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 ネギサマ閑 話 「月下、桜花、黒禍」 投稿者:ドゴスギア 投稿日:02/27-20:52 No.2087  

 4月7日、夜。
 始業式を明日に控え、麻帆良の街はひっそりと黙していた。
 人の気配が無い桜並木。
 薄く色付いた桃色のアーケードを、独り少女が走る。
 その形相は兎角必死の一言に尽きた。まるで何かに追われているかのようだ。
 息切らし駆ける少女、名を『佐々木 まき絵』。刹那の同級生である。
 が、“裏”の世界を知らぬ彼女には、なぜ己がこのような目にあっているかなど皆目見当もつかないだろう。
 ――――否。
 心当たりが、一つだけ有った。
 しかしそれは愚にもつかぬ世太話の類いな筈、現実にそんなモノが存在するわけがない。いや、居て堪るか!
 常識観念の確認から現状の否定へと思考がシフトするも、追ってくるナニカに止まる素振りは皆無。
 ふわ、風が頬を撫で桜と同じ色合いの髪を嬲る。
 と同時に、黒い影が頭上を抜いた。
 先に回られた、冷静な部分でそう考えるも、既に頭が体の制御権を放棄している。
 がくりと膝を折り、桜の根元に倒れ込むまき絵。
 ゆっくり、恐怖を煽るようにナニカが接近してきた。
 黒い襤褸布が揺れ、得体の知れぬ臭いを鼻孔に投げ込む。
 もう、彼女は限界だった。
(桜通りの、吸血鬼)
 友から聞いた噂を思い出したのを最後に、ぷつり糸が切れたがごとく倒れ込むまき絵。防衛機制が働いたのだろう、意識はシャットアウトされ既に遥か彼方だ。
 ただ、それは精神を守る事になっても肉体までは保証しない。
 喉の奥で擦るように嗤いながら、ナニカはまき絵の体にのしかかる。
 口蓋と思しき器官を開き、幼気な少女の首筋をいざ啜らんと、
 ――斬、斬ッ!
 したところで、2条の銀閃がそれを阻んだ。
 確実に首当たりを狙った致死の斬撃はしかし、直前で皮一枚裂いただけ。
 大きく跳び退るナニカ、空中に咲く金の花。
 散った桜花を髪に絡ませたまま、警戒しつつ襲撃者を見る。
「あちゃ、外してもーた。またどやされてまうわー」
 次に飛んできたのは、関西訛りの交じる間延びした声。
 その襲撃者―こちらも少女である―は、薄い笑顔を浮かべていた。
 打刀を右に脇差を左に構える、逆手二刀の剣士。ややくすんだ金髪に琥珀色の瞳、装飾過度な衣服を纏っており、その様はどう見ても戦いにそぐなうとは言い難い。
 くい、鼻からずり落ちかけた眼鏡を直す。
「…………ジャまをすルつモリカ、しンめいリュう」
「や? 邪魔すな言いましてん、あんはんと不可侵結んでるわけちゃいますやろ。それに」
 女とも男とも分らぬ掠れ声に、少女は冷笑を返した。
 その視線の先には、横たわるまき絵。
「そこん子はウチのくらすめぇとや…………オイタしたら、あかんえ」
 呟きの残滓を撃ち潰す、裂帛の踏み込み。
 完全に“殺す気”で、少女は二刀を繰りナニカに踊り掛かる。
 遠慮を一片さえ含まぬ斬戟の雨。
 しんめいりゅう=神鳴流。刹那と同じ流派でありながら、その動きには大きな差違があった。野太刀と二刀の違いなどではなく、もっと根本の部分にズレが存在するのだ。
 鋼が描く弧、袈裟掛けの剣は紙一重で躱される。
 返す刀で横薙ぎ。
 しかし、どうも襤褸布にしか見えない黒の外套が途中で刃を食い止めてしまった。
 引けども押せども動かない、少女の顔に渋が浮かぶ。
 舌打ち一つ、頓着せず大刀を手放し左で再度首に襲撃を掛け。
 風切音。
 今度は皮にも掠める事無く、小刀は空を裂いた。
 大きく仰け反った姿勢からナニカが外套をバサリはためかせる。
 視界一杯に淀んだ黒が割り込んだ。
 上体を傾げ首を捩れば、一瞬前まで少女の頭があった場所を鋸刃のような姿になった外套が走り抜ける。
 あとコンマ1つ反応がおくれれば、桜吹雪に真紅の雨が混じっていたやもしれない。
 攻撃へ転じた事で束縛が緩まったのだろう、外套に包まれ宙吊られた大刀がぐらりと傾く。
「っひゅぅ!」
 鋭い呼気に乗せ更に一撃、放った右の抜手をより速く引き戻しながら左と対を為すもう一本の愛刀を回収。
 ざりり地を擦り少女はナニカから飛び離れた。
 刀には何事もないようだ。圧し折られるかとも思ったが、杞憂らしい。
 ひゅ、血払い一度、背を向ける。
「なンだ、モウおッてこナいのカ?」
「ウチの出番は終いや。あとは宜しゅうに…………せんぱい」
「ッ!」
 少女が喉奥をくつりと鳴らした。
 それを訝しむ間は皆無、

