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ネギサマ第3話 「バカシアイ、コロシアイ」 投稿者:ドゴスギア 投稿日:07/20-22:17 No.953
古狸。
一発、貴尋はその老人を初見の印象でそう断じた。
後ろでシェイが「初メテ見マシタ、ヌラリヒョン」などと小憎い事を抜かしているのは華麗にスルーし、付けられた手錠の先で指を組む。
『近衛近右衛門』
麻帆良学園の学園長にして関東魔法協会の長、そして学園最強と謳われる魔法使い。
成る程、確かに。
挨拶を交しただけで背筋をジクジクと灼く緊張。正直、悪魔と交渉している時の比でない。
金に宝石マグネタイト、あまつさえ己の命すらベットに悪魔達の間を駆け抜けてきた貴尋である。失敗の代償は痛い程に知っているし、だからこそ成功の率を上げられるよう努力もした。
表情の端を見、言葉の端を知り、態度の端を悟る。自らの生死が掛かっている以上、その辺の技能は否応なく高める必要があったのだ。
だから、判る。
近右衛門の顔に張り付いた薄笑み、それが決して本心でない事を。
眉根を寄せる貴尋に、近右衛門が声を掛けた。
「ふぉふぉ。斯様に構えずとも、約束がある以上命を取るような真似はせんさよ?」
「そりゃ有り難いですわ。そちら様に“仕込み”がある以上、こっちはどう足掻いたって逃げらりゃしねーわけですし」
「・・・・・・まぁ、流石に結界くらいは察されようか」
「ブラフ」
「・・・・・・・・・これはこれは。一本取られてしもうたよ」
今の鍔競りは、貴尋に軍配。
自分で言うのもなんだが特級の不確定要素たる己らをわざわざこんな屋内の狭い一室に呼び入れたという事は、それ相応に準備がしてあると踏んで然るべき。経験則からの言葉は見事に的を中てたようだ。
ふっと貴尋が口角を上げ、くつり近右衛門が喉を鳴らす。
えも知れぬ重圧が室内に充満、タカミチも刹那もシェイも居辛そうな事この上ない。
部屋、出てって良い? というシェイの涙目の(フェイスガードで覆ったような顔の何処にンなモンがあるのか)訴えをあっさり蹴飛ばし、心の中で嘆息。
警戒万端。
誰が見ても明らかなこの図式を、どう自分にとって良い方にねじ曲げていくか?
こりゃ腕の見せ所だ。
アドバンテージは圧倒的に向こう側にある。
人生経験、場所環境、人的状況、そのどれもが今の貴尋では比肩できない域に在しているのだ。
分が悪い。
ああ悪いさ。
それが、どうした?
この程度で逆境とは言うまいよ。覆す、ああ覆してみせようじゃないか!
