夜の麻帆良の森林地帯………
妖怪が大量発生し、退治を依頼された真名と刹那から応援を頼まれた機龍は、惑星J組を召集し妖怪退治に向かった。
武装して森の中を駆け抜けている機龍、真名。
そして、その後を追う大量の妖怪達。
[こちら、アーノルド、レイ班。標的を現在、作戦通りに誘導中!]
[同じくゼラルド、レッディー班。間もなく目標地点到着します!]
[シリウス、刹那班。作戦は順調に進行中!]
[ジン、サクラ班。目標地点に到達、別命あるまで待機します!]
通信機に次々と仲間達の報告が挙がる。
「分かった。各員、十分に注意せよ!!」
[[[[[了解!!]]]]]
全員からの返事を受けた後、通信を切る。
「俺達も急ぐぞ、真名!」
「ああ!」
そう言って、2人は走る速度を上げた。
妖怪達を倒すために立てた作戦は、いたってシンプルだった。
全妖怪を一箇所に集め、包囲した後一斉射撃にて殲滅するというものだ。
本来ならばPFで殲滅するのが、最も手早く且つ安全なのだが、市街地が近いため、PFでは民間人に気づかれてしまう可能性があった。
そのため、機龍は全員に重武装、重火器の使用を許可していた。
果たして、上手くいくのか………
*
誘い込みポイントの段差のある川原………
そこには既に、大量の妖怪達が終結していた。
機龍と真名は、そこへ到着するとバッと2人別々に横に飛び、追ってきていた妖怪達を川原へと落とした。
妖怪達の鳴き声が響き渡る。
「よし! 全員、配置に着いたか!?」
「「「「全員、配置完了!!」」」」
それを取り囲むように、ガイアセイバーズが展開する。
「よし! 撃てぇぇぇぇぇぇーーーーーーーっ!!」
機龍の号令と共に、ガイアセイバーズは一斉射撃を行なった。
弾丸、レーザー、ミサイル、魔法弾などが妖怪目掛けて飛んで行く。
「「「「「「撃つべし! 撃つべし! 撃つべし!」」」」」」
完全に包囲された状態での一斉攻撃に為す術もなく、妖怪達は一方的に駆逐されていく。
「良いぞ!! もう少しだ!!」
だが、その時!!
1匹の妖怪が苦し紛れに放った火炎弾が段差に直撃し段差が崩れ落ち、偶々上にいた真名が巻き込まれた。
「!? う、うわぁぁぁぁーーーーーっ!!」
「!! 真名ぁぁぁーーーーっ!!」
慌てて段差の下を覗き込む機龍だが、一斉射撃によって巻き起こった土煙で確認できない。
「ヤロウッ!!」
すぐさまシリウスが、火炎弾を放った妖怪に小型ガトリング砲を撃ち込み、トドメを刺した。
それを確認すると、段差から飛び降りる機龍。
「真名!! 無事か!? 返事をしろーーーっ!!」
機龍は、大声で真名の名を叫んで、妖怪の死体を掻き分けるようにして真名を探す。
と、
「!! ぷはっ!!」
川の中から、真名が這い出てきた。
「真名!! 大丈夫か!?」
慌てて傍に駆け寄り、手を貸す機龍。
「あ、ああ、大丈………ハクションッ!!」
その手を借りながら川から抜け出た真名だったが、上った所で大きなくしゃみをした。
よく見ると、身体も小刻みに震えている。
季節は2月下旬。
段々と暖かくなってきたとはいえ、この時期に川に飛び込むというのは些か無謀だったようだ。
「こりゃイカン………寮まで送ろう」
「いや、今日は都合で実家の方に帰らなくてはいけないだ………」
「じゃあ、実家まで………」
「いや、大丈夫だ。それじゃ、また………」
気遣う機龍を振り切り、真名はその場から去って行った。
取り残された機龍は、真名のことを気にしながらも、報告書を纏めなくてはならないため、止むを得ず隊員共々と基地へと帰還するのだった。
*
翌日………
3−A教室………
朝からハイテンションで騒がしい教室へと入る機龍。
