第43話


665号室(雪広あやか、那波千鶴、村上夏美)………

「………あの子に? 一体、何の御用ですの?」

黒コートの男を怪しむあやか。

「いえ、なに………美しいお嬢様に、花を一輪と思いましてね」

と、それを察してか、帽子をとると笑顔で花を差し出す男。

「え………まあ………御丁寧に………」

突然の男の変わりように戸惑うあやか。

が、差し出された花から粉のような物が放出される。

「え………? あ………ら………?」

途端にあやかは気を失う。

「失礼………」

男はドアロックに手を掛けると、いとも簡単に握り潰した。

そして、ドアを開けるとチェスのナイトの駒を取り出す。

すると、その駒を投げると、駒が巨大化し、馬の頭の騎士の姿となる。

「そのお嬢さんも、一応お連れしなさい」

「ナーーーイト」

あやかを肩に担ぐと、魔方陣を出現させ消えるナイト。

男は帽子を被り直すと、土足のままリビングへと上がる。

突然の訪問者に驚く3人。

「やあ、狼男の少年。元気だったかね?」

小太郎を一瞥して言う男。

「な………お………お前は!?」

その男の姿に仰天する小太郎。











一方、外へと飛び出した真名は………

近くの林へと移動し、木々を間を走り抜けながら、ランツェ・カノーネをルークに向かって撃つ。

「ルゥーーーーークゥーーーーーーーッ!!」

ルークは真名を捕捉できずにいる。

「フ………どうやら見た目どうりで動きは鈍いようだな………スピードでかく乱させてもらう!!」

そう言ってスピードを上げる真名。

ルークの身体に徐々にダメージが蓄積していく。

しかし、それに怒ったルークはとんでもない行動に出る!

なんと! 片手で近くの大木を根元から引き抜き、真名の移動先へ向かって放物線を描くように投げつけた!!

「なっ!?」

慌てる真名を目掛けて落下する大木!

「くっ!!」

咄嗟にローラーを止めて、足で思いっきりブレーキを掛ける。

しかし、間に合わず、落下した大木に下半身を挟まれる。

「うわっ!? しまった!!」

何とか外そうともがくが、大木はビクともしない。

さらに悪いことにランツェ・カノーネを衝撃で手放してしまい、体勢が悪いのでシュルター・プラッテも投げられない。

ルークは真名に近づくと、両手を組みとそれを振りかぶり、真名に振り下ろそうとする。

「!!」

無駄だとわかっているが防御体勢を取る。

そして、ルークが振りかぶった手を振り下ろそうとした時!!

