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ネギサマ第1話 「厄日」 投稿者:ドゴスギア 投稿日:07/01-21:28 No.844
葛葉キョウジ。
裏の世界に通づる者なれば、まず彼を知らぬ事はないと言えよう。
悪魔召喚師にして稀代の戦闘者、世界の陰を渡り人に仇為す存在を駆逐する義の男。
クズノハが血族たる雷名、それに違わぬ腕を確かに彼は有していた。
刀剣を握らせれば一騎当千。
銃器の扱いもまた見事。
そして葛葉を葛葉足らしめる悪魔使役術、これについては今さら語るにも及ばぬだろう。
しかし、多くの者は知らない。
今現在『葛葉キョウジ』を名乗っている存在の存在――否、魂は、キョウジ自身のモノではないのだ。
運命の悪戯と言うべきか、原初より定められた宿業と言うべきか、外法術士シド・デイビスの手によって命を三途に蹴落とされてしまった青年。
名を、『櫻井貴尋』
もう根っからの凡人で単なる大学生、お嬢様な彼女『秦野久美子』がいることくらいしか自慢できそうな事のない凡人だ。
そんな男が、何故か選ばれた。
三途の川の渡し手カロンと本来の葛葉キョウジに見初められ、貴尋はその魂をキョウジの肉体に入れられて彼の代役として働くことを余儀なくされてしまう。
しかし、元がただの一般人。
襲い来る悪魔に最初は手も足も出せず、初めてその命を奪ったときはそれまでの生き方と余りにも乖離した光景に嘔吐すらした。
しかし事件は絶えず、無理をしてでも闘わねば、戦わねば、生き続ける事も出来ない。
様々な呵責と業苦に悶えながらも、けれど貴尋は足掻き。
足掻き。
足掻き抜き。
その果てに彼は、最も守りたかった存在――嘗ての家族、故郷、愛した人――を守り抜くことができたのだ。
既に元の体へは戻れなくなっていたものの、貴尋は後悔などしていなかった。
身体なんて関係ない、どのような姿であれ自分は自分だ。
最早一種の諦観にも似た、しかしこの身にはこれ以上無い究極の真理。
己を叱咤激励しつつ、相棒『麗鈴舫』と共に、今日も『葛葉キョウジ』は矢来区を駆けていた。
のだが。
「…………ここは一体、何処なんでせう?」
ポツリと貴尋が呟いた言葉は、風に紛れて千々に裂かれていく。
目の前には、木。
横を向くと、木。
後ろの方も、木、
何処もかしこも、木、木、木。
つーか、森。
どういう事だろうか、思考するも全く答えは出てこない。前後の記憶がすっぽりと抜け落ちているのだ。
疑問符まみれな頭を無理やり揺すって、取り敢えずこういう状況で行うべき行動をする。
つまり、現状の確認。
「骨折とか捻挫はなしで外傷出血ともに確認できず、ただ気持ちばかり体の動きが悪い。荷物は…………GUMPだけか」
思った以上に状況は悪かった。
どうやら身体中が鈍りきっているようだ。以前は自分の一部とばかりに馴染んでいたGUMPも、大分手に余るような感覚がある。
ちなみにGUMPとは、悪魔召喚師のために誂えられた小型のコンピュータだ。これが無いと、現代ナイズされた召喚師は悪魔に対し交渉も会話もできない。
閑話休題。
流石に身体一つだけじゃ心許ないと考え、貴尋はGUMPを起動させた。
ゆっくりと動き出すコンピュータ、生体マグネタイト――仲魔を顕在化させるために必要なもの――の残量を確認する。
ゼロ。
数分ばかり石の如く硬直した後、やっと再起動。
「おいおい、冗談も大概に…………?」
最早ぐうの音も出ない、そう思った矢先であった。
チカリ、数字のメモリが動く。
目の錯角かと改めて見てみれば、カウンターが急激に増え始めているではないか。
100、500、1000、
異変に気付いた貴尋は、取り敢えず周囲をもう一度見回してみた。
