第53話


図書館島にて………

今日も未知なる書物を求め、謎深き図書館島への冒険に挑む、3−A図書館探検部。

果たして、新たなる図書を発見することができるのだろうか?(ナレーター:田中○夫)

「今日こそ秘宝の図書を見つけるよ〜〜!! 皆!! 準備はいい!?」

のっけからハイテンションのハルナ。

「おお〜〜〜!!」

それにノリで答えるこのか。

「お………お〜〜〜〜」

やや戸惑いながら答えるのどか。

「やれやれ………」

そして、呆れ気味の夕映。

「よ〜〜〜し!! それじゃ、いってみよ〜〜〜〜っ!!」

3者3色の答えを気にも留めず、ハルナは先陣を切る。

3人もそれに続くのだった。











4人は、貴重図書盗掘者用のワナをかわし、本棚の山を、谷を越え、奥へ奥へと進んでいく。

………てか!! ホントにここは図書館か!?

そして、中学生が行けるギリギリの未開エリアで秘宝の図書の捜索にかかる。

「う〜〜〜ん、これといって珍しい本はないね〜〜〜」

やや落胆の色を見せるハルナ。

「あ! この本面白そ〜〜」

「あ! これ、読みたかったんです」

それを他所に、面白そうな本を読みふけるこのかとのどか。

一方、夕映は………

「哲学書はないですか………」

哲学書を探している内に、のどか達から離れていってしまっていた。

「あ! あったです」

と、本棚の上の方に哲学書を発見する。

しかし………

「と………届かないです」

精一杯背伸びをして哲学書に手を伸ばすが、身長の低さゆえに届かない。

背伸びをしすぎて、足が攣ってしまうのではないかと思われたとき、

「はい、どうぞ」

横から手が伸びてきて、夕映が取ろうとしていた本を取って目の前に差し出した。

「あ、どうも………あれ? クルーウェルさん?」

本を取ったのはレイだった。

「よっ、夕映ちゃん」

「どうしてクルーウェルさんがここに?」

「俺も趣味が読書でね。暇ができると、ここに来てるのさ」

そう言いながら、棚から読もうと思う本を取るレイ。

「でも、ここに来るまではかなり大変だったのでは………」

「ああ、それなら大丈夫。広域指導員の権限で秘密通路を使わせてもらったから」

「………それは職権乱用です」

「固いこと言うなって」

呆れる夕映と変わらぬ調子のレイ。

「はあ〜〜………まあ、いいですけど………」

タメ息を吐くと、近くに椅子に腰掛けて、哲学書を読み始める。

「隣、座るよ」

「どうぞ」

レイもその隣に腰掛けて、選んだ本を読み始める。

そのまま少し時が過ぎた後、夕映はレイに話しかける。

「あの………クルーウェルさん」

「ん? 何だい?」

「惑星Jとはどんな星なんですか?」

「? どうしてそんなことを?」

?を浮かべるレイ。

「いえ………地球にはない蔵書があるんではないかと………」

どうやら夕映は、惑星Jには地球にはない蔵書があるんではないかと思っているようだ。

「なるほど。ホントに本が好きなんだな」

レイは微笑ましく笑う。

「そうだな〜、有名な著書だと………アルサレアのエース、グレン小隊のグレンリーダーの活躍を同じ小隊の隊員が纏めた『グレン戦記』とか」

「ほうほう」

「惑星Jの辺境、Gエリアの調査隊の調査報告を基にした『Gエリアに野獣を見た!』」

「おお〜〜」

「グレンリーダーの追っかけ隊が編集、『グレンリーダー様の華麗なる1日』とか」

「………それは、ちょっと」

最後のには少し引いたが、概ね気に入った様子の夕映。

「まあ、俺にはこの図書館も大分興味深いけどな。ここまで大規模な図書館なんて見たことないぜ」

「確かにこの図書館島は日本………いえ、世界最大規模と言っても過言ではないでしょう」

「へえー、凄いな」

純粋に驚いているレイ。

「………で、こっちにはどんな蔵書があるんだ? お勧めがあったら教えてくれないかな?」

「ええ、いいですよ」

2人はしばらく本の話で盛り上がるのだった。











一方、その頃………

「ハッ!!」

突然声を挙げるハルナ。

「ハルナ?」

「どないしたんや、ハルナ?」

「今、微かに………ラブ臭の始まりを感じた!!」

………鋭い!!