「学園長さん、不躾ですが幾つかお聞きしていいすかね?」
ふいと思いついた調子で口を開いてみる。
会話の本条は、如何に相手のペースを崩し自分のペースに乗せられるか。貴尋も、そこらへんの手腕に関しては前述の通り自信があるのだ。
近右衛門が纏う空気をやや変質させ、返事。
「・・・・・・ふむ、何かの?」
「いえ、構えてもらう程大層なモンじゃないですよ」
そこで一度切り、息を吸って――――
「ここ、何処なんです?」
空気が凍った。
激情とか驚愕とかのそう言う方向ではなく、予想外の言葉に返ずるべきを見失ってる感じで。
敢えて擬音語を使うなれば、ポカーン。
煙草(火は点いていない)を口から取り落とした事にすら気づかぬ様子で、狼狽一色にタカミチが声を上げる。
「そ、それは一体どういう意味なんだい!? 君はここが何処かも知らずに襲撃を掛けたと!?」
「前提からしておかしいでしょ、ダンディなそこの貴方。見ず知らずの土地にカチコミかまさないけない理由なんぞ普通っつか常識的に考えて存在すると思います?」
「なっ! き、貴様、あの件には関わっていないとでも言うのか!?」
「いやだから何にさ」
さらりと。
ある種の暴言性すら内包した言葉に、タカミチと刹那は完全に虚を突かれ硬直してしまう。
そんな中、流石と言うべきか、近右衛門だけはさして動じた様子もない。
「ふむ。一つ質問じゃが、麻帆良という言葉に聞き覚えは?」
「・・・・・・まほら?」
「あ、いいや。その反応だけで十分じゃよ」
カクンと首を傾げた貴尋及びシェイの姿に黙考する事数秒、タカミチに目配せをくれ説明するよう指示。
それにやや異を唱えたくなるも、教員として学園長には従うより他なく。ガシガシ頭を掻きむしりながら、タカミチは2人へこの麻帆良の事を教え始めた。
――――長くなるので割愛。
こんな所かな、とタカミチが言葉を切った瞬間、グラリと2人の体が傾ぐ。
流れ落ちる滝のごとく膝を崩し、貴尋&シェイ・・・撃沈。
どうやら、説明の中身が彼等の現実と余りにも乖離していたせいで脳の処理が追い付かないらしい。
何と言うか中身まで体に引き摺られている気分を覚え、貴尋の冷静な思考が少し凹んだ。
「・・・・・・ますたー。モシカシテ、コノ世界ハ?」
「あー、もしかしなくともそーだろうよ。十中十、ここは俺らの居た世界じゃない」
げんなりと呟いた貴尋に、シェイも首肯一つ。
こちらが麻帆良と言う名を知らなかったのと同様に、タカミチも【矢来区】を知らなかった。『葛葉キョウジ』を知らなかった。
一概には信じられないものだが・・・・・・この状況をして、是とせねばなるまい。
すっくと立ち上がって近右衛門に差し向い、貴尋は真剣な面持ちで問うてみる。
「って事らしいんですが、ね。信じてもらえます?」
「ぬぅ」
「そんなもの易々と信用できる筈がッ!」
「待った、刹那くん」
案の定噛み付いてきた刹那を、近右衛門が止める。
彼としては、先までの立ち振る舞いや今の挙動などからして何となくコイツが一連の犯人というわけではなさそうだと思っていた。
悪魔こそ後ろに従えてはいるものの、双方共に何処か抜けており。
妙に知識の深そうな物言いをする割には、コチラ側の常識を余りにも知らなさ過ぎて。
そして一番気になるのは、目。
光と闇、秩序と混沌、清濁併せ呑んだこの雰囲気・・・決して一朝一夕で出せるものではない。
にも関らず、肉体の方は未完全。一挙手一投足、素人が達人の真似をしているようにしか見えず。
このギャップは、一体?
