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ネギサマ第7話 「邂逅」 投稿者:ドゴスギア 投稿日:04/01-00:35 No.2199
でかでかと聳え立つ、麻帆良学園中等部学舎。
ここに今から通うのか。
お上りさんよろしく校舎内をきょろきょろと見回しながら、シェイはそんな事を考えていた。
不安の類いは特に無い。不満といえば途轍も無く不満ではあるけれど、主からの命とあれば余程の事がない限り無理矢理にでも納得するのが彼女なのだ。
ボブカットにされたブロンドの髪を弄びつつ、溜息。
鋼色の瞳が、自分の左側を歩く一人の少年を捉えた。
彼女が編入される事となったクラス3―Aの担任、ネギ・スプリングフィールドである。
赤茶の髪、丸眼鏡、背中には長大な杖。
10歳で教職、貴尋がこの事実を聞いたら嫉妬に狂ってハンカチを噛み千切るかもしれない。なにせ彼、あの神父に人生歪められたせいで教職課程はおろか大学を卒業する事すら真っ当にできなかったのだから。
なるほど、抜群に非常識な少年だ。
聞くところによると、彼の父はサウザント・マスターなる字を持って多くの魔法使い達から尊敬の念を受けているそうである。消息を断って既に10年が過ぎた今でも、その雷名はいまだ衰える事を知らないとの事。
それだけ偉大な父親との血縁関係、普通なら大いにプレッシャーとなりそうなものだが。
ふむ、吐息に思案を混ぜて零す。
どうやら彼はシェイが悪魔に属する存在だと見抜けてはいないようだ。いやむしろ、そういう方面に気を向けていないだけか。
純朴で良い子だなぁ――――そういうのに限って“付け込まれる”ケースが多いわけだけれど。
恐ろしく不躾かつ不穏な事を考えていると、不意に少年の足が止まった。
釣られてシェイも足を止めれば、そこは彼女の新しき舞台…………3―A教室。
「それじゃ、僕が先に入りますね。呼んだら入ってきて下さい」
「わかりました」
事務的に軽く一礼。
戸の向こうへ姿を消したネギ、それに合わせて教室内のガヤが少し治まる。
一瞬の間をおき、
「3ねん! Aぐみ! ネギせんせ――――――――っ!!」
何とも姦しい音が耳に突き刺さってきた。
このクラス、賑やかしの類がかなりの数でもって棲みついている。
恐ろしきは数分後、あの喧騒が今度は自分目掛けて差し向けられるのか。シェイは抱いていた不満を一気に辟易へスライドチェンジさせた。
嗚呼、超逃げたい。
そもそも彼女の悪魔生において、大勢の前で口を利かねばならぬような出来事は一度たりとて無かった。気配こそ隠せど、言葉からボロが出ないとは限らないのだ。何のって、存在そのものの。
だが時は無情にして無慈悲、扉の向こうから己を呼ぶ声が。
軽く舌を打ち、軽く袖を振るって内側に仕込んだカンニングペーパーを取り出す。自己紹介の時に聞かれそうな質問への対策、それがこの薄っぺらい紙きれ一枚。情けなさ過ぎてマハサイオが出そうだ。
朝も確認した紙切れを速攻で流し見て、記憶中枢に記述された文を再度印刷。
仕方ない、かなり後ろ向きな呟きと共に頬を叩いてシェイは己に無理矢理気合いを入れた。
勢い込んで扉の窪みへ手を掛け、しかし開き方は丁寧に。
廊下と教室とを隔絶していたモノは今ここに開け放たれ、晴れてシェイの姿を30対60個の瞳の前に曝け出す。おおよそ半分以上が興味津々、残りは無関心と警戒にほぼ二分されていると見て相違無さそうだ。
これ程までに、他人の視線というものは精神を圧迫するのか!
