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ネギサマ第4話 「戮せよBloody Dance」 投稿者:ドゴスギア 投稿日:08/11-23:47 No.1082
容赦無しに、殴る。
擦れ違い様、殴る。
力を込めて、殴る。
殴る。
殴る。
殴る。
殴る。
返り血の飛沫が頬を叩くことにも頓着せず、シェイはただ黙々と悪魔達を殴り屠っていた。
悲鳴、怒号、断末魔。
その耳障りなシンフォニアが否応なく自分を昂らせていることに気付き、舌を打つ。
“不快”のパルスが脳裏を走った。
結局、悪魔としての生命樹形図からも逸脱したこの身ですら血の誘惑には抗えやしないという事らしい。
なんともはや、シェイという悪魔は存外自分で思っている以上に好戦的な性格をしているようだ。
自嘲も混ぜた溜め息一つ、真正面から突っ込んできた手長鬼の拳を交い潜ってクロスカウンター気味に顎へ一撃。
ゴギリ、余り聞き応えの宜しくない濁音が響く。
そのまま腕を巻き込んで身体ごと回転し、反対の手で後頭部目掛けて裏拳。
今度の音は、やや湿り気を帯びていた。
吹っ飛んでいく黄色の手長鬼、その目にはもう意思の光などない。脳の随を叩き砕かれて真っ当な思考ができる存在など、何処の伝承を探したって居やしない。
ココとは違うドコカに還された。結果としてはそれだけだが、ココで感じてしまった“死”は生涯に渡りあの鬼を苦しめるだろう。
それが主の感情としては好ましからざるそうで。
命の奪り合いを否定しているわけではない。彼は自分とその周りの人々が生きていられる事を第一に望み、それを害する存在がいれば剣を振り翳す事すら厭わぬタイプの、ある種最も容赦が無いニンゲンだ。
ただ、その思考は主の生まれ持ったモノではない。
須らくは磨耗、凡庸という名の殻を『葛葉キョウジ』という名の鑢(やすり)が削り落としていった果てに出来上がってしまったモノ。
それをシェイが否定する事はない。
もし否定してしまえば、自分と主の出会いを、共の歩みを、真っ向から拒絶する事になってしまう。
・・・・・・マナにでも充てられたかな、そう結論づけて思考を遮断し、シェイは指をゴキゴキ言わせた。
しっかしまぁ、数の多い事。
大体5分の2程は減ったものの、未だ目の前には異形共が雲霞のごとく立ちはだかっている。
「うだらッシャぁ!!」
――ぞぶしゅっ
湿り気たっぷりの瑞々しい斬断音。
ふと首を巡らせば、視界の端に触手を生やした円筒状の魔物を真っ二つにする主――貴尋の姿が映った。
向こうもこちらに気付き、走り寄り背中合わせになる。
・・・その呼吸の、荒さと言ったら。
恐らく相当に過度な無理をしているようだ。2本串のフォークじみた鬼剣を握る腕は小刻みに震え、足にも大分ガタが来ていると見える。傷の少ない身体は無理して相手の攻撃を避け続けた結果か。
葛葉キョウジの身体では楽に行使できた動きも、今の身体じゃそうはいかないのだろう。
運命の不条理、もどかしさ。やっとアノ身体に折り合いを付ける事ができたと言うに、何故そんなタイミングで元の身体に戻すか? しかも悪魔100体斬りのオマケ付きで。
もし次にあのマント半裸ホワイトおやじ(カロン)と出会えたら、貴尋は何の躊躇もなく彼の鼻ッ面をはっ倒すだろう。絶対。
彼は疲弊している。思う存分に疲労困憊となっている。
ブッ崩れてしまわないのは、ここで折れてしまえばほぼ確実に2度とは立ち上がれなくなるから。
精神力で身体を保つ、言う程楽な所業ではない。
「っだぁぁあ、流石にこの量はキツいぜ!」
「御無事デ何ヨリデス、ますたー」
「連中が魔石を落としよってくれたからな、それで何とか騙し騙し」
シェイの気づかう言葉に笑みを返し、何か石のようなものを投げ渡した。
蒼く艶めく、かつての世界でも大変世話になった存在。
「お前の分もだ。ほら」
「ア、スイマセン」
「体力は切らすなよ、今のマグネタイト量じゃもう一度すら呼べない」
「ウェ!? 参リマシタネ、今ノペーすデハ若干きつイ。増援ヲ期待シテイタノデスガ」
「無茶言うな無茶。残量見てみるか?」
口を開いて魔石――体力を僅かに回復させる効能がある石、どうやら世界が違っても効果は変わらぬようだ――を噛み砕くシェイに、貴尋はGUMPを展開してみせた。
次々表示されるスティタス、その中のマグネタイト残量は――――
1493
微妙な沈黙がわだかまる。
シェイを召喚するのに消費したマグネタイトが750強。1000の初期値から差し引き、残ったのは250弱。しかし今目の前にある数値はそのおよそ6倍、何時の間にこれ程溜まっていたのか?