「ふんっ!!」

何者かが、ルークに後ろから胴にベアハッグを掛けた。

「大丈夫か? 真名」

「機龍!!」

現れたのは機龍だった。

「待ってろ! 今助ける!! うおりゃあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

ベアハッグを掛けている両腕に力を込める。

「ルゥーーーーークゥーーーーーーーッ!?」

ルークの城壁のようなボディがミシミシと音を発てへこんでいく。

「うおぉぉぉぉぉぉっ!! ジー○ブリーガー!!」

そして遂に、ルークは胴から真っ二つにへし折れた。

残骸は煙のように消えていった。

「見たか!!」

「………相変わらず信じられないことするな」

やや呆れる真名の下半身に乗っている大木を得意の二刀で細切れにして退かす。

「しっかりしろ!」

「ああ、ありがとう………!! つぅ!!」

起き上がったが、ふらついて倒れそうになった真名を支える機龍。

「どうした!?」

「すまない、足をやられたみたいだ」

「何!? ちょっとゴメンよ」

そう言うと屈み込んで真名の足を見る。

「ちょ、ちょっと!! 何する………」

「左足に裂傷か………軽いが止血せんと………真名、アーティファクトをしまってくれ」

「え!? あ、ああ………」

言われるがままにする真名。

機龍は自分のハンカチを取り出すと真名の傷口に結んで止血する。

「あ………」

「これでひとまず止血はできたが、間に合わせだ。戻って手当てを受けるぞ」

真名をお姫様抱っこで抱き上げる機龍。

「うわぁ!! またか!!」

「じっとしててくれよ。雨で足元が悪いんだ」

結局、二度目となる機龍のお姫様抱っこで運ばれることとなった真名。

終始、顔が赤かったのは言うまでもない。











そして、女子寮屋上では………

すでに楓達の体力は限界に達していた。

「ハア………ハア………マズイでござるな………」

「………(汗)」

「チキショー! 先生達はまだかよ!?」

楓達は屋上の縁へと追い詰められていた。

そんな楓達に容赦なく迫るポーン達。

「ポーーーーン」

「ったく、ふざけた鳴き声出しやがって」

「………まったくだな」

と、不意に男の声が響いたかと思うと、楓達の背後から人影が飛び出してきて、楓達とポーン軍団の間に着地した。

「!! ジン殿!!」

「………ジンさん」

「遅いんだよ!!」

「すまない………だが、遅れた分はきっちり働こう………」

後ろ腰からバスターブレードを抜くと、2本に分けて両手に持つ。

身構えるポーン達。

が、そんなポーン達を背後から複数のミサイルが襲った。

「油断大敵だよ!!」

屋上入り口から現れたサクラが、両肩に白煙の上がるミサイルランチャーを構えながら言った。

虚を衝かれ、あたふたするポーン達。

そして、その隙を見逃すほど、ジンは甘くはない。

ポーン達の中へ突撃すると、まるで流れるような斬撃で次々とポーン達を斬り捨てた。

結果、ものの30秒で全てのポーンを無に帰した。

「………意外と呆気ない奴等だったな」

「しょうがないよ、量産型みたいだったし」

あっけらかんと言うジンとサクラ。

「………おめー等が強すぎるんだっつーの………」

千雨の言葉に楓とザジは無言で同意するのだった。











その頃、665号室(雪広あやか、那波千鶴、村上夏美)では………

「がっ……!!」

黒コートの男の放った一撃に吹き飛ばされ、クロゼットに背中から激突する小太郎。

「きゃああ!?」

「………!?」

悲鳴を挙げる夏美と驚愕する千鶴。

「さて、少年………「瓶」を渡してもらおうかな?」

黒コートの男は小太郎を見据えて言い放つ。

「我々の仕事の目標はネギ少年だが………その瓶に再度封印されては元も子もないのでね」

「瓶………? ネギ………? ネギやて?」

その言葉に頭を抑える小太郎。

「そうだ。思い出したかね?」

「失礼ですが」

と、ここで、千鶴が割り込んだ。

「あなたがどちら様か存じませんが………少なくとも、挨拶も名乗りもしないで、他人の部屋に土足で上がり込むなど、マトモな紳士のすることとも思えませんが?」

「ちっ………ちづね………」

臆することなく男に言い放つ千鶴。

「おや、これは失礼、お嬢さん。日本はそうか、そうだったね、いや失敬。クロゼットも弁償するよ」

それを聞いて、態度を改めたような素振りを見せる男。

「私はヴィルヘルム・ヨーゼフ・フォン・ヘルマン伯爵。伯爵などと言っているが、没落貴族でね。今はしがない雇われの身だよ」