「ホームルームを始める。全員静粛に!」
機龍の号令一声で一瞬にして自分の席について静まり返る3−A。
………大した統率力だ。
「では、出席を取る」
出席簿を取り出し、出席を取り始める機龍。
呼ばれた生徒は、次々と元気よく返事をしていく。
「佐々木 まき絵」
「はーい!」
「椎名 桜子」
「はーい!!」
「龍宮 真名」
と、ここで返事が途切れる。
怪訝に思った機龍が、真名の席に目をやると、そこに真名の姿はなかった。
「龍宮 真名………欠席か?」
「あれ? どうしたんだろ?」
「龍宮さんが休みなんて珍しいね」
教室内がざわめき立つ。
と、そこへ、
「おはようございます、機龍さん、皆さん」
ネギが教室へと入ってきた。
「おはよー、ネギくん!」
「おはようございます、ネギ先生」
元気に挨拶を返す3−A。
「おはようございます、ネギ先生」
「おはようございます、機龍さん。出席の方は?」
「あー、それが………龍宮 真名が来ていないのですが………」
「ああ、龍宮さんでしたら、今朝実家の方から連絡があって、風邪を引いたそうなので休ませるそうです」
「風邪?」
「嘘ーーーっ!! 龍宮さんが風邪!?」
「鬼の霍乱ネ………」
「あなた達、龍宮を何だと思ってるんですか(汗)………」
3−Aは、途端に騒ぎ出す。
「静かに!!」
しかし、またも機龍の一声で静まり返る。
「じゃあ、機龍さん。後の出席は僕が取りますから」
「ああ、すみません………」
機龍は、ネギに出席簿を手渡すと、窓側の黒板横の壁に背を預けて腕組みをしながら考え込んだ。
(やっぱり………昨日のアレが原因かな?………)
そんな機龍を他所に3−Aの元気な点呼は続いているのだった。
*
そして、放課後………
女子中等部職員室………
「機龍さん、お願いがあるんですけど………」
ネギが、机で書類を纏めている機龍に声を掛ける。
「ん? はい、何ですか?」
「実は、3−Aの皆さんが龍宮さんをお見舞いに行こうと言っていたんですけど、あんまり大人数で行くと返って迷惑になると思って代表として僕に行って欲しいと言われたんです」
「はあ………それで?」
「でも、僕、ちょっと急な用が入っちゃって………それで、機龍さん。代わりに行ってくれませんか?」
「え? 俺が?」
思わず自分を指差して言う機龍。
「ええ、機龍さんが行った方が龍宮さんも喜ぶと思いますし」
「?? 何で?」
途端にネギはズッコケた。
「き、機龍さ〜〜〜ん………」
「??」
機龍は、まるでわけが分からないといった顔をする。
「前から思っていたんですけど………機龍さんは龍宮さんのこと、どう思ってるんですか?」
「え? そりゃまあ、パートナーだし、信頼してるよ」
「………そこに恋愛感情は無いんですか?」
「恋愛感情?」
考え込む機龍。
考える事、10分………
「………見舞い行ってきます」
逃げるように机を立った。
「ちょ! 機龍さん!! 話はまだ………」
「ネギ先生、学園長がお呼びですよ」
「あ! ハーイ!!」
ネギが、返事をするために一瞬振り返った。
再び機龍の方に視線を向けた時には、既にもう彼の姿は無かった。
「ああ! まったく、もう〜」
………他人の恋愛事情に口を挿むとは………ネギよ、成長したな。(色んな意味で)
*
真名の実家への通り道………
機龍は、途中商店街へ寄って買ってきた見舞いの品(果物)を持って、真名の実家である龍宮神社を目指していた。
(やれやれ………ネギくんにも困ったものだ)
途中、ネギから言われた事を思い出す。
(真名に恋愛感情だなんて………相手は生徒だぞ………第一、真名の気持ちが分からないじゃないか………)
………どうしてこうロボット乗りや軍人ってのは恋愛沙汰に鈍いんだ!!