新鮮かつ知りたくなかった感覚を存分に味わいながら、造魔少女は教壇に立つネギの横へ陣取った。
その足運びで数名に目を着けられたようだが、敢えて記憶の埒外に放逐。
生徒33人が注目する中、口を開く。
「初めまして皆様、櫻井支衛(サクライ=シエイ)と申します。ここのクラスに御一緒させて頂く事となりました、どうか今後ともよろしく」
自分の声が思ったより朗々と出た事に安堵しつつ、シェイは先程より深い角度で恭しく礼をした。
――――この時の彼女は、数分後に降って湧くだろう地獄の存在をまだ知らない。
□■□
所変わって、大学部。
麻帆良の大学部は『学部』『学科』『専攻』の順に細分化されている。学科の説明会がつい先程終わり、今度は専攻で集まっているわけだ。
教室には、およそ60名強の学生。3年と4年は来ていないらしく、狭めの教室だが一応何とかなっているようだ。
「えー、新入生諸君。えー、過日の4月1日より君たちはこの麻帆良大学文学部に籍を置いたわけですが、えー、その事に自覚と責任をしっかりと持ち、えー」
言葉の節にやたら「えー」と挟む教授の言葉を、ある者は真剣にまたある者は話半分に聞いていた。
そんな中で貴尋はというと、
「…………ねみぃ」
ミントとハッカが入った飴を他人にバレないよう口内で転がしながら、必死にヒュプノスの誘惑と戦っていた。ちなみにヒュプノスはギリシャ神話の眠りの神である。
どこにも話の長い奴はいるものだが、かの教授は筋金入りらしい。横の方で1年上の先輩方がえらく渋い顔をしている。
が、初っ端から寝てると目を付けられたりして後で困る事になりかねない。
キリキリ抓り過ぎて太股の感覚が鈍磨してきた頃、ようやく教授はやったらお喋りな口を閉めた。名前は何といったか、すっかり失念してしまっている。
周りに走る僅かな身じろぎの感覚。
微妙な空気の揺れを利用して何とか眠気を振り払い、軽く背を伸ばす。背骨が内側で小さい悲鳴を上げた。
と、突然前側の扉が開き眼鏡を掛けた男性が現れる。
彼の手招きに話が長い教授を始めとした数人ばかりが応じ、そして慌ただしく教室を辞した。
残された歳若そうな方々数名は、呆然とした様子で目を瞬かせるばかり。
「え、えー。先生方は少し所用が出来たそうなので、そちらのキリが付くまで取り敢えず休憩にします」
一人の教員が機転を利かせて言うと、教室内は一瞬間を置いて騒ぎ始める。
喧噪を気にもせず背もたれにぐでんと寄り掛かり、貴尋は胡乱げな頭で考えてみた。
先程教授達を呼びに来た男、見覚えがある。確か上の名は明石、魔法に関与している側の人間である筈。
魔法絡み、とこれだけで断じてしまうのは早計に過ぎるか。
そう結論付けて今までの思考をあっさり放棄し、貴尋は机に突っ伏し掛けた。
「や、櫻井くん」
「んぁ?」
しかし、後ろの席から横槍が入る。
貴尋に声を掛けてきたのは痩躯の青年。爽やかという言葉が実に良く似合う、新成人一歩手前な若さ溢れる男だった。
「聞いたかい? また出たらしいよ、噂のアレが」
「何だよ勿体振って。噂のアレってなにさ?」
「あ、そっか。最近越してきたばっかりなんだったっけ、じゃ知らなくても無理ないか」
「だから何だと言うに」
むくりと身を起こした貴尋へ、青年は整った顔を向ける。
芹沢 新一。こちらの世界で初めて出来た友人だ。
すらっとした長い足にジーンズを穿きこなした様は貴尋の目にも格好良く映り、なんかこう無性に嫉妬心が湧く。稀代の悪魔召喚師様は、お世辞にも足が長いとは言えないのだ。
「ふふふ、聞いて驚かないように! アレっていうのは、桜通りに出てくるっていう“吸血鬼”の事なのさ」
「……………………眉唾眉唾、くわばらくわばら」
「初っ端から疑って掛かってるね」
「ったりめーでしょうが。ンなモン存在してたまるかって」
「そりゃ実在するかどうかって聞かれたら、俺もNoだとは思うよ。でも実際に血を吸われたって人がいるんだ、それも相当数」
