたかと思うと、和美のデジカメが粉々に砕けた。 「………いい加減にしろ」 サクラを慰めながら、ダブル・ファング(右手銃・ダーク)を向け、地獄の底から響くような声を出すジン。 「は………はい………ごめんなさい………」 今度は和美が顔を真っ青にして冷や汗を掻きガタガタと震える。 「サクラくん、君は参加しないでもいいんだぞ?」 「い、いえ、大丈夫です! 行きます!!」 サクラを気遣って言う機龍だが、サクラは気丈に言い返す。 「うむ………とりあえずこの場は解散とする。宮崎くんと綾瀬くん、それに朝倉くんは1940年頃の麻帆良の出来事について調べておいてくれないか?」 「あ、はい、わかりました」 「まかせるです」 「りょ、了解………」 今だ青い顔の朝倉を引っ張って調べものへと行くのどかと夕映。 全ては今夜明らかになる。 その日、曇り空の深夜の学校にて……… 「はあ〜〜〜〜」 3−Aの座らずの席に座り、タメ息を吐くさよ。 昨日、偶々学校に残ってみたところ、機龍が自分のことを発見してくれたが、驚いて思わず逃げてしまったことを後悔していた。 「折角、お友達を作るチャンスだったのに………」 相坂さよ、地縛霊歴60余年、友達募集中。 存在感のなさより、どんなお払い師や霊能力にも感じられなかったというある意味の強者だ。 と、そこへ、 複数名の足音が聞こえてくる。 「!! 誰か来る!!」 思わず姿を隠すさよ。 その直後、懐中電灯を手に機龍達が教室へと入ってくる。 「よーし! では、相坂くんを探すぞ………サクラくん、戦争をしにきたのではないんだぞ」 ガトリング砲にミサイルランチャー、アサルトマシンガンにバズーカ砲、身体中に手榴弾を携帯し、ビクビクしているサクラに言う機龍。 「はうう〜〜〜〜〜」 既に涙目なサクラ。 「サクラ………落ち着け」 そんなサクラを気遣うジン。 「ところで、機龍さん。どうやって相坂さんを探すんですか?」 「私や刹那が今まで気づけなかった幽霊だぞ。探すのは骨が折れるぞ」 「あ、それなら大丈夫だ。宮崎の嬢ちゃん!」 「は、はひっ!!」 カモの呼びかけの驚くのどか。 「嬢ちゃんのアーティファクトなら幽霊の心も見れる。ソイツで探すんだ」 「あうう、怖いけど頑張ります………」 アーティファクトを呼び出すのどか。 (何だろう、アレ?) そのようすを遠巻きに眺めるさよ。 「えーと、相坂さん! あなたはどこにいるんですか?」 (あっ! あの人、確か………宮崎さん?) スーッと宮崎の後ろに立つさよ。 そして、のどかのアーティファクトにさよの表層心理が浮かび上がる。 『あなたも………一緒に………こっちに………遊びましょう………ともだちに………のどかさん………うれしい………』 何故か怪談話のような文字列と恐ろしい表情のさよの姿が写った。 「!! 悪霊です!! !! この人悪霊です!! 取り殺されそうです!!」 「「「ええ〜〜〜〜〜っ!!」」」 「ほえ〜〜〜〜〜〜〜!!!!」 恐怖に慄くのどか達。(特にサクラ) (ん? 友達………?) (今、確かに………) そんな中、ネギと機龍はさよの微かなメッセージに気づく。 (あうう〜〜〜!! 私って写真写り悪いから誤解されちゃってます〜〜〜!! 何とかしないと………がんばれ、私!!) さよの身体から霊力が溢れる。 窓がガタガタと音を発て、机や椅子が浮かび上がった。 「「「ポルターガイストだーーーー!!」」」 「ほええ〜〜〜〜〜!!!!」 「落ち着け! 落ち着くだ!!」 さらに混乱は加速した。 (あああ………余計に事態が悪化………? ど、どうすれば!?) もはや錯乱状態のさよ。 そして、もう1人……… 「!&#?$¥*+@」 恐怖のあまり意味のわからない言葉を言い出すサクラ。 