同刻、麻帆良学園都市内の保育園………

「こんにちは、皆」

そこは、千鶴がボランティアで働いている保育園だった。

「あ、千鶴お姉ちゃんだ!!」

「「「「わ〜〜〜〜い!!」」」」

千鶴の姿を確認すると群がってくる子供達。

「あらあら、皆元気ね。そうそう、今日はね………新しい保育士の人も来てるの」

「え〜〜、誰々?」

「お姉ちゃんの先生の知り合いの人よ………さあ、どうぞ」

「では、失礼します」

そう言って入ってきたのは、アーノルドだった。

「え〜〜………今日から、こちらでバイトを始めることになったアーノルド・アルバトスです。皆、よろしく」

「「「「……………」」」」

途端に黙り込む子供達。

「ど、どうした? 皆」

アーノルドがそう言って1歩近づくと、ズザザァーーと後ずさる子供達。

どうやらアーノルドの強面の顔は、子供達には恐過ぎたようだ

「…………」

その光景に、少なからずショックを受けるアーノルド。

千鶴はそんなアーノルドの肩に手を置いて言った。

「大丈夫。すぐに皆懐いてくれますよ」

「………だといいのですが………」











その後、休み時間となり、子供達は保育園に庭に出て遊んでいる中、アーノルドは職員室でその光景を眺めていた。

あの後、千鶴とアーノルド自身の努力によって、露骨に恐がられることは無くなったものの、未だに子供達はアーノルドから1歩引いているところがあった。

「お茶が入りましたよ」

とそこへ、千鶴がお茶を持ってきた。

「ああ、これはどうも」

アーノルドは1口飲んでタメ息を吐くと、再び子供達の方に視線を向ける。

「ふふふ………やっぱり、子供が好きなんですね」

「え?」

アーノルドは意表を衝かれたように千鶴の方を見る。

「さっきから子供達を見ている時、優しい目をしていますもの」

「あー、いや、敵いませんな」

照れ隠しに頭を掻くアーノルド。

「ふっ………子供は良い。純粋無垢で、穢れを知らぬ」

三度子供達に視線を向け、語り始める。

「いつか………あの子等が安心して笑える世界になると良いな………」

「そうですね………」

そう言い合うと、2人は互いの顔を見て、ニッコリと笑うのだった。

と、その時!!

「「「「キャアァァァーーーーーッ!!」」」」

突然、子供達の悲鳴が響いた。

「!! 何!?」

驚く千鶴。

しかし、アーノルドは、その悲鳴を聞くがいなや、外へと飛び出していった。











保育園の庭を逃げ回る子供達。

そんな子供達を追い回すのは大型の野犬だった。

どうやら、どこからか迷い込んできたようだ。

しかもかなり気が立っている。

非常に危険だ。

「あっ!!」

と、1人の子供が躓いて転んでしまう。

野犬は迷わず、転んだ子供に飛びかかった。

「う、うわぁぁぁーーーーっ!!」

しかし、その時!!