「・・・・・・・・・ますたー」
「ああ、こいつぁ運が巡って来たかもだ!」
喜色の滲んだ声を出すシェイに、貴尋も呵々と笑った。
溜まり具合こそ元の世界とは比肩にならぬ程微々たるものだが、確かにマグネタイトは増えている。
現在の量も心許ないと言えば心許ないが、これだけあれば増援を呼ぶ事は十二分に可能だ。
――バシャッ!!
軽い音を奏で、GUMPが展開される。
悪魔は3体。下手に上級神を召喚すると世界にどんな影響が出るか分かったモンじゃないので、こちらでも普遍的に存在しうるであろう妖精属を選んだ。
殷々粛々、ガチリ噛み合う術式。
響き渡るは相克の鳴律、甲高くも重厚な作動音が脳髄を掻き散らす。
その情景に危機でも感じたか、その場にいた全ての妖魔達が焦燥を帯びた顔でやおら動き出した。
――――もう、遅いと言うに。
「そぉら出番だ、Come on!」
振り上げたGUMPが、三条の閃光を放つ。
ごっそりと周囲のマグネタイトを食い散らかし、顕現するは異形の妖精。
南瓜頭にマントを纏い、被るは黒のとんがり帽子。
底抜け白い雪だるま、蒼い頭巾が目に染みる。
翅を生やした小さな少女、手乗りサイズは異形の証。
さあ見よ聞けよ名を知れよ。
貴様ら悪魔を屠り去る、其もまたヒトツの悪魔也。
刮目。
今ここに、アクマが顕現する!
「「HEEEEEEEHAAAAAAAAAAAAAWWWWW!!!」」
夜陰劈(つんざ)く、異音の咆哮。
南瓜頭の火妖精――――ジャックランタン
雪達磨の氷妖精――――ジャックフロスト
翅少女の小妖精――――ピクシー
唖然。
周囲がそんな調子となっている中、呼び出された三者は貴尋へ嬉々とした声を出した。
「やー、外に出るのもかれこれ1週間振りホ! 無駄にテンション上がるホっ」
「GUMPの中は実に詰まらないホ、退屈だったホ。シェイ兄さんはいつも外に居られて羨ましい」
「やほぅ、タカヒロさんおっひさー♪ 何か全体的に変わったね、イメチェン?」
元気だ。無駄に。
どうやら主人の姿形が変わっている事には大した感情を抱いていないらしい、大らかといえば聞こえは良いがなんだか寂しくもなったりして心中複雑。
ぽてぽて身体に纏わり付いてくる愛いヤツらを撫で繰り回しつつ、貴尋は痛む身体を圧して彼らにオーダーを告げる。
「出て来て早速で悪ぃんだけども、手伝ってくれね? このままじゃ正直疲労で死ぬる」
「えー、何を?」
「ヒ?」
「ホ?」
「周リヲ御覧下サイ、ソレデ御理解頂ケル筈」
警戒を絶やさないシェイの言葉に、彼らもぐるーりと体を回す。
・・・居るわ居るわ、馬鹿みたいに居るわ。
おおよそ60強の悪魔共が、大仰な感じで呼ばれた割には存外弱そうな三者を嘲笑うかのように見ている。
スッ、その現状にピクシーの目が細まった。
「あーはいはいはい。こいつらをブッ壊しちゃえば良いワケなんでしょ?」
レオタードにも似た青い服から伸びた腕を組み、頬に指を当て一言。
鈴を転がす声音でありながら、吐かれた台詞は冷厳。
それに追従するがごとく、南瓜頭と雪達磨もヒーホー良いながらつぶら(?)な瞳で叫ぶ。
「んぬぁ、オレってば何かムカつく目で見られてる!? こいつぁ途轍も無く遺憾だホー!!」
「・・・・・・これは上下関係というモノを教え込む必要があるホ。図体だけで勝てる程、ボクらは甘くない」
先に喋ったのが、雪達磨のクセに熱血漢なフロスト。後の方が、南瓜提灯のクセにクールガイなランタン。属性と性格が真逆な辺りが小憎い。
頷きあう、仲魔。
りりり・・・と翅を鳴らして空に舞い上がり、淡い燐光を零しながらピクシーは笑顔を作った。
貴尋に投げキッス1発、すぐに妖魔の群れへと向き直る。
ジャック兄弟(当人達曰く)も主の両サイドに付いた。後ろはシェイが固めているため、これで貴尋は四方を護られている事となる。
見る者が見れば即座に魅了されかねぬ笑みのまま、小さき妖精は口を開いた。
ただ、その目だけは冷たく――――
「殺るよ」(にっこり)
空間が罅入ったとすら勘違いしてしまう程、極寒な暴言!
