屋台超包子にて………
「「「「こんにちは〜〜!」」」」
「あ、いらっしゃいませ」
カウンター席座った、ネギ、アスナ、刹那、このかの何時もの4人組に出迎えの声を掛けるゼオ。(五月は肉まんの販売に出かけている)
「ゼオくん、今日のお勧めは?」
「今日は中華丼がお勧めかな?」
「じゃあ、それください」
「はいよ、ちょっと待っててね」
オーダーを受け、調理を始めるゼオ。
その手際は、鮮やかそのものだ。
「相変わらず、男のくせに良い料理の腕ね〜」
「その考えは古いな、アスナちゃん。今は男も料理ぐらいできなくちゃ」
「………どうせ私は家事ができませんよ」
「アスナさん、だれもそんなこと言ってませんよ」
勝手にヘコんだアスナを取り持つ刹那。
「よう! 調子はどうだ?」
「お邪魔するよ」
とそこへ、機龍と真名が現れ、同じくカウンター席に座った。
「「あ、機龍さん(先生)」」
「龍宮さんも………」
「珍しいな、龍宮。超包子に来るなんて」
「ん、うん、まあ、たまに良いかなと思ってな………」
やや歯切れが悪く言う真名に、怪訝な表情を浮かべる刹那。
実は、真名は仕事の帰りに偶然機龍に出くわし、機龍が超包子に行くと言ったのでついて来たのだった………
………まさに恋する乙女。
「あ、いらっしゃいませ」
「よう、ゼオ。真面目にやってるみたいだな。お前が入ってから売上が伸びたって、超が言ってたぞ」
「いえ、そんな………ありがとうございます、機龍さん」
「? 何で礼を言うんだ?」
「超ちゃんから聞きました。俺がこうして働けているのは、機龍さんが関東魔法協会の人達を説得してくれたからだって」
そう、勇輝の時もそうだったが、機龍は元ヴァリム軍の関係者が麻帆良に住むことについて、難色を示していた協会の説得を一手に引き受けていたのだ。
………その際、万が一があった時には責任を取って切腹するとまで言っていたので、逆に協会側が機龍を説得する羽目になったと語っておこう。
「気にするな、別に恩を売ったわけじゃない」
「でも………色々ご迷惑をお掛けしてますし………」
「良いって良いって。それより、今日のお勧めは何だい?」
「あ、今日は中華丼がお勧めみたいですよ、機龍さん」
ゼオに代わって、ネギが答えた。
「そうか。じゃあ、それ貰おうか」
「私もそれで」
「あ、はい。分かりました」
すぐさまゼオは、追加分の調理に掛かるのだった。
「やれやれ………どっかの誰かさんも見習って欲しい謙虚さだね………」
*
とある工事現場………
「ヘックション!!」
「どうした、兄ちゃん? 風邪か?」
「いや、どっかの誰かが俺の悪口言ってんだろ」
そう言って、勇輝は再び削岩機でアスファルトを剥がし始めるのだった。
*
場面は戻って、超包子では………
「お待たせしました!!」
そう言って、機龍達に中華丼を差し出すゼオ。
「「「「「「いっただきま〜す!!」」」」」」
声を揃えて、一斉に箸を付け始める機龍達。
「うん、美味しい!」
「こんな美味しい中華丼、食べたことないわ!」
「アカン、頬っぺた落ちそうやわ」
「これほどまでの腕とは………見事!」
「ほ〜〜、こりゃ美味いな」
「良い味出してる」
そして揃ってゼオの腕を褒め称える。
「いや、そんな………」
それを聞いて、照れながら頭を掻くゼオ。
と、ふと機龍が、腕時計に目をやった。
「お! ゼオ、そろそろ時間じゃないか?」
「え? あ、ホントだ」
