第42話


降りしきる雨の中、傘も差さずに女子寮を見つめている者がいた。

黒いコートと帽子に身を包んだ中年か初老の男だ。

(どうかね?)

男は口には出さず、心の中で念じる言葉………念話を飛ばす。

(見つけたゼ。学園の近くで返り討ちにした奴ダ)

男の部下と思われる液状の者から返事が返ってくる。

(混乱の魔法が効いたのか女といちゃついてるゼ?)

(一時的な記憶喪失デスネ)

どうやら、小太郎を見張っていたようである。

(よろしい。では、そちらから片付けよう)

男は小太郎の方に向かうらしい。

(犬上小太郎は懲罰により、特殊能力を封じられていマス)

(今なら楽勝ダナ)

(気は使えますが………)

返事をしていた部下達は、液状からその姿を女の子に変える。

(よろしい。君達は作戦どおり事を運び給え)

(ラジャ)

(ハイデライトウォーカーに気付かれぬように)

(ステルス完璧デスぅ………けど、サムライ男とその仲間がこっちに向かって来ていマス)

(そうか、では、手早く済ますとしよう)

男は念話を切ると、女子寮へと歩き出した。

「やれやれ………では始めるか」

そう言った男の右手にはチェスの駒のような物が握られていた。











女子寮の廊下を歩いているのどか、夕映、クー、和美、さよ。

「はあーーーー………ネギ先生があんな大変な思いをしてたなんてー………」

「ええ………」

ネギの過去を聞いたのどかと夕映はやや暗い顔をしていた。

「夕映ー………私、ネギ先生が魔法使いだって知ってドキドキワクワクしてたんだ………戦ってるネギ先生もかっこいいって思っちゃったし………」

「私もです………少し浮かれすぎていましたね………」

どうやら、ファンタジーな世界に少なからず喜んでいた自分達を浅ましく思っているようだ。

「まあまあ、2人とも、元気出すアルよ!」

「そう思うんだったら、これから必死でネギ先生に協力すればいいじゃん!」

「そうですよ、私も頑張りますから!」

それを慰めるクー、和美、さよ。

と、ピチャッという音がして一同は思わず足を止める。

見ると、自分達の足元に、いつの間にか大きな水溜りができていた。

「な、何コレ!?」

「雨漏りアルか?」

一同が驚いていると、突然足が水溜りに沈み始め、声を挙げるまもなく飲み込まれた。

「キャア!! 朝倉さん!! くーふぇさん!! 宮崎さん!! 綾瀬さん!!」

唯一、幽体のため浮遊していたさよだけが難を逃れる。

水溜りは完全にのどか達を飲み込むと煙のように消えた。

「あわわっ!! 大変です!! 皆さんに知らせないと!!」











一方その頃、665号室(雪広あやか、那波千鶴、村上夏美)では………

驚異的な回復力で復活した小太郎が飯をがっついていた。

「ガツガツ………モグモグ………」

「うひゃーー、よく食べるね」

「だってうまいんやわこの飯!!」

夏美の言葉に答えながらも、食べる手を緩めない小太郎。

「それで小太郎くん、名前以外のこと、思い出せたの?」

「うわごとでネギと言ってましたが、ネギ先生とお知り合いなんですの?」

そんな小太郎に質問を飛ばす千鶴とあやか。

「いや………アカン………頭に霧がかかったみたくなって………」

しかし、今だ混乱の魔法が効いているのか、何も思い出せずにいた。

「ちづるさん、やっぱり警察に連絡した方がいいんじゃありません?」

「まあまあ、あやか、待って」

警察に連絡すべきだというあやかを千鶴が宥める。

と、その時、呼び鈴が鳴った。

「? 誰だろ」

「私が出ますわ」

そう言って玄関に向かうあやか。

玄関に出てドアロックをしたままドアを開け訪問者を確かめる。

そこには、あの黒コートの男が立っていた。

「………?………どなたですの?」

見知らぬ訪問者を怪しく思うあやか。

「失礼、お嬢さん。少々お騒がせするかも知れない。そちらの少年にようがあるのでね」

紳士的な態度を取りながらも、男の目には微かに殺気が宿っていた。











そして、刹那と真名の部屋では………

「………ん?」

「どうした、刹那?」

何かを感じ取った刹那に銃の手入れをしていた真名が声を掛ける。

「今、何かの気配が………」

「そう言えば………何かを感じるな………」

そう言って真名も手を止め、意識を集中する。

そこへ、呼び鈴の音がなった。

「あ、はーい」

刹那が答え、玄関に向かうとドアを開ける。

「せっちゃん、エヘヘ」

そこにいたのはこのかだった。

「あれ? お嬢様? 明日菜さんとお部屋に戻られたのでは?」

「せっちゃんと一緒に大浴場行こ思て」

そう言うこのかの姿は既に全裸だった。

「って、わああ!? 何でハダカなん、このちゃん!!?」

途端にあたふたする刹那。

「ちょっ、わっ、このちゃ、お嬢様!! と、とにかく服を着てえっ!!」

「何騒いでるんだ、刹那?」

大声を挙げる刹那のようすを覘き見る真名。