何処かしらがズレた存在、解ってしまった以上は絶対に無視できない違和感。
こちらを眺める青年に一瞥を返し、学園長は返す。
「申し訳ないが、現状では手放しに君を信用する事ができんのじゃよ」
「でしょうね。むしろそれが普通だ」
「判ってくれるのなら話は早い・・・・・・ひとつ、テストをさせて貰って宜しいか?」
こう持ち掛ければ、返答は限られようもの。
貴尋からの返事もまた、近右衛門の予想通りであった。
□■□
空には、星群。
横には、大森林。
後には、学園都市。
前には――――
目一杯のアヤカシ共。
この度、貴尋&シェイは悪魔100体バトルロワイヤルを敢行する運びと相成りました。
ビリビリ、殺気が肌を刺す。
「幾らテストったって、いきなりコレは無ぇよな?」
「ヤ、コノ無茶ヲ通シ切レレバ有利ハコチラニ向ク筈デス。頑張リマショウ」
げんなり呟く青年、それを励ますジンガイ。
この2人に関してのみ、闘争の空気とは些か呼び難い。
妖魔共の放つ殺気がいよいよ濃密になっていく中、彼等はただ泰然と在るだけであった。
一歩、群れの先頭にいた大鬼が前へ出た。
身の丈8尺5寸はありそうな、赤い紅い巨躯の鬼。
ソイツがニヤつきながらこちらを平睨し、クソ似合わないお茶目な仕種で巫戯蹴た事を抜かす。
「あぁ、何だ? ガキどもはお家に帰ってママのおっぱいしゃぶる時間でちゅよー」
「キモっ」
一刀両断、容赦無し。
どうやら妖魔共の感性でも今のはアレだったらしく、そこら中で失笑がチラホラ。
鬼の赤い顔が、もっと紅く染まった。
ギリ、先に見た少女のウェストより二回り近くも太い腕に力が篭ったのを確認。
青年がしゃがんだのとほぼ同時に、鬼の剣が頭上スレスレを横に走り軽く髪の毛を持っていく。
その感覚に震えながら地を滑って足下に転がり込み、腹目掛けて渾身のヤクザ蹴り。
“く”の字に曲がった体、すかさず蹴った足を踏み込みに使い空いた顎へアッパーを捩じ込んだ。
ゴフッ、血混じりの吐息。
崩落した体を躱して剣を鬼からもぎ取り、仕返しとばかりに肩口から袈裟掛けで叩き斬る。
骨を断つ鈍い手応え。
口からごぼりと血の塊を零し、赤い身体の大鬼は何をも残さず虚空に散っていった。
妖魔達の顔に、一斉に驚愕が張り付く。
「さてと。アンタ等には“先”を選ぶ権利があるわけだが、どうする? ここから逃げるか・・・・・・無理して、死ぬか」
嘯き剣を――上背程の大きさの割に、何で出来ているかは判らぬが非常に軽い――肩に担いで、貴尋は軽快に笑った。
別段貴尋は挑発するつもりなど無かった、だが。
――――ふつり。
さして長くも無かったのであろう妖魔達の堪忍袋は、それで完全にキレてしまい。
「ニンゲンが、嘗めるなァ!!」
一気呵成、進軍開始。
やりすぎたかと顔を顰めつつ、飛びかかってきた四足獣に向かって鬼剣を捩じ込む。
先の2つに割れた刃が、異様な風切り音を奏でて獣の首を刎ねた。
それに一瞬痛まし気な表情を浮かべるも、すぐさま頭を振り揺すって思考から追出。
「焚キ付ケ過ギマシタネ、ますたー」
「あーよ・・・・・・結局この世界でも血腥ぇ事とは縁を切れないか、因果なもんだ」
「ナレバ、御指示ヲ。我ハ御身ガ為ノ刃故ニ」
「・・・・・・・悪いな。お前にゃ迷惑の掛け通しだ」
「オ頼リ下サイ、ソレコソ私ノ本懐」
薄く淡く微笑んだ輩にぎこちなく笑い返し、青年は剣を構える。。
何時ぞやかに言われた台詞が、不意に思い浮かんだ。
「あくまをころしてへいきなの?」
平気なものか、
平気なものか!
この腕が命を奪う、そこには人も悪魔も関係ない。誰とて己の手は汚したくない筈、根が一般人であった貴尋は特にそう思うのだ。
しかし、そうせねば護れぬモノがある。示せぬモノがある。
・・・コレとて所詮はエゴだ。自分を正当化せしめたいが為の、ハリボテじみた鎧。
判っている。
だからこそ、そんな鎧を纏わねばならぬ者を一人でも減らしたい!
連想ゲームじみた思い出への回帰は終えた。
弔いの線香なら後で幾らでも捧げてやる、だから――――
「慈悲が欲しけりゃ逃げやがれ・・・・・・そうでもなくば、叩っ斬る!!」
声を高らかに、貴尋とシェイは“テスト”目掛けて突っ込んだ。
夜月が照らす下。
悪魔とアクマの舞踏会が、始まる。
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