(そりゃまあ………真名は中学生には見えないほど大人びていて美人だし………可愛いところもある………彼女にするのは申し分ないが………って、何考えてるんだ、俺は!!)
表面上は冷静を装いながらも、内心かなり動揺しているようだ。
そうこうやってるうちに、機龍は龍宮神社まで辿り着き、機龍は雑念を消し去った。
「ここが龍宮神社か………なるほど、趣があるな」
などと思いながら、境内へ足を踏み入れ鳥居を潜る機龍。
と、その瞬間!!
「勝負ぅぅぅぅーーーーーーっ!!」
神社の中から神主の格好をして鬼のお面をつけた人物が、槍を振り回しながら飛び出してきた。
「へっ?」
「うおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」
思わず呆けた機龍を目掛けて槍が振り下ろされる。
「うわっ!!」
慌てて横に飛んでかわす機龍。
石畳が割れ、破片が飛び散る。
「ちょ! 行き成り何するんですか!!」
「問答無用っ!!」
機龍の抗議に耳も貸さず、連続突きを繰り出す神主。
「わっ! とっ! はっ!」
しかし、機龍は何とか避けながら後ろに跳んで距離を取る。
「何だか分からないが………黙ってやられるわけにはいかんのでな!!」
機龍は、見舞いの品を置くと、二刀を構えた。
「小癪な!! きええぇぇぇぇぇーーーーーーーっ!!」
気合の掛け声と共に突撃しながら、再び突きを繰り出す神主。
「フンッ!!」
だが、機龍は、それを左の刀で受け流し………
「チェストォォォォーーーーーーッ!!」
右の刀で、槍を半分に斬り捨てた。
「ぬおっ!! ご先祖様の槍が!?」
神主が驚いた瞬間、
「そこまでだ………」
機龍は、神主の首筋に刀の刃を当てた。
「ぐうっ………」
「さて、何で俺を襲ったのか、説明してもらおうか?」
「フ………フフフ………ハハハハハハッ!!」
と、神主は突然笑い出した。
「何が可笑しい?」
「いや〜〜、実に見事! 真名の言うとおりですな」
「真名の? どういう事だ?」
「申し送れました、私は………」
神主がそう言いながら鬼のお面を外す。
「この神社の神主で、真名の父親、龍宮竜蔵と申します」
「なっ!! 真名………あ、いや、龍宮くんのお父さん!?」
驚愕に思わず口をあんぐりと開ける機龍だった。
*
その後、機龍は神社の住居の方へと案内され、居間へと通された。
「ささ、どうぞ、お座りになってください」
「あ、はい、失礼します」
御膳を挿んで向かい合う機龍と竜蔵。
「失礼します」
そこへ、襖が開いて、巫女服姿の女性が御盆にお茶を乗せて持ってきた。
「まあまあ、貴方が神薙先生ですか?」
「はい、神薙機龍ですが、貴方は?」
「紹介します、うちの家内の………」
「龍宮真野です。何時も娘がお世話になっています」
機龍に向かって深々と頭を下げてお辞儀する真野。
「いえいえ、こちらこそ、龍宮くんにはよく助けてもらってます」
機龍も、深々と頭を下げる。
「まあ、あの子ったら、オホホホ」
「オイ、母さん。お茶、お茶」
「あら、御免なさい。粗茶ですが、どうぞ」
真野は、そう言って機龍と竜蔵の前に湯飲みを置く。
「ありがとうございます」
お互いに1口茶を啜ると、
「それで神薙先生。今日は一体どんなご用件ですか?」
竜蔵は話を切り出した。
