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ネギサマ第2話 「到れなかった元凶確認」 投稿者:ドゴスギア 投稿日:07/07-00:36 No.892
数十分程、時を遡る。
黄昏から夜陰に染まりはじめた空を、少女は厳しい顔で睨め付けていた。
袖のない藍色のタートルネックに腕を覆うアームウォーマ、膝丈のパンツは動き易さでも求めたからか。
『桜咲刹那』。
この 麻帆良学園中等部に在籍する、京都は神鳴流剣術の使い手だ。
愛刀【夕凪】の携えられた掌は白くなる程強く握られ、目許に浮かぶは深い憤怒。
ここ最近恐ろしい勢いで増えた侵入者や妖魔共。それへの対処に刹那含め多くの者達が駆り出されるも、やはり後手に回らざるを得ない状況がかなり多く。
何者かが学園内部で魔に連なるモノを召喚しているのではないか、などという下世話な憶測すらが一種の真実味を帯びてしまう始末。
昨日で暦上は4月、しかし関係者達の心は晴れなかった。
いつ果てるともない慢性的な疲労。それが積み重なった結果か、先日一人の女生徒が遂に負傷してしまうという事態が起こってしまう。
幸いにして傷の具合は軽く、隠蔽(記憶を改編しておく事)も滞りなく終わったのだが・・・・・・悪かったのは、その被害者が学園長の孫『近衛木乃香』嬢だった事で。
偶々、【図書館探検部】の集まりで帰りが遅くなり。
偶々、近道をするため普段とは違う道を通り。
偶々、そこは魔法使い諸方による警備網が薄くて。
偶々、1匹だけ討ち漏らした餓鬼が――――
木乃香の 腕を
これが何とも信じられぬ事に、この日の一連の展開が全て“偶発的”な事象だったのだ。
責任転嫁に聞こえるやも知れないが、往々にして人間のやる事為す事に“完全”なんて概念など存在しない。この世で唯一100%と言える事象は、ミスの発生しない確率が0%を切る事くらいである。
今回は、天文学的に低いそのパーセンテージが悪い方向で噛み合ってしまったわけである。
そういった帰結を持って、刹那は暗澹たる気持ちに沈んでいた。
彼女にとって、木乃香は命を賭しても守る存在。だのに件の折、自分は何もできなかった。
その場にいなかったのだから仕方あるまい、そんな慰めすら今の刹那にとっては針のむしろと化す。
怒りのベクトルは、回りに回って・・・・・・悪魔召喚師に
存在するかどうかも確かでない悪魔召喚師は、今、彼女にとって最大級の敵であった。
ゆっくり目を伏せ、息を衝く。
と。
「時間も近くなってきた。そろそろ行こう」
後ろから、渋みの利いた声が掛かった。
振り向いた刹那の視界に入ったのは、長身に短い髪をざらりと生やした男性。
仕立の良いスーツに眼鏡と場所にそぐわぬ装いではあるものの、姿が堂に入っている辺り彼はコレがフォーマルなのだろう。
『高畑・T・タカミチ』
麻帆良学園の魔法先生の一人で、刹那と木乃香の担任でもあった男である。
刹那の側に立ち、暗いその表情を見て一言。
「大丈夫かい? シフトを誰かと交替してもらった方が、」
「平気です。やれます」
「…………君がそういうなら」
心持ち憔悴した顔でなお言って退けた刹那に、タカミチは彼女の意思を尊重する事にして歩を進め出した。
普段なら刹那の同級生である『龍宮真名』というガンナーが一緒に配置に付くのだが、本日は諸処の問題が重なりここに来ていない。多くは語らぬが、この日本において弾薬は決して安いものではないのだ。
無言で歩く二人。
往く先は、木々が深々生い茂る森。
進む事それなりの時間。
ポジションをタカミチと入れ代わり前で進んでいた刹那が、不意に動きを止めた。
「桜咲くん?」
「何か居ます」
呟き、刹那は夕凪に手を掛ける。
コキリと小さく指を鳴らし、タカミチも己の戦闘スタイルとしてズボンのポケットに手を入れた。
前方、人の気配。
木々を利用した隠行で徐々に近付いて行くと、妙に開けた空間の存在を確認。
その中央に、そいつの姿がある。
真っ黒のシャツに、カーキ色のパンツ。
自分達も凡そ森歩きには適さぬ格好を着ているわけだが、相手はそれに輪を掛けた場違い感があった。
どう見ても、私服。
一般人が迷い込んできたか、タカミチはそう考えるもすぐさま“異変”に気付く。
ここには人を寄せつけぬ為の結界が張ってある。
それをあの者は何らかの術でくぐり抜けた、イコール、あの者は表社会だけに生きる人間ではない筈!