「ウフ………せっちゃん」

そう言った瞬間、このかの身体がとろりと形を失い始める。

「!! 刹那!!」

「へ?」

そして液状になった物が、刹那へと襲い掛かる。

「!! しまった!? アデアッ………」

アーティファクトを呼び出そうとするが、叶わずに飲み込まれ、刹那の姿は液状になった物ごと床へと消えた。

「刹那!!」

慌てて床を調べる真名だが、そこには何の痕跡もなかった。

「くっ!! 私としたことが!!」

と、そこへ、何かが転がってきた。

「!! アデアット!!」

後ろに飛び退いて距離を取ると、トロンベを装着し、転がってきた物にランツェ・カノーネを向ける。

「………ルーク?」

それはチェスの駒のルークだった。

だが次の瞬間!!

ルークの駒は眩い光を放つ!!

「!? くっ!!」

マントで目を庇う真名。

そして、光が収まると、そこには城のような姿の怪人がいた。

「何!?」

「ルゥーーーーークゥーーーーーーーッ!!」

ルーク怪人は咆哮を挙げ、真名へと襲い掛かる。

「くっ、ここでは狭くて不利だ!!」

真名は窓を破って外へ出る。

それを追いかけ、ルーク怪人も窓から外に出る。











一方、アスナとこのか(+ネギ、カモ)の部屋では………

「!?」

何かを感じ取り、仕事をしていた手を止める。

「どうかしたか、兄貴?」

「どうかしたの?」

「…………」

急に手を止めたネギを変に思って声を掛けるカモとアスナ。

「いえ、今………ちょ、ちょっと僕、外見てきます」

「へ? あ、ちょっと………」

質問をはぐらかし、カモを伴って部屋を出て行くネギ。

「ネギくん、どうしたん?」

「さあ………?」

残されたアスナとこのかはただ?な顔をするだけだった。

それを窓の外から覗いていた液状の物はニヤリと笑う………











またその頃、女子寮屋上では………

「ニン!!」

「ポーーーーーン!!」

気合と共に西洋甲冑の雑兵………ポーンを忍者刀で斬り捨てる。

「……………」

無言で爆薬入り投げナイフ(超&ハカセ製)を投げつけ、別のポーンを吹き飛ばすザジ。

「チキショウ!! 何だってんだよ、一体!?」

そして、やや離れた物陰からガイアセイバーズの支給品のエネルギーショックガン(超&ハカセ製)で、それを援護している千雨。

しかし、それでも次々に現れるポーン軍団。

「むむ、厄介でござるな………」

「……………」

楓の言葉に無言で同意するザジ。

事の起こりは楓達が帰ってすぐ後、部屋へと向かっていた3人だったが、楓とザジが不穏な気配を察知し、屋上へと向かってしまったので、千雨も流される形でそれに続き、現在に至る。

ポーン1体1体の実力は大したことないが、次々と現れるため手間取っていた。

「とにかく! 時間を稼いで機龍先生達が来るの待つっきゃねーだろ!!」

そう言いながらエネルギーショックガンをバシバシ撃つ千雨。

「そうするしか、ないでござるな!!」

巨大手裏剣を投げつける楓。

「…………頑張る」

ザジも爆薬入り投げナイフを投げる量を増やす。

3人は機龍達が来るのを信じて戦い続ける。











そして、その機龍は………

やっとのことで女子寮に辿り着き、入り口の前にジープを横滑りさせながら止める。

すぐさま、愛刀の二刀とマグナム、ショットガンを装備すると、ジープから降りる。

そこへ、いたるところにブレードホルダーを付けたバイクが横付けし、レインコートを着た2人組が降りてくる。

「「リーダー!!」」

「ジンくん! サクラくん!」

ジンとサクラだった。

「状況は?」

「まだ分からない………だが、只ならぬ気配を女子寮内から感じる………」

と、機龍が言った時、

「あ!! 機龍さーーーーん!!」

さよが入り口から出てきて機龍のことを呼んだ。

「!! 相坂くん!!」

慌てて駆け寄る3人。(サクラはジンの後ろに隠れながら………)

「何があったんだ!?」

さよに状況の説明を求める機龍。

「そ、それが………朝倉さん達が突然水溜りに吸い込まれて消えてしまって、皆さんに連絡しようと思ったんですが、ネギ先生達の部屋も誰もいなくて、桜咲さんと龍宮さんの部屋は窓が破られていて龍宮さんは外でお城の怪人と戦っていて、長瀬さんとレニーデイさんと長谷川さんは屋上で雑兵みたいな敵と戦っています!!」

「しっちゃかめっちゃかだな、おい!」

愚痴を溢しながらも、すぐさま情報を頭の中で整理して命令を飛ばす。

「ジンくんとサクラくんは長瀬くん達の援護に!! 俺は龍宮くんの援護に回る!! 相坂くんは他の3−A生徒達の詳しい安否を確認してくれ!!」

「「「了解!!」」」

各分担場所へと向かう一同。










悪夢はゆっくりと始まった。









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