「あ、はい。実は、今日龍宮くんが欠席したことで、クラスの皆と担任のネギ先生が心配されまして、私が代表でお見舞いをと思いまして。コレ、お見舞いの品です」
見舞いの品(果物)をお膳の上に置く機龍。
「それはそれは、どうもご丁寧に」
「まあまあ、あの子ったらクラスの皆に愛されてるのね〜。後で、調理して持って行ってあげましょう」
「それで、龍宮くんは?」
「今は、自室で休んでいます。母さん、案内して差し上げて」
「では、ご案内いたしますね」
「お願いします」
機龍は、真野の後に続いて、居間を出た。
*
真名の自室………
「ゴホッ! ゴホッ! う〜〜〜ん………」
布団の上で、真名は唸りながら苦しそうにしていた。
(不覚だった………やはり昨日のアレが拙かったか………)
熱でボ〜〜ッとする頭で、昨日のことを回想する。
あの時、咄嗟に身を守るため川に飛び込んだが、それが原因で発熱し、それが呼び水となって風邪を引くに至ったのだ。
と、真名はブルッと身震いした。
(寒い………汗が冷えてきたな………仕方ない………着替えるか)
額に乗せていた塗れた手拭いを退けると、重たい身体を無理矢理起こしながら、真名は枕元に変えのパジャマと下着があるのを確認すると、着ているパジャマの上を脱ぎ捨てる。
そこへ、襖をノックする音が響いた。
「真名ちゃ〜〜ん、お母さんだけど………」
「ああ、母さんか………良いよ、入っても」
聞こえた声が母であって、熱のせいで深く考えられなかった真名は、ブラを外しながら不注意にも入室を許してしまう。
襖が開け放たれる。
「真名ちゃん、神薙先生がお見舞いに………って、あらあら」
「龍宮くん、具合は………どう………だ………」
「えっ!?………」
真名は突然の機龍の来訪に固まり、機龍は上半身裸の真名を見て固まってしまう。(真野はそんな2人を見ながら、若いって良いわねという笑顔を浮かべている)
そのままきっかり10秒後………
「キ、キャアーーーーーーッ!!」
我に返った真名が、上半身を隠しながら悲鳴を挙げた。
「!! スマンッ!!」
その悲鳴で慌てて我に返った機龍が、部屋を飛び出た。
「オホホホホホ」
それを見ながら、真野は口元に袖口を当てて笑い声を零すのだった。
「か! 母さん!! 何で機龍………じゃない、神薙先生がいるんだ!!」
慌ててブラと上着を着替えながら、真野に問い質す真名。
「真名ちゃんが、風邪引いたって聞いてお見舞いに来てくれたの」
「そーじゃなくてっ!! 何で先に言わないんだ!!」
「だって、言おうとしたら、先に真名ちゃんが入って良い、って言ったじゃない」
「うぐっ!!………」
ある意味、自分にも責任があるとされ、真名は何も言えなくなる。
「まあ、良いじゃないの。神薙先生だったんだし」
「な、何が良いんだ!?」
「あら? 真名ちゃんって神薙先生のこと、好きなんでしょ?」
「なっ!!………」
再び黙り込む真名。
「だって、家に帰って来た時、よく神薙先生の話をしてたじゃない。その時の真名ちゃんの顔ったら、正に恋する乙女の顔っだったもの」
「な、何でそんな事が分かる!?」
「あら? だって私は真名ちゃんの母親だもん」
「………はあ〜〜〜」
ドッと疲れが出た真名は、再び布団に横になり、手拭いを額に置き直すのだった。
「じゃあ、神薙先生を呼び戻してくるからね………2人っきりになっても気まずくならないでね」
「………放っといてくれ」
