第34話
全体的に白を基調とした消毒液の匂いが漂う部屋………保健室。 そんな部屋で白衣を纏い、備品を整理している桜色の髪の女性………サクラ。 「ふ〜〜………これでよしっと」 整理を終え、椅子に腰掛ける。 と、何やら窓の外からヒソヒソと声が聞こえた。 「ほえ?」 何かと思ってカーテンと窓を開ける。 見ると、3人の男子生徒が座り込んで何やら話し込んでいた。 1人はカメラを持っていた。 「何してるの?」 「「「え!? うわっ!!」」」 慌てて飛びのく3人組。 (ヤ、ヤバイぞ!! 見つかった!!) (どーすんだよ!?) (俺に聞くな!!) 小声で話す3人組。 「ここは女子校のエリアだよ。男の子は入っちゃいけないんじゃなかったの?」 ?な顔をするサクラと苦い顔をする3人組。 実はこの3人組………以前より、女子校エリアに不法侵入し、女子生徒の写真を盗み撮りしていたのである。 流石に更衣室などを盗み撮るという悪質なことはしていなかったが、盗み撮りした女子生徒の写真の写真を売り捌くという行為はしていた。 気まずい3人組。 と、サクラがポンッと手を敲いた。 「あ! わかった!!」 身構える3人組。 が……… 「道に迷っちゃったんだね!」 「「「はっ?」」」 サクラが言ったことが理解できず、顔を見合わせる3人組。 「無理もないよね〜。この学園広いし………あ、そうだ! 私が送ってってあげるよ」 そこに他意はない。 サクラは純粋に心から3人組のことを迷子だと思っているのだ。 「「「は、はあ………」」」 曖昧に頷く3人組。 結局、3人組はサクラに連れられて男子校エリアまで向かうことになった。 (おい、どうするよ?) (どうやら、あの先生………俺達を完全に迷子だと思いきっているみたいだ) (好都合だ。このまま退散するぜ) 先を行くサクラに続きながら、小声で話す3人組。 「? 何か言った?」 「「「い、いえ、何も!!」」」 「? そう?」 と、そこへ……… 「コラーーーーッ!! そこの男子生徒!! 何をしている!?」 学園広域生活指導員の新田教諭………通称、鬼の新田が現れた。 (ヤベッ!! 新田だ!!) (マズイぞ!!) (あいつには前も捕まってるからな………) そう、実はこの3人組………以前の侵入時、新田に見つかりこっぴどく説教を受けていたのである。 「!! お前達、性懲りも無く………」 「待ってください!! 新田先生!!」 サクラが新田から3人組を庇うように立った。 「サクラくん!! どきなさい!! こいつらは以前、女子生徒を盗撮していた連中で、私が指導したのですよ!!」 カメラを隠す3人組。 しかし……… 「それは前の話でしょ!! この子達は今日は偶然迷い込んじゃっただけです!!」 「「「「なっ!?」」」」 驚愕する新田と3人組。 サクラはあくまで3人組がここにいるのは偶然迷い込んできたのだと思っているのだ。 「いや、しかし………」 「前にやったことがあって怒られたなら、きっと反省してます!! 証拠もなしに決め付けないでください!!」 新田相手に一歩も引かないサクラ。 「………わかりました。今回のことはサクラくんに任せよう」 遂に、あの新田が折れた。 「ありがとうございます、新田先生。さっ、行こう!」 「「「は、はい………」」」 再び歩き出したサクラに続く3人組。 新田はその後ろ姿を見ながら、タメ息を吐いたが、その顔はにこやかだった。 「ふ〜〜、あんなにも生徒を信じているなんて………サクラくん、君みたいな子は今時おらんよ………まいったよ」 「それじゃ、ここでね! 勉強、ガンバってね!!」 「「「は、はい………」」」 3人組を男子校エリアまで送り、笑顔で手を振りながら帰って行くサクラ。 3人組はしばらく、その場に立ち尽くしていたが、やがて隠していたカメラからフィルムを取り出し、ゴミ箱へ捨てた。 「………俺、もうこんなことやめるわ」 「俺も………」 「バイトでも探そうぜ」 この日、サクラは知らぬうちに3人の男子生徒を更生させた。 「だーからよー! ちょっと遊ぼうって言ってるだけじゃん!」 「いや!! 放して!!」 「「円!!」」 ところ変わって、街の一角でバイクに乗った不良集団………暴走族が3−Aのまほらチアリーディング3人組(釘宮円、柿崎美砂、椎名桜子)に絡んでいた。 