噴き上がるその威圧感たるや、哀れな小鹿を獣王が見竦めているかのごとし。
60の有象無象が、たった独りの妖精に心敗けしたのだ。
情け無し!!
先程寄越された嘲笑を数倍にして熨斗付きで返却し、彼らは事態を一気に収束へ向けんと言ノ葉を繰り始める。
「我は請う、雷鎖の呪縛汝(なれ)を裂き、死至る門を開くれば、よも逃るる事能わざり!」
「紅き焔は土の僕、朱き焔は天の僕、贄を呑んと欲すれば、火顎は汝を喰い去らん!」
「氷塊、氷河、氷点下、其を縛るは無骸の氷牢、凍てし身を持ち、裁きを受けよ!」
「慚愧ノ念、魂ニ至リテ魄ニ抜ケ、破邪ノ理ココニ為シ、降魔ノ戒知ラシメン!」
殲滅カルテットが組み上がり、地獄の交響曲を奏でんと世界を軋ませ始めた。
その韻律には欠片程の慈悲も無く、普く全ての敵対者を破壊する純粋なチカラのみが彼らの周りを渦巻いて。
じりじり後退る一晩限りの百鬼夜行。
水虎、
山童、
餓鬼、
天狗、
大鬼、
既に彼奴らはヒトに徒為したという、なれば貴尋とて容赦をくれてやる積もりも無い。
終わらせよう。
瞑目一瞬、貴尋が右手を高く掲げ・・・・・・指を、鳴らした!
「MAHA―ZIONGA!!」
ゴウライ――豪雷――
「MAHA―AGION!!」
ゼツエン――絶焔――
「MAHA―BUFULA!!」
ヒョウガ――氷牙――
「MAHA―PSYO!!」
ネンバク――念爆――
空間を無慈悲に蹂躙する紫電の閃光。
悪辣なるモノを噛み砕く灼熱の業火。
遍く万物を凍てつかせる極限の寒波。
脳髄全神経を沸騰させる思念の衝撃。
『四重奏』とは『死重葬』、世界に死を重ね葬る無限にして夢幻の殺戮を帯びた魔性のスクリプト。
消し炭、溶け残り、氷像、血塗れの死骸・・・超常の死のみが、ここに充満していた。
「あはっ♪ なぁによ、デカイ口叩いてた癖にもう御仕舞い?」
ふわりふわふわと翅を揺らしながら、少女が心底楽しそうに笑う嗤う哂う。
「ふん・・・・・・月を見るたび思い出せ、だホ」
「ランタンの兄貴、ぶっちゃけ死ぬほど似合ってねぇホ・・・・・・すいませんでした殺さないでください」
「わかりました殺しません」
・・・コイツらもコイツらで、まぁ余裕綽々な事だ。
たかが小妖精、その侮りこそ間違い。
ピクシーもランタンもフロストも、素体こそ確かに一般的な存在ではある。あるが、彼らは他の者達とある一点において完全に隔絶しているのだ。
それは経験。
貴尋に長い事使役されてきた彼らは、単の同属と比較にならぬ戦いの日々を刻んでいる。
現世へ顕現した累計時間が長期化すればする程に、悪魔達は存在係数の濃密化を増していく――俗っぽく言えばレベルアップだ。
それは奇襲という一点をのみ追い続けた成果。
容姿に油断したが最後、独自の技で業でワザで循環圧縮し練り上げた魔法に打ち倒される事となろう。
元より少なかったキャパシティこそ差程成長しなかったが、ガソリン切れを起こす前に大概の敵対存在は殲滅される。
それこそ純血の高位魔族ですら、彼らの一発を完全に防ぐ事は出来ない筈・・・・・・反撃されれば逆に一瞬で叩き潰されるだろうが。
兎角、努々見縊るな。悪魔の真に恐るるべきモノは姿形でなく、内包せしチカラぞ。
「ますたー、終ワリマシタ」
「・・・・・・ああ」
居住まいを正すシェイに、青年は鬼剣を担いで呟く。
周囲に巡らせた彼の視線が捉えたのは、累々と積み重なっていた悪魔の骸が徐々に粒子と化し散っていく光景だった。
ともすれば幻想的な、しかしそれは確実な死。この世にあらざる者達が還っていく事の証で。