ゼオも、屋台内に設置された時計を見て確認すると、カウンターの隅に置かれた、超&ハカセ作の小型ワイヤレステレビをつけた。
………因みに、このテレビ………超とハカセによると、ゲッ○ー線で動いてるらしいが、真偽は定かではない。(この前、ロボットに変形したとかクーが言っていたらしい)
そして、画面に映ったのは………
チャンチャカチャカチャカ、チャンチャン♪
笑点だった。
「え〜〜、毎度馬鹿馬鹿しいお話で1つ。え? あっしの出番じゃない? こらまた、失礼しました〜」
「アッハハハハハ!!」
爆笑しているゼオ。
「ハハハハハッ!!」
つられてこのかも爆笑する。
「しかし、笑点がお気に入りとは………」
「ええ、潜伏中に偶々見たんですけど、それ以来、気に入っちゃって………アハハハ!!」
機龍の疑問に爆笑しながら答えるゼオ。
[まったくだよ。戦闘中もこの番組の時間になると、戦闘をそっちのけにして撤退するくらいだからね]
不意に機械的なかなりのクールボイスが響いた。
「あ、バロンか」
そう言ってゼオは腕時計を構える。
声の主は、ゼオの愛機『シャドウレイヴン』の機体AI『バロン』だった。
現在、シャドウレイヴンはガイアセイバーズ基地格納庫にて、管理・保管されおり、バロンの会話は腕時計通信機でなされている。
「本当か、それ?」
[ああ、本当だよ]
「そうか、今までの戦いで妙な撤退を繰り返してたのはそのせいか」
[ああ、他にも、トルネードヘッジホッグした後は、目を回してしまって撤退ってのもあったね]
「おい、バロン! 何、人の恥部を暴露してんだ!!」
[聞かれたから答えたまでさ]
「お前ってヤツは!!」
腕時計通信機に向かって怒鳴るゼオ。
………中々シュールな光景だ。
「へぇ〜、優秀なんだな」
[まあ、何だかんだ言って、長い付き合いだからね]
「………まあね。俺もバロン以外のAI搭載機には乗りたくないな」
しかし、信頼関係は深いようだ。
「ごちそうさまでした」
「ごちそうさま」
と、ネギ達が何時の間にやら食べ終わった丼を置いた。
「美味しかった〜〜」
「また来るで〜、ゼオくん」
去り際に、このかがゼオに手を振った。
「あ、うん………またの御来店をお待ちしています」
ゼオは顔を赤くして手を振り返すのだった。
「そっちの関係も相変わらずみたいだな」
「え!? あ、いや、関係だなんて………そんな………」
機龍の言葉に、ゼオはさらに顔を赤くして俯くのだった。
*
翌日………
商店街に買い出しに来ているゼオ。
安くて新鮮な食材を求め、彼方此方を歩き回る。
と、その途中、ゼオはとある光景を目にした。
「ん? あれは………このかちゃん? と………」
逃げるように走っているこのかと、それを追っている黒スーツにサングラスといった出で立ちの男達。
「あ、ゼオくん! 助けて〜な!!」
このかは、ゼオを見つけるとその後ろに隠れた。
「このかお嬢様!!」
「いい加減にしてください!!」
黒スーツの男達はゼオの前に広がる。
「君、そこをどきなさい」
その中の1人が、このかに手を伸ばした。
ビクッと震えるこのか。
それを見た途端!!
ゼオは伸びてきた手を掴むと、男を投げ飛ばした!!
「ぐわぁぁぁっ!!」
「何!?」
慌ててゼオと距離を取り、身構える男達。
「………いい加減にするのは、お前達だ」
戦闘時の人格に切り替わり、男達を睨みつける。
「き、君! 我々は………」
男の1人が何か言おうとした瞬間!!