「落ち着くんだ! サクラ!!」 ジンが必死に説得するが、錯乱したサクラには届かない。 そして……… 「いや〜〜〜〜〜〜!!」 ついにサクラは持っていた武器を乱射し始めた。 「いい!?」 「うわっーー!?」 「危ね!!」 「キャアーー!!」 慌てて伏せる機龍、ネギ、カモ、アスナ。 「お嬢様! 私の後ろに隠れて!!」 「せっちゃん!!」 このかを後ろに庇い、飛んで来る弾丸を夕凪で弾き落とす刹那。 「きゅ〜〜〜〜………」 「のどかーーー!! しっかりするですーーーー!!」 「え、衛生兵!! 衛生兵ーーーー!!」 気絶するのどかと、それを介抱する夕映に、混乱状態でわけもわからず叫ぶ和美。 「サクラさんって、結構、過激なんですね………」 「スマン………」 机の影に隠れる真名とバスターブレードを盾にするジン。 「怖いよ〜〜〜〜〜!!」 涙を流しながらも手持ちの武器を次々に発砲するサクラ。 「キャーーーーー!! 何でこんなことにーーーーーー!!」 そして、慌てて逃げ回るさよ。 厄介なことにサクラが持っている武器は全て超とハカセが対妖魔用に改良したもののため、当たればさよは消滅してしまう。 と、2発のミサイルがさよへと向かった。 「ひっ!! た、助けてーーーーー!!」 「「!!」」 その時、機龍とネギは確かに耳にした。 彼女の………さよの悲鳴を!! 「風花 風障壁!!」 すぐさまネギはさよの前に立ち、障壁を展開して1発目のミサイルを防ぐ。 そして、2発目のミサイルは……… 「ベル○ンの赤い雨!!」 機龍の繰り出した手刀で弾頭を斬り落とされ、無力化した。 「あ………」 その光景に目を奪われるさよ。 サクラは全弾薬を撃ち尽くすと恐怖が限界に達したのか、気絶してしまった。 さよの方に振り返るネギとその隣へと立つ機龍。 「大丈夫ですか? 相坂さん」 「危ないところだったな」 「は、はい! 大丈夫です!!………あ、あの!!」 何かを言おうとしたさよを手で制する機龍。 「わかってるって」 「相坂さん………」 左手を差し出すネギと右手を差し出す機龍。 「「俺(僕)達でよかったら、友達にならないか(なりませんか)?」」 「あ………はい!!」 本来ならばすり抜けるはずなのだが、何故かそうならず、差し出された手を笑顔を浮かべながら取るさよ。 と、そこへ……… 雲が切れ、月が顔を出し、月光がさよを照らしたかと思うと、その姿を克明に浮かび上がらせた。 「あ!?」 「!! 相坂さん!!」 「こりゃ驚いた………」 それに気づいたアスナ達も駆け寄ってくる。 「あ! あなたが相坂さん!?」 「やっと会えたな〜」 「スミマセン、インタビューお願いします」 「あ、あうう〜〜〜!!」 たちまちに揉みくちゃにされるさよ。 それを遠巻きに眺める機龍。(ネギはさよを揉みくちゃしている輪に加わっている) 「よかった、よかった」 「リーダー………何故、あなたは彼女の存在を感じ取れたのですか?」 サクラを抱きかかえたジンが遣って来て機龍に聞いた。 「ん? それは多分………」 一瞬、ジンに視線を向けた後、ネギ達に揉みくちゃされながらも幸せそうにしているさよを見て言った。 「彼女が自分の存在に気づいて欲しいという………助けを求めていたからさ」 「助け………ですか?」 怪訝な顔になるジン。 「俺は助けを求めている生徒を絶対に見捨てたりしない。例え、それが、幽霊でもな………」 そう言った機龍の顔は、軍人でも侍の顔でもなく、1人の教師の顔になっていた。 その後、何とか朝までに破壊された教室を修復し、休む間もなく次に日に突入した。 結局、さよの存在を認識できるようになったのは機龍達だけだった。 しかし、さよは幸せだった。 友達を作れたという喜びがさよの心を埋め尽くしていた。 NEXT |