溜息ひとつ、ザクンと鬼剣を大地に突き立てる。
それはまるで――――
墓標
「・・・・・・行こう」
ぽつり呟き、GUMPをベルトに引っ掛けて貴尋は歩き出した。
往く。
“死”を己が身で持って知る者が、往く。
凡庸な黒い瞳の奥に、深い深いカナシミを供して。
□■□
「あー、あきまへん。自分ら最強の鬼達や言うとった割りに、なんや・・・はんちゃらけな連中おしたなぁ」
百鬼夜行のすぐ近く。
鬱蒼と茂る木々の中に紛れるように、太めの枝へ身を預け事の顛末を見守る女が居た。
体に簡略化された陰陽師のような服を着け、はだけさせた胸元は何とも扇情的。スリットから生えた御御足も中々に見事である。
すっとした印象を覚える顔立ちに濡羽色の髪をざらりと流し、丸縁眼鏡の奥には鋭角な眼と黒瞳。
寄り掛かるように身を大樹へ添わせ、安定の為に使っている左手とは逆の方に携えた双眼鏡を下ろし軽く息を零す。
「しかし、面倒な事になりはった。よもや、よーもやあちらさんに悪魔を喚べる御仁が混ざるとは・・・・・・協会に御報告せなあきまへんなぁ」
「キヒッ! いやに仕事熱心じゃんか、似非符術師さんよ?」
誰に言うでもなく呟いたつもりが、何処からか返事を返された。
女の表情に、渋が混じる。
「・・・何処に行っとった、こんアホザル。アンタがおらんと出来へん仕事もあんねやえ?」
「おー、悪い悪い。この森のショウジョウ共が中々にコシ強くてなァ、楽しい死合いさせてもらったぜ」
「思っきし脇見しとうやないか! アホなことせんよぅ脳味噌ガタガタいわしたろか、え?」
「っかー、しつっけぇなぁ。謝ってんじゃねぇかよ」
東男に京女が良いたぁ嘘も極まってやがる、ケタケタと笑いながら宣う闖入者。
・・・それは、猿。
さる。
頭頂部の毛髪が若干薄かったり純白なブリーフを穿いてたり思いっきり喋くってたりするが、その姿は・・・・・・どう見たって、サルだ。
彼はオリバーくん。“くん”までが名前のナイスガイ(自称)。
人間とチンパンジーのミッシングリンクだと一時期持て囃された事もあるが結局はガセだったという、他方面を巻き込んで不遇にさせてしまった非業の霊長である。
・・・まぁ、彼がそのオリジナルと言うわけではないのだが。第一オリジナルの方は喋らなかった。
するすると幹を登り女の横へ腰を落ち着け、銜えた葉っぱをひこひこ動かすオリバーくん。
「つぅか、よ。あの悪魔召喚ヤローは完全に不確定要素だろ? ブッ潰しといた方が安全じゃねーんかさ」
「簡単に言いはるなぁ・・・今の手数考えてみ、勝てる思うとんか?」
「・・・・・・あー、ムリ」
「せやろ。ここは大人しう退いとくんが最善やえ」
「は、生き汚ぇ儂らにゃ似合いの行動だぁな」
言葉交し、先にオリバーくんが大木から枝下の虚空に身を踊らせる。
滑るがごとく空を落ち、着地音は実に極僅か。流石霊長と言ったところか、落下の衝撃を膝のクッションのみで殺しきったようだ。
一瞬遅れて、女が枝から身を投げた。
数メートルはたちまち消失、共連程ではないがそれなりに静かな着地を果たし女は軽く裾を払った。
「行くえ、オリバー」
「っテメェ千草ぁ! “くん”を付けろよブスサルメガネっ!!」
呼称に相当なこだわりがあるのか、この言い様。
しかし女は完全にシカト敢行。どうやらいつもの事であるようだ。
彼女の名は、天ヶ崎千草。
関西呪術協会に籍を置く、暗部の者――――
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