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ネギサマ第5話 「擬態と暗躍」 投稿者:ドゴスギア 投稿日:09/14-17:04 No.1255
「…………うん。ベストとは言えなくとも、そこら辺がモアベターですかね」
「暫くは不便をしてもらうが、容赦しておくれな」
「や、こっちこそ思いっきり便宜図ってもらってますし。すいませんっつーべきなんは寧ろ俺らの方だ」
「では、その勢いでネギ君の補佐なんかもやってくれたりなんぞ――」
「だが断る」
「…………」
「………………」
「……………………是非に良い関係を築き上げていこうじゃないか櫻井君」
「こっちこそ宜しくお願い致しますよいやマヂに」
科白を契機に、諸手でしっかりがっしり握手する貴尋と近右衛門。
その双方とも手が力の入れすぎでやや白んでるあたりは、果たして愛嬌なんだと言っちまっても良いのか否か。
学園長室。
“テスト”を終えて戻ってきた貴尋とシェイ(妖精達はマグネタイトの無駄遣いを抑えるためGUMPに戻した)を迎えた近右衛門が早速切り出したのは、この麻帆良における彼らの身の振り方だった。
こちらの世界に通用するような身分証明が無い以上後ろ楯は必須。
とは言え、貴尋は何から何までを提供してもらう心積もりなど一切無かったりする。寄越されたものが多ければ多い程、それはいざと言う時にこちらへの束縛となり得るのだ。
流石に戸籍に関してはどうしようもないが、他の事は色々摺り合わせる必要があって。
何時の間にか増えていた人達の事も気にせず数分程繰り広げられたやけに短い討論の結果を、ここに記す。
・戸籍
麻帆良の諸学校が始業式を迎える前までに用意しておくとの事
・仕事
貴尋、シェイ共に夜間の警備員を拝命。給料は即金で完全出来高払い
・諸費用
最終的に返却する事を念頭に置き、常識の範囲内で自由に行使する事を認める
・住居
好きに捜して良い、費用は前述
・備考
貴尋は麻帆良の大学部に1年生として編入。学費などの諸費用は前述
要点を摘まみ上げればこんなところか。
シェイの処遇に関しては別途考える必要があるものの、大方の指針が出来た事は歓迎するに相応しい。
……しかし、だ。
「ってか、自分で言うのも何だけど良くもまぁ素性の知れない輩を教職へ就けよーだなんて思えるモンですね?」
「ふ。何も“信”のみがモノの動機になるわけではないぞ、若人よ。容易に切り捨てられる存在を敢えて使うも、また一つの手法と言うもの」
「…………それを面と向かって言ってくれる辺り、まぁまぁくらいには信用してくれてると考えても宜しいんで?」
両方共に話し合い時のブラックさが残っているのは、一体全体どうしたものか。
ゴキリ首を鳴らしながら貴尋は顰めっ面で言う。
「どっちにしたって、今の俺なんぞに教職は出来んです。そのネギって子を補佐させたいなら、俺よかシェイの方が適任でしょうさ」
「……………………………………ハ?」
唐突に担ぎ上げられた造魔が、素頓狂な声を上げた。
「ふむ、そこな悪魔君をかの?」
「Yesとば。マグネタイト捩じ込みゃ人間に偽装する事も出来るし、社会的常識にも通じてる。シェイは俺の仲魔ン中でイの一番に信頼出来るヤツですよ、性格面でも能力面でもね」
「ま、ますたぁ…………!」
当たり前の疑問を浮かべる近右衛門へシェイの有用さをさらりと語り、青年はきゅっと口角を釣り上げた。
その言葉に、先の驚愕も忘れシェイ感涙。
普段から貴尋が仲魔を褒めたりするのに躊躇をしない人間である事は彼も存じているが、ストレートに信頼を受けている事を表明されるというのは、やはり嬉しさの度合いも違うのだろう。
…………体よく誤魔化されてる事に、果たしてシェイは気付いていなかった。
胸の前で指を交差させ手を握る造魔をなるたけ見ないようにしつつ、貴尋はGUMPを軽く掲げてみせる。
シェイの擬態能力、それは彼自身が元来から持ち合わせていたものではない。稀代の科学者にして悪魔合体師『ヴィクトル』監修の元で改造されたGUMP、それにインストールされたソフト【ミミックリィ(擬態)】によるものだ。