短慮な断定と言われれば返す言葉もない。
だがしかし、この状況をもってすれば彼等がそう思っても無理はなくなるのであって。
――――閃
夜が昼に還ったかのごとき、烈光。
思わず目を閉じた刹那とタカミチ、その眦が今一度開かれたとき・・・・・・ソレは、居た。
イビツな姿。
イビツな啼声。
イビツな在リ方。
生物としてどこか逸脱している、その癖にヒトガタの、
「…………あく、ま?」
悪魔。
刹那の目が、驚愕にギッと見開かれる。
まさか、まさか、本当に悪魔召喚師が学園内に侵入していたとは。
タカミチが思わず舌打ちした。
召喚師以上に悪魔が気になる、どれ程の実力を有しているのかが全く読めないのだ。
「これは、ともすれば援護を要請して――――」
台詞は途中でブッチ切れた。
隣にいた筈の相方が、何故か居なくて
――ビョウッ!!
居た。
当の連中に思いっきり襲い掛かってる。
悪魔を喚んだ存在がもう目と鼻の距離にいる、その時点で刹那の思考回路はとっくに振り切れていたようだ。
でも元凶があの者だとは思えないなぁ、相手の見た目でふっとそう思ってしまうタカミチ。
しかし仕事は仕事。
瞑目数秒、彼は無音で刹那が飛び出した方の反対側に回りはじめた。
速攻で決める、それだけを思い。
□■□
速い。
と言うか、疾い。
少女の剣戟を必死こいて回避しながら、貴尋は散漫にいろんな事を考えていた。
なんで俺ってば襲われてるんだろうね?
普通の刀より長いせいで取り回しが悪い筈の野太刀を、よもやこれ程の勢いでブン回せる剛の者が居たとは。
このスリル、まるで死神チェルノボグと新月ン時にタイマン張ってるようだぜ。
なんか身体の動きが悪すぎる、一体全体どういうこった?
お、スカートめくれたってスパッツかよ! だがそれが良い!
不埒な思考で集中がばらける。
――チッ
見計らったかのようなタイミングで頬を横薙ぎの刃が掠めた。
心中一気に総毛立ち。
死にたくない一心で思いきり地を蹴り、不様に飛び退る。
その前に、庇うような姿勢でシェイが立った。先までは刹那と貴尋の距離が近すぎたため、割って入れなかったのだ。
「はっ……はっ……くっそ、無駄に強いぞあの子!?」
「申シ訳アリマセン、後ハ私ガ。ソノ御体デハ満足ニ戦エマセンデショウ」
「わり、頼む…………くっそ、まじキツい」
シェイの発言に、得心が行った様子で貴尋は悶えた。
先にも言った通り、現在の貴尋の身体は“悪魔を屠ってきた葛葉キョウジ”のそれではなく“とっても一般的な大学生”であった彼本来のものだ。
魂だけで言えば北斗星君&南斗星君すらブチのめせるくらいの経験値を持っているにも関わらず、入れ物が追い付かない。
この鈍らな身で、勝てる見込みは皆無。
厳然たる事実に歯噛みする事数秒、気持ちを切り替えて貴尋は己が輩に告げる。
「シェイ。ガチんのは止めだ」
「何カ、策ガ?」
「…………葛葉、いや櫻井家には伝統的な戦いの発想法があってな。ひとつだけ残された戦法があったぜ」
「否ナ予感」
「黙って聞けぃ! それは!」
「ソ、ソレハ?」
口調すら微妙に変えて語りだしたマスターに、一抹の、いやさ億抹くらいの不安を覚えたシェイ。
果たして、造魔の予感は正しかった。
「逃げるんだよォォォーーーーーーッ!!」
貴尋、後ろ向きに全力疾走開始。
何かズッこけたような音が聞こえたが、気にしてたら間違いなく捕まるのでシカトを敢行する。
「ひ、卑怯者っ!!」
「ふっはははぁ、命あってこそのMONODANE! 俺は生きる、生きて久美子と添い遂げるッ!!」
思いっきり悪役っぽく哄笑しながら走る主人の姿に、シェイは脳が擦過傷を受けたような錯角を覚えた。
まぁ、言っている事はある意味真理である。特に何度か三途の川縁を踏んだ貴尋だ、その言葉には妙な説得力があった。
そのまま追従しようとした、瞬間。
――ゾワリ
造魔の背を、今まで幾度も感じたナニカが一気に駆け降りる!