逃げようとした3人だが、周りを囲まれ、さらに円がリーダー格の男に捕まってしまっていた。 周りの人達は、暴走族に恐れをなし、助けられずにいた。 掴まれた腕を必死に放そうとする円。 しかし、リーダー格の男はガッチリと掴んで放さない。 「だ、誰か!! 助けてーー!!」 「無駄無駄! 誰も………」 と、言いかけた時……… 突如、大剣が降ってきて、リーダー格の男の頭頂部を掠めて地面に突き刺さった。 驚いて円の腕を捕まえていた手を放すリーダー格の男。 「「円!!」」 「ちょっと、何!?」 解放された円に歩み寄る美砂と桜子に突如降ってきた大剣に驚く円。 リーダー格の男はしばらく硬直していたが、やがて自分の頭頂部に両手を当て、自分が河童状態になっていることを確認する。 「何じゃこりゃ〜〜〜〜〜!!」 G○ン刑事の殉職時の名台詞を叫ぶ。 「ぬお〜〜〜〜っ!! 俺をこんなア○シンドヘアにしやがったのはどこのどいつだ!!」 と、激昂したリーダー格の男が叫ぶと、突き刺さった大剣の柄の上に黒い影が片足で立った。 驚いて注目する一同。 それは黒いスーツ姿で腕に『広域特別指導員』と書かれた腕章を付け、軍服時も羽織っていたマントを付けた銀色のロングヘアの男………ジンだった。 「貴様のやっていたことはナンパではなく、婦女暴行未遂だ………」 淡々とした口調で言いながら、地面に降り立つと大剣を引き抜くジン。 「な、何だ!! テメェは!?」 ジンの迫力に気圧されながらも怒りをぶつけるリーダー格の男。 その時、子分の1人が何かに気づいて、青ざめた顔でリーダー格の男に言った。 「ア、アニキ!! こいつ、ジンだ!! 広域特別指導員のジンだ!!」 途端に暴走族メンバー全員の顔が青ざめた。 「ジ、ジンって、あの、『悪魔も泣いて許しを請う』広域指導員の!?」 「あの、『死神もひれ伏し靴を舐める』広域指導員の!?」 「『魔界を3分で廃墟にできる』広域指導員の!?」 「………随分な言われようだな」 憮然とした顔で言うジン。 しかし、無理も無い。 ジンが広域指導員に配置されて、ここ数日で挙げた戦果は……… 潰した暴力団・123組織、壊滅させた暴走族・395チーム、指導の名目で修正された不良生徒・計測不能……… デスメガネ・高畑も顔負けの戦果だ。 「か、かかれ!! やらなきゃ、こっちがやられるぞ!!」 「「「「うおぉぉぉーーーーー!!」」」」 恐怖に駆られ、無謀にもジンの襲いかかる暴走族。 30秒後……… ジンの周りには鉄の塊と化した改造バイクと、元が誰だったのか判別不能にされた暴走族達がオブジェのようになっていた。 「「「……………」」」 壮絶な光景に言葉を失うチア3人組。 「愚かな………」 そう言って、ジンは大剣の刀身を包帯に巻き、後ろ腰に差すとその場を後にしようとする。 「あ、あの………ありがとうございました!!」 「礼には及ばない………仕事だからな」 お礼を言う円を一瞥すると、スタスタと去って行くジン。 「カッコイイ………」 「クールなところがまた素敵………」 「ドラマのヒーローみたい………」 ジンが去って行った方向をうっとりとした表情で眺めるチア3人組。 この日、ジンはまた伝説を創り挙げるのだった……… 日が落ちて……… 「お疲れ様でした〜!」 「サクラさん、お疲れ様。気をつけてお帰りくださいね」 「は〜い!」 交代の保険医と変わり、帰路につくサクラ。 と、その途中……… 「サクラ」 ジンがサクラの前に現れた。 「あ、ジン! 仕事、終わったの?」 「ああ、引き継ぎを済ませてきた」 「そう………じゃ、一緒に帰ろうか?」 「ああ………」 並んで歩き出す2人。 終始笑顔のサクラ。 それを見て、いつもの無表情から優しげな顔になるジン。 人が見れば、10人中10人がこう言うだろう。 『ベストカップル』と……… と、その時、電子音が響いた。 バッと腕時計を見る2人。 [エマージェンシー!! セイバー小隊!! 山岳部に大型の妖怪軍団が出現!! 直ちに迎撃されたし!!] 腕時計から緊急出動の要請が伝えられる。 「行くぞ!!」 「うん!!」 走り出す2人。 先ほどまでとは変わって、精悍な顔になる2人。 そう………2人もまた、機龍と同じく………平和を守る戦士なのだ!! NEXT |