「むんっ!!」

何と!! アーノルドが子供と野犬の間に割って入り、野犬に自分の左腕を噛み付かせ動きを止めた。

「あ!」

「逃げろ!!」

アーノルドに促がされ、子供は慌てて立ち上がってその場を離れる。

「よし、後は………ぬおぉぉぉーーーーっ!!」

左腕を振って、野犬を振り解く。

野犬は地面を少し転がった後、体勢を立て直すと低く唸り声を挙げてアーノルドを威嚇する。

アーノルドは無事な右腕にトンファーを構える。

左腕からは大量の出血をしているが、闘志は衰えていない。

と、野犬がアーノルドに奇襲とばかりに飛びかかった。

だが、アーノルドはヒラリとそれをかわすと、野犬の延髄にトンファーを叩き込む。

野犬は、キャインと声を挙げ逃げ去った。

「ふう〜、危ないところだった………アイタタタッ!!」

事が終わって緊張が切れたのか、左腕の怪我に痛みを感じ始めるアーノルド。

「アーノルドさん!!」

職員室から出てきた千鶴が慌てて駆け寄ってくる。

「大変!! 直に手当てを!!」

千鶴はアーノルドを連れて、職員室へと戻っていった。











その後、野犬は通報で駆けつけた保健所に引き取られ、アーノルドは職員室で千鶴の手当てを受けている。

「………これでよしっと」

アーノルドの左腕は包帯でグルグル巻きにされていた。

「どうもすみません」

「応急手当ですから、後でちゃんと病院に行ってくださいね」

治療用具を救急箱に片付けながら言う千鶴。

「はい………しかし、子供達には却って恐いところを見せてしまいましたな」

落ち込むアーノルド。

千鶴も掛ける言葉がなく、沈黙してしまう。

と、不意にノックの音が聞こえてくる。

「あら? 何かしら?」

千鶴がドアを開けると、そこには子供達の姿があった。

「あら、皆」

「千鶴お姉ちゃん………アーノルドおじちゃんは?」

野犬に襲われそうになった子供が千鶴に尋ねる。

「大丈夫よ。思ったより酷い怪我じゃないから」

「あの………入ってもいいですか?」

「ええ、どうぞ」

千鶴に促がされ、職員室に入ってくる子供達。

「皆………」

「アーノルドおじちゃん………ゴメンなさい………僕のせいで怪我させちゃって………」

襲われそうになった子供が申し訳なさそうにアーノルドに言う。

「ハハハ、大丈夫大丈夫!! こんな怪我全然大したことないぞ!!」

そう言いながら、包帯の巻かれている左腕を右手でバシバシと叩いてみせるアーノルド。

(アーノルドさんたら………無理して………)

そう思いながらも敢えて口にしない千鶴。

「でも………」

「子供がそんなに責任を感じる必要はないぞ。責任を取るのは、我々大人の仕事だ」

アーノルドは子供の頭を優しく撫でてやる。

「………アーノルドおじちゃん!!」

感極まった子供がアーノルドに飛びつく。

「「「「おじちゃ〜〜〜ん!!」」」」

それをきっかけに子供達がアーノルドに群がる。

「うわっ!! ちょ、ちょっと!! 落ち着きたまえ!!」

「あらあら………すっかり人気者ですね」

子供達に一斉に群がられてやや困っているアーノルドを見て、千鶴は言うのだった。











ガイアセイバーズ基地、格納庫にて………

Jエアロが納まっているハンガーで、

「じゃあ、始めるから、確認の方を頼むぞ」

「はい! お任せください!」

コックピット内で愛機の整備のチェックをしているレッディーと、それを外部から整備用コンパネで手伝うさよ。

「では、ウィン! チェック開始!!」

[了解! チェック開始しまーす!!]

レッディーがそう言うと、機体AI『ウィン』がチェックを始め、その結果が整備用コンパネに伝送される。

「え〜〜と………駆動系………OK。センサー及びレーダー並びに電子機器………OK。武装管制………OK。その他各所………OK!」

それを確認しながら纏めていくさよ。

「よ〜〜し、後は………こうして、こうやって………こう!!」

と言ってコンパネを操作したその時!!

[エラー!! エラー!!]

けたたましくエラー音が鳴る。

「え!? ああ!! 間違えた!!」

そして、今まで纏めていたデータが消失する。

「どうした? さよちゃん?」

何事かと思い、コックピットから出てくるレッディー。

「はうぅぅぅ〜〜〜〜!! すみませ〜〜〜ん!! データが飛んじゃいました〜〜!!」

涙目になってレッディーに謝るさよ。

(ああ!! 私ったらまたドジ踏んじゃって………私ってやっぱりダメ幽霊!?)

落ち込むととことんヘコむタイプのさよ。

しかし、レッディーはそんなさよに笑いかけながら言った。

「そっか………じゃあ、仕方ないな。やり直そう」

「え!?」

一瞬、さよは呆気取られる。

「あの………怒ってないんですか?」

「ワザとじゃないんだろ? だったらやり直しゃいいだけの話だ」

「でも………」

やはり失敗を気にする。

[ほらほら、さよちゃん、落ち込まない! あんまり細かいこと気にしてると早死にしちゃうよ]

ウィンもさよを励ます。

「………私、もう死んでるんですけど」

[あっ! そうだった………うっかり!!]