「ペ○サス流星拳!!」
ゼオの、目にも留まらぬ拳の連打が炸裂し、男達は全員、宙を舞った。
そして、全員が声を揃えてこう言った。
「「「「「「小宇宙(コスモ)が見える〜〜〜〜〜っ!!」」」」」」
男達は地面に落ちると、全員気絶した。
「うわ〜〜! ゼオくん、凄い!!」
「逃げるよ! このかちゃん!!」
感嘆の声をあげるこのかの手を引いて、ゼオは人垣ができていたその場を離れるのだった。
*
暫く走って、足を止める2人。
「はあ〜〜、助かった」
「あの連中は一体は何者だい? 訓練を受けていたみたいだったけど?」
落ち着いたところで、ゼオはこのかに状況の説明を求めた。
「実は、あの人達は………」
「あの人達は?」
「………お爺ちゃん達の部下なんや」
「へっ!?」
思わず間の抜けた顔になるゼオ。
このかちゃんのお爺ちゃん=麻帆良学園の学園長兼関東魔法協会理事長=ここの最高権力者………
頭の中ではそんな式が成り立っていた。
途端にサーッと血の気が引き、顔が青くなる。
「い、一体何でまた、そんな人達に追われてたの?」
「お爺ちゃんの悪い趣味のせいや」
「悪い趣味?」
「そうや。ウチにお見合いを勧めてくるんや」
「お見合い!?」
中学生にお見合いを勧めるなんて、とんでもない爺さんである。
「そりゃまた、難儀なことで………これからどうするの?」
「ほとぼりが冷めるまで逃げたいんやけど………ウチ1人やとまた見つかってしまうかもしれんし………」
それを聞いたゼオは、少し考えるような素振りをすると言った。
「じゃあ、俺が一緒についててあげるよ」
「え? ホンマに!?」
「ああ。一旦、買い出しの材料を超包子に置いてからになるけど、今日はこのかちゃんに付き合うよ」
「うわ〜〜!! うれしい〜〜〜!!」
このかは、ゼオに抱きついた。
「!!〜〜〜〜(赤)」
途端に顔を真っ赤にして、頭から煙を噴くゼオであった。
*
一方その頃、学園長室前にて………
学園長に呼び出された機龍がやって来て、扉をノックした。
「入りたまえ」
「失礼します」
学園長室に入り、学園長のいる机の前まで歩み寄ると、ビシッと敬礼をする機龍。
「学園長、本日はどのようなご用件でしょうか?」
「うむ。まあ、楽にしたまえ」
「はっ!!」
そう言われて、機龍は休めの体勢をとる。
「実はな………このかがいなくなってしまってのぅ」
「近衛くんが?………!! まさか、誘拐ですか!?」
慌てる機龍。
このかは、ネギの父・サウザンドマスターをも凌ぐ魔力の持ち主。
現在のところ、ヴァリムとそれに加担している千草以外の敵に狙われたことはないが、事が公になれば複数の悪が彼女を狙う可能性がある。
しかし………
「いや、そうじゃなくて………家出みたいなもんじゃ」
「はっ?」
学園長の一言に、機龍は思わず間の抜けた声を出す。
「あの、学園長………それはどういった事で………」
「うむ、それがのう………」
学園長は、このかが逃げ出した理由を説明した………
「………失礼ながら、それは明らかに学園長に問題があると思われます」
「そうかのう?」
「中学3年生の少女に、成人した男性を見合いに勧めるなんて………ある意味、犯罪です」
「うむ………」
閉口する学園長。
「兎も角、近衛くんのことは私が責任を持って探します。学園長の方も、もう少し検討をお願いします」
「うむ、頼んだぞ」
「では、失礼します」
再び学園長に向かって敬礼すると退室する機龍。
「やれやれ………困ったものだ」
その後、廊下で聞こえないように愚痴を零すのであった。
*
一方、ゼオとこのかは………
学園長と機龍のことなど、これっぽちも知らずに、麻帆良の彼方此方を遊び歩いていた。
「アハハハ、楽しいな〜〜」
「ハハハ、そうだね」
傍から見ると、デートのような光景である。(本人達が自覚しているかどうかは不明だが………)
と、不意にゼオは、表情を険しくした。
「どうしたん? ゼオくん」
「しっ!! ………着けられてる」
「えっ!?」
「こっちだ!!」
ゼオは、このかの手を取ると、通りから陰になる路地裏に駆け込む。
「!!」
それを見た追跡者は、慌てて自分も、その路地裏へと入って行った。
しかし、そこに2人の姿はなかった。
「!?」
「こっちだ!!」
驚いていた追跡者の上から声と共に、戦闘時の人格になったゼオが降ってきた。
「てやあぁぁぁーーーーーっ!!」
気合の掛け声を挙げ、追跡者にキックをお見舞いする。
「!!」
しかし、追跡者はあっさりとそれをかわすと、反撃を叩き込む。
「何っ!?」
反撃をガードすると、今度はスタンロッドを取り出し右手に持つと、追跡者を肉薄する。
すると、追跡者は素早く二刀を抜いた。
「たああぁぁぁぁぁーーーーーーっ!!」
そのまま両者は、互いの得物を激しくぶつけ合う。
(強い!! スタンロッドの電撃は伝わってるはずなのに………何て奴だ!! ………でも、この太刀筋、どこかで見たような?)