意地の悪そうな笑顔を浮かべて、機龍を呼び戻しに行く真野に、真名は容態が悪化するのを感じた。
*
一方、機龍は………
真名の部屋の入り口から大分離れた所にいた。
「………豪いもんを見てしまった」
………確かに、ある意味でそうだ(爆)。
「生徒の着替えを覗いてしまうとは………ああ〜〜〜っ!! 俺は教師………いや、人間失格だ〜〜〜〜っ!!」
ガンガンと壁に頭をぶつける機龍。
………そうとう苦悩しているようだ。
「神薙先生」
「うわぁっ!!」
と、突然の真野の登場に飛んで驚く。
「? どうなさいました?」
「あー! いや! 別に、何も! アハハハハ!!」
機龍は、額から流れて出ている血を拭きながら、笑って誤魔化す。
「ささ、真名ちゃんが待ってますよ」
それを特に気にした様子もなく、真野は機龍を再び真名の部屋へと案内する。
「は、はい………」
機龍は、その後をややぎくしゃくしながらついて行くのだった。
*
再び真名の部屋………
念のため、襖をノックする機龍。
「あ〜〜、龍宮くん。今度は大丈夫かい?」
「は、はい………大丈夫です。どうぞ」
「し、失礼するよ」
恐る恐るといった感じで、再び真名の部屋へ足を踏み入れる機龍。
「じゃあ、後は若い人達だけで………どうぞごゆっくり」
真野はそう言って襖を閉めると、その場から去って行った。
機龍は、真名の傍に寄ると、布団の横に正座して座る。
「「……………」」
しばし、2人の間に沈黙が続く。
((き、気まずい………))
やはり、お互い先ほどの事を気にしているようだった。
「「あ、あの………」」
と、同時に話を切り出そうとしてしまう機龍と真名。
「お、お先にどうぞ!」
「い、いや、機龍から先に!!」
その後、お先にお先にと言い合うこと、10分………
「ゼエ………ゼエ………ゼエ………ゼエ………」
「ハア………ハア………ハア………ハア………」
最早、心身共に疲労しまくっていた。
「うっ! ゴホッ!! ゴホッ!!」
と、真名が咳き込んだ。
「!! お、オイ!?」
それに慌てる機龍。
「大丈夫だ………ただの風邪だ………直に良くなるな………」
「気をつけろよ、風邪は万病の元だ」
「ああ、そうだな………ところで、今日は何でまた家に?」
「うむ、クラスを代表してお見舞いにな。本当はネギ先生が行く予定だったんだが、急用が入ったらしくてな、俺が代わりに来たんだ」
(ネギ先生! ありがとう!!)
真名は、心の中でネギにサムズアップする。
「すまなかったな。やはり、風邪の原因は昨日のアレか………」
「気にするな………私も不注意だっただけだ」
「兎に角、ゆっくり休め。何かあったら、俺達の方で対処するから」
「ああ、あり………が………と………う………」
と言って、真名は疲労が溜まっていたのか急に眠ってしまう。
「よっぽど疲れてたんだな………この分じゃ、他の隊員達の体調も心配だ………学園長に休暇を申請してみるか」
そう言いながら、機龍は真名にずれた布団と手拭いを掛け直してやる。
ふとその時、機龍がいる側の反対側の枕の横に、勾玉型のペンダントがついたネックレスがあるのが目に入った。
「? これは?」
見るつもりはなかったのだが、偶然目に入ったため、機龍はつい注目してしまう。
ペンダントはロケットにもなっており、蓋が開いて、右眉の上に傷のある男の写真が入っていた。
(誰だ? お兄さん? いや、真名は1人っ子だと聞いてるし………じゃあ、一体?)