「上デスッ!!」
“感情”に任せて叫んだ声は、含まれた警戒と緊張を余すところなく包んだまま主人に届いた。
疾駆のベクトルを無理矢理右横にねじ曲げ、転がる。
それより半拍も置かず。
暴力が、降って来た
足先から体の芯まで伝わる、大地を打ち据えた衝撃。
この脆い身に食らえば絶命どころか、金箔並みの薄さにまで押し潰されてしまいそうな一撃が、上から。
ヤバい。
ヤバい。
勝つとか負けるとかの次元ではない。
魔王デミウルゴス卿を討ち果たした『葛葉キョウジ』が仲魔を揃えてやっと五分五分に持ち込める、それくらいの隔絶が貴尋と今の一撃を放った者の間には存在した。
ふと振り返れば、シェイが刹那に刀を突き付けられている。先程までの勢いでバッサリやられていなかっただけまだ良い方か。
森の隙間から出てきた壮年の男性に見据えられ、息を呑む。
最早万事休す。
――――なれば、己が為すべきは。
「幕を下ろそう。アンコールは受け付けない」
「…………参ったね、品切れだ。捕虜の命は保障してください」
「それは、これからの心がけ次第だ」
「善処します」
「………………ふん」
諸手を上げてそんな事を言った貴尋に、刹那は無言で鼻を鳴らした。
ぴくりとも動かぬ切先が、如実に警戒と敵意を表している。
「えーと、そこまでトゲっちくされる理由が分からないのですが」
「…………」
「無言ですかお嬢さヒィ!?」
野太刀が貴尋の方に差し向けられた。
シェイは動かない。この場で下手な事をした場合、主がどうなるか勘付いているから。
「外法を繰る者に掛ける言葉は無い」
「…………厳しいなぁ」
麻痺しそうな視線と合わせて言われ、貴尋は呟いた後押し黙る。
「はい、了解しました…………さて。君には僕たちと一緒に来てもらいたい」
「君にはって、こいつは?」
「出来るならば送り還して欲しいんだけどね」
「…………誠意示します。すまん、シェイ」
「ハ、ますたーノ御随意ニ」
恭しく礼をするシェイへ申し訳ないものを覚えつつ、GUMPを操作する貴尋。
その指が、止まった。
「どうしたんだい?」
「………………シェイ、リターン命令出したけど」
「エエ、ソレハ感ジテイルノデスガ。オカシイデスネ、まぐねたいとノ結合ガ解ケマセンヨ」
「うっそ、マジでか! 待て待て待て、このタイミングでGUMP壊れやがったら直せる人間なんざいやしないぞ!?」
「え、えーと?」
「技術大系ガ違ウ以上、こねくたノ規格一致モ望メマセン。マズイデスネ」
「すんません、戻したいのは山々なんですけど、召喚用の機械がおかしくなったっぽいです。戻せません」
「………………はぁ」
無言で、タカミチは頭を振る。
差し出されたのは無骨な2つの手錠、魔力を封じる特殊な代物らしい。
大変に申し訳ない思いをしつつ、一人と一体は腕を差し出した。
――ガ、シャリ。
鉄枷が嵌められる、硬質の音。
連行先は、麻帆良学園の学園長室。
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