「狂言で無しにそんだけ被害がでかけりゃ流石に警察も動いてんだろ? 公僕を信じてやろうぜ」
「うー、むぅ……」
腕組みする新一に対し、しかし貴尋は内心で舌を巻いていた。
吸血鬼の話は聞き及んでいる。それでいて、敢えてしたのが知らぬ振り。
まだ人死にこそ出てはいないけれど、被害者の中には血を失い過ぎて意識不明の重体に陥ってしまった人もいるとの事。
どうも魔法関係者達が後手に後手に回ってしまっている気がして、貴尋には歯痒い。
軽い溜息一つ。
「セリ」
そこに突然、横からソリッドな声が差し込まれた。
新一に比べるとやや骨太な印象を受ける、凛々しい顔立ちの青年。手を一切加えていないざっくばらんな黒髪が何ともさっぱりした感じだ。
「あ、ロク」
「明石教授が呼んでいる。第2会議室へ向かうぞ」
ぶっきらぼうな喋り口に、しかし新一は慣れ親しんだ相手に向ける感じでへらりと笑う。
名を辻 五十六(イソロク)。
新一とは中学時代からの付き合いらしく、そこから関係が繋がり貴尋にとっては2番目に出来た友人となった。
浅葱色の長着に黒い袖無し羽織りを合わせた和色溢れる衣裳は、彼自身の雰囲気にはぴったりなのだが教室という空間内ではやはり妙に浮いて見えてしまう。
「明石さんが、か…………」
「そういう顔をするな、文句は当人に言ってやれ。櫻井、セリを借りるぞ」
「あいよ」
「話の途中ですまんな。恩に着る」
わざわざ頭を下げ礼の意を表してから、五十六は新一と連れ立って教室を出ていった。
五十六のこういう律儀なところは、貴尋も好ましいと思っていたりする。一見取っ付きにくそうな立ち振る舞いばかりをしているようにも見えるが、彼は他者の想像より遥かに紳士的なのだ。
しかし、明石教授からお呼ばれか。
一人になって今度こそ机に突っ伏し、貴尋は目を瞑った。
もう睡魔を拒む理由など無い。
数回の呼吸を経て、貴尋の意識は緩慢に眠りへと沈んでいく。
□■□
舐めていた。女子学生のパワーを。
普段ならしゃんと伸びているはずの背筋をぐんにょりと曲げ、シェイは半裸の自身を隠す事もせずうなだれていた。
それの原因は、数分前執り行われた彼女の自己紹介にある。
「前はどこに住んでたの?」
「日本各地を転々と移ってます。ここの前は北海道にいました」
「なんか日本人っぽくないねぇ」
「元は外国の生まれで、こちらに帰化したんです」
「え、じゃあ家族とかは?」
「義理の兄が一人。両親とは久しく会ってませんね」
「趣味とか教えてー」
「特にこれといったものは」
「じゃあ特技は?」
「運動はそこそこ出来るかと」
「強そうなふんいきアルね、何か格闘技やてるか?」
「い、いえ、強いて言うなら喧嘩を嗜む程度に」
「あ、肝心な事聞かなきゃじゃん! 好きな人とかいないの?」
「…………も、黙秘権を行使します」
「むむ? その反応怪しいねぇ、是が非でも聞きたいなぁにっひっひ」
とまぁ、身体測定が始まるまでシェイは泣きたくなるくらいに激しい言葉攻めを味わったのだ。
ボロを出す事こそ防げたものの、結構際どいところまでせっつかれた感があるのは否めない。恐るべし、3Aが誇るパパラッチ・朝倉和美。
ちなみにだ。格闘技やってるか云々以前の質問に対する答えは、全てカンペに書かれた文そのまんまである。
近くで着替えるうら若き乙女達、その肢体を眺めてみても別に癒されたりはせず。むしろ悪魔的空腹感を覚えてちょっぴり鬱。3ツ首の獅子狗曰く処女の肉は美味いらしいし。
「んー、やっぱり今日もエヴァちゃんと茶々丸ちゃんはいないか」
「二人とも2月あたりから来てないよね。どうしたんだろ」
「2月って、ちょうどネギくんが赴任してきた後ぐらいからじゃない?」
「ネギ先生がどうかなさいましてッ!?」
「あーもー動かんといてやいいんちょ、身長計れへんやん」
「あっ、御免遊ばせ」
クラスメイト達の奏でる喧噪。