と、そこまで考えて、機龍は思考を中断する。
(イカンイカン!! プライベートに関わる事かもしれん。深入りは禁物だ)
逃げるようにロケットの写真から目を反らすと、寝ている真名の頭を優しく撫でてやり部屋を後にした。
*
しかし、玄関に向かう途中、機龍は再び写真の男の事を考えてしまう。
(どうしたんだ、俺は?………何故こんなにあの写真の人物が気になる………そして………何だ………この胸がもやもやするような感覚は………)
自分の中に渦巻いている今までに感じたことのない感覚に戸惑う機龍。
「神薙先生」
「え!? あ、龍宮くんのお父さん」
と、急に現れる竜蔵。
「もう御暇されるのですか? もう少しゆっくりされては?」
「いえ、これからまだ仕事がありまして………」
「そうですか………残念ですな、真名の学校での様子を色々と聞いておきたかったのですがな」
「大丈夫ですよ、龍宮くんは優秀な子ですよ。ホント、良い娘さんをお持ちですね」
「………あの子は私達夫婦の本当の子ではないんです」
「えっ!?」
竜蔵がポツリッと漏らした言葉に、驚愕する機龍。
「あの子は、昔、魔法NGO団体『四音階の組み鈴』が戦場で拾った戦災孤児だったんです。その後、団体の1人の魔法使いのパートナーとして働いていたんです」
「!! 魔法使いのことを………ご存知でしたか」
「ええ、私と妻も、そこに参加していましてね」
懐かしそうな顔をして言う竜蔵。
「最初は感情のない、まるで人形のような子供だったんですが、私と妻を初めとした団体メンバーやパートナーの御蔭で次第に感情を取り戻していったのです」
「……………」
機龍は黙って話を聞いていた。
「特にパートナーの彼の功績が大きかったですね。真名は彼を慕い、彼もまた真名に好意を抱くようになりましてな」
(何だ………何故イライラするんだ………)
「しかし、2年前、彼女のパートナーは戦死しました」
「!?(じゃあ、あの写真の男は………)」
「それであの子は、また感情を失くしてしまいました。不憫に思った私と妻は、真名を引き取り、それを期に団体を辞めてこの地に来たんです」
「そうだったんですか………」
「学園生活を送らせて、友達を作れば、あの子の気持ちも癒されるのではないかと思いました………ですが、やはり、あの子は心に影を落としたままでした」
不意に竜蔵は機龍の方を振り向く。
「ですが、神薙先生。貴方の御蔭であの子は、また明るさを取り戻してきました」
「えっ!? 私の御蔭で?」
「ええ、あの子は最近、よく貴方の事を話してくれるのですが、その時のあの子の顔は、パートナーが生きていた頃と同じくらい明るさを取り戻していました」
「そんな、私は別に………」
「いえ! 貴方の御蔭です!! これからも真名の事をよろしくお願いします………先生として………恋人として」
「えっ!? あ!? こ、恋人!?」
慌てふためく機龍。
「おや? 違うのですか?」
「いや、その、あの………龍宮くんは、その、生徒と言いますか、パートナーと言いますか」
「パートナー………やっぱり恋人じゃないですか」
「いえ、その、別にそういう意味は………」
「では、嫌いだと?」
「あー、いや! そういう事じゃなくて!!………失礼します!!」
機龍は、全速力で駆け出した。
「あ! 神薙先生!!」
走り去った方向を見やる竜蔵だったが、既に機龍の姿は影も形もなかった。
「今時珍しい純情な人だ………」
*
機龍は、サ○ボーグ009も真っ青なスピードで麻帆良都市を走りぬけ、龍宮神社から150キロ離れた人気の無い通りまで来て止まった。
「ハア………ハア………ハア………ハア………」
肩で息をしながら、呼吸を整える。
「まったく、何を言い出すんだ、真名の親父さんは………」
竜蔵に愚痴を零す。
「しかし………恋人………か………」
と、機龍は少し考え込んだ。
軍人として戦うことに全てを費やしてきた機龍だったが、そういう願望が無かったわけではない。
しかし………
「いや、駄目だ………例え、真名が俺のことを好いていてくれたとしても………俺はそれに応えられないんだ………」
そう言って夕暮れの街を歩き始める機龍。
………その背中は哀愁を帯びていた。
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