…………が、このソフトのせいでファイル容量がかなり圧迫され、仲魔のストック数は12体から8体にまで減ってしまった。プラスマイナスほぼ0。
ちなみに、現在GUMPに登録されている仲魔は6体。妖精ズは3体セットで圧縮掛けるという外道な手段で1体扱いしているため、こいつらとシェイを除けば実質残りは4体だ。
何らかの手段を使えば他に使役していた嘗ての仲魔達もこちらに喚ぶ事ができるかも知れないが、今はそれを考える時間じゃないので思考から追い出す。
「ま、百聞は一見に如かずっつー言葉もありますし?」
「…………そうじゃの。お言葉に甘えて、是非見させて頂こうか」
「ういさ」
首肯ひとつ、左手でGUMPを展開。
バシャリ音を立てつつ形を変えていくコンピュータ、瞬く間に銃身部が分れ簡易キーボードとディスプレイになった。
右手を左側のキーボードの上で踊らせてインストールソフト実行、右側のディスプレイに流れた文字列をざっと読み飛ばす。
ビシッ、紫電が空を走った。
そんじゃ行くぜー、周囲の緊張もよそに貴尋の言葉は軽い。
瞑目する事ほんの数秒――――
悪魔召喚師は、躊躇わずGUMPのトリガーを引いた。
□■□
「んッんー、良い具合だ」
喉の奥を鳴らすような癇に障る笑い方で、その男は己が一端を担う麻帆良の諸騒動をそう評価した。
ボサボサに伸ばされた黒髪、長身細躯に羽織ったボロ布のような外套の下は意外と小綺麗なポロシャツとズボン。顎を覆うようにぷつぷつ生えた髯が野性的な、しかし全体としてはどうも文官チックな香りを漂わせる男。
偽装と召喚に普通より通じた“元”関西の呪術使い。此奴の説明はそれで事足りる。
次々妖魔を呼び出しては放逐し、そしてソレらが処分されていく様を観測する――それが、ここ1年弱前から続けられる男のライフワークであった。
傍目には魔力の無駄遣いとしか見えないが、男には男なりの意図があるのだろう。実際、今まで細々呼び寄せてきていた百鬼どもがつい今し方さっくりと謎の青年及び悪魔共に叩き臥せられたのを見てもなお、彼には動揺した気配など微塵もない。
「天ヶ崎の小娘も覗き見ていたようだが…………まぁ良い。私は観測を続けるまで」
思案と言うには短すぎる考察の果てにそう結論付け、男は森の中を歩きながら手元の大学ノートに角張ったクセ字をつらつらと綴り始めた。
彼曰く天ヶ崎の小娘こと千草は裏から麻帆良を訪れているが、それはあくまでも呪術協会の長たる『近衛詠春』から指示を受けたためである。故に上へのお達しもしっかり通っていたので、彼女がこの地を踏んだ時結界は反応しなかった。
けれど、男は違う。
お得意の偽装術により自分を関西から正式に寄越された者だと結界に認識させて麻帆良内へ侵入、口八丁手八丁あの手この手で追い縋ろうとする存在を煙に撒いた。それが2年前。
最終的に虚構の痕跡で持ってあたかも自分が野垂れ死んだかのごとく“偽装”すれば、法に縛られず動ける状況の完成だ。
何を思って男がこのような事をしているかなど、前述の通り余人には測り知れない。
ただ。
準備に3年近く、自分を戸籍上で殺してから半年。浅薄な思考ではあるが、それ程に間隔を置いて行うような事象の他者に取って物騒でない筈はなく。
数分強歩いて自分の巣とも言えるテントに戻り、座り込んだところで男が呟く。
「何処ぞのが言った“数は武器”も、大概宛にならんものだな」
次いで首を動かすと、テントの片隅に蹲るようにして動かないナニカが見えた。
そのぼやけた輪郭を愛おし気に見詰め、男は転がしていた小さな酒瓶をひっ掴み一気に煽る。
黒、金、肌の色、ゆるゆる移り変わっていくナニカの色彩。
ここ麻帆良で彼が最も初めに喚んだ、それは――――
「嗚呼………………ワタシよ、愛しきワタシ」
陶然と呟く男に、ナニカも面持ちを上げた。
ぼやけは消える事なく。
じっと視線を合わせたまま、外法の者と外法のモノは。
□■□
あちらの世界。
こちらの世界。
何故だかは解らぬが、貴尋には“世界を跨いだ時間及びその前後の記憶”が一切合切消え去っている。
誰と過ごしていたのか。
どう過ごしていたのか。