どうやらシェイはクラスの中でも割と平凡なスタイルであるらしい。数字にして身長157cmの上から79・54・81。ここ一週間で慣らしはお終い、今後こちらの世界で擬態する際はずっとこの体で通す予定だ。
教室内を見回せば、下手なグラビアアイドルなんかより余程見栄えのする者もいれば、小学生ですかと伺いたくなってしまうような者もいる。鳴滝姉妹なんか特に。
そういえば、マスターが御執心な秦野久美子嬢も歳の割に割とひんそーな体型をしていたような気がする。
主人と実行者の精神状況が擬態に影響を与える事もある、とは開発者ヴィクトルの談。己が最初にシド=デイビスと似通った姿を取ったのも、生前彼から散々な目に会わされたせいかもしれない。
――思考中断。これ以上の思考による実りは無い筈。
「まき絵、ボーっとしちゃってるけど大丈夫?」
「んー…………なんか夢見が悪くて、イマイチ眠気が取れないんだよね」
「どうせ噂の吸血鬼に襲われる夢でも見たんでしょー?」
「何でわかるのぉ!?」
度々思うが、なんと賑やかなクラスか。
心中で溜息を吐きながら目を動かすと、拍子に黒髪を片側に結わった少女の姿が入った。
ふと、視線がかち合い。
向こうもこちらに気付いたようで、刹那は神妙な顔をしながら近付いてくる。
もとい。
「本当に転入してくるとは思わn「せっちゃんせんぱぁーい♪」ぅがっふ!?」
近付こうとしたところで、別の者に掻っ攫われた。
首を肘裏でガッチリ挟み込み、ラリアットのごとくして刹那を押し倒す半裸の少女。何というか、こう、羞恥心というモノはないのだろうか。
遠くで和美がニヤニヤしている。掌中にはカメラ、見上げたパパラッチ精神だ。
「っだぁ! 何をするかお前は毎度毎度ぉっ」
「いけずやね先輩ってば。このちゃんお嬢様が呼んどるえ?」
「え、あ、ちょ、おまっ」
「おおきになー月詠ちゃん。ほら、せっちゃんも逃げたらあかんよ」
「お嬢様ぁっ!?」
胡散臭くもある満面の笑みを浮かべたまま、乱入者こと月詠がずりずり刹那を引き摺って拉致。行く先であろう黒髪の娘さんがはんなりした笑顔でサムズアップしていた。
万事が至極どうでもよさそうに、ぽつりとシェイは呟く。
「…………楽しそうですね、桜咲刹那」
「言うな後生だから」
さてはて。
身体測定よりおよそ数時間、すっかり暗くなった帰り道。
「吸血鬼なんてホントに出るのかなぁ」
「あんなのデマに決まってるです」
「だよねー?」
桜の花びらが舞い踊る並木を、数人の女生徒達が歩いていた。
3Aが誇るバカレッド・神楽坂明日菜、その横には木乃香の友人綾瀬夕映に早乙女ハルナが並ぶように歩いている。先程までは宮崎のどかもいたのだが、彼女はつい今し方一人で寮へ向かったところだ。
やや後ろに、ひそひそ声で言葉を交す刹那とシェイ。月詠も傍にはいるが、二人の会話を木乃香に気取られぬよう彼女方のグループに混じって話をしている。
「学園長も人が悪いというか何というか…………よもや、本当にお前を転入させてくるとは」
「己の言った事を誠実に実行するのは美徳ですよ。尤も、私は些かすらこんな展開望んじゃいませんでしたが」
「ず、随分な物言いだな」
「価値観が全く異なるんです、私と人間とでは」
さらりと暴言を吐き、シェイは人形然とした典雅な顔を渋一色に染めた。
多くの悪魔は人間を己より下の存在として認識し軽んじているが、中には人間を一種のトレンドのように見ているものもいる。人間そのものからそれが生み出す文化の数々、そういうモノに関心を持つ悪魔は決して少なくはないのだ。
そして、その上でシェイは人間にさしたる興味を抱いていないと言い切った。
彼女にしてみれば主こと貴尋の存在こそが全ての基盤であり、彼なくして己は有り得ないとまで考えている。
刹那からしてみれば、それは妄信以外の何物でもない気がした。
それ程までに、シェイにとって貴尋という人間は大きい存在なのだろう。否、人間云々ではなく『貴尋』だから大切なのか。