そして気付く。
知覚までも鈍らになってしまったこの身でさえ感じ取れる、それほどに濃密な魔力が辺り一面に満ち満ちていたのだ。
すぐさまGUMPを展開、コンソールを叩く。
登録されている仲魔は6体。しかしその内5体が謎の封印措置をされており、今この場で召喚出来る仲魔は一体だけであった。
尤も、その一体こそが彼の懐刀。
カウントストップになりそうなメモリを後目に、貴尋は一騎の悪魔を召喚するプロセスを取る。
――フォォォ、ン。
薄い音、一瞬だけ閃光が奔った。
それが収まると、貴尋の前には一つの人影。
「召喚ヲ確認…………ますたーノ身体的特徴ニ多大ナ差異ヲ認識。召喚機ノ形式番号及ビ魂ノ形状ガ一致シテイル事カラ、貴方様ヲますたート認識。ゴキゲンヨウ」
「問題はないか、シェイ? あとなんか今聞き捨てならない言葉も聞こえたんだが」
「ハイ、肉体・疑似魂魄ニ異常ハアリマセン。私ヨリモ寧ロ、ますたーノ方ガ少々見過ゴシ難イ事態ニナラレテオリマスレバ」
合成音じみた声と抑揚で告げ、人影は貴尋に深々と一礼してみせる。
『シェイ』。
貴尋のもう一人の相棒、命を秘めた土人形【ドリー・カドモン】に様々な悪魔を喰らわせる事で成長する、召喚師の忠実な輩(ともがら)。
まぁ、シェイの場合は貴尋の望みもあってかなりファジーな思考回路を有しているのだが。
「見過ごし難い事態?」
「ゴ確認下サイ、今ノ御顔ヲ」
「鏡は?」
「ココニ」
「ナイスだ」
造魔の発言に気を取られた貴尋は、寄越された鏡で自分を見てみる。
…………沈黙。
そこには、覚え自体は多大にある、しかし鏡ではもう絶対に見る事ができないだろうと踏んでいたものがあった。
即ち、『櫻井貴尋』そのままの顔。
茶色に染められた適当な髪型、やや垂れ目気味な黒瞳、余り特徴の無いのが特徴な顔立ち。
ふと視線を下に向ければ、カーキ色の素っ気無いパンツに黒一色の味気ないシャツ。
クラブの客に「ダッセェ」とか言われてしまったりもした、野暮ったくも愛おしい自分の姿が、今ここにはあった。
「俺、今なら神様信じても良い」
「オ気ヲ確カニ。第一貴方ハおーでぃん神スラ従エタ男デショウガ」
「分体だけどな! あっは、テンション上がってきた」
感激というか感傷というかな感情にどっぷり漬かり、喜びとかそんな感じのモノで浮かれまくる貴尋。
その緩みきった顔が、
――さりっ
突然揺れた“気配”を受け、ピンと張り詰めた。
GUMPをベルトに捻じ込んで、足元に転がっていた比較的太めな枝を拾い上げ構える。
その背中にシェイのメタリックな肌が触れ合い、警戒のレベルを引き上げた。
「正直、この体じゃどこまで出来るかって感じだぁな……シェイ」
「ハッ」
「万一の時ゃ、頼まぁ」
言葉を交わし終えた、瞬間。
剣風一閃
黒のヒトガタが、貴尋めがけて突っ込んでくる!
銀色に艶めく三日月は野太刀か、地を擦り上げるような一閃。
それを枝で叩いて逸らし、一気に離れ。
ザリザリ、砂煙を立ててバックステップを踏み、貴尋は渋い顔で襲撃者を見た。
右手が鈍痛に痺れる、恐ろしい膂力。
割と奇襲には慣れていたが、これは想像以上だ。
「っひゅー、行き成り随分なご挨拶じゃないか、どういう積もりよ?」
「賊に掛ける言葉は持たない」
掛けてみた台詞に帰ってきたのは、にべも無い拒絶。
月光がヒトガタを映す。
片側に纏め上げた黒髪の、少女。
そのか細い手に無骨な野太刀を握り締めた娘は、冷厳な瞳で貴尋を見据えて、告げた。
「外道、断つべし………………いざ、参る」
To be continued.
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