ある一日までは思い出せるのだが、そこから先が急速に曖昧模糊と化してしまうのだ。
GUMPに付属しているスケジュール機能も、当の一日以降に関しては全く記述が失せている。
どうしたものかねぇ、貴尋は考えていた。
「マスター」
そして、飛んできた言葉で思考を中断。
シェイが呼んだのであろう。
けれど、今の声音は造魔特有の合成音じみた耳に宜しくない代物ではなく、歴とした女性の――しかも相当に美声だと称しても過言じゃない――逸品だった。
本日もう数え切れない程吐いた溜め息をもう一度零し、貴尋は顔を上げる。
その視界に、擬態を済ませた造魔の姿が入った。
「これは、何と最早…………下手な隠行よりもステルス性が高いね、人込みに紛れていたらまず悟れそうにない」
「木の葉を隠すには何とやら、を地で往くか。見事」
「…………化生の気配も完全に抑えられています。変身の過程を見ていなければ私も間違いなく騙されていました」
タカミチが冷や汗とともに驚嘆の意を表し、近右衛門も同意して首肯。最後の刹那の呟きが底知れぬ説得力で擬態の成功を表している。
でも、貴尋は
――――デジャヴを感じた
若干エキゾチックとはベクトルが違う褐色の肌、
――――デジャヴを感じた
オールバックで纏められた恐ろしい程白い髪、
――――デジャヴを感じた
整った顔立ちに引っ掛けられた橙色の眼鏡、
――――デジャヴを感じた
左の眉の丁度上に存在する真紅の五芒星、
――――デジャヴを感じた
漆黒色に染め上げられた平凡な神父服、
――――デジャヴを感じた
堪え難い嫌悪感。
何故?
何故ここに貴様が居る?
貴様は、自分が■シタ筈なのに。
動悸が早まる。
呼吸が詰まる。
できない。
直視できない。
膝が折れ、思わず地に崩れ落ちた青年。
シェイの今の姿は、貴尋が『櫻井貴尋』であった頃その命を間接的に奪い、そして『葛葉キョウジ』の身を借りてからも貴尋の前に幾度と無く立ちふさがった一人の男を喚起させるに十分であった。
『シド=デイビス』
悪魔を召喚する術を持ちながら自身も特級の戦闘者で。
一柱の魔王さえ【組織】なるモノのために利用する悪辣さを持つ者で。
己が目的における過程次第では女子供すら容易に蹂躙出来てしまう本物の外道で。
そして、なにより――――
「ッ!!」
何を思ったか、貴尋はいきなり自分の頬を強かに叩いた。
パァンと鳴り響いた小気味良い音、それを皮切りとして青年の目に確固たる意思が戻ってくる。
僅かな差違を確認する度に、少しづつ治まっていく悪感情。
「…………申し訳、ありませン」
「お前が謝る事じゃねぇさ、気にすんなよ」
申し訳なさそうな面持ちのシェイにそう言い、貴尋は彼――もとい彼女の頭を軽く撫でた。
不様なトコ見せちまいましたね、と締めくくって居住まいを正す。
肝心要は、ここから。
「…………さて、学園長殿?」
「うむ。それだけの能力を持つ悪魔、幾ら使役される身と言え野放図にしておくのは危険に過ぎる」
巡らせた首の先で問えば、返って来たのはそんな言葉。
が。
「そんじゃ【目】が必要ですね、なるたけ近い位置に」
「然様…………ほ、丁度その為に誂えたようなクラスが一つばかり在りよるな?」
「や、そのクラスって担任の先生が魔法使いだったりしません?」
「おお、言われてみれば確かに! 他の先生を手配する手間も省けて、これは重畳よの」
何やら(シェイに取っては)雲行きが怪しくなって来た。
頬を引き攣らせるも、もう遅い。
こちらを向き、何とも気味の悪い邪笑を浮かべる貴尋。時にマスター、何時の間にそんな元気を取り戻した?
たっぷりした髯を擦りつつ、ひょひょひょと笑う近右衛門。間違い無く厄介事を吹っかける気だな。
完全に置いて行かれている刹那とタカミチ。頼んます、お願いだからこの人たち止めて下さい。
奔走する思考、しかし現実は非情。
誰も彼もが立ち竦むシェイの事を見詰める。
じっと。
――――この瞬間、造魔は悟った。
マスターも学園長殿モ、詰まる所は同族(ロクデナシ)だったんですネ
シェイ、麻帆良学園中等部3―Aに入学決定。
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