「しかし、その割には公衆良俗に通じているようだが」
「それはもう当然です。下手な事をしてマスターへ迷惑を掛けてしまうのは絶対に避けたいところですから」
成る程、今の一言で刹那はシェイに対しかけていた色眼鏡を少し外した。
妄信者の多くが陥る視野狭窄はシェイとはほぼ無関係のようだ。あれだけ言ってはいても相応の社会的な常識は心得ているらしく、だからこそあの悪魔召喚師も彼女にこちらを任せたのだろう。
「お前と主人とは、お互いに人質みたいなものとして作用しあっていると?」
「ええ、御理解頂けたようで」
「…………けれど、それだけでお前を信用しきれるわけではない」
「まぁ当たり前ですね。一朝一夕で信頼関係は作れません」
前方で楽しそうに会話するクラスメイトを見ながら、二人。刹那は何処か寂しげに木乃香を見詰め、シェイはただ超然と歩くのみ。
ふわり、目の前を桜花が通り過ぎる。
風が緩やかに幹を揺らし、周囲に響く枝のさざめき。
「せっちゃーん」
不意に前方の木乃香から呼びが掛かり、刹那は足を止めた。
「どうされました、お嬢様」
「これ見てぇや、これ!」
にっこり満面の笑顔を浮かべながら、木乃香が掌をずいっと突き出す。
その上には、こんもりと積もった淡い紅の花びら。
目を瞬かせる刹那に、木乃香は。
「ていっ♪」
「ぅわぷっ!?」
無数の花びらが顔面を急襲。
思わず身を引いた刹那の耳に、幾つもの笑い声が入ってきた。
その中で一番反応が大きいのは…………月詠だ。
引き攣る頬、寄る眉根。
「貴様の差し金か月詠ィ!!」
「あはははは! せっちゃん先輩も仏頂面ばっかはあかへんえ、あはははは!」
「お嬢様もこんなお戯れに一緒になってからにもうっ!」
「やーん、そない怒らんといてやーあはははは」
「桜咲さん! はな、鼻!」
明日菜の呼び掛けに慌てて鼻を撫でると、ほろり花びらが一片落ちる。
それでまた一層笑い声が大きくなり、そして刹那の顔もより一層赤く染まり。今にも抜刀せんといきり立つ
教室とは違うベクトルで賑やかな彼女らを、シェイは見ていた。
“お嬢様”に対して刹那は隔意を抱いているかと思ったが、何の事はない。あの月詠が良い感じに間を引っ掻き回す事で、結局は二人の仲を取り持っているのだ。
しかしよくもまぁアレで彼女に魔法を隠匿し続けられるな、妙なところに感心しつつ少女のカタチをした造魔は歩き出す。
思ったより学校というモノは楽しいかもしれない、そんな気がした。
知らず、顔には微かな笑み。
□■□
桜並木は、女子寮近くにだけあるわけではない。
貴尋が今歩いている道もまた、無数の桜が花弁を開いていた。先へ進めば大学部の男子寮だ。
――こつ、こつ、こつ、
アスファルトに覆われた道を踏み鳴らしながら歩く。
年間予定を見たところ、明日は休みのようだ。
とはいえ、碌すっぽする事もないのが現実。裏の仕事で使う武器でも買いに行こうか、貴尋はそんな事を考えていた。
今現在、貴尋は武装らしき武装を持っていない。GUMPを打具として使う案も考えはしたが、これはどんな悪影響が出るか分かったもんじゃないので緊急時以外は封印指定。
ふと空を見上げれば、煌々と輝く月。
満月に狂った悪魔と幾度戦ったか、郷愁と呼ぶにはやや物騒な思いが湧き。
――ぞく、ん!
直後、背筋を強烈な悪寒が走った。
振り向こうとするも、首を後ろから空恐ろしい力で折れんばかりに握りしめられ。
息が出来ない。
己よりも小柄な手がギリギリ気道を絞め上げる。
くるしい。
手を震わせながらGUMPに寄せ。
やめろ。
勘付かれたか、一瞬で捻り上げられた。
そうか。
より首を絞める力が強まって、遂に意識の方もじっとりと混濁し始める。
おまえが。
風が一つ強く吹き、貴尋の視界に一瞬入る金色。
そして、ブラックアウト。
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