神鳴流奥義――――斬魔剣

 剣風、哭く。
 振り向く事も叶わず、背後からの一閃によってナニカはその胴を真っ二つに叩き斬られた。
 まさに一刀両断。
 下半身はガクリと膝を折り、上半身は刎ねられた勢いで横滑りし地面に転がる。双方共に外套がまるで死体を包む布のごとく絡まっていた。
 お美事、少女の賛辞に剣を振るった者――刹那はしかし渋面のまま刀を降ろさない。
「どないしましてん?」
「…………手応えが軽すぎる。気をつけろ、まだ終わっていないかも知れない」
 刹那の言葉に、少女は眦を上げる。
 なるほど、言われてみれば確かに場の空気は悪意と害意で淀んだまま。こういうものは原因となる存在を討てば散ってしまう筈なのだ。
 二刀を少女が構え直した、瞬間。
 ――ゾロッ!
 斬り伏せたナニカの姿が、ほどけた。
 上半身は無数の蝙蝠に形を変えて空へ飛び立ち、下半身は数多の百足とばらけ散り地面を跋扈する。
 あれよあれよと言う間に、相手は二人の包囲網をすり抜けてしまった。
 唖然とする事数秒。
「…………あーあ」
「あーあってお前! 何をぼっとしてるんだ、追わなければっ」
「先輩、そら無茶ってなもんですえ? ふつー空は飛ばれへんものやしね、人間」
「む……それは、そうだけれど」
 気が抜けた少女の言に、しおしおと萎んでいく刹那。どうやら彼女のセリフが心に引っ掛かったようだ。
 それを、口にした当人は敢えてスルー。
「取り敢えず、まき絵ちゃん連れて帰りましょ。先輩も今日はゴタゴタあって疲れとりますやろ?」
 桜の根本にうずくまる娘を担ぎ上げながら、カラカラ笑い掛ける。
 彼女が言うゴタゴタとは、本日の昼頃に起こった事だ。護衛対象である近衛木乃香嬢がお見合いから抜け出してしまい、その捜索がために刹那はほぼ日がな一日街中を駆けずり回っていたのである。
 げんなり肩を落としつつ、刹那は野太刀を鞘に納めた。
 鋼の合わさる澄んだ音。
 それを耳にしながら、不意に少女が呟く。
「やっぱ、吸血鬼なんでしょかねぇ」
「…………今さっきの件がなければ、私も否定したかもしれないが」
「せやったら、彼女が出張って来ぉへんのは妙や思いまへん? あーゆーのて同族間の上下関係けっこー厳しい言う話やし」
「先生が赴任した辺りから、学校にすら顔を出さなくなってしまったからな」
 思案顔で刹那。
 二人の脳裏に、常から従者を侍らせいつも退屈そうにしている“彼女”が浮かんだ。今、彼女達のみならず魔法関係者の間で一番クロに近いと目されてしまっている者である。
 桜並木が風にざわりと揺れ。
 空には淡く艶めく月。
 どうやら、満月が近くなってきたようだ。
 月光は妖を狂わせる、とはあながち間違いでもないらしい。刹那も、己の心が何処かざわつくのを感じていた。
 それを少し心地よく感じている部分が有る事に、腹立ちも覚える。
 頭を振って思考から追い出し、そこで気付いた。
 やや離れたところから、まき絵を背負った少女が呼んでいる。随分と先に行かれてしまった。
 走り出した刹那に、飛びかかってくる声。
「せーんぱーい! 早よせんと置いてきますえー」
「いい加減私を先輩と呼ぶのは止めろと! 同い年で同じクラスだろうにっ」
「やーですー」
 にべもなし。
 追い付いたところで盛大に溜息を吐き、刹那は目を瞑った。
 出会ったあの日から続いているやりとり故、最早コレは直らないし向こうも直す気はなさそうである。だがそれでも、やっぱり気になるものは気になるのだ。
 その様子に、さも可笑しいものを見た感じで少女が笑う。
「…………笑うな、月詠」
 いかにも不機嫌ですといった声を出しながら、刹那は唸った。


 少女の名は、天ヶ崎月詠。
 義姉と連れ立って関西呪術協会から麻帆良へ訪れた身ながら、その義姉とは逆に関東側と積極的な関与を持つ神鳴の剣士。
 その目的は唯一。近衛木乃香を、刹那と共に守る事――――

真・ネギま転生デビルサマナー ネギサマ第7話 「邂逅」

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