「フ………ハハハハ!」

その2人(?)の会話に思わず吹き出すレッディー。

「プ………アハハハハ!!」

そんなレッディーに釣られ、さよも笑ってしまうのだった。

「それじゃ、やり直そうか」

「ハイ!!」











そして、作戦室では………

「え〜〜………以上により報告を終了する、っと。ふぅ〜」

ゼラルドは報告書をまとめ終わり、一息を吐く。

いつもなら全員揃うと騒がしい作戦室だが、平日の午後とあって現在いるのは当直のゼラルドだけだった。

と、その作戦室の扉が開いた。

「こんにちは〜。あ、ゼラルドさん!」

「ああ、和泉ちゃんか」

入ってきたのは、亜子だった。

「お疲れ様です」

「お疲れ。今日は1人かい? 珍しいね」

いつもなら、まき絵、アキラ、裕奈の運動部4人組でいることの多い亜子。

「はい、まき絵はPFの適正が認められてアキラと一緒に訓練を受けてて、裕奈は部活のある日やから」

「そうか。とりあえず、出勤簿はオペレーター席の方にあるから、記入を頼むよ」

「はい」

亜子は短く返事をして、オペレーター席の方へ向かって行く。

ゼラルドは、再び報告書に目を向け、両脇を持って立てて、机の上でトントン軽く叩き揃える。

と、

「イタッ!」

不意にゼラルドが声を挙げた。

「ど、どないしました!?」

驚いてオペレーター席からゼラルドを見る亜子。

「いや、すまない。うっかり切ってしまってな」

ゼラルドの左の親指から血がポタリと落ちる。

どうやら、揃える時に紙の端で切ってしまったようだ。

「ひっ!! ち、血〜〜〜〜っ!! これ使ってください!!」

慌てて絆創膏をゼラルドに差し出す亜子。

「あ、ああ………ありがとう」

亜子の異様な慌てぶりにやや狼狽しばがらも、絆創膏を受け取って傷に付けるゼラルド。

(ハア〜〜………ダメやな、ウチ………相変わらず、血見るとあのこと思い出してもうて………)

「随分慌てていたけど、血に何か嫌なトラウマでもあるのかい?」

ゼラルドは心配そうな目で亜子を見る。

(そういえば………ゼラルドさんも、傷、持ってんな………)

ふと、ゼラルドの左目の傷を見る亜子。

「はい………あの、ゼラルドさん」

「? どうした?」

「あの………その左目の傷って………」

「ん? コレか?」

傷を左手で触りながら言うゼラルド。

「………気にならないんですか?」

「え? いや、特に気にしたことはないが………」

「強いんですね、ゼラルドさんは………」

表情を暗くする亜子。

「………私でよければ、相談に乗るぞ」

亜子の心情を察してか、優しく聞くゼラルド。

「ウチ………」











「背中の傷か………」

「ウチ………ごく普通の中学生やし………これといって取り得もないし………特にこの部隊も重要な役にいるわけやないし………それなのにこんな傷負ってて………やっぱウチ………脇役人生なんやわ」

そう言ってさらに表情を暗くする亜子。

「舞台において、脇役という役は存在しない」

不意に言い始めるゼラルド。

「え?」

「舞台においては誰もが主役だ。誰か1人が欠けたとしても、舞台は成り立たない。だから、役者は皆、自分が主役のつもりで役を演じるんだ」

「ゼラルドさん………」

亜子は驚きの表情でゼラルドを見やる。

「それに………私のこの傷も、結構理由ありでな」

「え!?」

「いや、実はこの傷はな………」

今度はゼラルドが自分の過去を話し始めるのだった。











「………と、まあ、こんな感じでな」

「……………」

亜子はあんぐりと口を開けて呆然としている。

ゼラルドから語られた過去はあまりにも壮絶だった。

家族の死。

ヴァリムへの加担。

レッディーとの対決。

ガーディアンエルフの結成。

1つ取っても、本が書けそうだ。

「何や………ウチのことなんかちっぽけに思えてきたわ………」

あまりのことに悩みなど吹っ飛んでしまう亜子だった。

「………でも、何や、心が軽くなった気がします。ありがとう、ゼラルドさん」

「そうか。それはよかった」

この後、亜子がこの話を他の人に喋ったため、ゼラルドはしばらく隊員の相談役を買わされるのだった。











静寂を切り裂いて、サイレンの音が響く。

ガイアセイバーズ隊員達が次々に作戦室に集合する。

全員が集まったところで、機龍が話し始める。

「ヴァリム軍が出現した!! 総員、出撃せよ!!」

「「「「「ラジャー!!」」」」」

敬礼し、スロープへと飛び込んでいく隊員達。

「行くぞ! レッディー!!」

「了解! 大佐!!」

「レイ! 遅れを取るなよ!!」

「教官こそ! ドジ踏まないでくださいよ!!」

互いに声を掛け合って、スロープに飛び込んでいくレッディーとゼラルドに、レイとアーノルド。





この世にヴァリム軍の悪行がある限り、彼等は今日も、戦い続けるのだ。





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