帽子を脱いで、微笑みながら名乗る男………ヘルマン。

「そうだ、美しいお嬢さん達、何か願いごとはないかね? 今ならサービス期間中につき、先着3つまで格安でお受けするが」

右手に花を出して、キャッチセールスか、訪問販売のような勧誘する。

「………? 願いごと………? 間に合ってますわ」

「そうかね、残念だ」

あっさり断る千鶴にやや呆気をとられるヘルマン。

「金髪の姉ちゃんに何したんや?」

と、ダメージから復活しながら、小太郎が言う。

「何、ちょっと戯れにお付き合い願おうと思ってね。さて………瓶を渡す気になったかな?」

帽子を被り直しながら聞くヘルマン。

「何のことかわからんわ。それに、たとえ持ってたとしても………あんたには渡さんけどな!!」

床を蹴って、ヘルマンに飛びかかる小太郎。

「ふむ」

繰り出された小太郎の右ストレートを左腕で防ぐと、同じ右ストレートで反撃するヘルマン。

小太郎はそれを左腕で防ぐと、右手の気を溜めた一撃をお見舞いしようとするが、その前に左ストレートの連撃を受ける。

「ぐっ………!!」

そして、右ストレートをくらい、後方へと吹き飛び転がる。

しかし、体勢を直し、棚を地にして飛ぶと、再び右手の気を溜めた一撃をお見舞いしようとする。

だがそれも、ヘルマンの繰り出した横蹴りで防がれる。

「きゃああ!!」

派手に階段下に叩き付けられた小太郎の姿に悲鳴を挙げる夏美。

(はやくておもい………強いわ、このおっさん)

ニッと笑いながらも、内心でヘルマンの強さを噛み締める小太郎。

「………私は才能のある少年は好きでね。幼さの割に君は非常に筋がいい」

「何?(このおっさんも人間とちゃうな………)」

さらに気配からヘルマンが人外の者だと感じ取る。

「おとなしく瓶を渡してくれれば、君を傷つけずに済むのだがね」

「へっ、傷つけるやて?」

ヘルマンの言葉にカチンとくる小太郎。

「やれるもんなら………やってみい!!」

そう言って分身し、四方八方から攻撃を加える。

「むお? こ、これは………? 影分身というヤツかね!! 東洋の神秘!!」

意外な攻撃に虚を衝かれるヘルマン。

「もらった!! テキサス・コ○ドル・キック!!」

そこへ小太郎の膝蹴りが決まる。

「ぐむ………」

ダメージに多少顔を歪めるヘルマン

「余裕ぶっこいとるからやで、おっさん。これで終わりや!!」

小太郎は狗神を呼び出そうと右手を振りかぶる。

だがしかし、懲罰により、特殊能力を封じられているため出せなかった。

(!? 狗神が出えへん)

「うむ、素晴らしい。やはり思った以上に見込みがあるな、君は」

ヘルマンは素早く体勢を立て直し、小太郎の右手を掴む。

「しかし、残念ながら、術が使えないことは、忘れたままだったようだね」

「小太郎ク………」

「そうやったんか………だったら!!」

小太郎は掴まれた右手を振り解き、ヘルマンの背中へと廻ると、頭の両脇を掴み、右膝を背中に押し付ける。

「くらえ!! カーフ・ブラ○ディ………」

「甘い!!」

だがヘルマンは、素早く手を回し小太郎を掴むと、ボディスラムで投げ飛ばす。

「のわっ!!」

「地獄の断○台!!」

小太郎の首を脚でロックして床に叩き付ける。

「いやあっ!!」

夏美が悲鳴を挙げる。

「ぐっ………う………が………」

「前途有望な少年の未来を閉ざすのは、本意ではないのだが………恨まないでくれたまえ」

倒れた小太郎の胸を踏み付けると口内に魔力を溜めるヘルマン。

「く………」

避けようにも身体が動かない小太郎。

だがそこへ、千鶴がヘルマンに平手打ちかました。

「もぷ!?」

意味の分からない叫びと共に口内の魔力が拡散するヘルマン。

「………!?」

そんな光景にムンクの叫び状態となる夏美。

「どんな事情か知りませんが、子供に対してすることではありませんわ」

毅然とした態度を取る千鶴。

「ちづ………姉ちゃん………アカン………」

「これは驚いた。気丈なお嬢さんだ。このように反応できる人間は非常に珍しいよ」

鼻血を出しながら気取るヘルマン。

………はっきり言って、かなりマヌケな姿だ。

「小太郎くんといい、君といい、大変気に入った。ついでだ、君達にも一緒に来て頂くことにしようかな」

「え………!? 私も!?」

ヘルマンを見据える千鶴と、巻き込まれてガタガタと震える夏美。










外の雷雨は一層激しさを増していた。










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