と、ゼオが思った瞬間、刀の刃が肩を掠り、服が切れた。
「くっ!!」
だが、怯まずにスタンロッドを振り続ける。
(このままじゃダメだ………こうなったら!!)
ゼオは、追跡者に伸し掛かるように体当たりし、一緒に倒れこむ。
「!!」
(相打ち覚悟で!!)
素早く左手にリボルバーを持つと、追跡者の額に突き付けた。
しかし、同時に、ゼオの首にも二刀が宛がわれていた。
「ゼオくん!!」
と、路地裏を作っている建物の上から、このかが顔を出した。
ゼオは、構わず引き金に力を入れようとする。
そこへ………
「ハッハハハハ!! やるじゃないか、ゼオ」
「えっ!?」
聞きなれた声が聞こえ、思わず常時の人格に戻るゼオ。
「あ!! 機龍先生!!」
このかが声を挙げた。
そう、聞こえてきた声は、機龍のものだった。
(機龍先生………まさか!?)
恐る恐る追跡者の顔をよく確認してみると………
「こりゃ、この前のとき勝てたのは、やっぱり運が良かったんだな」
正しく機龍その人だった………
「き、きき、機龍さん!?」
「驚く前に退いてくれないかな? 起き上がれないんだけど………」
*
「スイマセンでした!!」
ほぼ体が二つ折りになるぐらいに頭を下げるゼオ。
「気にするな。声を掛けなかった俺も悪いんだ」
ヒラヒラと手を振って言う機龍。
「それにしても機龍先生。何時からいたんや?」
疑問に思って聞くこのか。
「うむ、実はな………」
事の顛末を説明すると………学園長に言われ、すぐさま捜索に出た機龍は、途中でボロボロになっていたSP達と遭遇。
事情を聞きだし、このかがゼオと一緒ということを知り、超包子へと向かった。
そして、超包子で五月から、2人の行き先を聞き出し急行。
すぐさま2人を発見したが、あまりにも良い雰囲気だったので声を掛けられず、暫く様子を見ることにしたのである。
「そうやったんか………」
「覗き見してたみたいでスマンな。近衛くん、学園長には俺からも釘を刺しておいたから、そろそろ戻ってくれないかな?」
「そうだね、日も暮れてきたし………」
ゼオの言うとおり、日は既に夕日になっていた。
「うん。じゃあ、帰ろか」
と、そこへ、機龍の腕時計通信機が鳴った。
「おっと! こちら機龍」
[あ、機龍さん、ハカセです。Jフェニックスの整備のことでちょっと聞きたいことがあるので、後で良いので基地まで来てくれませんか?]
「分かった。じゃあ、後で………いや、今行くよ。ちょうど都合が良いからな」
[え? そうですか? じゃあ、お願いします]
ハカセはそう言い残し、通信を切った。
「悪い! そういう事だから、近衛くんを送るのはゼオに任せるぞ。じゃあな!」
やや一方的に話して、機龍はその場を去って行った。
「あ、機龍さん!」
「気い使ってくれたんや、きっと」
「そうかな?」
「そうや………なあ、ゼオくん………」
ほんのり頬を染めながらもじもじとしだすこのか。
「ん? 何?」
「その………手、繋いで帰らへん?」
「え!? あ、いや………う、うん、良いよ………」
一瞬、顔を真っ赤にして慌てながらも承諾するゼオであった。
夕暮れの街を手を繋いで帰る2人であった。
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